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蜃気楼を科学する―「地球の蜃気楼」と「宇宙の蜃気楼」

皆さんは「蜃気楼(しんきろう)」という現象を見たことがありますか?

【ファザコンとマザコンになってしまう人の深層心理】

蜃気楼とは、実在しない幻の建物や地形が遠くに浮かび上がって見える自然現象のことで、日本国内では富山湾で発生するものが有名です。

今回は、そんな自然現象である蜃気楼をちょっと科学的な視点から眺めてみたいと思います。

蜃気楼の歴史

人々が蜃気楼に気付いたとされる歴史は古く、紀元前にまでさかのぼると考えられていて、紀元前100年頃のインドの書物「大智度論(だいちどろん)」第六の中に、すでに蜃気楼を表す「乾闥婆城(けんだつばじょう)」という記述が見られます。

また同じ頃、中国でも「史記」天官書の中で、「蜃(しん)の吐く息(気)によって高い建物(楼閣)が作られる」と書かれています。この一文こそが「蜃気楼」の語源であり、ここに登場する「蜃」とは、蜃気楼を作るとされる伝説の生き物です。

その正体はハマグリの一種とも、龍の一種とも言われています。

日本で蜃気楼が登場するもっとも古い記述は、1698年に完成した軍学書「北越軍談(ほくえつぐんだん)」の中にあります。ここには、かの有名な戦国武将、上杉謙信が1564年に富山県の魚津で蜃気楼を見たと書かれています。

また、1700年頃に書かれた「魚津古今記」にも、加賀藩の藩主・前田綱紀が蜃気楼を見て喜んだという記述が残されています。

蜃気楼が見られる仕組み

蜃気楼の発生条件には、大気の温度と深い関わりがあります。

通常、光は大気中をまっすぐ進んでいきますが、冷たい空気と暖かい空気とが重なり合うと、そこを通過する光は屈折を起こします。
光は温度が低く、密度が高い方へ屈折する性質を持っているため、海面の温度が低くなり、そのすぐ上の空気が冷やされて密度が高くなると、元の物体の上側に幻の像が出現します。そのため、本来であれば水平線の向こう側にあって見ることができないはずの風景が見えるようになります。

元の物体の上側に現れることから、この蜃気楼のことを正確には「上位蜃気楼」といいます。一般的に蜃気楼という場合には、この上位蜃気楼を指すことが多いようです。

逆に、本来の物体の下側に幻の像が見える場合を「下位蜃気楼」といい、夏場のアスファルトの道路に水たまりがあるように見える現象(逃げ水現象)も下位蜃気楼の一種と言えます。

宇宙の蜃気楼 ~重力レンズ効果~

地球で起こる蜃気楼と同じように、宇宙空間でも光が曲がることによって本来は見えるはずのないものが見えることがあります。
とは言っても、宇宙空間の場合には、地球上で光が屈折する仕組みとは全く異なります。

それは、いったいどういうことでしょうか。

実は、宇宙空間で光が曲がるのには、天体が持つ重力の影響が大きく作用しています。
専門的な説明についてはここでは省略しますが、大きな重力を持った天体では、周りの時空が歪んでいることが分かっています。そして、この事実はあの有名なアインシュタインの一般相対性理論から導くことができます。

つまり、光自身はまっすぐに進もうとしていても、時空が歪んでいるために直進することができずに曲がってしまうというわけです。さらに、この歪みは天体の持っている質量が大きければ大きいほど強く働きます。そのため、ブラックホールなど大きな質量・重力を持った天体の周りではっきりと現れます。

そして、この歪みの影響の結果、本来であれば天体の裏側にあるために、見えるはずのない別の天体(恒星や銀河など)が発している光が見えることがあります。この働きのことを「重力レンズ効果」と呼びます。重力レンズ効果によって、本来は別の場所に届くはずだった光まで地球に届いた結果、実際の明るさの30倍も明るく見えたという事例も報告されています。

また、重力レンズ効果を利用することで、ブラックホールや暗黒物質といった宇宙の様々な謎を解明できるかもしれないと期待されています。

まとめ

光が屈折を起こすことによって発生する蜃気楼。本来は存在しないはずのものが見えるという不思議な現象であったため、昔の人々は蜃気楼を作る伝説の生物「蜃」がいると考えていました。

現代になって、蜃気楼の仕組みは解明されましたが、今後は重力レンズ効果を利用して、数々の宇宙の謎が解明される日がやって来るかもしれませんね。

(文/TERA)

著者紹介

小さい頃から自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。

※この記事は2014年01月06日に公開されたものです

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