妊活中から授乳期まで、ママの身体に必要な栄養について紹介するシリーズの最終回。
今回は、授乳期の妖精・乳乃(にゅうの)ちゃんが、赤ちゃんの発育のためにも気になる母乳と栄養について突撃取材! 産婦人科専門医の窪麻由美先生に聞きました。
<この記事の監修ドクター>
産婦人科専門医 窪 麻由美 先生
フィーカ レディースクリニック副院長。順天堂⼤学医学部附属浦安病院⼤学病院 ⾮常勤助教。東京⼥⼦医科⼤学医学部医学科卒業後、順天堂⼤学医学部附属順天堂医院産婦⼈科医局、同⼤学医学部附属静岡病院などを経て2009年に同⼤学⼤学院医学研究科を卒業、博⼠号を取得。医学博士、日本産婦人科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター 、日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツ医、女性のヘルスケアアドバイザー。
先生! 妹の妊子、産美が大変お世話になりましたわね。
私は長女の乳乃(にゅうの)。今日は授乳期のことについて聞かせてもらうわ。
3姉妹だったんですね。みなさんそれぞれキャラの濃いこと……!
よろしくお願いしますね。
赤ちゃんのために!
ママの健康が赤ちゃんの健康を作っていく
まず、気になるのが「母乳」のことなの。
赤ちゃんの栄養の源でしょう? 気を遣うわ〜。
そうね。母乳には、赤ちゃんの成長に欠かせない栄養はもちろん、免疫を助ける物質もたくさん含まれているの。母乳は主にママの血液の成分を元にして作られるもの。
だから、ママが、普段からどんな栄養を摂っているかはとっても大事なのよ!
母乳は白い血液! ママの摂った栄養でできている
血液から母乳を作り出すなんて、ママの体ってすごいな〜。
ところで、母乳ってどんな栄養でできているの?
母乳には、赤ちゃんの成長に必要な多くの成分が含まれています。
たんぱく質、乳糖、酵素やビタミン、ミネラル、脂質、ホルモン(成長因子など)などですね。脂質もとても大事な栄養素ですよ。母乳に含まれる脂質には、脳や視力の発達を助ける多価不飽和脂肪酸(アラキドン酸やドコサヘキサエン酸)が多いのが特徴です。
なるほど〜。でも、「授乳期に脂質を摂りすぎると、乳腺が詰まる」って聞いたことがあって……それは、気をつけなくて大丈夫?
心配しなくていいですよ。高脂肪食を食べるとおっぱいが詰まると言われることもありますが、これにははっきりとした根拠はないの。
それよりも大切なのは、ママ自身が、授乳期に必要な栄養をバランスよく摂ることよ。
出産でママの体には大きな負担がかかるから、その回復にも栄養が余分に必要。加えて、母乳をあげる場合は更に栄養が必要ですね。授乳だけで1日500kcal程度を使うとも言われているの(※1)。だから、十分なエネルギー摂取が欠かせないんですよ。
(※1)日本人の食事摂取基準(2020年版)「エネルギー」
厚労省の「日本人の食事摂取基準」では、授乳中はいつもの摂取エネルギーよりも1日あたり350kcal増やすことが推奨されています(※2)。350kcalというと、軽めの食事を1食分増やすぐらい。一度に摂るのが難しい場合には、間食で補ってもいいですよ。
それから、脱水にも注意してね。水分は多めに摂っておきましょう。
(※2)日本人の食事摂取基準(2020年版)「妊婦・授乳婦」
水分摂取も大事なのね。それにしても、母乳を通して赤ちゃんに栄養をあげなくてはいけないママは大変。
抜け毛とか肌荒れで悩むママも多いって聞いているから、心配なのよね。
そうね。産後はホルモンバランスの変化に加えて、授乳やお世話で生活サイクルも乱れがち。抜け毛や肌荒れが増えるママもいます。
ママ自身の回復力にも栄養が関わってくるから、偏りなく食事を摂るようにしましょう。特に、皮膚や頭皮、髪の毛はたんぱく質から作られます。大豆、肉、卵、魚など、たんぱく質を多く含む食材を意識して取り入れて。これは、母乳で育てていないママにも大切にしてほしいことです。
母乳だけじゃなくて、産後のママの体にとっても、栄養がすごく大事なのね!
タンパク質、カルシウム、鉄分、ビタミン類などが不足しがち
ほかに、授乳期の栄養で特に気をつけたいことってあるかしら?
妊活中や妊娠中は「葉酸」や「鉄分」をしっかり摂るようにって言われていたけど……
産後は、妊娠中とは必要な栄養素の配分が変わってきますよ。通常の摂取量に上乗せして摂ってほしい栄養素を紹介しますね。
■
■
■
赤ちゃんの体づくりにも、ママの回復にも重要な、基本の栄養素。鉄やタンパク質の不足は貧血を引き起こすだけでなく、気分の変調にも影響することがあります。
産後2週間〜1ヶ月は、「産後うつ」になりやすい時期と言われているので、意識して摂るようにしましょう。
■
母乳育児の場合、骨や歯の強さや免疫にも関わる「ビタミンD」は赤ちゃんに不足しがちだと言われています。ママの摂取量が不足していると、母乳中のビタミンDの濃度が低くなってしまうため、意識して摂ることが必要です。
ビタミンDが豊富な食べものは、魚や卵、キノコ類。
■
「ビタミンAを摂ってはいけない」と思っている人がいるみたいですが、大切な栄養素ですよ。とくに授乳中は母乳を通して赤ちゃんにあげる分が余計に必要になります。ビタミンAは、赤ちゃんの免疫に重要だと言われています。摂ってはいけないどころか、むしろ通常時より多めに摂る必要がありますよ。
■
出産まで意識的に摂る必要があった「葉酸」は、妊娠中に比べると付加量は少なくなりますが、授乳中もやはり通常時に比べて多めに摂ってほしい栄養素です。
ビタミンAは、妊活中や妊娠初期は摂りすぎに気をつけなければいけない栄養だったからびっくり!
そうね。産前・産後は体の状態が劇的に変化するので、気を付けたいことも変わってくるの。正しい知識をもつことが大事ですよ。
バタバタの産後、自分の食事に気を配る余裕がない!?
栄養の大切さ、よ〜くわかったんだけど……。
正直、生まれたばかりの赤ちゃんといるといっぱいいっぱいだから、自分の食事にそこまで気を遣えるかな。自信がないわ。
食事で摂りきれない栄養は、サプリで補う手もありますよ。
ただ、カロリーはサプリでは補えないから、食事は抜かずにエネルギーをしっかり摂ってくださいね。産後ダイエットは、授乳期が終わってからにしましょう。
は〜い。赤ちゃんのお世話で大変になりそうだから、少しでも頼れるところは頼りたいわね……。逆に、授乳期に摂らない方がいいものはあるかしら?
たばことお酒には注意してね。
厚生労働省は「授乳中の喫煙、受動喫煙、飲酒は、乳児の発育、母乳分泌に影響を与えます」としています。たばこもアルコールも授乳中は避けた方がいいものです。「カレーを食べると良くない」という噂があるみたいですが、それは神経質にならなくて良いでしょう。
なるほど。気にしすぎもよくないけれど、自分と赤ちゃんの健康を守るためにできることはしっかり気をつけたいわね。
窪先生ありがとうございました!
赤ちゃんがすくすく成長するように、お母さんも笑顔で元気に!
産後しばらくは、赤ちゃんのお世話と自分の身体のことで精一杯だと思います。眠れるときには眠り、食べられるときに、食べておきましょう。不安なことは、主治医や助産師さんなどに相談してみてください。それだけでも少し楽になるはずです。
産後うつは、誰でもなる可能性があります。育児を自分一人で抱え込むのはよくありません。パートナーや周囲の人の助けも借りて、一緒に子育てをしてもらいましょうね。
参考文献:
厚生労働省「たばことお酒の害から赤ちゃんを守りましょう」
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/dl/h0201-3a3-02h.pdf
厚労省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04250.html
厚生労働省「e-ヘルスネット 飲酒のガイドライン」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-03-003.html