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【真夜中のKISSマンガ】第12回『Paradise Kiss』強引でも意志薄弱でもないキス

和久井香菜子

少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子が、真夜中に読みたいキスシーンをご紹介。ベッドの中で胸キュンが止まらない“とっておきのキスシーン”って? 金曜午後10時、甘くて切ない秘密の時間がおとずれる。

最近すごく感じるんだけど、世の中って本当に生きにくくないですか。日本人って、親や教師から「あれはダメ」「これはしちゃダメ」って、ダメダメダメ出しされている気がします。だから自信を持って自分の意見を言えない人や、夢を持てない人が多いと思うんです。

普通だったり、みんなと同じだったりするのがいいことだって教えられるから。親や教師の言うことを聞かなきゃいけないと思い込んでいるから、自分のやりたいことも見つからないし、したいと言えない。

勉強以外の何かに夢中になったり、空気を読まなかったりすると周囲から「変わってる」と言われちゃう。でも、いくら変わってようが直接自分に被害がないならいいじゃないですか。何をしようと個人の自由ですよ。

みなさん、夢持ってます? やりたいことってあります?

真夜中のKISSマンガ『Paradise Kiss』

紫(ゆかり)は、進学校に通う高校生。がんばっても成績が芳しくなく、無為な生活を送っています。そんなときに知り合うのが、“ヤザガク”という芸術学校に通う生徒たち。最初「遊びでミシンを踏んでいる」と見下していた紫ですが、彼らの服飾に対する真剣な姿勢に刺激され、だんだんと自分の道を見つめるようになっていきます。

紫のような悩みを持っている人って、少なくないと思うんです。勉強も身が入らない、でもやりたいこともない。だってたいていの人は教えてくれないじゃないですか――世の中にはいろんな仕事があって、何をして食べていってもよくて、人にはそれぞれ才能があるってことを。

自分たちの好きなことに邁進しているヤザガクの仲間たちは、とてもキラキラしています。そう、たいていの人たちは自分のしたいこともわからないけど、普通にならないといけないと思い込んでいるし、その生活がおもしろくないから、自由に生きている人を見下すことで自分を保っているんです。

パラキスが多くの読者の心を掴んだのは「自分にも何かできることを見つけたい!」「見つけられるかも!」って勇気を与えられたからじゃないかと思います。

「自分の人生なんだろ? ちゃんと話せよ 真面目に聞くから」

そして紫が惹かれていくのが、ジョージ。
ジョージはまだ20歳にもなってないのに、中身は余裕ぶっこいてて40過ぎくらいの大人です。

紫が「人のグチ聞かされても楽しかないよね ごめん やめようこんな話 バカみたい」と言うと、ジョージはこう返すんです。

「バカみたいなんて言うなよ」「自分の人生なんだろ? ちゃんと話せよ 真面目に聞くから」って。

こんなこと言われたらコロッと落ちちゃいますよね。自分の話を聞いてくれる人、ただプワーンと聞くだけじゃなくて、真面目に聞いてくれる人、どれだけいるでしょうか。悩むことも、迷うことも、できる自分も、できない自分も、当たり前に受け入れてもらえたら、どんなに幸せだろうな。

そうしてジョージのことで頭がいっぱいになって、自分を保てなくなってしまった紫。「もーやだ」とだだをこねる紫に、それでもジョージは「不安にさせてごめん」なんて言わないんです。

「嫌なら もうやめよう」ですよ。に、にくたらしい……!
「今やめないと取り返しがつかなくなるけど どうする?」

あくまで紫の意志で決めさせます。うまいよなあ、強引でも意志薄弱でもない。もちろん紫の返事は「やめないで」です。こんなのが初キスだなんて、かっこよすぎでしょう!

こんなふうに自分の人生を変える出会いがあったらステキですよね。

自分になかった扉を開けてくれる人。
自分を受け入れてくれつつも、現状には満足しない人。

すごく尊敬できる人と付き合ったら、光栄だけどちょっと大変。でも「この人とつり合う人になりたい」とがんばるのって、かわいらしいじゃないですか。そうやって自分を成長させたら、視野もレベルもぐんと上がって、次の恋もすぐにやってきますよね。

自分の意志で、自由に生きていないと、いろんなことに文句やグチが出てしまいます。まずはみんな「こうしなきゃいけない」「あんなことしちゃダメ」なんてつまらない“常識”から解放されて、自由に生きて、ステキな恋をしましょ!

「真夜中のKISSマンガ」は今回が最終回。
3カ月間、ありがとうございました!

『Paradise Kiss』全5巻

著者:矢沢あい
出版:祥伝社

(文:和久井香菜子、イラスト:菜々子)

※この記事は2017年12月08日に公開されたものです

和久井香菜子

少女マンガ攻略・解析室 室長(http://kanako-wakui.net/index/)、編集・ライター。卒業論文で『少女マンガの女性像』と題して、女性の社会進出と少女マンガの主人公の描かれ方がどうリンクしているかを研究。以後、各種少女マンガレビューの執筆を始める。著書に『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)がある。

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