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小野小町は顔でモテたわけじゃない! 世界三大美女が使っていた上級恋愛テク

堀江 宏樹

ハート突然ですが、日本史上、もっとも戦略的にモテる方法を知っていた女は誰でしょうか。
筆者が考えるに「世界三大美人」の日本版にもランクインした、小野小町ではないでしょうか。小野小町は平安時代前期を生きたとされますが、詳細は不明。美人ゆえにモテたんでしょ、とか考えがちですが、それだけで小野小町がモテたわけではなさそうです。美人には実は科学的な根拠があるそうです。たとえば、ある集団内でモテるには、そこにいる人たちの顔写真を合成していって、そうやってできるような平均的な顔、つまり「平均顔」こそがモテるという学説です。

平均顔については心理学の領域で研究が進んでおり、その主張をまとめれば、突出した何かを感じさせない顔こそ、魅力的に思われる……らしいのです。逆にいうと、美人とされない顔とは、目が大きすぎるとか、鼻が高すぎるとか、何かがオーバーな「過剰顔」ということになりますね。

「世界三大美人」の小野小町の実像もいわば、超絶的に平均的な顔立ちだったのかもしれません(笑)。そもそも平安時代の女性は男性とよほど仲良くならないかぎり、御簾や扇などで顔を隠していますから、小野小町も顔でモテたわけではないはずです。

彼女は、自分の価値を作り上げることができたからモテたのではないでしょうか。言い換えれば彼女は自分をブランド化できていたのだ、と。彼女は和歌の名手でした。つまり、自己表現が上手かったということ。『百人一首』には、次の小野小町の歌が選ばれています。

「花の色は うつりにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせしまに」。

この歌は、決してモテ自慢ではありません。「むくわれない恋の物思いに耽っているうちに、私の美貌も衰えてしまったわ」と言っているのです。この歌から推察するに、小野小町は報われていません。美女であることはモテに有利な一方、男性からは浮気者だろうと思われがちな欠点もあります。でも、こういう歌を詠めば「一途に愛するのに報われない、不幸な女」なのかも、というアピールができます。小野小町はスキを作るのが上手かったようです。小野小町の歌風を語る鍵となるのは、「夢」という単語、そして「うつろい」のイメージなのです。これがポイント。「花の色は」の歌も、色褪せていく桜の花が詠み込まれていますよね。新品ピカピカではなく、ちょっと傷ついて衰えた美しさが詠われている。思わず手をさしのべたくなるでしょう?

これを男性から上手く引き出すのが、彼女のモテ方なんですねぇ。相談に乗っているウチにいつの間にか相手を好きになって、というのは現代でもよくありますが、そういう感じ。

いちおう彼氏的な存在は作っておきつつ、「彼氏と上手くいかない……相談に乗って」と、真の本命の男性に近付く手段、現代でもありますよね。サバ(彼氏)を餌に、マグロ(本命男性)を一本釣りするのに近い荒技ですが。小野小町も、この手を使おうとして、「花の色は」の歌を詠んだのかも(笑)。

……以上をまとめると、小野小町がモテたのは「外見で男性を怯ませるような、突出した要素はない」という外見アピール。さらに「報われない恋への嘆きを歌で表現。モテても、ほんとは一途な純粋な女なのだ」との内面アピール……などと、現代の女性誌のモテテクを先んじていた女だったから、ということがわかります。これを本能でやっていたのが小野小町。つくづく凄いですねぇ。もはや天然悪女といえるかも。

平安の世とは異なり、現代では高貴でお金持ちの女性だけが美しいわけではありません。リーズナブルな手段でいくらでもケアはできるからです。しかし、みんなが平均的にきれいになってしまった現代では、そこから逆に目立つことが難しくなっているんですね。小野小町のように、キャラで美人を目指すのは一つの方法かもしれません。


(堀江宏樹)

※写真と本文は関係ありません

※この記事は2014年12月23日に公開されたものです

堀江 宏樹

プロフィール歴史エッセイスト。古今東西の恋愛史や、貴族文化などに関心が高い。

公式ブログ「橙通信」
http://hirokky.exblog.jp/


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