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古い魚の方がおいしいって本当?「タイは他の魚に比べて腐りにくい」

刺身がおいしい季節になった。新鮮な魚をつまみに、きりりと冷やした酒を流し込めば、至福の時間が味わえるだろう。

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新鮮なものほどおいしいと思われがちだが、魚は少し時間をおいて「熟成」させると、イノシン酸が増えてうまみが増す。「腐っても鯛」はある意味正解で、熟成に時間がかかるタイは、ほかの魚なら腐っている頃でもおいしく頂けるのだ。

アジの洗い、スズキの刺身?

魚を締めると身が硬くなり、時間が経つと再び柔らかくなる。身が硬く、張りがある魚は活きが良いと言われているのもこれが理由で、古いものほど「自己消化」が進み、身が緩んでしまう。ただし自己消化は悪いことばかりではなく、うまみ成分・イノシン酸が増えるメリットがあるのだ。

イノシン酸はかつお節に代表される成分で、サバやタイ、豚肉や煮干しにも多く含まれる。自己消化が始まると、筋肉のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)が分解され、イノシン酸が増える。そのときに筋肉が収縮して身が硬直(こうちょく)状態となり、自己消化が終わりに近づくと再び柔らかくなる解硬(かいこう)が起きる。

鮮度の落ちた魚の身がふにゃふにゃなのはこのためで、この段階になるとバイ菌も増え始めているので「加熱調理せよ」のサインでもある。

魚の鮮度と呼び方、調理名を並べると、

・締める前 … 活魚(かつぎょ) … 「おどり喰い」

・締めた直後・硬直前 … 生鮮魚(せいせんぎょ) … 「洗い」

・硬直後 … 生鮮魚(せいせんぎょ) … 「刺身」

・解硬後 … 鮮魚(せんぎょ) … 煮る/焼くなどの調理用

「洗い」はスズキやコイが有名だが、要するに「締めたて」の意味だから、いけすから出したばかりのアジは刺身から「洗い」に昇格されるし、少し時間の経ったスズキは刺身と呼ぶべきだ。

肉の熟成も同じ理屈で、うまみの元であるアミノ酸が増量する。生ハムなどは表面にカビが生え、かなり閲覧注意なビジュアルと化すが、時間をかけて熟成させるとアミノ酸が6倍にも増えるという。肉も魚も「腐る手前」がおいしいのだ。

「腐ってもタイ」は、腐っていない?

自己消化のペースは生物によって異なり、魚のなかではタラがズバ抜けて速い。0℃で保存しても、刺身で食べられる鮮度は、半日程度しか保てないのだ。

鮮度はK値と呼ばれる数字で表され、分解されたATPの割合で決まる。

・20%以下 … 刺身で食べられる

・60%以上 … 腐り始めている

が目安で、マダラが数時間、スケソウダラは半日もたずに20%を超えてしまうので、たとえ寄生虫の問題がクリアできても、家庭で刺身にするのは不可能だ。

逆に遅いのがタイで、0℃保存ならK値が20%になるまで8~10日ほどかかる。他の魚なら腐ってしまう時間を、タイは「刺身OK状態」を維持できるのだ。

「腐ってもタイ」のことわざは「もともと価値のあるものは、多少傷んでもそれなりに価値がある」の意味で使われるが、イノシン酸やK値などの概念が無かった時代に、タイの自己消化が遅いことを知っていたのだろうか。

以下、想像に過ぎないが、

・古くなったタイを、もったいないから食べてみた

・腐っていると思ったのに、むしろおいしかった(うまみかくにん、よかった!)

・さすがはタイ!腐ってもおいしい!

的な勘違いから、ことわざが生まれたのかもしれない。

まとめ

・締めた魚は、自己消化でうまみ成分・イノシン酸が増える

・肉も同様に、アミノ酸が増える

・鮮度と引き換えにうまみを増す作業を、「熟成」と呼ぶ

・熟成を超えると腐敗が始まるので、腐る手前が食べごろ

時間が経つほどに鮮度が下がるのは確かだが、成分を考えると「新鮮なほどおいしい」の図式は成り立たない。

とはいえ、お腹をこわしてはもとも子もないから、消費期限厳守でおいしく頂こう!

(関口 寿/ガリレオワークス)

※この記事は2014年05月18日に公開されたものです

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