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現代の女性は幸せ! セックスレスを運命として生きた大奥のオンナたちの実態

堀江 宏樹

着物の女性

恋人や夫のいる女性でも意外と多い悩みの一つ、セックスレスですよね。それでは生涯独身を貫く女性も多かった、男子禁制の江戸城大奥の女性たちはどうやって、この手の問題と付き合っていたのでしょうか?

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映画やドラマで大奥の女性たちの根性がひねくれているように描かれるのは、セックスレスの日々だからだ、みたいな理由づけがされがちです。しかし、セックスがある人生のほうが女にとって、シアワセというわけでも実際はないようです。

実際に幕末まで大奥で暮らした人々の体験談を読むと、剃髪はしていないけれど、尼さんのような淡々としたところが目立つのです。基本的に、大奥でセックスする習慣があった女性はごく少数派。御台所(正妻)か側室(愛人)の類か……くらい。

ドラマとはちがい、実際の大奥には、現在の総理大臣や大臣に相当する「老中(ろうじゅう)」などの高い役職の武士の男性や、医師や按摩師の類なども日常的に出入りしていました。しかし、基本的にはほぼ、女性しかいない環境だといえるはず。それでも女子校みたいに女性同士の疑似恋愛行為はあっても、当事者が残した手紙を読むと、肌着に相当する襦袢を交換したりが関の山。具体的な性行為があったとは考えにくいです。

そもそも、昔の日本でもセックスは娯楽の一つだったのでしょうが、それを通じて望まぬ妊娠や、重い病気になることもあり、医療が進んだ現代に比べると、かなり代償の大きな行為でもありました。そのせいか、差が激しいんですね。寺社参詣を口実に大奥を飛び出て行って、役者や陰間(かげま)を買って、セックスしてしまう奥女中もいましたが、奥女中全体を見れば、ごくごく一部という印象がありますね。

ないなら、ないでやっていけるのが、セックスというもののようです。セックスおよび恋愛がないと決められてる人生って、絶対に「静か」に暮らせるのは事実でしょうし……。あと、ご存じのとおり、大奥では「御褥辞退(おしとねじたい)」というルールがありました。30代になった大奥の女性はそれまでは将軍とのセックスの習慣があっても、それ以後は将軍とセックスできない、つまりそれ以降、死ぬまでセックスレスの日々を過ごさねばならなかった、といわれています。将軍家の大奥だけでなく、上流の武家全体の風習ともいわれます。

しかしこれも「セックスしなくてよくなった」と三十路を迎えて喜ぶ女性がいたかもしれません。そもそも、女性にも好みというものがありますしね。将軍のお手つきになった女性のすべてが、将軍を(肉体的に)愛せていたわけがありえませんし。あと、お手つきになった女性は影では「汚れた方(かた)」といわれ、それ以外の女性から差別までされたのです。

現在の年齢感覚でいえば40代以上にあたる、江戸時代の30代の女性にとって妊娠出産は危険とされたのが「御褥辞退」の表向きの理由ですが、「御褥辞退」のルールは、当人同士の決意と愛があれば無視できたのは知られていません。

その最適の例が6代徳川将軍になった徳川家宣(とくがわいえのぶ)と、その正妻・近衛熙子(このえひろこ)です。特に近衛熙子が「御褥辞退」の年齢を数年も過ぎた33歳の時、家宣との間に男の子を授かっている事実は見逃せません。残念なことに、男の子は誕生してすぐに亡くなりましたが……。

権力者であればあるほど、夫は人間付き合いの一貫として、側室を持たざるをえない機会がふえるのが当時の感覚ですから。そして、権力者の正妻は、それを許してやらねばなりません。近衛熙子も権力者の正妻として、栄華を極めても「女」としては辛いことは多かったでしょうね。自分の男の子は亡くなったのに、側室のお喜勢が生んだ子が7代将軍・家継になっています。

過去に比べ、現代の女性の幸福は恋愛の自由があることです。将軍一人としか関係を持つことが許されない大奥に永久就職した女性でもないわけですし。

なお、大奥に勤め、一生独身、セックスレスで通した女性も奥女中として定年を迎えると養子をとって、財産を継がせる場合がよくありました。たとえば天璋院篤姫が江戸城大奥で暮らしていた時代、カリスマ奥女中に滝山という女性がいました。彼女は引退し、故郷(現在の埼玉県)に戻ると、自分の女中名である滝山を苗字にした家を立ち上げ、養子に後を継がせました。

「おひとり様」の代表格と思われる大奥女中にも引退後、「家族」を持つ伝統があった。結婚という段階を踏まなくても家族は出来た……これを考えれば、江戸時代から日本では様々な家族像が模索され、世間もそれらを受け入れてきたのが分かると思います。そしてある意味、現代よりもリベラルだったかもしれませんね!

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著者:堀江宏樹
角川文庫版「乙女の日本史」を発売中
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※写真と本文は関係ありません

※この記事は2014年11月30日に公開されたものです

堀江 宏樹

プロフィール歴史エッセイスト。古今東西の恋愛史や、貴族文化などに関心が高い。

公式ブログ「橙通信」
http://hirokky.exblog.jp/


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