遺産相続において「相続税がいくらかかるか心配」という人も多いと思います。
相続税は相続人(遺産を引き継ぐ人)が納めるもの。相続財産の総額が大きいほど、相続税の負担が大きくなってしまうので不安ですよね。
しかし「相続税対策」をすれば、相続税を節税することができますよ。
相続税対策の方法はいくつかありますが、当記事ではそのなかの1つ「生前贈与」について解説します。
「生前贈与」とは相続する側である「被相続人」が、生きているうちに相続人に財産を贈与すること。非課税枠を利用して生前贈与を行い、相続財産を減らしておけば、相続税の節税が可能です。
しかし生前贈与は時期や方法を間違えると、多額の贈与税がかかる恐れもあります。
「相続税対策をしたつもりが、支払う税金が高くなってしまった・・・。」なんてことにならないよう、しっかり生前贈与の内容を確認していきましょう。
生前贈与で相続税対策その1、連年贈与
「連年贈与」とは、財産を数年に分けて贈与する方法。年間110万円の基礎控除をうまく利用すれば、節税効果が期待できます。
連年贈与を行う際の注意点は、次の4つです。
- 1年の贈与額は「基礎控除の範囲内(年間110万円)」におさめる
- 相続開始前3年以内の連年贈与は「贈与」ではなく「相続」になる
- 贈与した証拠を残さないと「贈与した側の財産」と見なされない
- 「連年贈与」と見なされると贈与税がかかる恐れがある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1、「基礎控除の範囲内(年間110万円)」には贈与税がかからない
連年贈与をする際、年ごとに贈与する財産のうち「基礎控除の範囲内(年間110万円)」には贈与税がかかりません。
ただし贈与額が110万円を超えないと贈与の証拠が残らないため、税務調査で相続税の追微課税をされる恐れもあります。
生前贈与の証拠を残す方法は、後ほど「3、生前贈与の証拠は必ず残そう!【銀行振込や贈与契約書】」の項目で説明します。
2、相続開始前3年以内の連年贈与は「相続税」が必要
贈与者の死亡前3年以内(相続開始前3年以内)の贈与は、金額にかかわらず相続税の課税対象です。
被相続人が高齢な場合など、相続税対策としての効果があまりないケースもあります。
3、生前贈与の証拠は必ず残そう!【銀行振込や贈与契約書】
連年贈与をする際「生前贈与の証拠」を残しておかないと、多額の税金が課されることになるので注意が必要です。
次のような方法で、贈与したことを証明できるようにしておきましょう。
- 現金手渡しではなく「銀行振込」で贈与する
- 贈与契約書を作る
- 振込口座の通帳・印鑑は受贈者が管理する
- 贈与額が110万円を超えたら必ず贈与税の申告・納税をする
現金手渡しでの贈与は証拠が残らないので、連年贈与は銀行振込で行いましょう。
贈与契約書には「誰が誰に」「いつ」「何を(金額)」「どのような条件で」「どのように渡すのか」「契約日はいつか」など、必要事項をしっかり明記しましょう。
銀行によっては契約書の見本をもらえる場合もあります。専門家に相談して作成するのもオススメです。
また110万円超の金額を支払い贈与税の申告・納税を行うのも、贈与の証拠を残す1つの手です。
4、「連年贈与」と見なされると贈与税が課税されるので注意!
年ごとの贈与を基礎控除の範囲内におさめても、税務署に「贈与する予定の金額を、あえて1年ごとに分けた(連年贈与した)」と見なされると、贈与税がかかります。
「連年贈与した」と見なされるのは、次のような場合です。
- 贈与する側・される側で、贈与される期間や合計金額について合意されている
- 贈与期間や贈与する財産の総額が、贈与契約書に明記されている
このような場合は「一括贈与」と同様の扱いになり、贈与税がかかります。
連年贈与で贈与税がかかるのを防ぐ対策は、次のとおりです。
- 贈与1回ごとに贈与契約書を作成する
- 贈与する時期を、毎年同じにしない
- 贈与する金額を、毎年同額にしない
- 「贈与しない年」を決める
連年で行った贈与が「一括贈与である」と見なされることのないよう、贈与契約書は贈与1回ごとに作成しましょう。
毎年同じ時期に同じ金額を贈与を続けていると「計画的に贈与している」と見なされ贈与税がかかります。
連年贈与をする前に「各年のいつ頃に贈与するか」「各年にどれだけの金額を贈与するか」を決めておきましょう。
さらに贈与しない年を間に挟むことで「連年贈与である」と見なされる可能性は低くなります。
生前贈与で相続税対策その2、孫への生前贈与
生前贈与は自分の子どもに対してだけではなく、孫にすることも可能。相続税対策にもなるのでオススメです。
子を飛び越して孫に財産を引き継ぐ場合、正式には「相続」ではなく「遺贈」といいます。
「遺贈」は相続税額2割加算の対象なので、納める税金の額が増えてしまうんです。
そのため相続税を減らしたいなら、生前贈与のほうが有効といえます。
生前贈与で相続税対策その3、配偶者への居住用財産贈与
次に紹介する生前贈与の方法は、配偶者への居住用財産(マイホーム)贈与です。
婚姻期間20年以上の夫婦なら、マイホームやその購入資金の贈与にかかる税金を「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除※」で減らすことができます。
配偶者に対して「居住用不動産」または「居住用不動産を取得するためのお金」を贈与した場合、控除を受けられる特例のことです。
この配偶者控除は、次の条件を満たした場合に適用されます。
- 婚姻期間20年以上
- 贈与されるのは「居住用不動産」または「居住用不動産取得のための金銭」であること
- 贈与の翌年3月15日までに入居を開始し、入居後も引き続き居住する見込みがあること
- 同じ配偶者との間で、同じ特例を受けていないこと
- 贈与税の申告書などを申告期限までに提出すること
控除の対象となる条件は次の2つです。次の表で確認してください。
控除 | 条件 |
---|---|
基礎控除 | 贈与110万円まで |
贈与税の配偶者控除※ | 贈与2000万円まで |
ただし贈与税の控除は受けられても、贈与に伴う所有権の移転登記に必要な不動産取得税や登録免許税などは別途必要です。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 司法書士への報酬(依頼する場合のみ)
費用は人によって異なるので、贈与前に確認しておきましょう。
生前贈与で相続税対策その4、子や孫への住宅取得資金贈与
子や孫に住宅取得等資金(自宅の新築や増改築などに充てるお金)を生前贈与することでも、相続税対策は可能。
「住宅取得等資金の贈与税の非課税」の特例※を利用すれば、納める税金を減らすことができます。
2015年1月1日~2021年12月31日のあいだに直系尊属(父母や祖父母など)から住宅取得等資金を贈与された場合、条件を満たすことで所定の金額まで非課税となる制度のことです。
「住宅取得等資金の贈与の特例」が適用されるためには、受贈者(生前贈与を受ける人)と住宅、それぞれが次の条件を満たす必要があります。
対象 | 条件 |
---|---|
受贈者 | ・贈与が行われる年の1月1日時点で、満20歳以上である ・贈与の時点で贈与者の直系卑属である ・贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下である ・日本国内に住所がある ・贈与を受けた翌年3月15日までに、住宅を新築、取得または増改築している ・居住している(または、その後すぐの居住が確実である) |
住宅 | ・受贈者の居住用である ・登記簿上の床面積が50㎡以上240㎡以下であり、その2分の1以上が居住用である ・中古住宅の場合、築20年以内である※ ・増改築の場合、工事費用100万円以上かつ自己の居住用である |
この条件を満たすと、次の非課税限度枠を利用できます。消費税が8%と10%、それぞれの場合に設けられる非課税枠は次のとおりです。
契約締結期間 | 一般の住宅用家屋 | 良質な住宅用家屋※ |
---|---|---|
2016年1月 ~2020年3月 | 700万円 | 1,200万円 |
2020年4月 ~2021年3月 | 500万円 | 1,000万円 |
2021年4月 ~2021年12月 | 300万円 | 800万円 |
契約締結期間 | 一般の住宅用家屋 | 良質な住宅用家屋※ |
---|---|---|
2016年1月 ~2020年3月 | 2,500万円 | 3,000万円 |
2020年4月 ~2021年3月 | 1,000万円 | 1,500万円 |
2021年4月 ~2021年12月 | 700万円 | 1,200万円 |
しかもこの特例、「相続時精算課税制度※」の特別控除額(2,500万円まで非課税)と併用することも可能です。
贈与の際の納税金額を少なくし、贈与者(被相続人)が亡くなった際の相続時に税金を計算し直す制度のこと。
相続時精算課税制度は、暦年贈与よりも控除額が大きくなるので、節税効果が高まります。
ただし一度この制度を一度選択すると同じ贈与者からの暦年課税制度は利用できないので注意してください。
生前贈与で相続税対策その5、子や孫への教育資金贈与
2019年3月31日までに子や孫の教育資金を一括贈与した場合、一定の金額が非課税になります。
これは平成25年度に行われた税制改正の際、「教育資金一括贈与の非課税特例」が設けられたことで可能になりました。非課税枠は次のとおりです。
- 子・孫1人につき1,500万円まで
- 学校以外の費用は500万円まで
「教育資金」と見なされるのは、次のようなものです。
入学金・授業料・給食費・施設設備費・学用品購入費・修学旅行費・入学試験等の検定料
<その他>
通学定期代・塾や家庭教師の授業料(施設使用料)・習い事の対価・留学渡航費
さらにこの特例には、次のような適用条件があります。
- 父母または祖父母、曾祖父母からの贈与であること
- 受贈者は30歳未満の子・孫であること
- 贈与専用の口座を開設し、金融機関経由で、税務署に「教育資金非課税申告書」を提出すること
- 教育資金の領収書を金融機関(銀行など)に提出すること
「教育資金一括贈与の非課税特例」は、次のような場合に終了します。
- 受贈した子・孫が30歳になった場合
- 受贈者が死亡した場合
- 口座残高が0になり契約終了の合意があった場合
そして特例終了時、専用口座に残った教育資金には贈与税がかかってしまいます。
教育資金として受贈者が30歳になるまでに使い切ることがポイント。受贈者の進学プランに合った金額を、非課税枠の範囲内で贈与しましょう。
生前贈与で相続税対策その6、子や孫への結婚・子育て資金贈与
最後に紹介する生前贈与の方法は、子や孫への結婚資金・子育て資金贈与。
2019年3月31日まで、20歳以上50歳未満の子・孫に結婚資金・子育て資金を贈与した場合、一定の金額まで非課税です。
具体的な非課税枠は、次のとおりです。
- 結婚資金の贈与は300万円まで
- 子育て資金の贈与は300万円まで
「結婚資金」と「子育て資金」それぞれに当てはまるのは、次のような資金です。
具体例 | |
---|---|
結婚資金 | ・婚礼費用※ ・新居費用 ・転居費用 |
子育て資金 | ・不妊治療に必要な費用 ・妊婦健診に必要な費用 ・出産費用 ・産後ケアに必要な費用 ・子の医療費 ・幼稚園や保育園などの保育料 ・ベビーシッター代 |
「結婚・子育て資金の一括贈与の贈与税非課税措置」の適用条件は、次のとおりです。
- 父母または祖父母(曾祖父母)からの一括贈与であること
- 受贈者が「結婚・子育て資金非課税申告書」を金融機関経由で税務署長に提出すること
- 結婚・子育て資金の領収書などを金融機関に提出すること
非課税枠の適用は、次のような場合に終了します。こちらも合わせて確認しておきましょう。
- 受贈者が50歳になった場合
- 受贈者が死亡した場合
- 口座の残高がゼロになり、この口座に係る契約を終了させる合意があった場合
生前贈与は相続税対策にオススメ!でも思わぬ課税に注意
しかし生前贈与を行う期間・非課税制度(特例)の適用条件をしっかり確認して行わないと、相続税や贈与税がかかります。
また教育資金や結婚資金・子育て資金を子や孫へ生前贈与する場合、一定額に非課税枠が設けられるのは2019年3月31日まで。適用終了後は残高に贈与税がかかる場合もあるので注意しましょう。
当サイトでは他にも、相続税対策に有効な方法を紹介しています。詳しくは「★内部リンク予定」の記事を読んでみてください。