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2018年12月04日 14:37 更新

子沢山でも騒がしくないのはなぜ? 江戸時代の子育て術

歴史エッセイストの堀江宏樹さんが、江戸時代の子育てについてお届けする第2弾。育児についての悩みは、どの時代でも変わらず。ただ、親子の関係は尊敬という深いところでつながっていたようです。今回はどんな子育て術が出てくるのでしょうか?

Lazy dummy

江戸時代と現代では、家庭が置かれている「環境」そのものが大きく違いました。江戸時代は現代に比べ、医療が未発達です。男女ともに平均寿命は20代のままで、それは幼児のころに病で亡くなってしまう率が非常に高かったからだとされます(無事に成人できた場合は、現代人なみに長寿をまっとうできる人もよくいましたが)。
さらに食物保存技術が現代ほど発達していないため、飢饉が起こると多くの人々が亡くなりました。真っ先に犠牲になるのが弱い子供たちだったんですね。

また、何らかの事情で子供を育てられないと判断すると、堕胎や子殺しすら行われることもありました。。それはたしかに犯罪でしたが、他の家庭の事情だからヨソが口を挟むべきではない……と、共同体の中で知らぬふりをされがちでした。

そういう暗い背景ゆえに、育てられる時には子供たちは多めに生み、大切に育てる傾向があったのです。

子供が多くても騒がしくない?

驚くことに、子供が多いからといって、ものすごく騒々しかったというわけでもないようなんですね。

人口が密集しがちだった都市部ではもちろんのこと、農村部でも当時の庶民の家の建築技術はかなりおそまつなもので、家の中でしていることが外に筒抜けでした。

とくに現在の、お家賃お安めアパートぐらしに相当する長屋ぐらしでは、三軒隣の食事の内容まで、ニオイが流れてわかってしまったといわれます。

余談ですが、いわゆる夫婦間の「夜の営み」も、本当に真っ暗になってしまう夜に行うのではダメ。まだ明るいうちに、人に感づかれないように家の外の物陰などでコソコソといたす……というのが案外、普通だったりしました。

子供のNG行動「裏表がある・臆病・傲慢な態度」

実際、江戸人はかなり他人の眼や耳や評判を気にする人たちでした。「貧乏だから仕方ない!」とは考えず、貧しいなら貧しいなりに良く思われたい! と考える人たちだったようです。これは子育ての場合でも同じでした。「子沢山だからうるさくても仕方ない!」と開き直る親も社会的にNGだったようです。

たとえば子供が幼く、言葉で教えても十分に伝わらないときには妥協しがちです。また幼い子ほど、ものすごい声で泣き叫ぶことも。。ただ、人目を気にするがあまり、とにかく泣き止ませようと「◎◎をあげるから……」というような取引をしてしまうことも現代ではよくある光景ですが、その手の対応は江戸時代のしつけではNG項目でした。
『比売鑑(ひめかがみ)』という教育書では、親のその場限りの対応を、「ウソ」として厳しく禁じています。親がウソをつけば、子供もウソを平気でつくようになるから、というのが理由です。

また子供が機嫌を害するから(よけいに騒ぐから)……と、子供の問題行動を親が見て見ぬふりで放置するのもダメで、子供が傲慢に育ってしまう!ときつく戒められているわけです。

「裏表(があること。ウソをつくこと)」、「臆病(怖がりというより、自発的ではない状態)」、そして「傲慢(わがまま)」。

これらの態度は教育書を問わず、要チェックポイントにされています。そういった態度を少しでも子供が示した場合、親たちはとにかく徹底的に「それはダメだ」と真剣に説いて聞かせたそうです。

親は尊敬できる人という教育だからこそ効く

説くだけで本当に大丈夫? と思いますが、前回ご紹介したように、親は自分より偉くて尊敬できる大切な人だ! だから言うことを聞かなきゃ!と子供に教え込んでいることこそが、早期教育として重視されていた……という文脈につながっていくのです。

「父母が子を養う(育てる)だけで(ルールを)教えないのは、子を愛していないからである。また、教えて厳しくしないのも、子を愛していないからである」(『安斎随筆』)という考え方も、上流階級だけでなく、庶民の間でも一般的でした。親自身が、人に恥じることのないただしい存在でいるべき、という発想なんですね。

それゆえ子供が騒ぐとか他人に迷惑をかけてしまう問題行動を起こすのは、親の責任、親の恥だと考え、必死に努力していたわけです。うーん難しい。でも大事なことを気づかせてくれますね。

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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