普通の株取引は東京証券取引所などの証券取引所を通じて行われます。しかし取引所を経由しない裏取引もあります。
それがダークプール。日本語では見えない流動性と訳され、その名の通り取引状況が確認できないという特徴があるのです。
今までは機関投資家しかダークプールを利用できませんでしたが、SBI証券や松井証券が個人投資家向けにも相次いでサービスを提供開始しました。
この記事ではダークプールの仕組み、メリット、問題点などをわかりやすく解説します。
ダークプールの仕組み!市場外取引と匿名性が特徴
ダークプールとは証券会社が個人投資家と機関投資家の注文をマッチングさせる取引所外取引です。マッチングとは個人投資家の買い注文に対し、機関投資家が売り注文を出すといった具合です。マッチングが成立した場合、注文は立会外市場(ToSNeT)で執行されます。
通常の株取引では個人投資家が証券会社に注文を出し、約定は東京証券取引所(東証)など立会市場で行われます。
ダークプールの場合は次のような手順で取引が進みます。
- 個人投資家が注文を出す
- 投資家にとって有利な条件※があれば、取引システムが注文をマッチングさせる
- マッチングした取引はTosNeTで決済
- マッチングしなかった場合は、通常の取引所かPTSで決済される
ダークプールでは立会市場よりも有利な価格で取引が成立する場合、ToSNeTでの取引が優先されるのです。
ToSNeTでの取引は匿名性や秘匿性があります。注文価格や数量が他の参加者に見えない仕組みとなっています。自らの注文が株価に与える影響を少なくできるため、大口の注文をするヘッジファンドや機関投資家の間でダークプールは採用されてきました。
例えば流動性の低い銘柄に対し大量の注文を一度に出すと、ほかの投資家の行動に影響を及ぼす可能性があります。
ダークプールの場合、板に注文状況が反映されません。ダークプールの「ダーク」はこういった秘匿性や匿名性を意味しているのです。
現在ではSBI証券や松井証券がサービスを提供しており、個人投資家でもダークプール取引を行うことができます。
ダークプールとPTSの違いは匿名性の有無
またダークプールと同じく、東京証券取引所などを通さない取引(取引所外取引)としてPTS(Proprietary Trading System、私設取引システム)があります。
ダークプールとPTSの違いは「注文がほかの投資家に見えるかどうか」です。
PTSは個人投資家向けの取引所取引なので市場がオープンになっています。そのため株価に大きな影響を与えやすい機関投資家はダークプールを好んで利用してきました。
PTSについては「9~15時までしか株は買えないの?株の取引時間と夜間取引」で解説しています。
ダークプールのメリットは最適価格での売買と手数料の安さ
個人投資家がダークプール取引を行うメリットは主に2つです。
ダークプールは通常より有利な価格で取引可能
ダークプール取引はSOR注文※による取引が対象となります。
Smart-Order Routingの略称。東証やPTSなど複数の市場から最適な気配値や株式数を検索し、自動的に売買してくれます。
その後ToSNeTで買いきれなかった分の注文を東証やPTSで約定していきます。
株価 | 株式数 | 残り注文数 | |
---|---|---|---|
顧客の買い注文 | 100円 | 10000 | 10000 |
ToSNeT(立会外市場) | 99円 | 1000 | 9000 |
東京証券取引所 | 100円 | 5000 | 4000 |
PTS | 102円 | 4000 | 0 |
東京証券取引所だけに買い注文を出していた場合、最も安い価格は100円ですが、SOR注文を使うことで、99円で取引することができました。
また取引の呼び値(刻み値)を0.1円単位で設定している証券会社もあります。
通常は1円単位での取引なので、ダークプールを使えばより有利な価格で約定しやすくなっているのです。
ダークプールは売買手数料が安い
ダークプール取引の場合、証券会社によっては取引手数料が通常よりお得です。
例えばSBI証券の手数料(税抜)は次のようになっています。
1注文の約定代金 | 取引所取引手数料 (スタンダードプラン) |
PTS取引手数料 (スタンダードプランの約5%引き) |
SBBO-X取引手数料 (スタンダードプランの約10%引き) |
---|---|---|---|
~5万円 | 50円 | 47円 | 44円 |
~10万円 | 90円 | 86円 | 81円 |
~20万円 | 105円 | 100円 | 95円 |
~50万円 | 250円 | 238円 | 226円 |
~100万円 | 487円 | 462円 | 438円 |
~150万円 | 582円 | 553円 | 525円 |
~3,000万円 | 921円 | 876円 | 832円 |
3,000万円超 | 973円 | 924円 | 877円 |
ダークプール取引ができる証券会社一覧
ダークプール取引はすべての証券会社で可能な訳ではありません。
次の表は各証券会社のSOR注文、ダークプール取引の対応状況です。
証券会社 | SOR注文 | ダークプール |
---|---|---|
SBI証券 | ○ | ○ |
松井証券 | ○ | ○ |
auカブコム証券 | ○ | ○ |
スマートプラス(SMART+) | ○ | ○ |
楽天証券 | ○ | × |
マネックス証券 | × | × |
2019年1月現在、SOR注文とダークプール取引が可能なのは「SBI証券」「松井証券」「auカブコム証券」です。楽天証券の場合、SOR注文はできますが、ダークプール取引はできないので注意してください。
ダークプールの問題点は取引条件の厳しさと成功報酬
ダークプールには有利な価格で売買できる、取引手数料が安いといったメリットがありますが、デメリットもあります。
次の表は各証券会社でダークプール(SOR注文)を行うための条件です。
証券会社(サービス名) | 取引条件 |
---|---|
SBI証券(SBBO-X) | ・月末時点の預かり資産が1,000万円以上 または月末時点の預かり資産が500万円以上で月末を含む月内に現物株式の取引が1回以上ある |
松井証券(ベストマッチ) | ・信用取引口座を開設済み ・立会外クロス取引受付基準※を満たしている |
auカブコム証券(SOR注文) | ・株式の現物、信用、先物・オプション・外国為替証拠金取引いずれかの取引経験が1年以上 ・「SOR取引・MSプール取引及びPTS取引約款」及び「SOR取引・MSプール取引及びPTS取引説明書」の内容を理解し同意する ・オンライン・トレード取扱規定の利用条件を遵守する ・20歳以上でかつ口座を保有している |
多くの証券会社で一定以上の金融資産か1年以上の投資経験が必要となります。
初心者には敷居が高いので、ダークプールでの取引は十分に経験を積んでから行いましょう。
成功報酬がかかる場合もある
さらに証券会社によっては「成功報酬」が必要となります。
成功報酬とは注文がマッチングし、お得に取引できた場合に追加でかかる手数料のこと。
ダークプールは市場を通さない取引!初心者は経験を積んでから
ただしダークプールの取引が必ずしもお得な訳ではありません。
前提条件としてSBI証券など多くの証券会社はダークプールの利用条件を厳しめに設定しています。売買手数料は安くなっていますが、証券会社によっては成功報酬が必要となる場合もあります。
信用取引と同様、ダークプール取引も初心者には少々敷居が高いので、ある程度株取引に慣れてから行うようにしましょう。
