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セクハラ・いじめは「労災」対象! 増加するメンタルでの労災申請と、知っておきたい実際のあれこれ

石井りな

齋藤純子

仕事中でのケガや病気をケアしてくれる労災保険。昨年度は精神疾患での労災申請が1,409人と、過去最多の申請数となりました。労災って、メンタル面もカバーしてくれるの? 労災申請や精神疾患について詳しい、産業医で精神科医の石井りな先生に聞きました。

ストレスチェックテストの項目例

ストレスチェックテストの項目例

■セクハラ、職場でのいじめによる精神疾患は労災扱いになることも

「仕事中のケガや事故だけでなく、仕事による<心理的な負担>が原因で精神疾患を発病した場合も、労災と認められることがあります。いじめやセクハラ、長時間労働などによるうつ病、急性ストレス反応などの障害が過去に認定されています」(石井先生)

精神疾患での労災申請のうち、昨年度認可を受けたのは「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が最多の55人となっています。

「いじめの場合、加害者にその気はないケースが最近の傾向としてあります。『部下を厳しく指導して育てようと思った』などの理由で加害者に悪意はなかったとしても、受けとった側が、『嫌がらせ』や『いじめ』と感じメンタル的なダメージを負った場合、労災として認められることがあります」(石井先生)

またモラルハラスメントは、上司が加害者で部下が被害者というイメージがあるものの、同僚や先輩・後輩といった関係で起こることもあるそう。

「相手の人格を否定するような『大学で何を学んできたの』『よく結婚できたね』などの言い方は注意が必要です。何人も部下を持つような人でなくても、業務のやりとりの中でうっかり言ってしまう可能性があるので、指導の仕方、感情のコントロールは常に気をつけたいところです」(石井先生)

■精神疾患、労災認定の基準はどうなっているの?

労災(労災保険)は社員・契約社員・アルバイトといった雇用形態に関係なく、すべての労働者が加入対象となります。

「通勤中にケガなどを負ってしまった場合、まずは職場の総務や人事に申請方法を確認するといいでしょう。通勤途中のケガでも、職場が認めていない通勤方法・ルート、たとえば自転車通勤を認めていないのに自転車でケガを負った場合は認められないと考えてください。通勤ルートから外れていても、職場のプロジェクトの打ち上げ帰りに転んでケガをしてしまった、などの場合は、認められる場合もあるかもしれません」(石井先生)

精神障害の労災認定は、厚生労働省の労災認定基準に、いじめやセクハラ、長時間労働などによる精神的負担の強弱によって指定されています。業務で負った精神的負担は該当するものの、個人的な要因がかかわっている場合は、認定されにくくなるそうです。

「例えば、上司から受けたストレスがきっかけで飲酒量が増えてしまい、結果アルコール依存症になったなどの場合は認定が難しいです。ストレスによって誰もが飲酒量が増えるわけではなく、飲酒は個人の要因によるところが大きいため、労災認定基準でも対象精神障害から外れています。その他、借金で悩んでいたり、家族・親族に不幸があった場合も、業務以外の個人的な要因として考えられます」(石井先生)

精神疾患での労災認定基準は2011年12月に変更され、心理的な負荷が極度のものとして、わいせつ行為などのセクシャルハラスメントが明記されるようになりました。

「心理的負荷の強度は弱・中・強の3段階に分類され、治療を要する程度の暴行などと同じ強程度の例として、セクシャルハラスメントが加えられました。体への接触がなくても、継続して行われたり、まわりが把握していながら適切な対応をしなかった場合などがそれに該当します」(石井先生)

■会社にいるお医者さん、「産業医」を活用しよう

企業も労働者のメンタルケアに力を入れるようになってきており、法律もまたそれを後押しするようになってきているとか。

「今年の労働安全衛生法改正に伴い、2015年12月までに『ストレスチェック』という<労働者の心理的な負担を把握するための検査>が行われるようになります。50人以上の労働者がいる事業所において義務となるため、多くの労働者が心理的負担を知る機会を得ることができるのではないでしょうか」(石井先生)

また、社員数が50人以上の職場は「産業医」の選任が義務付けられています。職場の規模などによって異なるものの、月1~3回程度職場を訪問し、労働者が健康で快適な環境で仕事できるよう、医師の立場から指導・助言を行います。

「職場でメンタル的な不安があった場合、産業医をたずねることをおすすめします。産業医は、労働者がどのような環境で働いているか定期的に職場内を見回ってチェックしています。一般的な医師よりも職場の状況を把握しているため、より現実的なアドバイスや治療を行えると思います」(石井先生)

とはいえ、産業医は企業に雇われているだけに、話したことは会社に筒抜けになるのでは? などの不安を抱く人もいるとか。

「産業医も他の医師と同様に守秘義務があります。何もかも筒抜けに、会社に伝えることはありません。ただし、仕事をする上で何らかの配慮が必要な場合、会社に理解してもらうために情報を共有しなければなりませんし、産業医にはその責任が課せられています。基本的に本人に了解を得てから伝えますが、本人自身やまわりを傷つけてしまう危険があるときなど緊急を要する場合は、労働者の同意がなくても会社に伝えてもいいという位置づけになっています」(石井先生)

最近は企業の側でも積極的に産業医を活用するところもあり、健康相談などの機会を設け、社員に利用を促すことも。

「働いている人にとって、予防のために病院を受診することは時間的にも難しいと思います。社内にいながら無料で専門家の意見を聴ける機会を利用しない手はありません。メンタルの病気も早期発見が大切です。不安なことがあったら気軽に産業医に声をかけていただければと思います」(石井先生)

(取材協力:石井りな、文:齋藤純子+ガールズ健康ラボ)

※画像はイメージです

※この記事は 総合医学情報誌「MMJ(The Mainichi Medical Journal)」編集部による内容チェックに基づき、マイナビウーマン編集部が加筆・修正などのうえ、掲載しました(2018.07.12)

※本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください

※この記事は2014年12月11日に公開されたものです

石井りな

フェミナス産業医・労働衛生コンサルタント事務所。精神科医、産業医、コンサルタントとして多くの企業へメンタルヘルス対策の助言指導を行っている傍ら、産業医の情報交換や定期的勉強会を行う「女性産業医ネットワーク」を主宰している。精神分析セミナー修了、厚生労働省認知行動療法研修修了。
http://www.feminus-sangyoi.com/

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齋藤純子

フリーライター。ガールズ健康ラボ所属。ムック『ほんとうに効く! 冷え退治バイブル』(扶桑社)にライターとして参加。東京下町生まれ。食品商社営業企画、パン職人を経て、制作会社で広告・出版の編集制作に携わる。団塊ジュニアの端くれ。一児の母。得意分野は、辛いもの・濃くて甘いもの・蒸留酒・ビックコミックオリジナル。詰めもの料理研究中。美味しいって正義! Twitter/@julepper

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