【医師監修】妊婦の胃痛はなぜ? 妊娠初期は特につらい? 試したい対処法4つ
妊娠中に案外多いマイナートラブルのひとつに、「胃痛」があります。妊娠初期のころには、つわりから起こることもありますが、妊娠中期や後期になっても胃が痛いと感じる妊婦さんもいるようです。今回は、妊娠中の胃痛の原因や病気の可能性、受診の目安や胃痛の解消法についてまとめました。
妊娠中に胃痛が起きやすい3つの理由
妊娠すると、ホルモンバランスをはじめ心身にさまざまな変化が起こりますが、妊娠中は胃痛が起きやすい原因がいくつか考えられます。
1. 妊娠によるホルモン変化の影響
妊娠すると、女性ホルモンの分泌量が多くなります。女性ホルモンのひとつである黄体ホルモン(プロゲステロン)は胃の動き(ぜん動運動)を低下させる作用があり、妊娠前と同じように食事をとっていても、胃がもたれたり胃痛が起こったりしやすくなります。
2. 妊娠初期のつわりの影響
つわりは、吐き気や胸のむかつきなど消化器系のさまざまな症状がみられるのが特徴です。つわりの症状の現れ方は人によって違いがありますが、「揚げ物ばかり食べたくなった」「とにかく味が濃いものを好んだ」など、食べ物の嗜好の変化もつわりの症状のひとつです。脂っこいもの、塩気の強いもの、熱い/冷たいものなどの食べ過ぎは、胃もたれや胃痛を引き起こします。
また、食べ過ぎることも胃痛につながります。
空腹時に吐き気を感じるため常に何か食べているというような、いわゆる「食べつわり」の人もいますが、食べ過ぎてしまうと胃の不調を起こします。
逆に、つわりによる吐き気などのために食事がとれないという場合、長時間胃がからっぽの状態だと胃の中に胃酸が分泌されて粘膜を荒らし、胃痛の原因になることがあります。
3. ストレスの影響
妊娠すると、不安がつのることもあるでしょう。そのような精神的なストレスがあると自律神経に影響を及ぼし、胃痛が起こることがあります。
というのは、脳と消化器官はお互いに密接に関係していて、精神的なストレスがあると、胃酸が多く出る、胃粘膜の分泌が減るなどの変化が現れ、それらは胃痛などの症状につながるのです。
妊娠により、ホルモンバランスが変わって胃腸の動きが弱くなっている状態に、食生活の変化やストレスが加わることで、さらに胃のトラブルを起こしやすくなってしまうのですね。
妊娠中になりやすい、胃痛を引き起こす病気は?
胃痛や胃のむかつきが症状の一つにある病気は、妊娠中に特有のもののほか、誰にでも起こる病気もあります。
①妊婦特有の疾患|妊娠高血圧症候群など
・妊婦高血圧症候群、妊娠高血圧腎症
妊娠すると母体の血管は拡張し、妊娠20週頃までゆるやかに血圧が下がり、その後出産までゆるやかに上昇します[*1] 。これは生理的な血圧の変化ですが、何らかの理由で妊娠中に高血圧になってしまう病気もあります。「妊娠高血圧症候群」は、高血圧もしくは高血圧に他の症状を伴う疾患の総称で、妊婦のおよそ1割に発生[*2] し、適切な治療が必要となります。
妊娠高血圧症候群の中でも「妊娠高血圧腎症」は、血圧の上昇に加えて、タンパク尿もしくは肝機能障害、腎機能障害、神経障害、血液凝固障害などの症状が現れます。
妊婦高血圧症候群または妊娠高血圧腎症のおもな症状は、むくみや頭痛、体重増加などです。そのほか、場合によっては胃がむかついたり、みぞおちが痛んだりといった症状が出ることがあります。
血圧が高い傾向にあり、みぞおちのあたりが痛むときは、HELLP症候群(後述します)の前症状のこともありますので、単なる胃痛と決めつけず、早めにかかりつけ医に伝えることが大切です。
・子癇、HELLP症候群
「子癇(しかん)」とは、妊婦さんがてんかんのような全身性のけいれんを起こしたり、意識を失ったりする発作をいいます。血圧が異常に上がったときに起こるため、妊娠高血圧症候群の妊婦に起こりやすく、妊娠中(妊娠子癇)だけでなく分娩中(分娩子癇)や産後48時間以内(産褥子癇:さんじょくしかん)にも起こることがあります。子癇は、ママと赤ちゃんの命に危険が及ぶこともある発作です。
HELLP(ヘルプ)症候群は、Hemolysis(溶血)、Elevated Liver enzyme(肝酵素の上昇)、Low Platelet(血小板の減少)という3つの特徴的な症状の見られる病気の総称で、妊娠後期に起こることが多いです。妊婦さん全体でみると発症頻度はそれほど高くありません(全分娩の0.2~0.6%[*3] )が、妊娠高血圧症候群で特に重症の人ほど起こりやすくなり、子癇発作を起こした妊婦さんの約半数に起こるといわれています。
子癇のおもな症状は前述したようにけいれんや意識障害などですが、それに先駆けて起こる症状として、発作が起こる数日前から頭やみぞおちが痛くなることがあります。HELLP症候群の場合は、初期症状として子癇と同じくみぞおちの痛みを感じることがあります。胃のあたりの痛みが続くようであれば、かかりつけの産科に相談しましょう。
②妊婦がなりやすい疾患|逆流性食道炎
・胃食道逆流症(逆流性食道炎など)
妊娠週数を追うごとに子宮が大きくなり、胃が圧迫されるようになります。
また、胃と食道のさかいめにある「下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)」(噴門:ふんもん、ともいう)は通常は締まっていて、胃から胃酸が食道に逆流するのを防いでいますが、妊娠によって女性ホルモンが多く分泌されると締まりが悪くなります。
これらのことから、妊娠中は胃酸が逆流して食道が炎症を起こす逆流性食道炎などの「胃食道逆流症」になりやすいのです。なお、食べ過ぎや早食い、高脂肪食、就寝直前の食事、前かがみの姿勢、肥満などもリスクとなります[*4] 。
この病気のおもな症状は、胸やけや胃酸がこみあげてくる感じ(呑酸:どんさん)、胃のむかつき、喉のつかえ、咳などがあり、胸や胃が痛むこともあります。つわりは妊娠16週ごろには治まってきますが、その時期を超えても胃の不調がある場合は医師に相談し、改善に向けた指示をあおぎましょう。
③その他のよくある疾患|胃炎など
・機能性ディスペプシア(慢性胃炎)
この病気は、検査しても異常がないのに起こる、慢性のみぞおちの痛みや胃もたれのことを言います。以前は「慢性胃炎」と診断されることも多かったのですが、胃に炎症が見られなくても症状が起こることもあるため、この病名が生まれました。原因は様々あり、健康診断受診者の11~17%、医療機関受診者の44~53%に見つかる[*5] 珍しくない病気です。
・胃、十二指腸潰瘍
胃や十二指腸の粘膜に炎症が起こり、粘膜を保護する力が弱くなって潰瘍(粘膜の一部が深く傷つき、えぐれてしまう状態)ができる病気で、おもに胃や十二指腸の粘膜がヘリコバクター・ピロリ菌に感染することが原因で起こります。また最近では、非ステロイド性抗炎症薬などの薬剤が原因のケースも増えています。この病気になると、胃や十二指腸(上腹部)に痛みを感じたり、胃がむかついたり吐き気が起こったりします。
妊娠中の胃痛が胎児に与える影響
妊娠中に胃痛が起こると、おなかの赤ちゃんへの影響が気になるかもしれませんね。でも、胃痛そのものが胎児や妊娠の経過に直接影響することはまずないでしょう。
ただし、胃痛や腹痛が深刻な病気による場合には、急いで対応する必要があります。胃痛が続く、頻繁に起こる、胃痛以外に症状があるなどの場合には、胃痛の原因が妊娠の生理的な変化によるものか、病気によるものかを区別するために、早めに受診しましょう。
妊娠中、胃痛があるときの対処法を知りたい!
胃もたれや胃痛があるときは、まずは生活の中でできるいくつかの対処法を試してみましょう。
つわり対策|消化がいいものを小分けにして食べる
つわりで胃がむかついたり胃痛がするときや、吐き気などで食べられないときには、食事の栄養バランスは気にしなくていいのです。以下を参考に、「食べられるもの」「食べやすいもの」を食べられるときにとるようにしましょう。
〇なるべく消化のよいものを食べる
〇1回の食事量を少なくして、食事は何回かに分けて食べる
〇吐いてしまったとしても、少量でいいので飲んだり食べたりする
ストレス対策|緊張をほぐし、気分転換を
妊娠中は気持ちが不安定になりやすく、妊娠が進むにつれて緊張が高まったり思うように体が動かせなくなるなど、さまざまなことがストレスとなって胃痛が起こることがあります。心身のストレスは早めに解消すべく、以下の方法を試してみましょう。
〇ゆっくりお風呂に入ってリラックスする
〇睡眠不足にならないよう、たっぷり眠る
〇気分が滅入ったりイライラするようなときは、友人や家族など誰かとおしゃべりして発散する
〇趣味や、赤ちゃんのものを作るなど、興味の持てるものを見つけて集中して取り組むようにする
〇散歩するなど、体に負担のない程度に外出してリフレッシュする
服薬|専門家に相談して妊娠中でもOKなものを
妊娠中の服薬については、妊娠時期や妊婦さんそれぞれの症状、病気の状態、薬の種類によっては、使えないものもありますので、胃痛の場合でも、自分の判断で市販の胃薬などを服用するのではなく、まずは受診して相談しましょう。
薬が処方された場合には、指示に従って使用することが大切です。薬についてわからないことや疑問があったら、必ず医師や薬剤師などの専門家に相談してくださいね。
受診|ひどい痛みや他の症状があったら病院へ
痛みがひどいときや、胃痛のほかに下痢や嘔吐など他の症状を伴う場合は、早めに受診しましょう。また、痛みはそれほどではなくても、頻繁に胃痛が起こる場合や何度もくり返すときも、受診して医師に相談しましょう。
まとめ
妊娠中は、ホルモンバランスや食生活の変化などにより、胃の痛みを感じることがあります。生活の中で工夫できることは取り入れ、改善を試みましょう。また、胃痛だと思っていたら、胃以外の場所が痛んでいたということも。単なる胃痛と片付けず、痛みが強い、他にも症状がある、繰り返す、頻繁に痛むなどの場合は早めに受診して、お腹の痛みの原因を見極めてもらうことが大切です。
(文:村田弥生/監修:浅野仁覚先生)
※画像はイメージです
[*2]「病気がみえるvol.10 産科」(メディックメディア) p.102
[*3]「病気がみえるvol.10 産科」(メディックメディア) p.116
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます