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重い腰は上げなくていい。やりたい仕事を追求して札幌に住んだ編集者のお話

ずっとここで働き続けることが正解? 転職、上京、Uターンっていろいろあるから迷い、不安になる。でも、このままじゃいけない、動かなきゃってのはわかってるんだ。 そんなくすぶっているすべての人に読んでほしい、働く場所を変えた人のインタビュー連載【MOVIN'(ムービン)】。働き方を見直していく人々の姿が、行動のきっかけになりますように。

「やらないほうがいいから、やってないんじゃないですか?」

勇気がないとか、行動力がないとかいう問題じゃない。
現状維持のほうがいいと思ったからやってないだけだったんだ。

なにか動かなきゃと焦るばかりの状態に、さらりと言ってのけた彼は、札幌と横浜で2つの仕事を手にした二拠点生活者だった。

葛原信太郎さんは横浜を拠点としてアースガーデン編集長を、札幌を拠点として暮らしかた冒険家のスタッフをしている。そのほか、さまざまなメディアでライターとして執筆を行っている。

がっつり編集業に携わっているように見える彼だが、実は新卒時代はシステムエンジニアだった。就職して1年後に会社を辞め、学生時代の友人と雑貨屋さんをはじめるも、経営が難しく1年ほどでたたむことになる。

「そのあと雑貨屋さんを営んでいたころに出店していた野外フェスの制作オフィスのアースガーデンに拾ってもらいました。フリーペーパーとウェブマガジンの編集とイベント制作を5年やりました。現在はフリーランスとして、アースガーデンの仕事を続けながら、札幌にも拠点を設け、暮らしかた冒険家のスタッフとして働いてます」

アースガーデンのフリーペーパーを各所で配布。写真は神奈川県三浦にある、街の蔵書室「本と屯」にて。

「学生時代に環境問題の啓発を発端にした100万人のキャンドルナイトというイベントに出会い、そのウェブや企画を担当していたのが暮らしかた冒険家でした。アースガーデンも環境問題の啓発に取り組んでいるので、実際に暮らしかた冒険家とお話しする機会もあって」

それで交流を深めていって、一緒にお仕事するまでになったんですね。

「暮らしかた冒険家の働き方がかっこいいなと思ったし、札幌にはおもしろい人たちがたくさんいるので、札幌行きたいなーと思ったんです。何回かの取材を通じて仲よくなり、思い切って『仕事ありますか?』って聞いたら、『あるよ』って言ってくれたので札幌と横浜の二拠点生活がはじまることになりました」

仕事があればそりゃあ行くのでしょうが、横浜から距離もある札幌。気候もまったくちがう遠い雪国に行くのにはハードルが高いように感じるのですが……。

「仕事があって生活できそうと思ったことも二拠点生活をする理由にあったけど、20代最後の夏に結婚しようと思っていた子にフラれたんです」

えぇ!? それはショック……もうどうでもよくなっちゃいますね。

「2、3年はどうでもいいかなって思って。自分勝手に動けるならそれもいいかなあと思ったのも札幌に行った理由です。おもしろそうだな、ためになるだろうなと感じた方向に素直に進んでいいなと」

夢のある二拠点生活というわけではなく、現実的に考えた結果、葛原さんの場合は横浜と札幌だったと。

アースガーデンが主催するキャンプインの野外フェス

「札幌だと生活コストも低いんです。家賃は2万8千円に光熱費。都心に住んでいる人はひどい家を想像されるでしょうが、9畳ワンルーム、お風呂とトイレは別、そして駅から徒歩10分という好立地。フリーランスで時間の融通も利くので安い時間帯で飛行機が予約できます。二拠点どっちも仕事をがんばりたいという人にはいい環境ですよね」

横浜と札幌の二拠点はスケジュールもタイトになるんじゃないですか?

「フリーランスなので平日は横浜、休日は札幌というタイトなスケジュールではないんです。移動する際には必ず2~3日のバッファをもたせて、期間を区切って行き来しています。チケットも安いタイミングなら片道9千円とかなんですよ。ライターは取材などで場所が限定されない限り、どこにいても仕事ができる職業。だからこそ時間に余裕のある二拠点生活ができていますね」

なるほど。平日に都心で会社員として働いている人にとっての二拠点生活は、土日や大きな連休がない限り難しいし、そこに予定を入れることでハードスケジュールにもなりやすいですからね。

野外フェス「ワイルドバンチ」の準備

では、葛原さんの目の前に転職や移住、副業など働き方に迷っている人が現れたら、なんて声をかけますか?

「う~ん……、迷って行動できてないということですよね」

そうです。

「やらないほうがいいから、やらないんじゃないですか?」

え、勇気がないとか行動力が足りないとかではなくて?

「新しい生き方をはじめた自分を想像したときに、今より状況が悪くなるんだったらやらないほうがいいと思います。どれくらいの費用が必要で、毎月の収入はこれくらいでっていう目処を立てれば、自ずとできるかできないか、本当にやりたいかやりたくないか、は見えてくるんじゃないでしょうか」

たしかに、勇気とか行動力とかいう問題ではない気がしてきました。リスクを感じてしまうと足は動きませんからね。今よりよくなると確証を得たとき、人は本当に動き出せるのかもしれない。

「僕は札幌に行って自然と触れ合うことで心に余裕をもたらそうとか、都会に疲れて田舎に行くとかいうんじゃないので、既存の二拠点のイメージを持っている人にはあんまり参考にならないかもしれません。僕の場合は、二拠点それぞれに通う必然性があるので、続けていけるのだろうと思います」

「やってない人が、やることで、幸せになれんのかな……。移住や二拠点が目的になっちゃうとつらい気がします。なんのための生活なのか、本当に移住や多拠点が自分に必要なのか、ということを一個一個自分に聞いてみて、それでも必要ならやってみたらいいんじゃないでしょうか」

取材の中で夢見がちな発言はひとつもなかった。二拠点生活は原点回帰や自然と触れ合うことの癒しだと、単に思われてしまう節があるけれど、そうではない。

冷静だけれど自分の真にやりたいことを追求する情熱を持った葛原さん。彼に出会って、二拠点生活いいよ、働き方改革やらなくちゃねなんて、漠然となにかがよくなることに期待しているだけだったのかもしれないと思った。

できていないから重い腰を上げなくちゃいけない理由を探していた。でも、そう思うことはもうないだろう。自然と「できる、やろう」と思えるまで、このままでいいんだって思えたから。

葛原信太郎さん(31)

野外フェスの制作オフィス「アースガーデン」でカルチャーやものづくりを扱うフリーペーパー&ウェブマガジンの編集長と、ソーシャルグッドな広告制作ユニット「暮らしかた冒険家」のスタッフを兼務するフリーランス。Instagramは @shintaro_kuzu

(取材・文:藤田かおり/マイナビウーマン編集部)

※この記事は2018年05月10日に公開されたものです

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