エビータの生き様をななめ斬り!「忘れるとか許すということの絶対できない女性」

矛盾に満ちた世の中を、レジェンドたちはどう渡り歩いてきたのか。ライター・仁科友里さんが名言をひも解きながら、「女の生きざま」をナナメから考察します。

エビータの生き様をななめ斬り!「忘れるとか許すということの絶対できない女性」

元女優にして、アルゼンチン大統領夫人、エバ・ペロン。マドンナ主演で映画化もされましたし、劇団四季のミュージカルでもお馴染みでしょう。

“エビータ”と呼ばれて国民に愛された大統領夫人ですが、その生涯はまるで映画のよう。
首都ブエノスアイレスから遠く離れた田舎町で生まれたエビータ。父親は中産階級でしたが、すでに家庭がありました。生活は苦しく、周囲からも「妾の子」とバカにされて育ったためか、少女時代のエビータは暗かったそうです。「女優になる」と野望を抱いて、15歳で大都会ブエノスアイレスに出て行きますが、コネも後ろ盾もない少女が簡単に仕事をもらえるほど、甘い世界ではありません。売春宿で食うや食わずの生活をし、病気にも苦しんだそうです。しかし、カメラマンと知り合ったことから、出版社のオーナー、石鹸会社社長と、自分に仕事をくれる人、売り出す力を持っているオトコへとステップアップし、仕事を増やしていきます。

女優としてはダイコンだったエバは、活動の場所をラジオに移したことで転機を迎えます。
当時、アルゼンチンは数千人の地主が国民が支配するほど貧富の差が激しく、識字率も低かった。そういう人たちにとって、ラジオは貴重な情報源です。心優しい貧しい娘と地主の息子との恋とハッピーエンドを描いたラジオドラマをエバは得意とし、人気を博し、ここで「エビータ」と愛称で呼ばれるようになりました。ラジオ局と契約し、ニュースを読んでもいたそうです。そう、エビータは女子アナだったのです。ラジオの元締めは国の通信省ですが、逓信大臣ともつきあっていたのが、エビータの「らしい」ところです。
チャリティーイベントで、気鋭の軍人、ペロン大佐を見かけたエバは、その恋人であるアルゼンチンで最も美しい女優に紹介を頼みます。お人好しなこの女優がペロンを紹介したところ、二人はあっという間に関係を結びます。妻を亡くしたペロンは独身でしたが、家には10代の少女が愛人として住み着いていました。エビータはその少女を追い出すと、ペロンの家にさっさと引っ越してきます。女優から恋人を奪ったという言い方もできるでしょうが、政権を狙うペロンにとって、美人女優よりも国民的スターのエバのほうがメリットがあると考えたのではないでしょうか。

エバと知り合った当時、労働局の次長だったペロンは、労働者階級に有利な裁定を下します。誰も重んじてこなかった労働者の肩を持ったのは偶然だったのかもしれませんが、「デスカミサード(上着を着ない人、労働者という意味)を大義とせよ」とたきつけたのは、エバです。エバのよみどおり、労働者は熱烈にペロンを支持します。ペロンの勢力拡大を恐れた首脳部はペロンを不当逮捕しますが、この時もラジオを使って、民衆に蜂起を呼び掛けたのはエバです。頭がキレて発言力もあるエバは、誰よりもメリットのある恋人だったのです。

イラスト:井内 愛

ついにペロンは大統領になり、正式に結婚したことで、エバは20代にして大統領夫人になります。エバは慈善活動を開始しますが、この方法がすごい。儲かっている企業に寄付を募り、断ると難癖をつけてカネをぶんどり、そのカネを貧しい人たちに与えるのです。ちょ、待てよとキムタクばりに言いたいところですが、貧困層は大喜び。寄付金はエバの持つ財団が管理しているという触れ込みでしたが、使途不明金がたくさんあり、エバやその周辺が使い込んでいたようです。経済的無策のせいで、経済はめちゃくちゃ、言論弾圧などペロン独裁体制に対する反感の声が上がりはじめた頃にエバは病に倒れ、33歳の若さでこの世を去ります。

貧困層から聖エビータとも呼ばれたエバですが、「忘れるとか許すということの絶対できない女性」と執念深さを証言する声が多数上がっています。子どものころに自分を見下した父親やその周辺、つまり資産家への怒りから、企業に寄付を強要するというとんでもない行動に出たと見ることはできるでしょう。エバと揉めた女優仲間は、エバが大統領夫人になると一斉にメキシコに亡命したそうですが、エバの報復を恐れたから、つまりエバの執念深さは相当なものだと彼女たちは知っていたのでしょう。「執念深い」という言葉には、育ちが悪いという意味も含まれているように感じます。

でも、しょうがないのではないかと思うのです。だって、思い出したくない、知られたくない過去しかないんですから。エバを嫌う上流階級層は「母親は愛人、娘(エバ)は娼婦」とさげすんだり、教育を受けていないことをバカにしたそうですが、それは生まれと貧困のせいであって、エバが悪いわけではない。エバは女性ペロン党を組織し、女性に参政権を与えました。それは労働者階級の女性をペロンの支持者にしようという目論見があってのことですが、女性が政治参加できるようになったという意味で、多くの女性に歴史的な恩恵を与えました。執念深いという言葉で片づけるのは少々惜しい気がします。

それでは、どういう人を執念深いというのか。
実害をこうむったわけでもないのに、誰かや何かに固執したり、ライバル心を持つ人、かつ結果を出していない人のことではないでしょうか。自分の知る形で悪口を言われたり、嫌がらせをされて怒るのは当然の権利ですが、何もしてない人に勝手に「負けたくない」と闘志を燃やす人がいます。本人はそれがモチベーションだと思っているかもしれませんが、それは一種の被害妄想であり、シャドーボクシングです。当然結果を出すことはできないので、余計に被害妄想はひどくなるのです。

世界的革命家、チェ・ゲバラは「世界のどこかで、誰かが被っている不正を、心の底から深く悲しめる人間になりなさい。それこそが、革命家としての一番美しい資質なのだから」と述べています。エバのやり方が正しいとは全く思いませんが、後世に続く何かと希望を見せたという意味で彼女は稀有な女性革命家であり、だからこそ、今も人々の心に残り続けているのではないでしょうか。

(文:仁科友里/イラスト:井内愛)

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この記事のライター

1974年生まれ。OL生活をつづったブログが話題となり、2006年「もさ子の女たるもの」(宙出版)でデビュー。「週刊文春」「週刊女性」「女性セブン」にタレント論、女子アナ批評を寄稿。2015年「間違いだらけの婚活にサヨナラ!」(主婦と生活社)が異例の婚活本として話題を呼ぶ。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」