小林麻美の名言をななめ斬り!「結婚を選んだからには、何かを捨てなくてはならない。」

矛盾に満ちた世の中を、レジェンドたちはどう渡り歩いてきたのか。ライター・仁科友里さんが名言をひも解きながら、「女の生きざま」をナナメから考察します。

小林麻美の名言をななめ斬り!「結婚を選んだからには、何かを捨てなくてはならない。」

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第二回のユーミンこと松任谷由実の回で、女優・小林麻美(以下、アサミ)との関係について触れました。二人は親友で、アサミの代表曲「雨音はショパンの調べ」は、ユーミンがアレンジしたものだったそうです。歌手や女優としてますます飛躍するだろうと思っていたアサミですが、そっと姿を消します。再び表舞台に立ったのは91年。所属事務所の社長との結婚と出産を発表しましたが、「寿退社」してしまうのです。

しかし、アサミは2016年に「Ku:nel」(マガジンハウス)の表紙を飾って、芸能界に復帰。「AERA」(朝日新聞出版)にアサミが語ったところによると、だいぶワケありの結婚だったようなのです。

理由については触れていませんが、アサミの家には父親がおらず、寂しい思いをしたそうです。神経性胃潰瘍など大きな病気を次々と発症、休学を余儀なくされたのは、精神的ストレスだとアサミは分析しています。

そんなアサミが二十歳の時に出会ったのが、15歳年上で所属事務所の社長、田邊昭知氏。タモリを見出したことでも知られ、芸能界に絶大な力を持つ人物です。アサミは社長を「父に重ね合わせていた」と話しています。

アサミは激しく恋にのめりこみます。ユーミン曰く、当時は携帯電話がなかったので、電話に出られるように、いつも家にいたそうです。また飲みに行った際、たとえ帰りの方向が一緒でも、決して男性と同じ車に乗ることもなかったそう。彼に少しでも誤解を与えるような行動をとらないアサミのことを、ユーミンは「そこまで人を好きになれるんだ」と思ったそうです。

しかし、所属事務所社長が芸能人と結婚することは、「商品に手を付けた」と言われかねない行為です。しかも、社長はかなりモテていたそう。二人は独身でしたが結婚しないまま、17年が経過します。アサミは「好きな人の子どもを産みたい。その思いだけで、一人で育てる覚悟でした」と出産に踏み切るのです。その後、法律婚をするのですが、周囲に迷惑をかけた禊として、芸能界には戻らないと決めたのだそうです。

結局、2016年に芸能界には復帰するのですが、今もアサミの社長に対する愛情は変わりなく、社長に初めて会った時に来ていたサンローランのピンクのトレンチコートは、今も残してあるそうです。

さて、みなさんは、ここまでのアサミ・ストーリーをお読みになって、どう思われたでしょうか? 困難があっても、一人の人をずっと愛して結婚したなんて素敵、私もそんな恋がしたい。そう思う方も多数いらっしゃるでしょう。

もうね、そういうのは本当にやめて。

多くの女性が少女漫画を読んで成長すると思うのですが、アサミ・ストーリーには、少女漫画につきものの、一途や犠牲、その結果としての成功がちりばめられています。私は悪いオトナなのではっきり言いますが、漫画は読者を喜ばすためにおカネ取ってるんですから、主人公は必ず幸せになるに決まっています。

少女漫画の主人公は一途で、浮気性な女性は悪役か脇役と相場が決まっています。そのパターンで、主人公はハッピーエンドを迎えるので、女性たちは「一途な子には、ハッピーエンドが待っている」と刷り込まれていきますが、それでうまくいくなら、世の中苦労はありません。そもそも、「私って一途だから」と女性が言い出すときは、好かれていないのに、無理して土俵際で踏ん張っていることのほうが多いのです。ティーンエイジャーならそれも大事な人生勉強の一つですが、オトナには昭和の大物お笑い芸人・萩本欽一風に「次、行ってみよう」と言いたい。

イラスト:井内愛

もう一つ、私が危険視するのは「捨てる美学」です。
アサミは「結婚を選んだからには、何かを捨てなくてはならない」と「AERA」で発言していました。おそらく、善良な人たちは「それだけ相手のことが好きなんだ」と好意的に解釈するでしょう。大スターでありながら、自らキャリアを捨てたがる女性は存在します。たとえば山口百恵さんや、実際には実現しませんでしたが、中森明菜も「結婚したら、百恵さんのように引退したい」とことあるごとに発言していました。

アサミを含めた、捨てたがる女性スターは、「家庭が複雑」という共通点を抱えています。百恵さんの自著「蒼い時」(集英社文庫)によると、百恵さんの父親には家庭があり、父親が生活費を入れてくれなかったので、経済的にはかなり厳しい生活を余儀なくされたそうです。中森明菜も家が貧しかったため、夫婦仲が悪く、家庭は重くるしい雰囲気だったと「マルコポーロ」(文藝春秋)で話していました。

子ども時代に経験した寂しさが強ければ強いほど、強く家庭を求め、だからこそ、すべてを捨てても全力で家庭を作りたいと願う。その結果、百恵さんのようにしっかりした家庭を築くことができるかもしれませんが、一歩間違うと「私はこれだけの犠牲を払ったのだから、あなたも家庭的であるべきだ」「私の理想とする家庭は、こうではない」と相手を追い詰め、離婚してしまうこともあります。犠牲が重荷に変わってしまうのです。百恵さんやアサミは一世を風靡した女性ですから、オトコたちにとって勲章であり、そう簡単に手放すわけがない。しかし、一般人の場合は、リスクの大きい賭けだと思っておいたほうがいいでしょう。

日本の女性は「どうすれば愛されるか」について、情報の洪水の中で育ちます。女性向けニュースサイトで「サラダを取り分けろ」とか「男性を上座に座らせるべき」と昭和の高度成長期のようなことが未だに配信されているのも、愛されテクが出尽くしているので「使いまわし」をするしかないのかもしれません。

しかし、オトナ世代は本当は知っていると思うのです、「愛され」の本番は、カップルになってからだということを。自分と相手がお互いに心地よく過ごせなければ、カップルは続かない。だとすると、「愛され」とは、表面的なテクニックではなく、お互いを補いあうパートナーシップだということ。であるならば、自分の何かを捨てることは、プラスにはならないのです。

アサミ側から語られた話を聞けば、薄幸の美女の命がけの恋という感想を抱くでしょう。しかし、究極の第三者として見れば、時代を代表するイイ女・アサミが、芸能界のドンとも言える大物社長と結婚したという、強いもん同士のフツウのラブストーリーです。

あなた(女性)が強くなること、自慢できる女性でいること。それがオトナ世代への「愛され」だとアサミは教えてくれている気がします。

(文・仁科友里/イラスト:井内愛)

【名言ななめ斬り! 記事一覧
第1回 ココ・シャネル「傲慢さは私の性格の鍵であり、成功の鍵でもある」
第2回 松任谷由美「気持ちはつながっていると思う25年でした」
第3回 マリリン・モンロー「同じことを何度繰り返しても、チャレンジにはならないわ」
第4回 林真理子「あんまり若くない女って、どうしてこう運命って言葉に弱いのかしら」
第5回 小林麻美「結婚を選んだからには、何かを捨てなくてはならない」

この記事のライター

1974年生まれ。OL生活をつづったブログが話題となり、2006年「もさ子の女たるもの」(宙出版)でデビュー。「週刊文春」「週刊女性」「女性セブン」にタレント論、女子アナ批評を寄稿。2015年「間違いだらけの婚活にサヨナラ!」(主婦と生活社)が異例の婚活本として話題を呼ぶ。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」