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2021年03月08日 11:23 更新

【医師監修】「想像妊娠」って本当にあるの? 妊娠との見分け方と対処法

実際には妊娠していないのに生理が止まる、つわりのような症状が出るといった、妊娠時と似た変化が身体に生じる「想像妊娠」。ドラマや映画の世界ならともかく、現実でも本当に起こりうる現象なのでしょうか。また、想像妊娠と本当の妊娠を見分けるにはどうすれば良いのでしょうか。

想像妊娠とは? 本当にあるの?

想像妊娠について知りたい女性
Lazy dummy

想像妊娠とは、「妊娠したい!」と強く望んだり、もしくはその逆に「絶対に妊娠したくない」と強く恐れたりするなど妊娠を強く意識した結果、女性の心身に妊娠したときのような症状が現れることです。「偽妊娠」とも呼ばれます。

想像妊娠は本当に起こる?

「想像妊娠なんて現実にはありえないのでは?」と思う人がいるかもしれませんが、じつはそんなことはありません。医療体制や文化などさまざまな背景によって発生率は大きく異なりますが、想像妊娠はたしかに現実に起こっています。

日本の事例では1917年に発行された「岡山醫學會雜誌」に、想像妊娠によって腹部が膨満したとされる女性の姿が掲載されています[*1]。また、1979年に発行された雑誌「心身医学」には「心理的因子により腹部膨満を来す疾患の存在することは古くから報告されている。想像妊娠などは、 その典型的なものと考えられる」という記述があります[*2]。想像妊娠は、日本でも昔から存在が知られていたようです。

どれくらいの女性に想像妊娠(偽妊娠)が起こるのか正確な割合は確認できませんが、アメリカのボストンでは、出生22,000あたり1の頻度で想像妊娠が起こっていたとする報告があります。一方で、南アフリカでは、不妊症の検査を受けた人または治療中の人では、1/200という頻度で想像妊娠が起こっていたそうです[*3]。また、想像妊娠を起こしていたのは、ほとんどが20~44歳までの不妊症や閉経周辺期の女性だったという報告があります[*4]。

なお、偽妊娠は人間だけでなく他の哺乳類でも見られる現象です。身近なところでは2013年、上野動物園のジャイアントパンダの雌シンシンに、妊娠の兆候を示す現象が見られたものの妊娠はしていなかった=偽妊娠の可能性が高いというニュースがありました[*5]。

想像妊娠の症状は

想像妊娠の症状には以下のようなものがあります。

・生理が止まる、または生理の血液量が少なくなる
・食欲不振、嘔吐(おうと)など、つわりに似た症状が現れる
・おなかが膨らむ(腹部の膨満)
・胎動のような胎児の動きや陣痛を自覚する
・乳汁が分泌されることもある

これらは、実際の妊娠で起こるものとほぼ同じ症状です。医師の診断などによって妊娠していないことがはっきりとわかれば、これらの症状を感じることはなくなるといわれています。

想像妊娠と妊娠の見分け方

想像妊娠でも実際の妊娠とほぼ同様の症状が起こるとなると、本当に妊娠しているかどうかは、どのように見分ければよいのでしょう。想像妊娠と妊娠は下記のような方法を試せば、自分でも見分けることが可能です。

基礎体温を測る

通常、妊娠しないと排卵1週間後あたりをピークにプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量は減少し生理が起こりますが、妊娠すると逆に分泌量はどんどん増えていきます。プロゲステロンには体温を上昇させる働きがあるため、妊娠していれば基礎体温のグラフでは高温期が持続するでしょう。

基礎体温を測った時、高温期が17日以上続くようであれば本当に妊娠している可能性があります[*6]。 ただし、普段から基礎体温が高温期と低温期ではっきりと分かれていない人では、基礎体温から妊娠の可能性を読み取るのは難しいでしょう。

妊娠検査薬を使う

妊娠するとhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)という妊娠期特有のホルモンが分泌されます。hCGは妊娠した女性の体内でつくられる特有のホルモンで、妊娠していない女性や男性の体内には通常存在しません。

妊娠検査薬は尿に排出されるhCGを検出し、妊娠の可能性を判定します。hCGが尿中に一定量以上あることが検出されると妊娠検査薬では陽性反応が出ます。

妊娠に似た症状が見られても妊娠検査薬で陽性にならなかった場合、想像妊娠の可能性もあります。

ただし、妊娠検査薬を推奨されている使用時期より早く使うと、実際妊娠していたとしてもhCGの量が陽性と判定されるには足りず、誤って陰性と表示される場合もあることには注意が必要です。これについて詳しい情報は下記の記事を参考にしてください。

想像妊娠してしまった……どう対処すればよい?

想像妊娠してしまったかもしれないと不安になり受診する女性
Lazy dummy

もしも自分が想像妊娠したかもしれないというときは、どのように対処すればよいのでしょうか。

ひとりで悩まず専門家に相談する方法も

冒頭でもお伝えしましたが、想像妊娠は妊娠を強く意識したり、強いストレスを抱えたりすることが大きな原因と考えられています。不妊、妊娠へのプレッシャーなど、どのような心理が影響しているかは人によってそれぞれ異なります。まずは原因となっているストレスや心理的要因を明らかにすることが大切です。

といっても、自分一人でそれを行うのは難しいこともあるでしょう。その場合、カウンセラーなど専門家の助けを借りることも有効です。ただし不妊や生殖にかかわる心の問題解決には専門知識が必要なケースも少なくありません。できれば、かかりつけの産婦人科医または専門資格である生殖心理カウンセラーに相談してみるのがよいでしょう。

生殖心理カウンセラーは、不妊・生殖に関連する心理的困難の支援を担う心理の専門家です。生殖医学の基礎知識や不妊体験者の心理などを学んでおり、より的確なアドバイスをしてくれる可能性があります。日本生殖心理学会のサイトに生殖心理カウンセラーの一覧が掲載されています。まだ人数は多くないものの、妊娠に悩む人の助けになってくれることでしょう。

男性が想像妊娠することも!?

男性が想像妊娠してしまうことも?
Lazy dummy

じつは男性にも、女性の想像妊娠と同じような症状が起こることがあります。

妊婦さんのパートナーに起こることがある

男性にも、女性の想像妊娠と同じように、妊娠に似た症状が起こることは「クーヴァード症候群」と呼ばれています。「クーヴァード」とはもともと妻が出産する際、夫が妻の行動をまねる習俗のことで、中国やインド、アフリカ、南米などで行われていたという報告があります。日本語では擬娩(ぎべん)といいます。

そこから発展し、とくに持病がなく健康で、かつ妻が妊娠している男性が妊娠のような症状を経験する状況が「クーヴァード症候群」と呼ばれています。現れる症状はさまざまですが、身体的なものと心理的なものとに大別することができます。以下に一例をあげます。

・身体的症状:吐き気、胸やけ、腹痛、腹部膨満感、食欲の変化、腰痛など
・心理的症状:過眠・不眠など睡眠パターンの変化、不安、抑うつ、性欲の減退、落ち着きがなくなるなど

「クーヴァード症候群」は精神の異常や病気ではありません。妊娠したパートナーをもつ男性に一般的な変化である可能性もあるそうです。なお、通常こうした症状は、妻の妊娠の初期と出産が近づいた後期にのみ発症することが多いようです。ただし、これらの症状が見られる男性が本当にクーヴァード症候群であるかどうかは判断が難しく、まだ研究が必要といわれています。

まとめ

なかなか妊娠しないと「赤ちゃんを授かれないかもしれない……」という強い不安や焦りを抱いてしまいがちです。こうしたメンタルが実際に身体的な変化を生み出すのが「想像妊娠」で、現実に起こっても不思議ではないことを紹介しました。

心と身体はつながっており、想像妊娠が実際に起こるということは心が身体にどれだけ大きな影響を与えうるかを示す良い証拠です。不妊に悩んでいる場合は一人で抱え込まず、専門家に相談するなどできるだけ周囲にも頼りながら、落ち着いた気持ちで妊活を進めていけるといいですね。

(文:山本尚恵/監修:窪 麻由美先生)

※画像はイメージです

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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