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2021年02月22日 18:00 更新

家事育児の分担は「原因と結果」が決まっていればいい 田中夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール

世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、今回の企画はスタートした。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていく。第4回目は、2児のパパとママである田中夫妻のお話。

今回、話を聞いた田中さんは、東京で4歳と1歳の兄妹を育児中の共働き夫妻。第一子出産の翌年から第二子出産の翌年まで、浩二さんの転勤で石川県への一家移住も経験している。取材したのは日曜で、夫妻ともに膝に子どもたちをのせ、「そうですね……ちょっと、静かにして!」と、会話中に動き回る子どもたちへの叱責が入り混じる状態。

そう、この年代の2人育児では、夫妻が家事や育児についてじっくり話し合う余裕なんて一切ないのだ。そんな共働き家庭のリアルを感じながら、夫妻ならではの7ルールを聞いてみた。

【左】田中浩二さん(仮名/39歳/食品メーカー経理) 【右】田中真理恵さん(仮名/33歳/出版営業)

7ルール-1 子どもを怒るときは、なぜ怒られているのかを伝える

2人目育児がどんなに忙しくても、親として最低限、死守しなければいけないのが「子どもの安全」。夫妻が最初に挙げたルールも、特に安全にまつわることだ。危ないときは、夫妻どちらでも、気づいたほうがすぐに注意する。そのとき、ただ怒るだけでなく、なぜ怒られているのかをしっかりと伝えているという。

「椅子の上に立ってしまう息子には、『椅子に立って、背もたれに体重をかけると、椅子がこういう風に倒れるから危ないよ』と、やって見せながら順を追って説明しています。コーヒーのミルに手を入れたらなぜ危ないのかということも、構造を説明しながら注意すると、子どもながらに理解してくれるようです」(真理恵さん)

田中夫妻は、子どもにわかりやすいように、「しっぺ」や「デコピン」を物差しとして使うユニークな考え方をしていた。

兄妹ゲンカには、危険がない限りあまり介入しない。ただし、どちらがどのくらい悪いことをしたのか自分で判断できるように、「今やったことは、しっぺ何回分悪いと思う?」と子どもに聞いている。

「実際にしっぺをするかどうかはともかく、判断基準を設けて子どもに考えさせるのが狙いです。4歳の息子は、涙をこらえながら『……3回分悪いと思う』と自分で認められるようになってきました」(浩二さん)

同じく息子を持つ私も、これには「なるほど」と思った。自分が悪いかどうかをイエス、ノーで聞かれたら「悪くない!」と言いたくなる子どもでも、「しっぺ何回分」という単位があれば、冷静になって少しは悪いことを認められるに違いない。本心では、悪いことをしたとわかっているはずだから。

7ルール-2 夫婦ゲンカしたら、おいしいモノを食べて仲直り

2つ目に挙げたのは、結婚当初のラブラブ時代に約束したというこちらのルール。

「ケンカをしたら、夫がケーキを買ってきて、私は夫が好きな料理を作って仲直りしようね、と私から提案して約束しました。私は手が回らなくて料理ではなくお酒だったり、それも用意できなかったりするのですが、夫は毎回、ケーキを買ってきてくれます」(真理恵さん)

「デパ地下でね。せっかくなら、僕もおいしいケーキが食べたいですから(笑)」(浩二さん)

ケンカのあとに、浩二さんが買ってきたというケーキ。「結婚当初の夫婦2人だけのときや、子どもが小さくてケーキを食べられないときでも、夫が4つぐらい買ってきてくれて……。おかげで、太りました(笑)」(真理恵さん)

おいしいモノは正義です。それも、スイーツに叶うものはない。

「ケンカの理由はだいたい、私が『もっと家事や育児を手伝ってよ!』と爆発することです。自分の性格的に抱え込んじゃうタイプで、小出しにできないんですよね。正直、ケーキを食べたからといって解決するわけではないのですが、気持ち的にはスーッと収まります。そうしているうちに、夫も少しずつ分担を増やしてくれていますしね」(真理恵さん)

家事育児と仕事との両立は、誰にとっても大変だ。夫婦どちらもがギリギリの日々を続けている場合、ケンカになったからといって、すぐに解決方法が見つかるわけもない。それでも、夫妻が仲を保っていられるのは、「爆発したときの対処方法」がしっかりと決まっているからだ。

7ルール-3 家事は「こだわりが多いほう」が担当する

では、そもそも分担はどうやって決めているのかと聞くと、「気に入らないことや、こだわりが多いほうがやりますね」と浩二さん。

「たとえば、洗濯は朝と夜の2回しますが、僕が干し方にこだわりがあるので、朝の洗濯物干しは僕が担当。普段飲む麦茶やそば茶も、切れると嫌なので僕が作ります。そのほかに、僕は掃除機をかけるのは数日に1回でいいと思っているんですが、妻は1日に2回掃除機をかけたいタイプなので、妻が掃除担当。ロボット掃除機の設定や予約は、僕がしていますけどね」(浩二さん)

取材後に、田中家で大活躍しているというアイリスオーヤマのロボット掃除機の写真を送ってもらった。「吸引も水ぶきもこれ一台でOKなので、共働き夫婦にぴったり。予約しておけば、毎日決まった時間に掃除してくれます」(浩二さん)

「お風呂や炊飯器は、保育園から家に帰る時間に合わせてタイマーをかけているのですが、私が忘れてしまったときは夫がかけておいてくれます。これはありがたいですね」と言う真理恵さんに、すかさず「僕はご飯を炊くときに昆布を入れたいのですが、妻が入れないから、自分で入れるんですよ。そのときにタイマーがついていないと気がついたら、セットするようにしています」と浩二さん。

こだわりは人それぞれだから、お互いに注意するより、こだわりのあるほうが自分でやる。
「家事は項目ごとに得意なほうがやる」という夫婦も多いが、田中夫妻のようにどちらも苦手ではない場合、これもひとつの方法論として有効ではないだろうか。

7ルール-4 お手伝いを通して学ぶ

田中夫妻は、それぞれが自分の家事育児をこなすとき、子どもも一緒にお手伝いをすることで、学びの機会にしているという。生活を通してさまざまなことが学べるだけでなく、将来の戦力としても期待できるからだ。

ある日の夕飯の支度では、サラダ用のレタスをちぎったり、洗ったりするお手伝い。おぼつかない様子の子どもについ手を出したくなるが、真理恵さんは「熱湯や刃物といった危険がない限り、グッとこらえてます」と苦笑した。

「娘には保育園に着いてから、エプロンをかごに入れるといったお仕度をやってもらうようにしています。息子は料理中に、玉ねぎの皮をむいたりしてもらっていますね。その隣で、『ピーマンって切るとこんな断面になるんだね』と言って見せたり、イカをさばいたときには骨を触らせたり、足を数えさせたりしています。余裕があるときだけですけどね」(真理恵さん)

「僕は昆布締めが好きなので、生魚と昆布を用意して作るのですが、そのときも『塩を振って魚の水分を出しているんだよ、水分があると腐るからね』などと声がけしながら子どもに見せています」(浩二さん)

昆布締めとは本格的……! 親が生活を楽しむことで子どもも学べる、いいルールだ。

7ルール-5 「勉強」と思っていない時期から暗記をさせる

お手伝いで生活や科学を学ぶのもいいが、子どものスポンジのような暗記力も活かしたい。そこで、田中家ではゲームや移動中の『ながら暗記』も取り入れている。

「“勉強=いやなもの”という意識が芽生える前から、遊び感覚でいろいろ覚えられたらいいなと思って、国旗やことわざのカードを使って暗記させています。自転車で保育園の送り迎えをするときには、身の回りにある英単語を親子で言い合っていて、楽しいですよ」(真理恵さん)

実際に使っていることわざカード。「月とスッポン」のカードには折り目が入っていて、使い込まれている感じがした。

浩二さんは、ドライブ中に息子さんに論語の一節を教えることもあるという。

という話をしていたら、そばで聞いていた息子さんから、「こうげんれいしょく、すくなし、じん!」という声が。え、何ですって?

「『巧言令色、鮮(すく)なし仁』、という孔子の言葉です(笑)。口先だけでうまいことを言う人には、本当の思いやりの心が少ないといった意味のようです。別に、僕が論語好きというわけではないですし、息子も意味はわかっていません。それでも、子どもってフレーズでなんでも覚えてしまうから、おもしろいですよね」(浩二さん)

確かに。ポケモンの名前や鬼滅の技を覚えるのと同じように、論語を覚えてしまえば、いつか役立つときがきそうだし、何よりちょっとカッコいい。息子さんが「~すくなし、じん!」と言ったとき、聞いている大人がつい目じりを下げて「えらいね~」と言いたくなる、ヒーローの技に負けないパワーを感じた。

7ルール-6 小さいうちから机に向かう習慣をつける

以前は、忙しくてもできる移動中の会話や遊び、お手伝いを通した学びが中心だったが、コロナ禍で少し変わったことがあったという。

「家で過ごす時間が長くなり、メリハリをつけるために、机に向かう時間を決めるようにしました。上の子は迷路や間違い探し、簡単な幼児向けワークを、下の子は手先が起用になるように、シール張りや殴り書きを自由にさせています。寝るまでの時間を計算するとできない日も多いのですが、今でも余裕があるときは机に向かう習慣をつけています」(真理恵さん)

日本の名所を迷路にしたワークや、息子さんが大好きだという電車で数字が学べるワークを使っていた。

浩二さんの場合は、1から10までの単位ではなく、時計に合わせて12までをひとつの単位として教えたり、サイフォン式でコーヒーを入れるとき「なぜお湯は通るのに、コーヒーの粉は通らないのか」を教えたりするなど、自分がおもしろいと感じた教育法を取り入れているという。

「僕たち夫婦は、特別教育熱心というわけではないんです。ただ、日々の生活のなかで、子どもの脳のシナプスをつなげるためにどうすればいいかを考えるようにしています」(浩二さん)。

7ルール-7 日曜日は家族でドライブをする

最後に、「今はコロナの影響でなかなかできないですが、石川にいたころから週末はドライブに行くのが定番でした」と真理恵さん。

石川県内をはじめ、富山や福井の観光名所に行って自然に触れたり、温泉に入ったり。「運転が好きなのでストレス解消になります」と浩二さんが言えば、「ドライブしていれば家がおもちゃで散らかることもないですし、子どもたちが車で寝てくれるのでラクですね」と真理恵さん。子どもたちにも、いろんな景色を見せたり経験させてあげたりすることができる。

埼玉県にある鉄道博物館に行ったときのひとコマが、真理恵さんのスマホに保存されていた。電車好きな子どもたちは、大興奮していたそう。

育児に仕事にと忙しいとき、週末の過ごし方は共働き夫妻にとって死活問題だと思う。散らかっても家にいたほうが休まる人もいれば、外に出たほうが気分転換になる人もいる。田中さんにとっての日曜のドライブは、夫妻の意見がぴったりと合った、幸運な例だろう。

彼らの7ルールを一言で言うと……?

育児は、子どもの成長に合わせて刻々と状況が変化する。子どもが小さいほど特にそうで、1歳と4歳のお子さんを育児中の田中夫妻が、固定されたルールを決めるほうが不可能というものだ。

田中夫妻の場合も、ケンカの理由は真理恵さんが浩二さんに「もっと分担してほしい」というものが多いというから、ルールは流動的なはずだ。それでもなんとかうまくいっているのは、家事分担の入口と出口、つまり、なぜその項目をその人がやるかという「原因」(こだわりが多いほうがやる)と、もしうまくいかなくなって爆発したときの「結果」の対処法(おいしいもので機嫌をとる)という、最低限のルールが決まっているからではないだろうか。たとえその中間が流動的でカオスでも、はじめと終わりが決まっていれば、とりあえずなんとかなるようだ。そして、ケンカのあとは浩二さんが少しずつ分担を増やしていくなど、微調整を繰り返している。おそらく数年後には、より夫妻にフィットするルールができあがっていることだろう。

子どものしつけや教育に対しては、せわしない日々のなかで、「無理なく、大人も楽しみながら」という姿勢が印象的だった。きっと今日も息子さんは、「しっぺ何回分」で悪さを認め、論語の技をビーム光線のように繰り出していることだろう。1歳の娘さんだって、ある日突然「すくなし、じん!」と言いはじめるかもしれない。

夫妻の7ルールには、家族のカタチが反映されていておもしろい。改めて、我が家のルールを振り返ってみたくなる取材だった。

(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)

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