株式市場では、どんな人たちが取引をしているのでしょうか。
投資家は大きく個人投資家と機関投資家の2つにわかれます。個人投資家というと何だか敷居が高くて、お金持ちばかりだと思うかもしれませんが、実はそうではありません。30代以下の若い人もいますし、収入だって300万円以下の人が大半です。
一方の機関投資家は、大きな資金を運用するプロの投資集団です。短期間で売買を繰り返して莫大な利益を上げるヘッジファンドもいれば、年金基金のような長期投資派もいて、一口に機関投資家といっても、その投資戦略はさまざまです。
そして、日本の株式市場で大きな影響力を持つのが海外投資家です。東証1部の売買額の7割以上を海外投資家が占めていて、株価の行方を握っていると言っても過言ではありません。
個人投資家と機関投資家、そして外国人投資家の特徴についてご説明します。
個人投資家は年収300万円以下の兼業投資家が大半
個人投資家って何人くらいいるのか気になりますよね。
2014年に証券取引所が調査した個人株主ののべ数は、4,582万人です。複数銘柄保有している人が重複でカウントされており、平均保有銘柄数が3~5銘柄ですので、株式投資をしている人の数は900~1,500万人と推定されます。
平成30年3月に金融庁が行った調査では、NISAとつみたてNISAの口座開設数が1,167万以上と発表されました。
これだけたくさんいる個人投資家とは、一体どんな人達なんでしょうか。日本証券業協会が平成26年に行った調査をもとに調べてみましょう。
働きながら投資している会社員投資家が約30%!
個人投資家で割合が一番多いのは、他に本業を持っている会社員などの兼業投資家です。日本証券業協会の調査では、回答者1,143人中、事務職、技術職、公務員など、働きながら株式投資をしている人が合わせて28.9%でした。
そのほかには、無職・年金25.0%、専業主婦16.7%、自営業・自由業(開業医、弁護士)が12.7%、アルバイト・フリーター10.1%、その他5.8%(無回答0.7%)となっています。
年収300万円以下、投資額100万円以下の人も多い!
年齢を見てみると60代が30%と最も多くなっていて、20~30代の若い世代は9%です。年収は300万円未満の人が48%で半分近くいて、300~500万円未満の人も24%います。
個人投資家というと、資産家のおじいさんというイメージを持っていたかもしれませんが、若くて収入が高くない人でも株式投資に挑戦していることがわかります。
投資額も少額の人がかなりいます。
保有している株、投資信託、債券の時価が100万円未満の人は21%、100~300万円未満の人が25%と、300万円未満の人が半数近いのです。
個人投資家は特別なお金持ちじゃありません。あなたと同じような年代、年収の人が少額から株式投資をやっているんですよ。
なお個人投資家の投資方法の特徴としては、投資や株式の知識が十分でない人もいることから、知名度や人気に左右されやすい傾向があります。株主優待狙いの個人投資家も有名ですね。
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【個人投資家の特徴】
- 本業が別にある兼業投資家が多い
- 年収300万円以下の人が半分近く
- 株主優待狙いなど、会社の知名度や人気に左右されやすい
巨額の資金を動かす機関投資家にも長期投資派と短期投資派がいる
株式市場で大きな力を持っているのが機関投資家です。機関投資家というのは、顧客から預かった資金など、大きなお金を運用している大口の投資家(会社、集団)のことです。
多くの投資家(顧客)から集めた資金を1つにまとめて、株式投資などで資産運用をする集団のことを、ファンドと呼びます。個人で投資信託に投資している人がいますが、投資信託で集めたお金を運用するのはファンド(ファンドマネージャー)です。ちなみに投資信託という商品そのものもファンドと呼びます。
「機関投資家」とか「ファンド」というと、短期売買で大きな利益を上げる「ヘッジファンド」が思い浮かび、何だか怖い存在だと思う人もいるでしょう。しかし一口に機関投資家といっても、投資スタイルにはいろんなタイプがあります。どんな機関投資家がいるのか確認してみましょう。
保険会社も機関投資家!国内の主な機関投資家の種類
機関投資家とひとくちにいっても、次のようにいろんな集団・会社があります。
- 投資顧問会社
- 生命保険会社
- 損害保険会社
- 投資信託会社
- 年金基金
投資顧問会社(投資顧問業)というのは、株式投資について投資家への助言を行う会社です。投資家から委託されて実際の運用も手がけます。長期投資が得意な会社や、ヘッジファンドのように短期運用を得意としている会社など、タイプはさまざまです。
「村上ファンド」を覚えている方も多いと思います。村上ファンドは、村上世彰氏を中心とした投資グループの通称です。このグループの中心にあった企業は株式会社M&Aコンサルティングで、事業内容は投資顧問業でした。
投資信託会社(投資信託委託業)は、不特定多数の投資家から集めた資金をまとめて投資を行います。証券会社や銀行で販売している投資信託商品をつくり、運用している会社です。例えば、こんな会社があります。
- JPモルガン・アセット・マネジメント
- 大和証券投資信託委託
- みずほ投信投資顧問
そして日本国内機関投資家で忘れてはいけないのがGPIF(独立行政法人年金積立管理運用)。年金積立金の管理と資産運用を行う機関で、130兆円もの資産を運用する世界最大規模の機関投資家です。他にも保険会社などが、機関投資家として顧客から得た保険料収入をもとに投資を行っています。
保険会社や年金基金は長期投資がメイン
生命保険会社や年金基金などは、長期的で安定的な投資をメインとしているため、国債などの債券などへの投資比率が比較的多いです。
国内外の株式にも投資していますが、基本的には株式を長期で保有することを前提としていて、短期的な売買はあまり行いません。
生命保険協会がまとめた、生命保険会社42社が保有している国内株式の時価総額は、平成29年3月末でなんと23兆1820億円にものぼります。機関投資家が運用する額が大きいというのがよくわかりますよね。
ちなみにGPIFは以前はかなり債券に偏った投資をしていたのですが、2014年10月から株式への投資比率を高めました。
<GPIFの各投資商品への投資比率(%)>
期間 | 国内債券 | 国内株式 | 外国債券 | 外国株式 | 短期資産 |
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2014年10月まで | 60 | 12 | 11 | 12 | 5 |
2014年10月から | 35 | 25 | 15 | 25 | – |
2019年3月末時点で、GPIFは株式投資のうち90.6%をインデックス投資(パッシブ運用)にしています。インデックス投資というのは、日経平均株価やTOPIXといった指数(インデックス)に連動している株を購入する方法です。
東証1部上場全銘柄の時価総額の合計を、全銘柄数で割った数字です。時価総額は「株価×発行済み株式数」です。東証1部に新規上場した銘柄・第2部から第1部へ市場が変更になった銘柄は、上場の翌月末にTOPIXに加わります。
ヘッジファンドは空売りや短期売買で大きな利益をあげる
ヘッジファンドは、短期的な売買を繰り返してハイリスク・ハイリターンで大きく稼ぐことを目的にしている投資集団で、信用取引(空売り)※を使って、株価が上がった時も下がった時も利益が出るような運用をします。
攻撃的ともいえる投資法で、相場を激しく動かす存在と言えます。
ではなぜヘッジファンドはハイリスク・ハイリターンの投資ができるのでしょうか。ヘッジファンドは、私募投信といわれており、専門的な知識がある限られた投資家から私的にお金を集めるので、比較的自由な運用が可能になるのです。
一方、普通の投資信託は、公募投信といって、証券会社の店頭などで不特定多数の人向けに売られています。投資の知識が十分でない人も買うので、顧客保護の観点から運用方法に制限があり、ヘッジファンドのような運用はできないのです。
ヘッジファンドについては「ヘッジファンドとは?投資手法や購入法、リスクを解説」をご覧ください。
証券会社から株を借りて売ること。「借りた株を高く売り、安く買い戻して証券会社に返却する」ことで、売買の差額を得るので、株価の下落局面で利益をあげることが可能です。アメリカの投資銀行であるゴールドマン・サックスは、損失隠しでオリンパス株が暴落した時、空売りで巨額の利益を得ました。
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<機関投資家の特徴>
- 巨額の資金で投資を行う
- 年金基金や保険会社は頻繁に売買しない
- ヘッジファンドは頻繁に売買する
- ヘッジファンドは信用取引を使い、株価の下落局面でも利益をあげる
東証1部の取引金額7割以上が海外投資家の資金!海外投資家とは
海外投資家とは、その名の通り、海外在住で日本の株式市場で売買している個人や機関投資家のことです。外国証券会社(東証非取引参加者)の日本支店も含みますので、日本人でもこれらの企業を通じて取引をしていれば、海外投資家の中に含まれます。
海外投資家は、国内の機関投資家とは比べ物にならないほど、日本の株式市場に対して大きな影響力を持っています。影響力がどれほどのものか、見ていきましょう。
莫大な資金で日本株を買う海外投資家
海外投資家の影響力の大きさがひと目でわかるのが、東京証券取引所が毎週木曜日に公表する「投資部門別 株式売買状況」という資料です。この表は、資本金30億円以上の国内証券会社52社が行った売買のデータをまとめたものです。
例として2018年12月第1週の資料で、海外投資家の取引額(東証一部)を見てみましょう。証券会社が顧客から委託を受けて仲介した取引額です。
内訳 | 売買金額(単位:千円) |
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法人(国内の機関投資家) | 売り 785,335,440円 買い 1,249,008,940円 計 2,034,344,380円 |
個人(個人投資家) | 売り 1,876,301,994円 買い 2,079,980,588円 計 3,956,282,582円 |
海外投資家 | 売り 9,445,199,655円 買い 8,885,404,977円 計 18,330,604,632円 |
証券会社(他の証券会社からの委託) | 売り 77,216,956円 買い 86,513,485円 計 163,730,4415円 |
海外投資家の取引額はまさに桁違いで、12月3日から7日で売買計18兆円に達します。割合にすると取引額の7割以上を占めています。
取引額が大きいので市場に与える影響も大きく、外国人投資家が株を売っている(買いより売りが大幅に大きくになっている)ときには、株価が下がる傾向にあります。
一方で、国内の機関投資家の売買額は、個人投資家にも及びません。130兆円を運用するGPIFや、22兆円も株を持っている生命保険会社たちがいるのに、です。長期保有メインで、あまり売買していないことがよくわかります。
機関投資家は東証2部などの小型銘柄には手を出しにくい
海外投資家の影響力の大きさがわかりました。ところでさきほど見た「投資部門別 株式売買状況」の抜粋は東証1部のものでしたが、もちろん東証2部やマザーズ分のデータもあります。
それを見ると、東証2部やマザーズでは海外投資家による取引額ががくんと減り、取引額は全体の40%程度です。
実は機関投資家は、東証2部やマザーズに上場している、中小銘柄には手を出さないことが多いのです。
発行済み株式数の5%を超える株を保有すると、大量保有報告書を金融庁に提出する義務があります。すると、EDINET(金融庁の電子開示システム)で報告書が公開され、投資先を他の投資家に知られてしまいます。そのため、機関投資家は株式発行数が少ない銘柄や時価総額が小さい銘柄をあまり買いません。
それを利用して、「順調に成長してきて、もうすぐ時価総額が100億円を超えそうな銘柄」を狙って購入する個人投資家もいます。機関投資家の目に止まり、大口の買い注文が入って値上がりするのを待つ作戦です。
外国人投資家は割安で独自技術がある企業が好み
海外機関投資家にも、国内機関投資家と同じように、いろんなタイプがあります。短期で売買をするヘッジファンドもあれば、コンピュータを利用して高速で売買する投資集団もいます。一方、海外の年金基金などは長期で株式を保有します。
長期で株を保有する海外投資家は、割安株(バリュー株)、独自技術を持つ企業、株主への利益還元に積極的な企業を好むと言われています。
割安株というのは、業績や財務状況に対して株価が安いと判断される株のことです。
詳しくは「バリュー投資とは?メリットとデメリットを解説」で解説しています。
さらに海外投資家は日本の投資家以上にアメリカ市場の影響を大きく受ける傾向があります。そのため海外投資家が多くの株を保有している銘柄の値動きは、アメリカ市場の動きに特に連動しやすいと言えます。
各銘柄の海外投資家の保有比率は、会社四季報で確認できますが、一例を挙げておきます。ここに挙げた企業の他にも、海外企業の日本法人や、外国企業の傘下にある企業は、外国人持ち株比率が高いです。
コード | 企業名 | 外国人持株比率(2018年12月27日現在) |
---|---|---|
3064 | MonotaRO | 82.4% |
7532 | ドンキホーテHLD | 68.8% |
7741 | HOYA | 62.4% |
6268 | ナブテスコ | 50.3% |
6273 | SMC | 56.6% |
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<海外(外国人)機関投資家の特徴>
- 日本の株式市場で絶大な影響力を持つ
- 割安、独自技術、高株主還元銘柄を好む
- アメリカ市場の動向に影響されやすい
- 小型株には手を出しにくい
個人投資家は、資金力の海外投資家を利用するのが鉄則
国内外の機関投資家は資金面でも、情報面でも、経験でも、個人投資家の比ではありませんから、まともに立ち向かっても太刀打ち出来ません。初心者が機関投資家の動向に逆らってもいいことは何ひとつありません。
機関投資家の動向をウォッチし、「彼らが売っていれば株価が下がる、買っていれば上がる」と割り切り、投資部門別売買状況などで状況をつかんで、流れに載るのが得策です。