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2021年01月18日 13:30 更新

【医師監修】 妊娠中、貧血になりやすいのはなぜ? 主な症状と予防・改善の対策

女性にとって貧血はとても身近な問題です。ふだんから貧血気味という人も少なくないことでしょう。そして妊娠すると、ふだん以上に貧血になりやすくなります。ここでは、立ちくらみと貧血との違いを知って、対策方法をチェックしましょう。

そもそも貧血って何?

壁に寄り掛かる女性
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ところで、そもそも「貧血」とはどのような状態を指すのでしょうか? 「血が貧しい」と書きますから、血液が不足している状態でしょうか? 妊娠中の貧血について理解を深めるため、まず貧血とはどういうことかを簡単に解説します。

血液が薄くなり全身が酸欠になること

酸素はヘモグロビンに結合して運ばれている

私たちの体は膨大な数の細胞でできていて、その細胞のすべてが常に酸素を必要としています。全身の細胞が使う酸素は、血液の流れに乗って運ばれていきます。

より詳しく言うと、血液中の酸素は赤血球という成分に含まれる「血色素(ヘモグロビン)」に結合し、このヘモグロビンが全身の細胞へ酸素を運搬しています。

ヘモグロビンが少ない状態が貧血

ヘモグロビンが少なくなると、酸素の運搬能力が低下するので全身の細胞が酸素不足になり、正常に機能しなくなってきます。この状態が貧血です。

つまり、貧血とは、血液の中のヘモグロビンが少なくなる、より簡単に言うと血液が薄くなっている状態のことです。

立ちくらみは「脳貧血」

ところで、「長時間立っていたら貧血でめまいがした」とか「貧血で立ちくらみがする」と言うことがありますが、これらは実は医学的な意味での「貧血」とは大きく異なり、脳の一時的な血流不足による症状です。

病的な原因がなくても、急に立ち上がったりしたときに自律神経の反応が遅れたりすると、心臓から脳に送り出される血液の量が減り過ぎ、めまいなどの症状を起こすことがあるのです。なお、「脳貧血」は医学用語ではありません。

もちろん貧血がひどくなれば、立ちくらみを起こしやすくなります。また、「脳貧血」は普通一時的なものですが、医学的な意味での貧血は原因が解決されないと慢性的に続きます。

なぜ血液が薄くなるの?

赤血球のイメージ
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ヘモグロビンの原料は「鉄」

では、なぜ女性は血液が薄くなって貧血になってしまうのでしょうか? 実は、ヘモグロビンは鉄と蛋白質でできているのですが、女性は体内の鉄分が不足しやすいことが貧血に関係しています。

女性が鉄分不足になりやすい理由として第一に、月に一度、生理で血液が失われることが挙げられます。そして理由の第二は、間違ったダイエット方法などによる不健康な食生活で鉄分の摂取量が不足していることが多いことです。

このように、女性にとって鉄は非妊娠時も不足しやすい栄養素ですが、後から解説するように、妊娠時にはさらに不足しやすくなります。

鉄欠乏性貧血以外の貧血のタイプ

このように、鉄欠乏によりヘモグロビンが十分に作れないために起こる貧血を「鉄欠乏性貧血」といい、女性の貧血の原因の多くを占めます。

なお、鉄欠乏性貧血のほかにも、葉酸欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血というタイプの貧血があり、これらも多くはありませんが妊娠に伴う貧血としても起こることがあります。

貧血ではどんな症状があるの?

貧血の多くは無症状

貧血と聞くと、先ほど挙げた立ちくらみなどの症状が現れると思うかもしれませんが、実は貧血がかなりひどい状態にならなければ、自覚症状はありません。貧血がひどくなってきた場合でも、貧血でなくてもよく起こるような症状、例えば疲労、たちくらみ、ふらつき、動悸、頭痛などが現れるくらいです。

また、貧血がゆっくりと進行した場合は、体が慣れてしまうために、さらに自覚症状が感じられなくなります。

症状が現れるのは重度の貧血や急速に進行する貧血

貧血により症状が現れるのは、貧血が重いときと急速に進行したときです。貧血がある程度以上になると、すぐに息切れをしたり、階段を上れなくなったり、立ちくらみがひどくなったりします。

どうして妊娠すると貧血になりやすいの?

妊婦さんのイメージ
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ここまでは貧血に関する全般的な解説をしてきました。ここからは妊娠と貧血の関係について話を進めていきます。まずは妊娠するとなぜ貧血になりやすくなるのか、その理由についてです。

お産の時の出血に備えて、体の血液量が急に増えるから

妊娠中は、血液量(血漿、赤血球、白血球などすべてを含んだもの)が増えて、赤血球の濃度が薄くなってしまいます。

お産の出血に備えるために、体を巡る血の量は最終的には妊娠していないときよりも1000ml程度(30~40%)も増加します[*1]。もちろん、貧血を改善するために赤血球もどんどん作られるようになり、20%ほどは増加しますが[*2]、赤血球の増加よりも全体の血液量の増加の方が大きく、結果として赤血球が薄められてしまうので「貧血」になります。 それが妊娠中の貧血の大きな原因です。

また、多胎妊娠(双子などの妊娠)では、貧血がより起こりやすいことが知られています。

妊婦貧血とは

このようにして起こる、妊婦中に認められる貧血のことを「妊婦貧血」と呼んでいます。その診断基準はヘモグロビン(Hb)が11.0g/dL未満、またはヘマトクリット(Ht。血液中の赤血球の割合)が33%未満で、全妊娠の20%で起こるとされています[*3]。

つわりの影響も

つわりによって食べることがままならないと 必要な栄養を十分補給することができないことがあります。すると鉄分不足に拍車がかかり、貧血が助長されることもあります。

妊娠中の貧血。妊娠していない時と何が違う?

妊娠中の貧血が、非妊娠時の貧血と大きく異なる点は、赤ちゃんへの影響を考えなければいけないということです。もちろん、妊婦さんの健康を守るためにも必要に応じて治療を進めていきます。

赤ちゃんへの影響

妊娠中の母親の貧血が治療されずに長引いた場合には、低出生体重児のリスクが上昇する可能性が指摘されています。

貧血の対策・治療

鉄分豊富な食品のイメージ
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ここまでで貧血そのものと、妊娠中の貧血について解説しました。ここでは、貧血を予防するために、日常生活でどんなことに注意すれば良いかを紹介します。

基本は食事で鉄分などをできるだけ摂取すること

妊婦貧血を改善するためには、薄められた赤血球をたくさん作ることが必要です。そのためには、材料である鉄を十分に摂取することです。

鉄に限らず、妊娠中は赤ちゃんの成長や母親の健康を維持するために、栄養素の必要量が増加します。そのような変化の中でも特に鉄は、出産時の出血に備えた血液量の増加や胎児への鉄の供給などのため、妊婦の鉄必要量は妊娠していない女性の約2倍にも上ります[*4]。

鉄は非妊娠時、月経のある18歳以上の女性では一日に10.5mg摂取することが推奨されていますが、妊娠中はさらに多く摂取する必要があります。具体的には妊娠初期で9.0mg※、中期以降は16.0mg※の鉄を摂取することが勧められています[*5]。
※18歳以上の「月経なし」の鉄推奨量6.5mg+妊婦の付加量

鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があります。前者は動物性食品に多く比較的体内に吸収されやすく、後者は植物性食品に多く含まれますが吸収されにくいという特徴があります。だからといって肉食に偏ると、脂質やコレステロールの摂りすぎにつながります。また、 野菜や果物に豊富に含まれていて鉄の吸収を助けるビタミンCが不足してしまいます。 ですからどちらかに偏ることなく、バランス良く食べることが大切です。

鉄分以外にも、ビタミンB12・B6や葉酸を多く含む食材も積極的に摂取しましょう。例えば牛レバー、豚レバー(※1)、魚介類、貝類、卵黄、チーズ、大豆、納豆、ほうれん草、ブロッコリー、にんにく など もお勧めです。

・鉄分の摂取・吸収量を増やすテクニック
鉄分の多い食材を食べたとしても、実はそのうち体内に吸収されるのはヘム鉄で15~35%、非ヘム鉄で2~20%と言われています[*4]。 ですから少しでも鉄の吸収を高める“技”を組み合わせて食べるようにしましょう。

鉄分とともにビタミンCをとると、吸収が高まります。小松菜や牛肉、納豆、あさりなどは、鉄分とビタミンCがともに豊富な食材です。

また、鉄鍋を使って調理すると料理の中に鉄が溶け出して、鉄を多く摂取できます。 鉄は一度に吸収できる量に限りがあるので、なるべく回数を分けて食べるようにしましょう。

・鉄分を多く含む食品
鉄分を多く含むのは、豚レバー、鶏レバー(※1)、牛もも肉、きはだまぐろ、かつお、あさり、さんま、鶏卵、がんもどき、納豆、ほうれん草、小松菜などの食品です。

ちなみに、豚レバー(※1)の串焼き1本80gは10.4mg、ほうれん草のおひたし1人前50gは1mgの鉄を含んでいます[*6]。

※1:レバーは、妊娠中に過剰摂取すると赤ちゃんに先天異常を起こす可能性があるビタミンAを豊富に含むため、摂りすぎないように注意が必要です。

治療が必要な場合は鉄剤が処方される

なお、妊婦健診などで貧血が見られた場合は、その重症度によって鉄剤によって治療します。

貧血の重症度については、世界保健機関(WHO)がヘモグロビン11~10.9g/dLを軽症、7~9.9g/dLを中等症、7g/dL未満を重症としています[*7]。

軽症であっても、妊娠が進むにつれ貧血がより進行する可能性などを考慮して鉄剤を処方して治療することもあります。貧血が中等症であれば、さらなる重症化の予防と出産時のリスク低下のために治療を行います。重症であれば赤ちゃんと妊婦さんへの影響を抑えるため、すぐに治療を開始します。

鉄剤には内服薬と注射薬がありますが、通常は内服薬が使われます。
内服の錠剤には、吐気や嘔吐、食欲不振、便秘、下痢などの副作用があり、これらのために服用できない場合には、シロップ剤を使います。

重度の貧血で鉄の補充を急ぐ場合や、シロップ剤に変えても内服できない場合などには注射薬を使います。

過剰なサプリメント利用は勧められない

鉄はサプリメントとしても販売されています。鉄以外の複数の栄養素が含まれているものもあり、組み合わせによっては過剰摂取になることもあるので気をつけましょう。摂りすぎも摂らなさすぎも、どちらも良くありません。

また、サプリメントは薬と異なり、厳密な品質管理などが義務付けられていません。鉄に限らず、サプリメントは信用できるメーカーのものを利用しましょう。

まとめ

妊娠中には鉄欠乏を中心とするいくつかの理由で貧血になりやすくなります。日ごろから鉄分の多い食品をバランスよく摂って、予防に努めましょう。必要ならサプリメントも利用しましょう。妊婦健診中には定期的に貧血のチェックをしています。医師の指示がある場合には、処方された鉄剤などで治療していきましょう。

(文:久保秀実/監修:太田寛先生)

※画像はイメージです

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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