有名な投資家、ピーター・リンチを知っていますか?たった13年間で資産を700倍に成長させた伝説のファンドマネージャーです。
リンチの名言の一つに、こんな言葉があります。
「典型的なアマチュア投資家が典型的なプロのファンドマネジャーに対して優位性をもっていることについて、私の確信はいささかも揺らいでいない」
プロのファンドマネージャーだったリンチが、「プロよりアマチュア投資家の方が優れている」といった理由は、どんなところにあるのでしょうか。
この記事では、リンチ流投資術を一般投資家の資産運用にどう応用すればいいのかを紹介します。
ピーター・リンチは長期投資が得意!下落相場で割安株を狙え
ピーター・リンチは、長期投資によって利益を出すことを得意としていました。
しかし、ただ漫然と長期投資をすればいいというものではありません。投資で損をするリスクを少なくし、より利益を大きくするにはどんな工夫があったのでしょうか。
- バリュー株(割安株)を買う
- 自分の良いと思った企業に長期投資する
- 頭のなかにストーリーを描く
リンチ流の投資術はこの3つです。リンチはどんなタイミングで株を売り買いするのか、リンチが考える「良いと思った企業」とはどんな企業なのか、リンチは頭のなかで描いているのはどんな「ストーリー」なのか紹介します。
株価は暴落したときが狙い目!リンチが目を付けるバリュー株とは
安く株を買うことができたら、とてもお得ですよね。業績や財務状況と照らし合わせ、安いと判断される株を「バリュー株(割安株)」といいます。
バリュー株投資とは、株価が安いときを狙って買い、株価がつり上がったときに売る投資法のことです。ピーター・リンチは、バリュー株を探すことが長期投資家にとって重要なポイントだと考えていました。
ではバリュー株をいつ買ったら良いのでしょうか。バリュー株が最も見つけやすくなるときは、次の場面が考えられます。
- 世界同時株安などで、市場全体の株価が暴落したとき
- 同業他社の経営不振などのあおりを受け、株価が下がったとき
近年では中国株の暴落やイギリスのEU脱退などが、世界の株価に影響を与えました。このように、会社の経営自体に問題がない場合でも、市場全体の株価が暴落すれば、優良企業でも自動的に株価が下がってしまうのです。
リンチは、株価が暴落したときが株を買うチャンスだと考えています。ただ、ここで注意すべきなのは焦って買わないこと。リンチは著書の中でこのように言っています。
ナイフが地面に刺さり、しばらく揺れ動いた後、しっかり止まってから引き抜くのが正しいやり方。
株価が下落しているさなか、株を買うのは危険です。株価がどこまで下がり続けるか誰にも予測できないからです。
そのため、株価が下がりきって安定したのを確認し、底値で安定したことを確かめてから買う必要があります。
バリュー株を見つけたら長期投資が基本、銘柄はあらかじめ選んでおく
下がってしまった株価が、時間をかけて上がってくるのを待ち、上がってきたところで売り、利益を得るのがバリュー株投資の基本です。
ここで、暴落した株価が再び上昇する優良企業の株価を買わなければ、リンチのような成功をつかむことはできません。
しっかりした経営を行っている企業でなければ、株価の暴落に耐え切れず倒産してしまうこともあります。
「投資したいという株が見つからなければ、見つかるまで資金は銀行に預けなさい」というのはリンチの名言のひとつ。このように銘柄選びは非常に慎重に行う必要があるのです。
またリンチは、「優良企業に投資しているのなら、時間はあなたの味方になる」と言っています。まさに、良い企業の株を買いさえすれば、結果は寝て待っているだけでいいということですね。
株価を暴落させる金融恐慌は、いつ起こるか誰も予測できません。これから投資を考えている人は、いざ金融恐慌が起こったときに慌てないよう、あらかじめ投資したい企業を調べておく必要があるのです。
狼狽売りは禁物!リンチは成長ストーリーに沿って株を運用、売却する
ピーター・リンチは新しく株を買う際、必ず頭のなかにストーリーを描きます。
もちろん経済や市場の変動は、どんなプロ投資家でも予想は的中できません。しかし企業の経営状態と、取扱うサービスや商品の売れ行きを調べた上で、その企業の株価を予測することは、自分の観察眼を磨くことで十分可能です。
はじめからストーリーを決めておけば、万が一急激に市場が変動したとき対応できます。
一時的な下押しを見あやまり、これから伸びしろのある優良株にもかかわらず慌てて売ってしまう「狼狽(ろうばい)売り」はしたくないですよね。
反対に、ロスカットしなければならないケースを見逃し、損失を広げてしまう事故も防げるのです。
リンチは数ヶ月ごとに、このストーリーを再チェックし、自分のストーリーから外れていないか確認します。ストーリー通りに進んでいるなら引き続き保有。もしストーリーから外れていると判断すればその株は売却します。
これは株価が上昇して「利益がでた」ときも同様です。あらかじめ決めておいた利益水準よりも多く利益が出たときは、「まだまだ上がるかも」と欲を出さないことが重要。
欲を出しすぎると売りどきを逃し、せっかく大きく膨らんだ利益を減らしてしまう結果を招く恐れも。感情をコントロールできない状態に陥ることのないよう、くれぐれも注意しなければなりませんね。
- 株価が暴落しているとき、バリュー株(割安株)を買う。
- あらかじめ優良企業を選んでおき、長期投資する。
- 描いたストーリーに沿って運用する。狼狽売りをしない。
リンチの銘柄選びの法則、株で勝つには情報収集が命
ピーター・リンチの投資術は、企業の徹底的な情報収集なくして語ることはできません。
それは、「調査なしで投資することは、手札を見ないでポーカーをするのと同じ」と語っている彼の言葉を見てもわかります。
調査をしないで株を買うことは、無謀なバクチを打つこと同じなのです。では、ピーター・リンチは大成功を収めたファンドマネージャー時代、どのような方法で企業の情報を集めていたのでしょうか。
情報収集のために会社に潜入?ライバル企業が要チェックな理由
リンチがファンドマネージャーとして活躍していた時代、今のようにインターネットが普及していなかったため、情報を集めるのも一苦労でした。
リンチの情報収集方法は、自ら企業に足を運び、CEOや株主担当者に会いに行くこと。直接企業の中枢に入りこむことで、経営に関する率直な意見を聞くことができ、社内の雰囲気まで情報として得ることができます。
社内の雰囲気は、経営状態を判断するのにとても参考になります。例えばオフィスが雑然と散らかっていれば、「業績見通しがいい加減ではないだろうか?」と疑いを持つきっかけになりますね。
その他、リンチは様々な業界の重役と食事会やパーティーを通じて会い、企業の裏情報や、業界の風向きや変化など、広く情報を集めていました。リンチはこのことを「(株価の変化に対応できる)早期警戒装置になった」と、とても重要視しています。
リンチは、食事会で出会った企業の重役に必ず聞く質問があります。それは「あなたの会社のライバルはどこの会社ですか?」というものです。
ここで重役の口から出てきた企業の名前は、この会社に対抗する馬力がある企業といえます。リンチは大手企業にライバルとしてお墨付きを得た企業をしっかり頭に入れ、後々この企業の株を買うことも多かったということです。
まさにすべての情報を投資に生かしていたんですね。
必要な情報は全てメモにして残す、リンチ流メモ活用法とは
ピーター・リンチの投資術には、メモを活用するという特徴があります。マゼランファンドのファンドマネージャーをしていた13年間で取引した15,000にものぼる銘柄全てに、情報を集約したメモがつけられています。
メモの活用はそれだけにとどまりません。一度でも目に止まった銘柄に関する情報や、どこの企業担当に会ったかという記録、食事会で話した内容まで、詳細にメモを残しています。
メモに残すことでいつでも記憶を呼び戻すことができ、苦労して得た情報をムダにしてしまうことがありません。
リンチは何かの銘柄を買って失敗しても、忘れてまた同じような失敗を繰り返すことを防ぐために詳細なメモを残していたそう。失敗したことを忘れてしまうことで、将来大きな損失を出す可能性があるからです。
リンチ流投資術で活用しよう!インターネットは企業情報の宝庫
マゼランファンドのファンドマネージャーだったピーター・リンチは、企業の情報収集のために、頻繁にCEOや重役と会合しましたが、個人投資家にはそんな機会はなかなかありませんよね。
しかしインターネットが普及した今、CEOや重役と一緒に食事をしなくても、企業の情報を得る手段はたくさんあります。
以前は企業の経営に関する書類ひとつ取り寄せることすら苦労していました。
しかし今ではホームページ上に決算書や年次報告書など、財務諸表※を公開している企業もあり、企業情報の入手は簡単です。
企業の経営成績や財務状態などを表した書類のこと。決算書とも呼ばれる。財務諸表の読み方などの詳しい解説は「株式投資のための財務諸表分析法!財務状況と収益性をチェックしよう」の記事を参考にしてください。
また、オンライン新聞から手軽に世界各国の情報も入手できるようになりました。その情報を逃さないよう、しっかり情報のアンテナを立てておく必要があります。
また、こうして得た情報を忘れてしまわないよう、活用するのがリンチ流の「メモ活用術」です。
ピーター・リンチが教える!プロにアマが勝つ方法は着眼点にある
ピーター・リンチは著書の中で、なぜアマチュア(一般投資家)がプロ(ファンドマネージャーのような機関投資家)の投資家に勝てるのか、について解説しています。それは日常生活で使うものに着目して、銘柄を選ぶ柔軟な思考力があるから。
良い製品を生み出しているか企業価値を判断する確かな目を持っていることが重要であり、プロかどうかに大きな意味はないのです。
またリンチが企業を見る目はとてもシンプルです。
- クレヨンで説明できないアイデアには投資しない
- 90秒で説明できないような会社の株は買わない
ピーター・リンチは、日常生活の何気ないところに投資のヒントが隠されているといいます。
世の中で話題になったり流行しているものが、急成長株なのは言うまでもありません。そして一番売れている商品は、日常生活と隣り合わせにあるショッピングセンターの中に隠れているのです。
ピーター・リンチは家族や子供とショッピングセンターに出かける時間を大切にするべきだと言います。ショッピングセンターに出かけたら、今一番人気があり世間で話題になっている店に行くこと。
投資家としての目線ではなく、実際に商品を選ぶ消費者の目線から商品を見る必要があります。ショッピングセンターに溢れているたくさんの商品は、次の視点で観察することが重要です。
- 流行している商品か
- 話題性のある商品か
- 使い勝手はどうか
- 流行は一過性のものか
- 他に似たような商品はあるか
- なぜ売れているのか
気になる商品があれば、商品を取り扱っているメーカーやブランドを調査。商品だけでなく企業の業績や、自分が理解できる事業内容かを調べ、投資するかどうかを検討します。
流行を追うことと「よく知らないものに投資しない」という信条は、なんだか矛盾しているように聞こえますよね。
しかしリンチのいう「よく知らないもの」とは「調査した結果、企業の事業内容が理解できず、商品の品質が信用できないもの」という意味です。
リンチは流行に敏感であることを推奨しています。流行のはやりすたりと株価とは、深く関係しているからです。
リンチが奨めるのは人気のない銘柄?大化けする株を見つけ出せ
安定した経営を続けている企業に投資していれば安全ですが、それでは大儲けすることはできません。リンチが資産を増やすことができた秘訣は、テンバガー銘柄に投資したためです。テンバガーとは、株価が10倍になるような急成長株のことです。
テンバガーにありつき、また利益を持続的に得るためには、多くの投資家と同じ思考回路で同じように投資していたのでは実現できません。
そこで、ピーター・リンチは急成長株になり得る企業のポイントをあげています。
2、代わり映えのしないつまらない業種
3、機関投資家が見向きもしない会社
4、悪いうわさがある会社
5、人が嫌がる会社
6、無成長産業、ニッチ産業
このような会社は誰もが投資を嫌がりますね。リンチは「人が見向きもしない会社」を狙って投資することが成功の糸口だと考えているのです。
例えば、葬儀屋や産業廃棄物処理業者はいかにもイメージがよくありません。しかし、常に需要があり、しかも今後安定的に上昇していく可能性がある会社です。
また、ニッチ産業とは、すきま産業とも呼ばれますが、顧客の細かい要望や需要に即時対応できるベンチャー企業のことです。時代の流れをつかめば、急成長を遂げることができる業界だといえます。
テンバガーについて詳しくは、次の記事を参考にしてください。
しかし、いくら急成長株だからといって、よく調べもせずに焦って投資することは禁物です。あくまでも、投資する前に企業についてよく調べることが必要なことです。
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リンチが教える急成長株を見つけるヒント
- 誰もが注目する、流行の最先端
- 誰も見向きもしない、隠れた急成長株
投資家なら読んでおきたい!著書「ピーター・リンチの株で勝つ」
ピーター・リンチは、マゼランファンドのファンドマネージャーを務めていた際、培ったノウハウを集約した本を書いています。
他の投資家や経済評論家によって書かれたものではなく、ピーター・リンチ本人によって書かれた本なので、内容の信憑性がたいへん高いといえます。
資産運用によって莫大な利益を得たからといって成功した自慢話ばかりではなく、失敗談まで赤裸々に語られているので、投資家にとって興味深い内容です。
ピーター・リンチの著書は以下の3冊です。
- ピーター・リンチの株で勝つ―アマの知恵でプロを出し抜け
- ピーター・リンチの株の法則—90秒で説明できない会社には手を出すな
- ピーター・リンチの株の教科書―儲けるために学ぶべきこと
リンチ流、成功の秘訣!株という娯楽を純粋に楽しむこと
バクチを打つように株を買っていたのではなく、確かな目算を持って投資したからこそ得ることができた成功だと知っておかなければいけません。
株式投資をするからにはもちろん利益を狙います。しかし運用成績を高めることしか考えていなければ、自然と視野が狭くなって逆に損失を出してしまう可能性も。
ピーター・リンチは株を買うとき、銘柄について徹底的に調べあげ、株の銘柄について「研究する」ことを純粋に楽しんでいるようにも見えます。
その地道な努力によって、成功が後から付いてきたともいえるのです。ピーター・リンチの投資法には学ぶべき点がたくさんあります。ぜひ投資家の皆さんもリンチの投資法から学び、成功をこの手に掴みましょう。