株価が上がった、下がったとよく言います。経済ニュースや景気が株価に影響することは誰でも知っていると思いますが、実際に株価が決まる仕組みは知っていますか。
株価は「直前の売買取引が成立した値段」のことです。そして、株式市場で売買が成立する仕組みには、ザラバ方式と板寄せ方式のふたつがあり、状況に応じてどちらの方式が使われるかが決まっています。
売買が成立する仕組みをしらないと「注文を出しているのになんで株が買えないの!?」と焦ることになります。株式投資を始めるなら、どんな仕組みで売買が成立し、株価が決まり、値動きしていくのか、知っておきましょう。
株式市場での取引方法の大原則は「競争売買の原則」
株は「競争売買の原則」にのっとって取引され、その結果、株価が決まります。競争売買の原則は、次のふたつの原則から成り立っています。
- 価格優先の原則
- 時間優先の原則
それぞれについて詳しくご説明します。
いたってシンプル!早い者勝ちの時間優先の原則
時間優先の原則は、同じ値段の注文については、先に出された注文を優先するというルールです。
つまりは早い者勝ちのことです。わかりやすい原則ですね。
上の図だと、「500円で買いたい(売りたい)」という人の列があります。しかし、後ろの方に並んでいると、自分の順番が回ってくるまで時間がかかってしまいます。
値段にこだわらない成行注文が最強!価格優先の原則
価格優先の原則とは、こんなルールです。
- 売りについては最も値段の低い注文が優先
- 買いについては最も値段の高い注文が優先
- 指値注文より成行注文が優先
500円で売りたい人と501円で売りたい人がいたときには、500円で売りたい人の取引が優先されます。買い注文だとその反対で、高くても買うという人のほうが優先されます。
指値注文というのは、「500円で○株売りたい(買いたい)」と価格を指定した注文のことです。一方、成行注文では株数だけを指定して、価格は指定しません。
成行注文は「いくらでもいいから買いたい(売りたい)」という注文ですから、すぐ売買が成立します。
指値の場合は、希望の価格になるまで取引が成立しないので、取引成立(約定)まで時間がかかることがあります。
注文があるたびに株価が決まるザラバ寄せ方式
具体的にはこのように売買が成立し、株価が値動きしていきます。
(2)最も安い501円の売り注文と条件が合致し、501円で約定します。株価は501円になります。
(3)498円で1000株売りたいという注文がありました。この場合は、まず一番高い買い注文(500円600株)の買い注文と約定します。残った400株は499円の買い注文と約定し、株価は499円となります。
買い注文・売り注文が出る都度に取引が成立していくこの方式を、ザラバ方式(ザラバ寄せ方式)とかオークション方式と呼んでいます。
ザラバ(ザラ場)というのは、その日の最初の取引から、最終の取引までの間のことです。
注文が交錯している状態で登場する板寄せ方式
ザラバ方式の他に、もうひとつ、板寄せ方式という売買成立方式があります。板寄せ方式は、寄付、前引け、後場寄り、大引けで使われます。
- 寄付(よりつき):証券取引所が開いてその日の最初の売買
- 前引け(ぜんびけ):前場の最後の売買
- 後場寄り(ごばより):後場の最初の売買
- 大引け(おおびけ):後場(その日)の最後の売買
前場(ぜんば)は午前中の取引のことで、昼休憩をはさんで午後の取引のことを後場(ごば)と呼びます。
例えば証券取引所での売買開始は午前9時からですが、それ以前の時間にも注文は受け付けています。そのため、売買開始までに売り注文と買い注文がバラバラに存在することになります。
いろんな値段の注文が混在している状態から売買を成立させる場合に、板寄せ方式を使います。
始値で仕組みを説明!板寄せ方式での株価の決まり方
板寄せ方式で値段が決まるまでの過程を追ってみましょう。まず、板寄せ方式ではこの3つの条件をすべて満たす値段で売買が成立します。
- 成行の売りと買いの注文すべてが約定する
- 約定値段より高い買いと、低い売りがすべて約定する
- その約定値段の売り注文または買い注文のいずれか一方すべてが約定する
最初の売買が行われる前の状態が以下のとおりだとします。まずは、売りと買い、それぞれの注文の累計数量が逆転する値段を探します。買いは高い方から、売りは安いほうから順に足し算します。
この場合、累計数量が逆転する値段は501円と500円です。
2つ目の条件が「約定値段より高い買いと、低い売りがすべて約定する」ことですから、このどちらかの値段で始値(はじめね、寄付)が決定するはずです。
まずは最初の条件を満たすために、買いと売りの成行注文を約定します。結果、買いの成行注文はすべて約定し、売り成行注文の200株が残ります。
次に、価格優先の法則に従って、
- 売り注文(残っている売りの成行注文200株含む)を値段が低い方から
- 買い注文を値段が高い方から
約定させていきます。
ここで約定するのは、これらの注文です。
- 売り:成行注文200株、498円400株、499円200株(計800株)
- 買い:502円100株、501円700株(計800株)
次に、500円の売り注文400株と、500円の買い注文1,000株が約定します。売り注文400株すべてが約定しますから、2つ目と3つ目の条件を満たし、始値が500円となります。
特別気配が表示された時の株価の決まり方
板寄せ方式は、「特別気配(とくべつけはい)」が表示された時にも使われます。
例えば売り注文が殺到して急に大幅に株価が下がると、不安になって慌てて売ってしまう人もいるでしょう。多くの投資家が我も我もと売りはじめたら、株価が不安定になって株式市場が混乱する可能性があります。そのため、株価が一気に上がったり下がったりするのを防ぐために、特別気配を表示して板寄せ方式を使います。
では、特別気配と、特別気配のときの株価の決まり方について説明します。
気配の更新値幅を超えると表示される特別気配
株価は、あらかじめ値動きの範囲の上限と下限が決まっています。
これを「気配の更新値幅」といいい、直前の株価によって決められています。更新値幅の範囲内なら、即時に約定できます。
直近の株価が5000円までの場合、このように決まっています。
この更新値幅の範囲を超えて株価が値動きする場合、特別気配が表示されます。
直近の株価 | 気配の更新値幅 |
---|---|
200円未満 | 5円 |
200円以上500円未満 | 8円 |
500円以上700円未満 | 10円 |
700円以上1000円未満 | 15円 |
1000円以上1500円未満 | 30円 |
1500円以上2000円未満 | 40円 |
2000円以上3000円未満 | 50円 |
3000円以上5000円未満 | 70円 |
特別気配が表示されていると成行注文でも約定しない
特別気配が出ると、「特」「ト」「S(英語:Special quoteの略)」などという印が各証券会社の板情報で気配値※の横に表示されます。
- 高い値段で売買が成立する状態(買いが優勢)なら、買い側の板情報に「特」「ト」「S」
- 安い値段で売買が成立する状態(売りが優勢)なら、売り側の板情報に「特」「ト」「S」
こんな場合を考えてみましょう。直前の約定値段が500円なので、490~510円までしか値動きできない決まりです。そして、540円以上のところにしか売り注文がない状態です。
ここで、成行での買い注文が3000株ありました。成行注文は「いくらでもいいから買いたい」という注文ですから、ザラバ方式なら、540円以上のところにある売り注文とすぐ約定するはずです。
けれど、値動きの上限は510円です。540円は値動きできる範囲を超えているため、即座には約定しません。株価が急激に上がるのを防いでいるのです。
この場合、上限である510円の買い側に特別気配が表示されます。これを買いの特別気配といいます。証券取引所は、特別気配を表示することで、投資家たちに「値動きの上限の510円よりも高い買い注文があります。対応する売り注文を出しませんか」とアピールします。
特別気配が出て板寄せ方式となっているので、3000株未満の売り注文が出ても売買は成立しません(成り行き注文がすべて約定するなどの条件を満たさないため)。
呼びかけても売り注文がなく売買が成立しない場合には、3分間隔で特別気配の値段を更新して、徐々に売買が成立する値段に近づけていきます。更新するのは、気配の更新値幅分なので、この場合は10円ずつです。
このように、特別気配が出ているときは注文がすぐには約定しません。
「100株の成行注文を出したのに約定しない!」と慌てないようにしましょう。
売り手・買い手が売りたい・買いたいと希望する指値のこと。買い気配値は買い注文で一番高い値段、売り気配値は売り注文で一番安い値段です。
株価に大きく影響するニュースを知っておこう
特別気配になりやすいのは、売買のどちらかに投資家が殺到するような情報が流れた場合です。株価に影響しやすいニュースには、こんなものがあります。
ネガティブ(売りが増える) | ポジティブ(買いが増える) |
---|---|
・不祥事が発覚した ・重大な事故が起こった ・業績が悪化した ・決算が投資家の予想より悪かった |
・他企業との連携が決定した ・研究開発に成功した ・決算が投資家の予想より良かった ・自社株買い |
他にも、株式市場全体に影響を与えるニュースとして、こんなものがあります。
- 日本銀行による政策金利の上げ下げ(金利が下がると企業がお金を借りやすくなる)
- 原油価格の変動(原油価格が高くなると、輸入企業は原料コストがかさむ)
- 災害(復興を担う企業は株価上昇、被害にあった企業は株価下落)
- 為替相場の値動き(円安なら原材料を海外から輸入している業種はコスト増など)
- 海外の株式市場の状況(中国発世界同時株安など)
一日の制限値幅を超えるとストップ高・ストップ安
大きなニュースが出た時には特別気配にとどまらず「ストップ高・ストップ安」となることもあります。
直近の株価に対して、気配の更新値幅を超えるときには特別気配となりました。同じように、1日の中で株価が上下する幅も決まっています。これを制限値幅といいます。
制限値幅は前日の終値や最終気配(翌日の売買の基準になる値段)などに応じて決まっていて、上限まで株価が上昇した気にはストップ高、下限まで下落した時にはストップ安といいます。
前日の終値など | 制限値幅 |
---|---|
100円未満 | 30円 |
100円以上200円未満 | 50円 |
200円以上500円未満 | 80円 |
500円以上700円未満 | 100円 |
700円以上1000円未満 | 150円 |
1000円以上1500円未満 | 300円 |
1500円以上2000円未満 | 400円 |
2000円以上3000円未満 | 500円 |
3000円以上5000円未満 | 700円 |
ストップ高とストップ安については「ストップ高・ストップ安と前日の終値で決まる値幅制限の関係とは」で解説しています。
株価の決まり方の仕組みを理解して注文を出す
ザラバ方式は、寄付から引けまでの間に使われます。一方の板寄せ方式は、寄付、引け、特別気配が表示された時に使われる方式ですね。
板寄せ方式の場合、成行注文を出してもすぐには約定しません。
さらに、株価の大幅な値動きと市場の混乱を防ぐために、特別気配やストップ高・ストップ安といった仕組みがとられています。そのため、気配の更新値幅を超える注文を出しても即座に約定することはありませんし、制限値幅を超える注文を出してもその日のうちには約定しません。
「成り行き注文なのになんで約定しないの!?」と慌てないためにも、売買方式と株価が決まる仕組みを理解して、取引にのぞんでください。