2016年1月末に日銀がマイナス金利の導入を決め、2月16日から実施されました。マイナス金利の導入が発表された直後に株式市場は急騰しましたが、その後急落し、不安定な値動きが続いています。
そもそもマイナス金利って何なのか、なぜ導入されたのかということから、生活や株式市場にどんな影響を与えているのか、今こそ買う株は何かということまでお伝えします。
マイナス金利ってなに?マイナス金利政策の概要と日銀の狙い
日銀(日本銀行)は個人からお金を預かることはありませんが、民間銀行からはお金を預かっています。この民間銀行の預金につける金利をマイナスにするのがマイナス金利政策です。
日銀がマイナス金利を導入した狙いは、日銀に預けられているお金を市場に回し、設備投資をしたい企業にお金を行き渡らせて、経済を活性化することです。
マイナス金利の仕組みと狙いについてわかりやすく説明します。
マイナス金利とは?民間銀行が日銀に預ける預金金利がマイナス
マイナス金利下では、民間銀行が日銀にお金を預けると、利子をもらえるのではなく、反対に利子を支払うことになります。
これは、民間銀行にとっては嬉しくない事態ですね。
ただし、全ての預金に対してマイナスの金利がつくのではありません。2016年1月時点で、民間銀行が日銀に預けている当座預金は約253兆円ですが、マイナス金利がつくのはそのうちの23兆円程度です。
全ての当座預金にマイナス金利を適用してしまうと、銀行の経営が一気に悪化して大きな混乱を招くので、一部の預金にとどめているんです。
海外では、EUの中央銀行であるECB(ヨーロッパ中央銀行)が2014年6月からマイナス金利を導入しました。デンマーク国立銀行、スイス国立銀行、リクスバンク(デンマークの中央銀行)もマイナス金利政策を実施しています。
マイナス金利政策の狙いは、市場にお金を回すこと
マイナス金利だと、民間銀行は日銀にお金を預けていたら損をします。どうして日銀はそんなことを始めたのでしょうか。
今は、銀行が日銀にお金を預けっぱなしにしているために、お金を必要としている企業などにお金が回らない状況です。
日銀は、それを変えようとしています。日銀が描く理想的なシナリオはこちらです。
(2)利益(金利)を得るため、民間銀行から、設備投資をしたい企業にお金が貸し出される
(3)設備投資をした結果、企業の業績が良くなる
(4)業績が改善したため、社員の給料が上がる
(5)給料が増えれば個人消費が増えるので、景気が良くなる
日銀はこれまでも、市場にお金を供給しようと、次のような金融緩和政策を打ち出してきました。
- ゼロ金利政策(銀行間の資金の貸し借りでつく金利を実質ゼロにすることで、銀行に株式投資や長期投資を促す)
- 量的緩和(日銀が金融機関から国債を買い、銀行が使えるお金を増やして市場に資金を回す)
- 質的緩和(日銀が金融機関から買い取る資産の対象を、ETFやJ-REIT※まで広げる)
今回のマイナス金利は、金融緩和を推し進めるさらに大胆な政策だと言えます。
投資信託の一種で、投資家から集めたお金で不動産(オフィスビル、商業施設、マンションなど)を購入し、賃貸収入や売買で得た収入を、出資した投資家に分配します。ETF(上場投資信託)同様に、株式市場に上場しています。
REITについては「
REIT(不動産投資信託)とは?メリットとデメリットを紹介」を参照してください。
マイナス金利の本当の狙いは別にある!円安株高がターゲット
日銀は市場にお金を回すことだけではなく、円安・株高になることも狙って、マイナス金利を導入しました。
むしろ、こちらが本当の目的です。
マイナス金利が円安につながるメカニズムはこうなっています。
(2)円を持っていても金利がつかず儲からないので、円を売って他の通貨を買い、外貨預金をする
(3)円が売られるので円安になる
円安が株高を誘発する理由としては、このふたつがよく挙げられます。
- 円安になると、輸出品が売れやすくなり日本経済を引っ張る輸出産業(自動車など)の業績が良くなり、株高になる
- 「円高なら日本株を売り、円安になると日本株を買う」というプログラムを使って高速取引をしている海外の機関投資家が一斉に日本株を買うので、株高になる
日銀には、マイナス金利で円安・株高をすすめて、経済を活性化させたい狙いがあったんですね。株高になれば、日本経済の調子が上向いているアピールになります。
マイナス金利の生活への影響は?預金は不利、住宅ローンは有利に
マイナス金利の発表以降、金融市場は大荒れで株価は乱高下していますが、マイナス金利が影響をおよぼすのは株価や為替だけではありません。住宅ローンや銀行預金などの日常生活にも変化があります。
金利が低くなるということは、お金を借りやすくなるということです。住宅ローンの金利が低くなるため、これから住宅購入を考えている人にとっては追い風です。
銀行預金や住宅ローンの金利がどうなるのか、すでにマイナス金利を導入している国の現状と合わせて紹介します。
個人の銀行預金はマイナス金利にはならない!
マイナス金利が導入されるのは、「民間銀行が日銀に預けているお金に対して」です。私たちが銀行に預けているお金に、マイナス金利が導入されることはありません。
銀行としては日銀に合わせてマイナス金利を導入したいのが本音かもしれませんが、そんなことをすれば顧客に口座を解約されて預金を引き出されてしまいます。
マイナス金利を導入しているヨーロッパ各国でも、銀行が顧客の預金にマイナス金利を適用した例は、スイスの小規模銀行を除いてはほとんどありません。
ただ、マイナス金利にならなくても、預金金利はかなり低くなります。メガバンク3行はマイナス金利を受けて、預金金利を引き下げました。
三菱東京UFJ銀行とみずほ銀行では、預ける金額と期間に関わらず一律年0.01%しか金利がつかないという異常事態です。
銀行 | 定期預金金利 |
---|---|
三菱東京UFJ銀行 | 一律0.01% |
三井住友銀行 |
|
みずほ銀行 | 一律0.01% |
住宅ローンを組みたい人は、金利が下がって有利に借りられる
マイナス金利で金利が下がるのは、お金を預ける人にとってはデメリットですが、お金を借りたい人にとってはメリットです。
マイナス金利の導入を受けて、金融機関は住宅ローンの金利を引き下げているので、住宅購入へのハードルが下がります。
マイナス金利を導入している海外でも、住宅ローンの金利が下がったため、住宅を買いたい人が増えています。
デンマークでは、なんと「ローンを組むと利息がもらえる」という住宅ローンまで登場しています。
こうなると、金融機関に支払う手数料を含めても、借入のためのコストがほとんどかかりません。借りた額だけ返せばいい状態なので、思い切って家を買おうという気にもなりますね。
マイナス金利でも株高にならない理由は、原油安と信用不安
マイナス金利政策は狙い通りに円安株高の状態を作り出せませんでした。マイナス金利が発表された直後こそ円安株高になりましたが、すぐに円高株安になったのはご存知のとおりです。
これは、マイナス金利政策の円安株高効果以上に、原油安やヨーロッパの信用不安といった円高圧力(円高になるように働く力、要因)が強かったためです。なぜマイナス金利では円安株高効果が出なかったのか、その原因を詳しく見てみましょう。
マイナス金利でも「本当にお金を借りたい企業」にはお金が回らない
日銀は「マイナス金利で市場にお金を回すのが目的」と説明していますが、「そもそもマイナス金利では市場にお金が出まわらない」という懐疑的な声が多く聞かれます。
その理由は「銀行が貸したいと思えるような企業(魅力的な投資先)が、日本国内にはない」からです。
実は銀行にとって魅力的な企業には、もうすでにお金を貸している状態です。手持ちのお金が増えても、投資先として魅力のない会社には貸したくないのが銀行の本音です。
すでにマイナス金利を実施しているヨーロッパでも、企業への貸し出しは思ったほど増えず、個人向けの住宅ローンが増えているのが現状です。
予想以上に円高圧力が強く、円安株高も達成できず
マイナス金利のインパクト以上に、円高の圧力が強かったことも、円安株高を維持できなかった理由です。円高圧力とは、為替相場を円高にする要因のことです。
-
<主な円高圧力>
- 原油価格の急落
- アメリカ経済の先行きの不透明感
- ドイツ銀行などヨーロッパの金融機関の信用不安
ニュースなどでもよく「原油安や欧州の金融システム不安が原因で、比較的安全な資産とされる円を買う動きが広がりました」といいますよね。
経済の先行きに不安を感じると、日本円を持とうとする投資家が多いのです。
経済の先行きに不安を感じた投資家が日本円を持とうとする理由は次のとおりです。
- 日本が平和なので、戦争に巻き込まれるリスクが少なく、通貨も安定している。
- 日本では、政権交代が起こっても金融緩和政策は一貫している。
円を持とうとする投資家が多くて円高圧力が強いため、マイナス金利政策のインパクトが為替相場や株式市場には十分に届きませんでした。
銀行の資金が投資に回れば株高になる!
円安株高を狙ったマイナス金利政策が不発に終わったように見える現在ですが、投資のチャンスはあります。
銀行が、行き場のないお金の投資先を探し始めたら、株高傾向になり、J-REIT(不動産投資信託)も人気が出てくると考えられるからです。
銀行が投資に乗り出す!巨額資金で何を買うのか?
マイナス金利の状況では、銀行は、日銀にお金を預けっぱなしだと損をします。かといって、お金を貸したい企業はもうありません。でも、何かで利益を得ないと、どんどん経営は苦しくなります。
銀行は個人向けの住宅ローンに力を入れると同時に、金融商品(株や債券、投資信託など)に投資をするはずです。具体的には、利回りが高いこれらの商品が候補です。
- 外国債券
- J-REIT(不動産投資信託)
外国債券が買われると、外貨の需要が高まります。円を売って外貨を買いますから、円安圧力が高まることになります。
大きな資金が動けば、円安株高につながる可能性も十分あります。
J-REITは株と同じように株式市場に上場されていますから、大きな資金がJ-REITを買いにくれば、価格が上昇します。
中長期の投資をしているファンドのマネージャーも、利益を得るためには、よりリスクと利回りが高い金融商品に投資せざるを得ません。
じわじわとマイナス金利の影響が効いてきて、株高の流れになることが予想されます。
どの株を狙うべきか?不動産株や消費者金融株は敢えて避ける
徐々に株高になると予想されますが、今株価が下がっている株を手当たり次第に買えばOKというものではありません。そこは、過去の教訓に学ぶことが大切です。
今回のマイナス金利は金融緩和のためのひとつの方策です。過去の金融緩和策発表時に株価が上がった株を知っておけば、今買うべき株が絞り込めるはずです。
金利に敏感な銘柄は急騰の後に急落していた
まず、注目している人も多い不動産株はどうでしょうか。マイナス金利で住宅ローンの金利が安くなれば、住宅が売れやすくなりますし、設備投資にかかる資金の調達コストが下がるので、有望ではないかと思うでしょう。
しかし、三井不動産の過去の金融緩和時の値動きを見ると、金融緩和発表直後(2014年10月末)に急騰した後、2~3ヶ月後には発表前のレベルにまで株価は下落しています。
<三井不動産の値動き>
「ノンバンク」と言われる消費者金融なども、不動産同様に金利の上下に敏感な銘柄(金利敏感株)です。金利が低くなると、利用者に貸し付けるお金の調達コストが減るため、業績が改善するからです。
しかしノンバンクのアイフルも、金融緩和発表直後は値上がりしたものの、その後は株価を下げてしまいました。
金融緩和発表後に急騰したものの、その他のプラス材料がない銘柄は、「買われすぎている」と判断されます。そのため、イベント的な投資が一段落した後は、株価が下がります。
金融緩和発表時に、不動産やノンバンクなどの金利敏感株を買う場合、「株価の上がり始めで即座に買い、すぐに売った」人だけが儲けることができるのです。
狙うべきは金融緩和策に振り回されない業績好調株!
金利敏感株や円安でメリットを受ける株でなくても、そもそもの業績が好調の企業は、金融緩和後も株価が順調に伸び続けます。
2014年10月当時なら、日本M&Aセンターやキャリアリンクが挙げられます。キャリアリンクの2014年10月末以降の値動きを見てください。
マイナス金利発表時に株価が大きな影響を受けず、上昇トレンドに載っている銘柄は「買い」です。
<キャリアリンクの値動き>
マイナス金利に便乗したイベント的な投資でなくても、通常通りに業績好調株を探して投資する戦略で、十分利益は出ることがわかります。
成長が期待できる銘柄の見つけ方のコツは「株価が上がる成長株を見つける!割安株・成長株投資に使える指標」で解説しています。
敢えて銀行株を買う!上昇トレンドへの転換点で安値買い
銀行の株はどうでしょうか。マイナス金利で銀行の経営が圧迫されるという予想から、マイナス金利導入発表後、銀行株は軒並み株価を下げています。
しかし、銀行株についてそこまで悲観する必要はないはずです。それには、次のような理由があります。
- マイナス金利がつく当座預金は一部なので、経営に深刻な打撃を与えるほどではない
- 銀行株は配当利回りがいい銘柄が多く、株式市場が回復してくれば人気が集まる
銀行株は2015年後半から下落トレンドに入っている銘柄が多いので、下落トレンドから上昇トレンドに転じたところで、安値で買うのがおすすめです。
下落トレンドから上昇トレンドへの転換点の見分けるには、特にボリンジャーバンドというテクニカル分析がおすすめです。他にもおすすめの分析方法を紹介していますので、ぜひ「相場の流れが読める!株価チャートの見方をマスターしよう」もチェックしてみてください。
銘柄<証券コード> | 100株あたり配当額 | 100株購入必要額 |
---|---|---|
三井住友FG<8316> | 15,000円 | 318,300円 |
みずほFG<8411> | 750円 | 17,090円 |
※2016年2月16日終値
マイナス金利で長期的には株高に!今こそ投資すべき
狙うべき株はマイナス金利で急騰・急落する株ではなく、業績が好調で上昇トレンドにのっている株です。通常通り、業績好調株を探して投資する戦略で、十分利益は出ます。
株価を下げている銀行株は、上昇トレンドへの転換を見極めて、安値でお買い得に買いましょう。高配当銀行株なら、定期預金金利よりも利回りを稼げるのでおすすめです。
しばらく混乱が続きそうな金融市場ですが、「怖いから投資するのはやめておこう」と考える必要はありません。
マイナス金利に振り回されずに株価を着実に上げている株もあるのです。普段通りの銘柄研究と売買ポイントの見極めで、平常心で臨みましょう。