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2021年01月23日 15:12 更新

【助産師監修】母乳の栄養は食事に左右される? 発育への影響とメリット

わが子を母乳で育てたい。そう思うママは多いでしょう。ただ、母乳についての情報は玉石混交。だからこそ正しい知識を身につけることが大切です。ここでは母乳の栄養と食事の関係、発育への影響を解説します。

母乳のメリットとは?

母乳のメリットとは?
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赤ちゃんが生まれて最初に口にするもの、それが母乳(乳汁)です。
厚生労働省の調査によると、妊娠中に「ぜひ母乳で育てたい」「母乳が出れば母乳で育てたい」と回答した人は9割を超え、実際に母乳で育てているママの割合もここ10年で増加しています[*1]。

母乳のメリットは大きく5つ

母乳で育てたいと考えるママが増えている、その背景にあるのは、母乳のメリットが広く知られるようになったからでしょう。
母乳のメリットは、大きく次の5つに分けられます。

<赤ちゃんに対するメリット>
・赤ちゃんの体に最適な成分で消化しやすい
・感染症などの病気から守る

<ママに対するメリット>
・病気(卵巣がん、乳がん、子宮体がんなど)から守る
・産後の体の回復(子宮・体重)を早くする

<赤ちゃんとママ両方のメリット>
・絆を育む

初乳の役割は「感染防止」

初乳の役割は感染防止
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乳房のなかで妊娠の中期から少しずつ分泌の準備が始まり、 出産後2日ごろまで分泌されるのが「初乳」。

少し黄色みを帯びた半透明な液体で、タンパク質が豊富、ビタミン、ミネラルも多く含んでいます。ただ、初乳でもっとも特徴的なのは、赤ちゃんの免疫を助ける物質をたくさん含んでいること。 実は、初乳に求められる大きな役割は、「感染から赤ちゃんを守ること」なのです。

原則的に無菌の子宮から出てきた赤ちゃんの最大の問題は、細菌やウイルスなどの病原体に感染する可能性があることです。初乳に含まれるどんな成分がどのように赤ちゃんの体を守るのかは、次の項でくわしく解説します。

このほか、初乳は赤ちゃんが最初に出すうんち(胎便)の排出を助ける下剤としての働きも担っています。

どんな成分が感染を防止する?

初乳には 、免疫グロブリン、ラクトフェリン、オリゴ糖などの成分が含まれており、以下のような働きをしています。

免疫グロブリン
腸や気道に侵入した病原体から体を防御する役割を持ちます。

ラクトフェリン
ウイルスの活性化を抑えたり、免疫を調整したりするタンパクで、炎症を抑える作用があります。

オリゴ糖
ビフィズス菌の発育に必要な糖で、腸内で善玉菌を増やす働きがあります。それによって病原菌が粘膜から体内に入り込んだり、増殖したりするのを防いでくれます。

このほかにも、ビタミンA(ベータカロテン) やEなどの抗酸化物質、免疫細胞の白血球も多く含まれており、赤ちゃんを感染から守っています。初乳が「天然のワクチン」とも呼ばれるのは、こうした理由からです。

赤ちゃんの成長を支える「成乳」

赤ちゃんの成長を支える成乳
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一方、初乳のあとに分泌される「成乳」は、乳白色で不透明なのが特徴。いわゆるミルクの色に近くなります。
赤ちゃんの成長に必要なタンパク質や乳糖、ビタミン、脂質、ホルモン(成長因子など)などが多く含まれ、エネルギーは初乳より少し 高めです。

タンパク質は、初乳では免疫に関係するものが多く含まれていたのに対し、成乳には赤ちゃんの成長に欠かせず、かつ消化や吸収のよいカゼインという種類が豊富なことがわかっています。

脂質は、脳や視力の発達を助ける多価不飽和脂肪酸(アラキドン酸やドコサヘキサエン酸)が多いのが特徴で、これらは赤ちゃんの知能と神経が成長していくうえで重要な役割を果たしていると言われています。

母乳にアレルギーの予防効果はなし

栄養的にみると百点満点に近い母乳ですが、最近では、母乳にはアレルギーの予防効果は「ない」という考え方がスタンダードになっています。

厚生労働省の公表する「授乳・離乳の支援ガイド」は、妊産婦や子供に関わる保健医療従事者向けの指針ですが、2019年、12年ぶりに改正されました。その中で、複数の臨床試験をまとめて分析した報告を元に、「6カ月間の母乳栄養は小児期のアレルギー疾患の発症に対する予防効果はない」という記載が付け加えられました。

栄養豊富な母乳を出すためには?

赤ちゃんの健康と成長を母乳が支えていると知れば、どうしたら赤ちゃんにとってよい母乳を出せるか気になります。栄養豊富な母乳を出すためには何が必要なのでしょうか。

母乳と食事にまつわる情報は玉石混交

母乳は、ママの体を流れる血液の成分を元にして作られています。
ママが摂った食べものは胃や腸などの消化管で消化・吸収され、消化酵素によってブドウ糖やアミノ酸などに分解されてから、血液とともに全身に運ばれ、乳房にある乳腺組織に取り込まれて母乳となります。

このように、ママが摂った栄養はいったん分解されてから乳腺組織を経て母乳になります。母乳の成分は乳腺組織によってコントロールされており、食べたものによって母乳の成分が変わることはほとんどありません[*2]。塩辛いものを食べたら母乳がしょっぱくなる、甘いものを摂ったら母乳が甘くなる、ということは基本的にありません。つまり、食べたもの=母乳というような単純なものではなく、「○○を食べるとよい」といった情報は、信憑性が低いと考えた方がよいでしょう。

母乳の量を決めるのは授乳回数ということは分かっています。出産後できるだけ早いうちから、頻回に授乳したり搾乳すると、母乳の生産量は早く増加するのです。 もちろん個人差はありますが、授乳の回数が多いほどたくさんの母乳が作られます。これは乳房がどのくらい「空」になったかが、次回の授乳量の目安になるからです。

また、高脂肪食を食べるとおっぱいが詰まると言われることもありますが、これにははっきりとした根拠はなく、乳管の詰まりを防ぐには、食事内容よりも、赤ちゃんがきちんと母乳を飲みとることができるよう、適切な「抱き方、含ませ方」をしているかどうかのほうが大切と言われています。 母乳の出が気になったら、まずは適切な抱き方やおっぱいの含ませ方をしているか、確認してみるとよいかもしれません。

摂取エネルギー少し多め&十分な水分補給を

母乳育児では摂取エネルギー少し多め
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厚労省の「日本人の食事摂取基準」では、授乳中はいつもの摂取エネルギーよりも1日あたり350kcal増やすことが推奨されています[*3]。和定食やうどんなどで、軽めの食事を1食分増やすと、だいたい350kcalになります。朝昼晩の食事の中で少しずつ増やすのも良いですし、むずかしい場合は間食などで補うのも良いでしょう。

もう一つ大事なのは、水分摂取です。産後、授乳中はとくに水分不足になりやすいので注意が必要です。ヒトの体を構成する成分の約60%が水分とされ、1日に必要な水分量は、その人の活動量にもよりますが、およそ2.5リットルといわれています。このうちの4割程度は食事で摂取するため、水分としては1日1.2リットルくらいを目処に飲むようにします[*4]。

喉が渇いてから飲むのではなく、喉が渇いたと感じる前に早めに、こまめに水分補給するのが上手な水分補給のポイント。特に汗をかいて水分が不足しがちな、入浴後や起床時には意識して摂るようにしましょう。

タンパク、ビタミン、ミネラルをしっかり

食べたものによって母乳の成分が変わることはほとんどないと紹介したとおり、食事内容にあまり神経質になる必要はありませんが、バランス良く栄養を摂るよう心がけることは大事です。

授乳中のママにとくに必要な栄養素は、タンパク質、カルシウム、鉄などです。これらは通常時の摂取量に上乗せして摂ることが勧められています。肉や魚、卵、大豆・大豆製品、乳製品などのタンパク源のほか、緑黄色野菜、小魚、海藻、キノコ類などもしっかり食べましょう。

産後ダイエットのため、脂質を制限するママもいるようですが、授乳期には必須脂肪酸も必要で、EPAやDHAを摂るよう推奨されています。こうした成分が含まれる魚などはできるだけ食べたいものです。

母乳栄養で不足が気になるのは、ビタミンDとKです。
ビタミンDについては、2017年の日本外来小児科学会で「母乳で育てている赤ちゃんの75%がビタミンD不足」という結果が発表されました[*5]。ビタミンDは骨の発育を促す成分なので、不足すると骨の変形や成長障害を起こす「くる病」になるリスクが高まります。

ビタミンDは母親の摂取量が母乳中濃度に影響します。 ビタミンDが豊富な食べものは、魚や卵、キノコ類です。また、ビタミンDは食事からだけではなく、日光浴によって皮膚の上でも作られます。日焼けや皮膚への悪影響を心配して、帽子や日焼け止めにより紫外線を過剰に避ける生活を続けるとビタミンDが不足することもあります。そのため、散歩や外気浴で赤ちゃんが日光を浴びることも大切なのです。ビタミンDが不足しているのではと心配なときは医師や助産師に相談のうえで、必要に応じてサプリメントを利用するようにしましょう。

ビタミンKは、胎盤を通過しにくく、母乳中の含有量が少ないことから、乳児ではビタミンK欠乏症になることがあります。ビタミンKが欠乏すると、皮膚・粘膜・消化管や脳などから出血しやすくなります。そのため、赤ちゃんにはビタミンKシロップの投与が行われています。

母乳をあげているママには、母乳中のビタミンKを増加させるためにビタミンKを豊富に含む食品(納豆、緑黄色野菜)を摂取することが勧められます。 ビタミンKは初乳に含まれる濃度が最も高く、その後、成長とともに赤ちゃんの腸内で産生されるようになります。

まとめ

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栄養豊富で、赤ちゃんにもママにもさまざまなメリットがある母乳。母乳で育てたいと思うママが多いのは当然かもしれません。

一方で、理由があって母乳で育てるのがむずかしいママもいます。ただ、市販されている育児用ミルクも、国のガイドラインに基づいて作られているもので、赤ちゃんに必要な栄養素はしっかり含まれています。

大事なのは、母乳で育てるかミルクで育てるかではなく、そのママと赤ちゃんに合った方法で授乳 し、親子の絆を大切に、体と心の成長を見守ってあげられること。さまざまな情報に惑わされず、自分に一番合った方法で子育てをしたいものですね。

(文:山内リカ/監修:坂田陽子先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]厚生労働省, 平成27年度 乳幼児栄養調査結果の概要
[*2]水野克己監修『これでナットク 母乳育児』85p, へるす出版, 2014.
[*3]日本人の食事摂取基準(2015年版)参考資料1「妊婦・授乳婦」
[*4]厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動
[*5]クリニックばんびぃに「母乳だけで育つ乳児の75%がビタミンD不足(日経メディカルに掲載されました)」
[*6]厚労省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」
・ラレーチェリーグインターナショナル WHAT IS COLOSTRUM?(初乳とは)
・medela 初乳はなぜ大切なのでしょうか?
・medela 母乳の成分
・我部山キヨ子・武谷雄二:基礎助産学2 母子の基礎科学 第5版, 医学書院, 2016.
・水野克己、水野紀子:特集母乳育児の疑問 Mr.&Mrs.水野が一挙解決!, ペリネイタルケア, vol.38, No.3, 2019.
・母乳育児支援スタンダード, p85, 医学書院.
・新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症に対するビタミンK製剤投与の改定ガイドライン(修正版), 2011.

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、助産師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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