「いいお母さんにならなくちゃ」という自分のなかの強迫観念
このタイトルを見て、はじめ、世間の「フツウの母親像」と主人公が戦う話かと思いました。
でも、主人公のあかりを最初に苦しめるのは、ほかでもない「あかり自身」。ここにまずびっくりして、でも同時に、「あるある……!」とも思わされて。
この物語は創作ですが、自分のなかの「フツウの母親像」に苦しんだ経験が、たまこさんにもおありだそうですね、その話をお聞きできますか?
現在進行形で悩んではいるのですが、やはり一番苦しかったのは、第一子を出産したばかりの、新米母だったころです。
育児は幸せなもののはず! なのに、育児ノイローゼに
当時のわたしは、育児は幸せなものだと思いこんでいたし、完母や布オムツにこだわったりして、「できるだけ良い母親になろう!」と、自分のキャパを超えてかなり頑張ってしまったんですよね(本来はズボラな性格のくせに、笑)。
そしたら、見事に育児ノイローゼになり、産後うつも発症してしまいました。
母親失格? 産後うつで「フツウの母親」らしいことは何もできなくなった
母親の自分がうつ病になったことで、「終わったな」って、当時は思いました。
母親のくせに、料理も洗濯もまともにできない。子どもの相手もじゅうぶんにできない。
「フツウの母親」らしいことが何もできない。頭のなかには常に「母親失格」の四文字がありましたし、子どもにも夫にも義両親にも、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
働かない頭を抱えて、まだヨチヨチ歩きの娘を抱っこして、駅前の精神科クリニックへ通いました。待合室でボーっとしていたときの、どうにもやるせない感覚を今でも覚えています。
あの頃の体験は、今作にもかなり影響してると思います。
最近でこそ、「産後うつ」や「産後クライシス」の経験を語る女性が増え、子育てに主体的に関わる男性も増えて、「子育てってしんどい」ということも認知されてきましたが、確かに、以前は、子育て中のママはネガティブなことを語りにくい空気が、今よりあったかもしれません。
子育てなんて、絶対思いどおりにはいかないものなのに……。
「赤ちゃんのいる生活ってハッピー♡」がフツウだと思っていると、つらさ、苦しさをどう受け止めればいいか、わからないですよね……。
姑に感じる息苦しさ。自分はなれない「理想の母親」像がそこに。
たまこさんご自身と義実家との関係は良好だ、と、書籍の「おわりに」に太字で書かれてましたが(笑)、あかりの義理の両親のキャラクターや、「敷地内同居」といった設定は、どのように生まれたのか、教えてください。
本当に、たまこさんご自身と義実家との関係は良好なんですか?(笑)
ウチのお義母さんと、作中のお姑さんは、性格はまったくちがうけど、「家事が完璧で夫を立てて自分は後回し」というところは同じです。そして、主人公のあかりとわたしも、「家事が下手でズボラ」という点が同じです(笑)。
お義母さんの、完璧な掃除や洗濯に、引け目を感じたことも……
お義母さんは嫌な顔一つせず掃除や洗濯をやってくれるんですが、どれもクオリティが高くて……。お義母さんには全然そんなつもりはないのに、不出来な嫁である自分に、勝手に引け目を感じてしまったりしていました。
正直にいうと、八つ当たりしちゃったこともあります………そのときの気持ちが、作品にも反映されています。
今は、「助かります~!お願いします~!」って感じでどんどんお願いしちゃうんですけどね(笑)。
物語のはじめ、お姑さんはただよくしてくれてるだけなのに、それでも主人公のあかりは息苦しく感じてしまう。それは、自分にはできない「理想の母親」像を、お姑さんのなかに見てしまうから、だったんですね。
ただ、物語が進むと、作中のお姑さんのなかの問題もクローズアップされていきますね。たまこさんの義理のご両親とはまったくちがうという、作中の義父母キャラクターは、どうやって生まれたんですか?
作品中の義父母は、昭和の父、母像を具現化したキャラにしたかった!
なので、お舅さんは多少やりすぎかな?というくらい亭主関白だし、お姑さんは絵にかいたような良妻賢母です(笑)。
「敷地内同居」設定は、モデルにした愛知県の地域性を出したくて……
経済的には恵まれてるけど、ちょっと閉鎖的で息苦しい。そんな、この地域性を出すためにも、敷地内同居という設定にしてみました。
昭和的な働き方や家庭が、比較的残っている地域なのかもしれませんね。実際、叔父夫婦が敷地内同居でした、そういえば……!
創作だけど限りなくリアルな母親としての葛藤が描かれたコミック『母親だから当たり前?フツウの母親ってなんですか』。物語はさらに、夫、父親としての葛藤、さらには義父母のなかの葛藤へと、大きく広がっていきます。
次回は、主人公あかりの周囲の人物についても掘り下げていきますよ!
公開は、明日12/29の17:30を予定しています!
書籍『母親だから当たり前?フツウの母親ってなんですか』について
平凡だけど幸せな人生…の、はずだったのに。
「母親だったらそれくらい当たり前でしょ?」「妻ならこうするものだ」という目に見えない圧を感じ、苦しめられる、専業主婦のあかり。
令和になってもこびりつく昭和の価値観。女の幸せはどこに!?
「ママの求人」サイトで大反響を呼んだ話題作が書籍化されました。主人公のあかりと夫・平太のなれそめや、義両親のその後など、書籍オリジナルのエピソードも収録されています。
龍たまこさんのプロフィール
ブログ 規格外でもいいじゃない!!
Instagram @ryu.tamako2
(漫画:龍たまこ コミック『母親だから当たり前?フツウの母親ってなんですか』KADOKAWAより/取材・文:マイナビウーマン子育て編集部)