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牛肉関税引き下げで、損をするのは誰?「得するのは日本の自動車メーカー」

オーストラリア産・牛肉の関税引き下げが、ほぼ決まった。今でも安いオージービーフがさらに安くなるので、ステーキにありつける機会が増えそうだ。

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牛肉の関税引き下げでなにが起きるのか? 牛丼チェーンやレストランが喜ぶのはもちろんだが、反面、日本の畜産は厳しい状況に追い込まれる。めぐりめぐって、一番困るのはアメリカになりそうだ。

牛とクルマの奇妙な関係

オーストラリアから輸入される牛肉には、現在は38.5%の関税がかけられているが、これを15年かけて23.5%まで引き下げる。

大手通販サイトから、松坂牛や米沢牛などのブランド品を除き、現在のサーロインブロック・1kgを調べてみると、

・国産・A5ランク黒毛和牛 … 17,000円

・国産・北海道産・業務用 … 3,500円

・オージービーフ … 3,000円

あたりが相場だろうか。3,000円のオージービーフには38.5%の関税が含まれているので、23.5%では2,675円と225円安くなる。業務用を選んでも500円の開きがあるのに、関税が下がると700円超の差が生まれてしまうため、国産牛はお値段3割増しの高級品になってしまうのだ。

関税引き下げはだれ得なのか? じつは日本の自動車メーカーで、オーストラリアに輸出する際の関税をゼロにするバーター取引がおこなわれているのだ。

オーストラリアは日本車の輸入量が多く、アメリカに次ぐ2番目のお得意様だ。輸出総額と、オーストラリア向けの輸出額、割合をあげると、

・2008年度 … 11.1兆円 / 6,346億円(5.7%)

・2009年度 … 7.7兆円 / 6,291億円(8.1%)

・2010年度 … 9.0兆円 / 6,425億円(7.1%)

・2011年度 … 8.5兆円 / 6,770億円(7.9%)

・2012年度 … 9.1兆円 / 7,376億円(8.0%)

で、トータルでは伸び悩んでいるなか、オーストラリアは金額/シェアともに増加傾向にある。牛肉を売りたいオーストラリアと、自動車の輸出を増やしたい日本の利害関係が、今回の関税引き下げに結びついているのだ。

オージービーフでアメリカが困る?

逆に損をするのは誰か? 日本の畜産農家にとっても悩ましい話題だが、アメリカから文句を言われることになりそうだ。

牛の飼育には稲ワラや牧草などの粗(そ)飼料と、とうもろこしやこうりゃん(モロコシ)などを使った濃厚飼料が使われる。2007年のデータによると、粗飼料の自給率は78%と高いのに対し、濃厚肥料の90%は輸入に頼っている。

そのほとんどがアメリカから輸入しているのだ。

もし日本が牛の畜産をやめてしまったらどうなるのか? 和牛の出荷頭数を50万頭と仮定し、離乳後の肥育日数を600日、1日に必要な濃厚飼料を7kgで計算すると、トータルで210万トン、1年間に127万トンが不要になる。

このうちの50%がとうもろこし、5%がこうりゃんだ。

独立行政法人・農畜産業振興機構のデータから、2014年2月の1トンあたりの輸入価格と、アメリカからの輸入率をあげると、

・とうもろこし … 25,213円 / 44.5%

・こうりゃん … 27,039円 / 46.1%

なので、毎年79.6億円の取引がなくなる。なんてこった。

国産牛肉が大打撃を受けないよう、オージービーフの輸入量が増えると関税をもとに戻すセーフガードが導入される予定なので、このシミュレーションが現実になる可能性はない。ただし、安い輸入肉が出回り、日本の畜産農家が「やってられるかっ!」となってしまうと話は別だが。

まとめ

・オージービーフの関税が、23.5%まで下がる予定

・代わりに日本車の関税は撤廃

・日本の畜産農家はタイヘン

・もし肉用牛の生産をやめたら、アメリカが毎年80億円損する

世界は妙なつながりを持っているので、とばっちりを受けないように気をつけよう。

(関口 寿/ガリレオワークス)

※この記事は2014年04月20日に公開されたものです

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