乳首のマッサージで母乳は良く出るようになるの?
人によっては「乳首(乳頭)マッサージ=母乳の分泌を良くするもの」、というイメージがあるかもしれませんね。本来はどんな効果を期待して行うものなのかをまず知っておきましょう。
乳首の詰まりやむくみを取るのに役立つ
乳首マッサージは、産後に白斑などで乳首が詰まって母乳が出にくい場合や、乳輪がむくんで赤ちゃんが吸いつきにくくなっている場合に行います。くわしいやり方はのちほど紹介しますが、こうしたトラブルによって赤ちゃんが十分に母乳を飲めていない場合には役立つ方法です。
母乳は赤ちゃんにたくさん吸ってもらうことで出る
「乳首マッサージを行うことで母乳の分泌が良くなるか」については、そもそも、乳首も含め、おっぱいをマッサージすることが本当に役立つのかどうか実はよくわかっていません。それよりも確実に母乳分泌を促す方法は、「産後早期から赤ちゃんに何度も吸ってもらうこと」です。
そもそも母乳が作られるのは、脳から「プロラクチン」というホルモンが分泌され、乳腺にある受容体が反応するから。乳腺で作られた母乳は、乳管を通って乳輪まで運ばれて出てきます。赤ちゃんが母乳を吸うとプロラクチンの分泌がよくなり、乳腺のプロラクチン受容体の発達も促されるので、何度も吸ってもらうことで母乳の分泌が良くなります。プロラクチン受容体の数は産後2週間で決まるともいわれています[*1]。
正しい吸い方で効果的に吸ってもらうことも大切です。生まれたばかりの赤ちゃんは哺乳反射によって母乳を飲むことができますが、赤ちゃんもママもまだ吸い方や吸わせ方のコツがつかめない時期は浅飲みになってしまうこともあります。そこでママが正しい抱き方・含ませ方をしないと、しっかり母乳を飲めないだけでなく、乳首の痛みや傷などのトラブルにつながります。
妊娠中に準備するなら、おっぱいをケアするより、正しい授乳姿勢や含ませ方を知り、動画を見たり人形で練習したりしておくと良いと言われています。また、産後にできるだけ早く授乳ができるよう出産する施設に希望を伝え、家族にも相談して頻回に授乳できる環境を整えておくのもいいでしょう。
産後の授乳中に! 乳首マッサージのやり方
産後の授乳中にできる乳首のマッサージ方法を、お悩み別に紹介します。
乳輪のむくみを取って柔らかくする方法
産後、おっぱいがパンパンに張っていると、乳輪までむくんでしまうことがあります。そんな時は、乳輪が柔らかくなって赤ちゃんが吸いやすくなるように、授乳の直前に次のマッサージを行ってみましょう[*2]。
リバース・プレッシャー・ソフトニング
2)自分の体に向かって押して圧迫し、1分以上キープする
3)指の位置を変えて繰り返し、乳輪全体に行う
行う前に爪は短くしておきます。また、直接触れることで皮膚に痛みを感じる場合は、ガーゼなどの上から行ってもよいでしょう。圧迫は痛くない程度でOK。毎回の授乳ごとに行いましょう。
詰まりを取り除く方法
母乳の通り道である乳管は、赤ちゃんの吸着が浅いときや同じ場所を圧迫し続けることで詰まってしまうことがあります。この状態は「乳管閉塞」と呼ばれ、ひも状になった脂肪分や濃縮した母乳などが詰まっています。詰まった部分を押すとしこりがあります。乳管閉塞に関連して、乳頭の先に小さな白い塊のようなもの(白斑。乳口炎とも)ができることもあります。なお、「脂肪分の多いものを食べるとおっぱいが詰まる」といわれることがありますが、食べたものが原因で起こることはありません。
乳管閉塞になったら、授乳前にシャワーや蒸しタオルなどで胸を温めたあと、次のマッサージも試してみましょう。
乳管の詰まりを取るマッサージ
2)手の平で乳房の周囲から乳頭に向かってしこりを流すイメージでマッサージする。
マッサージの際、強くこすると赤くなったり皮膚が擦れたりするので、やさしく行いましょう。授乳中にしこりがあるところから乳頭に向けてマッサージしても。
白斑の取り方
2)指先で軽くマッサージするようにして取る。
オリーブオイルなどを乳頭に塗ってしばらくおいてから温めると、取れやすくなるでしょう。ガーゼなどの柔らかい布で拭き取っても良いのですが、無理やり取るのは禁物。どうしても取れない場合は母乳外来などで相談しましょう。
白斑、乳口炎についてくわしくは、下記の記事も参照してください。

【助産師監修】乳口炎とは?白斑ができる?症状と対処法、乳腺炎との関係
https://woman.mynavi.jp/kosodate/articles/7940乳頭に小さな白い塊ができて、チクチクと痛い。そんな症状があったら乳口炎(にゅうこうえん)かもしれません。乳口炎は、授乳中によく見られる乳房トラブルの一つです。放置すると乳腺炎になることもあるので、早めに対処しましょう。
乳首マッサージQ&A
乳首マッサージについてよくある疑問をまとめました。
Q.妊娠中から乳首マッサージをしておいたほうが良い?
A.特に必要ないと言われている
産院によってさまざまな考え方がありますが、妊娠中の乳首マッサージは基本的に必要ないとされています。WHO/ユニセフは、妊娠中の乳首マッサージ(おっぱいマッサージも)は母乳育児に必要でなく、また妊娠中に乳首をこすって「強く」したり、引っ張ったりすることで乳首を傷つける可能性があり、勧められないとしています[*3]。
妊娠中からマッサージをして痛みを感じることで、母乳育児に消極的になってしまう可能性も。また、「乳頭乳輪マッサージ(乳管開通操作)」の有無で産後の母乳分泌には差が見られなかったという研究報告もあります[*4]。
なお、妊娠中に乳頭マッサージを行うとオキシトシンというホルモンが分泌され、子宮収縮を起こす心配もあります。マッサージ程度の刺激では問題ないという意見もありますが、お腹が張りやすい人や医師から安静の指示が出ている人はとくに避けた方がいいでしょう。
Q.扁平・陥没乳頭はなおしておかなくていいの?
A.基本的には大丈夫。心配なら専門家に相談を
扁平乳頭や陥没乳頭で授乳が難しいのではないか、事前に何か準備ができないかと思うママもいるでしょう。その場合も、基本的には何もしなくて大丈夫。赤ちゃんは乳首ではなく、乳輪に吸いついて母乳を飲んでいます。適切な吸啜ができていれば、乳首の形はほとんど影響しないといわれています。
詳しくは下記の記事も参考にしてください。もし心配であれば、出産する施設の助産師に相談してみましょう。

【助産師監修】陥没乳頭で授乳はできる?自分でできる授乳のコツ
https://woman.mynavi.jp/kosodate/articles/8479乳首(乳頭)がへこんでいたり、出っ張りが少なかったりして「もしかして授乳できない?」と不安になる妊婦さんやママがいます。今回はそんな「陥没乳頭・扁平乳頭の場合の、授乳のコツ」について解説します。
Q.授乳中の乳首ケアのポイントは?
A.自然に分泌される皮脂を大事にすること
「授乳前の乳首や乳輪の消毒は不要」と聞いたことがある人は多いでしょう。これは、乳首にある「モントゴメリー腺」という器官から自然に分泌される皮脂を落とさないためです。この皮脂には肌を弱酸性に保ち、細菌の増殖を抑えて乳首や乳輪を保護する働きがあります。
ですから、清浄綿でこの皮脂を拭き取ってしまうと、かえって乳首や乳輪は乾燥してひび割れができ、傷や痛みの原因に。お風呂でも、乳首や乳輪は石鹸で洗わずお湯で流すだけで十分きれいになります。なお、授乳前にはしっかり手洗いをしてください。
Q.乳首が痛いときはどうしたらいいの?
A.授乳姿勢を見直してみる。辛いときは専門家に相談を
出産後早期の乳首の痛みの多くは、抱き方や含ませ方が正しくないことが関係していると言われています。乳首に痛みを感じるようになってきたら、次の記事などを参考に授乳姿勢を見直してみましょう。それでも良くならない場合は、出産した施設の母乳外来や助産師に相談して、できるだけ早く解決してください。

【助産師解説】写真で学ぶ授乳姿勢!パターン別授乳姿勢と4つのポイント
https://woman.mynavi.jp/kosodate/articles/3509授乳姿勢が正しくないと赤ちゃんがうまく飲めないだけでなく、乳腺炎などのリスクも高くなります。主な6つのポジショニングとNGパターン、正しい姿勢をとれているかを確認できる4つのチェックポイントをお伝えします。

【助産師監修】乳首が痛い!授乳が苦痛...痛みの原因とセルフケアを教えて!
https://woman.mynavi.jp/kosodate/articles/7113授乳はママと赤ちゃんの絆を深めてくれますが、乳首(ちくび)が痛い!と母乳をあげられない――。そんな悩みを抱えているママもいるのでは? ひどい痛みは授乳をやめる原因になるだけに、早めの対策が必要。有効なセルフケアをご紹介しましょう。
まとめ
乳首マッサージは母乳の分泌そのものを良くするというより、乳首の詰まりやむくみを取るために行うものということを説明しました。産後の授乳期の乳首トラブルには有用な方法なので、困っているママはで、ここで紹介したことを試してみてください。また、乳首マッサージにまつわるよくある疑問も取り上げました。困ったときのアドバイスをいくつか紹介しましたが、解決しない場合は母乳外来や助産師などで専門家に積極的に相談してくださいね。
(文:佐藤華奈子/監修:坂田陽子 先生)
※画像はイメージです
[*1]ペリネイタルケア2019vol.38no.03「母乳育児のギモンMr&Mrs水野が一挙解決!」
[*2]Breastfeeding Online 「Reverse Pressure Softening」
[*3]World Health Organization, UNICEF: BFHI Section 3: Breastfeeding Promotion and Support in a Baby-friendly Hospital, a 20-hour course for maternity staff, 3.2 Outlines of Course Sessions, p.58, 2006.
[*4]山田ほか「乳頭・乳房ケアの必要性について」(日本母乳哺育学会雑誌)vol4 no1 p.9-16 2010

HP:https://sumire-josanin.com/
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます