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2022年03月22日 15:11 更新

【医師監修】胎盤とは|いつできる?役割と前置胎盤など胎盤のトラブルについて

妊娠中の女性だけが持つ特別な臓器「胎盤(たいばん)」。お腹の中の赤ちゃんを育むために作られて、出産とともにその役割を終える不思議な存在です。その働きがよくないと、赤ちゃんに影響が及ぶことも。胎盤の神秘を少し探ってみましょう。前置胎盤、常位胎盤早期剝離、癒着胎盤についても解説します。

胎盤とは

まずは胎盤の役割について解説します。

赤ちゃんとママをつなぐ臓器

お腹の中の赤ちゃんは、肺での呼吸や食事ができないので、赤ちゃんが成長するために必要な酸素や栄養は母親の体から届けられます。その役割を胎盤が担っています。

胎盤は子宮の中にできる血管がとても豊富な臓器で、そこを流れる血液によって、赤ちゃんの体が必要なものを母親の血液から送り届け、反対に赤ちゃんの体で発生した二酸化炭素や老廃物などは母親の血液に戻すという交換が行われます。

赤ちゃんとママをつなぐ胎盤のイメージ画像

胎盤の働きを、より詳しくみてみましょう。

・呼吸器としての役割

赤ちゃんは当然ですがお腹の外の空気を吸うことができないので、胎盤を介して母親の血液から酸素を取り入れ、二酸化炭素を母親へと運搬します。

・消化器としての役割

赤ちゃんの成長に必要な栄養素、例えばアミノ酸や糖や脂肪などが、胎盤を経由して送り届けられています。

・内分泌器としての役割

hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)やhPL(ヒト胎盤性ラクトゲン)、女性ホルモンなどいくつものホルモンを分泌していて、それらは妊娠維持や赤ちゃんへの栄養供給の調整などの働きを持っています。

・排泄器としての役割

赤ちゃんが排せつする老廃物は、胎盤を通して母親の体へ渡されます。

胎盤はいつできる?

胎盤は妊娠7週ごろから作られ始め、15週ごろには完成します。なお、胎盤が完成するまでの間、赤ちゃんは受精卵から分化してできる卵黄嚢(らんおうのう)から栄養を得て成長しています。

卵黄嚢の説明イメージ

つわりの時期や安定期と胎盤の完成時期の関係性については、以下の記事を参考にしてください。

妊娠の経過とともに大きくなる

胎盤は完成した後も妊娠期間を通じて成長を続け、妊娠末期には500~600gにもなります[*1]。大きくなるのに従って、胎盤を流れる血液の量は増加していくので、もし胎盤に出血が起きた場合には、母親の生命が脅かされるほどの多量の出血になってしまうことがあります。

出産と同時に排出される

赤ちゃんが誕生してしばらくすると、軽い陣痛が起きて子宮から剝れ、5分ぐらいすると胎盤が排出されます(胎盤娩出)。胎盤が排出されたら、お産は無事終了です。なお、胎盤が出てくる時の軽い陣痛のことを「後産期陣痛」といいます(分娩後の子宮収縮による痛みである「後陣痛」とは別です)。

・胎盤が排出されない場合

胎盤が子宮と強く癒着(ゆちゃく)している場合などで、赤ちゃんが生まれた後も胎盤が排出されないことがあります。

まず、臍帯(さいたい)をひっぱりながら子宮底をマッサージして剝離を促します。それでも剝離してこない場合は、用手的に(医師が手を用いて)胎盤を剥がす処置を行います。

それでも剝がれない場合、細菌感染などを予防しながら自然排出を待つ場合もありますが、出血が増えても剝離しない場合は、母体に危険が及ぶことを考慮して子宮全摘出を行う場合もあります。

妊娠中に起こりうる胎盤のトラブル

胎盤に異常が起きたとき、赤ちゃんと母親の体の双方への影響が心配されます。

胎盤の異常は赤ちゃんに負担になる

胎盤は赤ちゃんの呼吸や栄養維持などの生きるために必要なことのほとんどにかかわっていて、生命維持のために極めて重要な臓器です。ですからその異常は赤ちゃんの予後と深く関連します。

妊娠中期から後期に起きる異常妊娠には、胎盤の異常が関係しているものが多くあります。例えば胎盤の付着部位(子宮の中でどの辺りにくっついているか)の異常である「前置胎盤(ぜんちたいばん)」や「癒着胎盤(ゆちゃくたいばん)」、大きさや機能の異常では「妊娠高血圧症候群」、「常位胎盤早期剝離(じょういたいばんそうきはくり)」、「胎児発育不全」、感染・炎症では「絨毛膜羊膜炎(じゅうもうまくようまくえん)」、「破水」といったことが起きてきます。
それらの中で、胎盤の異常の影響がとくに大きい「低置胎盤、前置胎盤」「癒着胎盤」「常位胎盤早期剝離」「胎盤機能不全」について、詳しく解説していきます。

胎盤の位置が問題に 低置胎盤、前置胎盤

胎盤が内子宮口(子宮体部と子宮頸部の境目)の一部、または全部を塞いでいる状態が「前置胎盤」です。そのままでは分娩の時に赤ちゃんが胎盤に阻まれて外へ出てくることができません。一方、内子宮口は塞いでいないものの、胎盤が内子宮口の極めて近くにあるのが「低置胎盤」です。

前置胎盤、低置胎盤の位置の説明

原因は明らかでありませんが、帝王切開や妊娠中絶、子宮手術を受けたことがある妊婦さんや、喫煙、多胎(ふたごなど)、多産、高齢などがリスクであるとされています。

・どのくらいに起きる?

前置胎盤については、全分娩の0.5%ぐらいに起きると言われています[*2] 。妊娠11~14週では42.3%に “前置胎盤のように見える” ことがあるものの、妊娠週数が進むと子宮の下の方(子宮口に近い側)が伸び広がる影響で、20~24週で3.9%、妊娠後期には1.9%と変化するという報告があります[*1]。

・妊娠中期以降の出血に注意

主な症状は、妊娠中期以降の痛みを伴わない突然の出血です。警告出血と呼ばれる少量の出血が始まり、その後、繰り返し起こったり、大量出血になることがあります。これは、子宮収縮(陣痛)や子宮口が開くことによって胎盤の一部が剝がれることによる出血です。

・赤ちゃんへの影響は?

警告出血を繰り返す場合や、子宮頸管が短い場合、切迫早産、細菌感染が胎盤に及んだ場合などでは、早産や大出血のリスクが高く、赤ちゃんの予後も良好でなくなることが多いです。

・診断が確定するのは妊娠末期

妊娠初期には胎盤が完成していないため、胎盤と内子宮口の位置関係を確認できません。また、子宮の下の方が伸び広がる(子宮下節の進展・開大)ことに伴い、前置胎盤でなくなる(治る)こともしばしばあります。このような変化の影響を考慮し、前置胎盤の確定診断は妊娠24~31週末に行います。診断が確定するまでは前置胎盤の「疑い」と言われることが多いでしょう。

・安静にして出血に注意し、妊娠9ヶ月には入院

前置胎盤と言われたら、なるべく安静にして子宮収縮に気をつけてください。治療としては、子宮収縮抑制薬が処方されたりします。出血がない場合でも妊娠32~34週には入院します。

その前に、もし突然の出血が起きたら早急に受診してください。出血が見られた場合は入院管理が基本です。また、通院している産科が遠くて、いざという時に直ちに受診できないようなケースでは、前もって入院することも考慮されます。

・帝王切開が原則だけど、低置胎盤では経腟分娩を試みることも

前置胎盤では、妊娠37週末までに予定帝王切開になります。

なお、前置胎盤ではありませんが、胎盤が子宮口に被らないまでも近い位置にある「低置胎盤」の場合は、内子宮口と胎盤の位置関係次第で、経腟分娩を試みる施設もあります。ただし、経腟分娩を試みる場合でも、出血が増えてきた場合には緊急帝王切開へ切り替えることも珍しくありません。

胎盤が剝れない 癒着胎盤

胎盤が子宮に強く癒着してしまっている状態が「癒着胎盤」です。胎盤は、常位胎盤早期剝離のように早くに剝れても危険ですが、適切なタイミングで剝れないのも問題です。癒着胎盤では、胎盤剝離が起きにくく、かつ胎盤剝離が起きると同時に大量出血してしまうリスクがあります。

前置胎盤や帝王切開歴のある妊婦さんに多い

前置胎盤では癒着胎盤を合併している(前置癒着胎盤)ことがよくあり、また、帝王切開をしたことがある妊婦さんはその頻度が高いことが知られています。そのほかに、子宮内膜炎や子宮内の掻把(流産や妊娠中絶などで行う操作)を受けたことがある場合のほか、体外受精などもリスクが高いとされています。

どのくらいに起きる?

癒着胎盤の発生頻度は2,000~4,000例に1例ほどと言われます[*2]。最近、発生頻度が増加していて、その背景に、帝王切開の施行率が上昇していることが関係していると考えられています。

検査でみつけるのが困難

超音波検査やMRI検査などの画像検査が行われますが、子宮と胎盤の癒着の程度を画像で評価するのが困難なことも少なくありません。また、帝王切開歴がある場合などにリスクが高いとは想定できるものの、分娩の事前に正確に診断することはでません。

お産は帝王切開

癒着胎盤が予想される場合、分娩時の大量出血を想定した準備が行われます。大量出血が起きたら、直ちに輸血を開始し帝王切開に移行できる体制を整えますが、穿通胎盤(せんつうたいばん)のように明らかに子宮を胎盤が貫いているような所見があれば、児を娩出したあと速やかに子宮摘出を行う事もあります。一方、出血が止まれば、胎盤を子宮内に一時的に残し、状態が落ち着いてから改めて対処することも可能です。

また、大量出血に備え、妊娠28週ごろから自己血貯血(自分の血液を後の輸血ように保存しておくこと)を始めることもあり、その場合、鉄剤を服用して血液を増やします。

胎盤が早くに剝れてしまう 常位胎盤早期剝離

胎盤の位置は正常であっても、赤ちゃんを産む前に子宮の壁から剝がれてしまうことを「常位胎盤早期剝離」といいます。母体と胎児両方に重い障害を起こす危険性が高く、速やかな対処が必要となります。妊娠時高血圧症候群や絨毛膜羊膜炎などがリスク因子になると言われています。

常位胎盤早期剝離の説明

・どのくらいに起きる?

常位胎盤早期剝離の発生頻度は0.49~1.29%、そのうち0.1%は重症というデータが報告されています[*2] 。

・中期以降の激しい腹痛・出血は産院へ連絡を

前述の前置胎盤は超音波などの画像検査で診断できますが、常位胎盤早期剝離は実際に起きるまで予測することが非常に困難です。

もし、妊娠中期以降に突然の激しい腹痛や、腹痛は軽度でも性器出血が見られるような場合は、まず胎動を確認し、かかりつけの産院へ連絡しましょう。

赤ちゃんとママの命を守るために、緊急治療

胎盤が剝がれると赤ちゃんに酸素が送られなくなり、また子宮内で大出血が起きます。つまり、母子ともに危険な状態になるということ。一刻も早い対応が必要です。

治療については、妊娠週数や胎児・母体の状態を考慮して判断されます。妊娠週数が早く、胎児心拍数モニタリングで異常も認められず、母体の全身状態が安定している場合は、待機的に経過を見ることもありますが、胎児か母体の状態が安定していない場合は、帝王切開または器械分娩など急速遂娩(きゅうそくすいべん)を行います。

胎盤の働きが悪くなる 胎盤機能不全

妊娠41週までの出産を「正期産」といいますが、妊娠42週を過ぎても陣痛が起きないと「過期妊娠」となります。過期妊娠では胎盤の働きが低下すると、羊水量も減少していきます。その結果、臍帯圧迫も起きやすくなり、赤ちゃんに栄養や酸素が十分届きにくくなることがあります。この場合は、陣痛を促すなどの対処を検討します。

なお、胎盤機能不全は過期妊娠だけでなく、妊娠高血圧症候群や糖尿病・腎炎などを合併しての妊娠などでも起こります。

まとめ

胎盤はおなかの中で赤ちゃんを健康に育てるために必要不可欠なもの。赤ちゃんの体の機能が十分に育つまで、循環器や内分泌器、排泄器など、さまざまな役割を担っています。胎盤の異常、例えば前置胎盤や常位胎盤早期剝離など、ママの体への影響も少なくないトラブルが起こることもあるので、妊婦健診には必ず定期的に通いましょう。また、ひどいお腹の張りや痛み、出血などが見られたときは、すぐに受診をしてください。

(文:久保秀実/監修:浅野仁覚先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]医学書院「週数別 妊婦健診マニュアル」,2018
[*2]医学書院「標準産婦人科学 第4版」,2011
「産婦人科診療ガイドライン 産科編2017」(日本産科婦人科学会)
「病気がみえるvol.10 産科」(メディックメディア)

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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