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海外からも大注目! 月面発電システムって何?「世界中の電力を全て賄うことができる」

「原発は不安だし、石油や天然ガスに代替可能な、有望な新エネルギーはないものだろうか」と、世界中で研究が続いています。これについて、日本の清水建設株式会社から驚くべきプランが発表されています。月面に太陽発電パネルをずらっと並べて世界中の電力を賄おうという『月太陽発電 -LUNA RING-』計画です。

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清水建設株式会社 技術研究所 高度空間技術センターの金森洋史グループリーダーにお話を伺いました。

月面に注目した理由!

――『月太陽発電 -LUNA RING-』(以下ルナリング)はスケールの大きな話で、世界的に注目を集めていますね。

金森さん そうですね。海外からの問い合わせもいただいていますね。

――なぜ月に発電設備を置くのでしょうか?

金森さん まず、地球の軌道上に太陽発電衛星を上げることが最初のステップになるとは思います。太陽発電パネルを一辺2kmとか3km分並べて、これを太陽に向けて発電を行い、電気を地球へ伝送する人工衛星ですね。

――それだけでも夢がありますね。

金森さん ただですね、太陽発電衛星はいろいろと面倒なことがあるのです。まず、姿勢制御をこまめに行わなければならないこと。最適な角度で太陽に発電パネルを向け続けなければなりません。振動抑制をした姿勢制御、これがけっこう面倒なのです。

――なるほど。

金森さん どこか発電パネルを置ける場所はないのか、と考えたときにですね……それならもう月に置いたらどうだ、と。月には大きなメリットがあります。

1.地球上のように天候に左右されない。だから月の赤道上を一周するようにパネルを置けば、24時間発電可能!

2.月の軌道や姿勢が安定している。月は、ありがたいことに常に地球を向いている側(地球指向面)があるので、そこから安定して電力を地球に送ることができる。

月にある原料から設備を造る!

金森さん あと、月では設備を造るための原料を調達できます。

――えっ? 月の資源で設備を造るのですか?

金森さん ある程度の部分は月で造ります。なにせ一番お金がかかるのは月までの輸送費です。輸送するものを最低限にして、プロジェクトの低コスト化を図るわけです。

例えば、太陽電池パネルはシリコンなどからできていますが、シリコンは月面に多く存在します。

他にも、建築材になるセメントやグラスファイバーなどは月面で作れます。これらを造るためのロボット、最低限の資材を地球から送ることになるでしょう。月にある資源をできるだけ利用することを考えています。

発電量8.8テラワット! 世界中の電力を賄う!

――ルナリングは、どのくらいの発電量があるのでしょうか?

金森さん とりあえずは8.8テラワットを想定しています。これは、幅400kmの太陽電池パネルを月面に敷設し終わったときの発電量ですが、これによって世界中で使われる全てのエネルギーを満たすことができると考えています。

月赤道上に設置される太陽電池パネル

――ルナリングが稼働すると、世界中の発電所が不要になる?

金森さん 計算上はそうです。月はどの国の領土でもありません。私どもは、日本のことだけを考えてこのプランを出しているのではありません。世界中のニーズを満たす計画として見ていただきたいと思っています。

目指すのは水素社会!

金森さん あと、ルナリングはあくまでも発電システムですが、私たちが提案しているのは、それだけではありません。私たちは「水素社会」を社会の基盤としたいと提案しています。ルナリングはそれを支えるための手段です。

――水素社会ですか?

金森さん はい。水素は燃料電池に使用します。現在の化石燃料を用いたエンジンではなく、燃料電池をクルマなどに使用することができれば、地球のCO2蓄積はもっと抑えられるでしょう。

月が見えているうちにルナリングから来た電力の余剰分で、「水素」と「水」を作るのです。水素を燃料電池にためておけますし、真水は、水資源の少ない地域で使えるでしょう。

水素社会は環境によい、エコな社会です。ルナリングはそれをもたらすための大きな力になるはずです。

減衰率は2%と想定

――発電した電気を地球に伝送するのに「マイクロ波」「レーザー光」を想定しているようですが。

金森さん はい。月は地球から約38万km離れています。ケーブルで結ぶわけにはいきませんので、発電した電気をマイクロ波、あるいはレーザー光として地球へ送ることになります。地球にはその受信施設を造ります。

――約38万kmも離れているわけですが、減衰しないでしょうか。

金森さん 減衰します。しかし、ほとんどロスはないと考えています。減衰率は2%ぐらいと想定しています。

――宇宙ではほとんど減衰しないと思いますが。

金森さん はい。減衰は大気圏内で起こります。でも、2%程度の減衰で済むはずです。

――電力の伝送で難しい点は何でしょうか?

金森さん 約38万kmの彼方から、地球上の受信施設にきちんと当てることです。とても精度の高い制御システムが必要になります。

2035年に着工すると……

――地球上の全ての電力需要を賄えるビッグな企画ですが、もしスタートするとすればいつぐらいなのでしょうか?

金森さん 私どもは2035年には建設開始したいと考えています。それまでに、月で働くロボットの開発と実験、太陽発電衛星の試験など、さまざまな基礎技術を積み上げなければなりませんが。

――例えば2035年に着工したとして、いつ出来上がると思われますか?

金森さん 竣工をどう判断するかだと思います。幅400kmの太陽発電パネルが全て完成するのを竣工だとすれば、それこそ半世紀がかりのプロジェクトになるかもしれません。しかし、小規模の太陽発電パネルの敷設、送電の開始までのレベルまでならそこまで時間はかからないでしょう。

――費用が知りたいのですが、どのくらいのお金がかかると思いますか?

金森さん 今回は残念ながら試算をしていないのです。というのは、宇宙への輸送コストをどのくらいと見積もるかで全く数字は変わってしまいますので。2035年に輸送コストがどのくらいになっているか、これは分かりませんから。

焼き鳥はできません!

――マイクロ波で環境に影響は出ないか、と心配する人がいるようですが。

金森さん ひどい誤解があって、マイクロ波で送るというと、そのマイクロ波に当たった鳥が焼き鳥になって落ちてくる、みたいな想像をする人がいらっしゃるのです。そんなことはありません。

マイクロ波というと、皆さん「電子レンジ」を想像されるのでしょう。ルナリングの伝送用には、携帯電話並みの強さのマイクロ波を想定しています。電子レンジのようなことにはなりませんので、安心していただきたいですね。

――地球温暖化を促進しないか、という人もいるようですね。

金森さん 地球が太陽から受け取っているエネルギーは、約170ペタワットといわれています。発送電量8.8テラワットとはケタ違いの莫大な量です。ですから、ほとんど環境に影響は与えないと考えています。

それよりも、化石燃料を使わなくなることからくるプラスの影響の方が大きいのではないのでしょうか。

――なるほど。海外では、月の外観が変化することに懸念を表明する人もいるようですが。

金森さん 分かりやすいように、月の赤道面にブルーの太陽発電パネルが並んでいるビジュアルを使用していますが、現在では透明なパネルもあります。それらを使って、月の外観に変化を与えないようにしたいと考えています。

――月は信仰の対象であったりしますから、難しい問題ですね。

金森さん 国連などの国際的な機関によって進められる計画だと思います。日本一国ではとてもできないと思いますので。

宇宙開発のインフラをターゲットに!

――建設会社さんが宇宙開発を推進というと、少し不思議に思う人がいるかもしれないのですが。

金森さん 実は、私どもはずいぶん昔から宇宙に目を向けているんですよ。「宇宙開発室」という部署ができたのは1987年のことです。その当時から「月面基地」も検討していましたし、また現在までずっと技術の蓄積を続けてきました。

――そんな昔から研究を続けているのですか。

金森さん 「皆さんが普通に宇宙に行ける時代」がやって来ると、考えています。そのためにはインフラを誰かが造らなければなりません。私たちはロケットなどは造っていませんが、インフラ建設、そのためのロボットの開発などを担当したいと考えているのです。

――建設会社さんて夢のある話があっていいですね。

金森さん ルナリングだけではなく、「シミズ・ドリーム」として夢のある計画を提案してきております。一方で、目先の仕事で大変とか、そういうこともありますけれども(笑)。

いかがだったでしょうか。
とても夢のある、興味深い話だったのではないでしょうか。
やがて、発電は全て月で行う、なんて時代がやって来るのかもしれませんね。

⇒清水建設の『月太陽発電 -LUNA RING-』の紹介ページ
http://www.shimz.co.jp/theme/dream/lunaring.html

(高橋モータース@dcp)

※この記事は2014年01月21日に公開されたものです

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