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2022年12月12日 16:58 更新

【助産師監修】授乳中おっぱいにできた「しこり」。気になる原因と対策を解説

授乳中はおっぱいにトラブルが起こりやすい時期。なかでも気になる症状といえば「しこり」でしょう。赤ちゃんへの影響も心配な上、がんなどの病気かどうかも気にかかります。そこで授乳中にできたしこりの原因と対策について解説します。

母乳が作られるしくみとは?

しこりができることもある授乳中の女性
Lazy dummy

しこりの原因について解説する前に、どうやって母乳ができるのか、その流れについて簡単に説明しましょう。

乳腺の発達、母乳の分泌にはホルモンが関係

ご存知の通り、母乳は乳房内にある乳腺という組織で作られます。

普段、授乳をしていないときは小さな乳腺ですが、妊娠中~授乳の時期は大きく発達します。

実際に母乳の産生が増加するのは出産後36~96時間ほどたってからですが、実はその準備は妊娠したときから始まっています。妊娠すると、女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)や、プロラクチン、ヒト胎盤性ラクトーゲンというホルモンが分泌されます。これらのホルモンは乳腺や母乳の通り道となる乳管の発達を手助けします。

そして出産を終えると、プロラクチンの作用が増して、母乳の分泌が始まります。併せて、このときに重要な働きをするのが、オキシトシンというホルモンです。乳腺の組織を収縮させて溜まった母乳を乳管から乳首(乳管口)へと送り出してくれます。

しこりは乳腺炎の症状の一つ

乳房のしこりを見つけたことで、不安な気持ちになるママも少なくないでしょう。ただ、この時期のしこりは「乳腺炎」という、ママが赤ちゃんに母乳をあげている時期(授乳期)に起こりやすい、乳房のトラブルであることが少なくありません。

では、乳腺炎とはどんな病気なのか見ていきましょう。

乳腺炎は大きく2種類

乳腺炎とは、その名の通り、乳房に何らかの炎症が起こった状態。大きく分けて2つのタイプがあります。

一つは、母乳の通り道である乳管が狭くなることで母乳の出が悪くなり、乳腺内に母乳が溜まり炎症を起こす「うっ滞性乳腺炎」、もう一つは、乳首の傷などが原因で細菌感染を起こす「急性化膿性乳腺炎」です。うっ滞性乳腺炎になると細菌感染を起こしやすいので、そこから急性化膿性乳腺炎にかかるケースもあります。

いずれのタイプの乳腺炎も、乳房にしこりができやすい病気です。

ちなみに、そのほかの症状としては、うっ滞性乳腺炎では腫れや痛み、赤みなどが、急性化膿性乳腺炎では腫れや痛み、赤みのほか、悪寒や高熱などが見られます。

乳腺炎にかかるママはけっこう多く、産後3ヶ月までにおよそ10人に1人、全授乳期間では3~5人に1人が乳腺炎にかかった経験があるそうです[*1]。

乳腺炎で起こるしこりへの対応は?

しこりを見つけたときは自己判断せず、一度、医師や助産師に相談を。そのしこりが乳腺炎によるものかどうか、確認することが大事です。

まずは溜まった母乳を排出する

乳房にしこりを感じるが授乳させようとしている女性
Lazy dummy

しこりの原因がうっ滞性乳腺炎であることがわかったら、まずは、しこりのある側から授乳を行い、乳房内に溜まっている母乳を排出してみましょう。これだけでも乳房の腫れがとれて、しこりやほかの症状が軽くなるはずです。

乳腺炎で勧められるマッサージを行う

出産後、授乳に向けて助産師さんから「おっぱいマッサージ」を教わっているママも多いと思います。

マッサージで溜まった母乳を出すという方法は一見よさそうです。ですが、教わったマッサージ法は母乳をたくさん作ることを目的に行うもので、乳腺炎を起こしているときにやってしまうと、デリケートになっている皮膚を傷つけたり、炎症を悪化させたりする恐れもあります。

乳腺炎にかかったときに勧められるマッサージもあるので、そちらを試すとよいでしょう。やり方は、「授乳中にやさしく乳頭に向けて乳房をなでていく」というもので、詰まっている部位の母乳の排出を促します。具体的な方法は、助産師に聞いてみましょう。

また、マッサージをする際は、手指を石けんでよく洗うなどして、清潔にしておくことも重要です。

医師の治療が必要なケースも

こうしたケアや対応を試みたのに、24時間たっても症状が良くならず、なかなかしこりが小さくならない場合は、急性化膿性乳腺炎にかかっている疑いがあります。急性化膿性乳腺炎になってしまうと、ママだけのケアや対応では難しくなるので、医師か助産師に相談し、必要な治療を受けるようにしましょう。

乳房に膿瘍が形成されている場合は、医師による外科的な治療が必要になることもあります。急性化膿性乳腺炎の診療では、まず超音波による検査などを行います。その上で膿瘍に注射針を刺して、溜まった膿を吸引する「排膿(はいのう)」が行われます。また、膿瘍の表面をメスで切開して、膿を出すという方法がとられることもあります。

乳腺炎以外のしこり

乳管閉塞や線維腺腫など、乳腺炎以外の病気が原因でしこりができることもあります。原因と対応について見ていきましょう。

乳腺炎以外でしこりができる病気とは?

乳腺炎以外でしこりができる主な病気は以下の通りです。

・乳管閉塞

乳管閉塞とは、母乳に含まれるカルシウムや脂肪のようなものが乳管につまった状態のこと。ボコボコした固いしこりが特徴です。早期であれば授乳前に乳房を温め、授乳をするといったケアだけで改善します。

・乳腺線維腺腫

良性の腫瘍で、弾力性のあるしこりが特徴。小さい場合などはそのまま様子を見ます(経過観察)。

・乳腺症

乳腺で多い良性の疾患です。はっきりとした原因は分かっていません。妊娠や出産にかかわらずできるもので、乳腺を硬く触れることから触診だけでは乳がんと区別が難しいことがあります。

乳がんのしこりか心配……

しこりといえば乳がん? そう不安に思うママもいるでしょう。

実際、妊娠中や授乳中でもがんができることがあり、割合は低いものの、授乳中のママに乳がんが見つかっています。進行した乳がんでは、乳房にくぼみができたり、乳頭から血性の乳汁が出たり、乳頭・乳房にただれなどの症状が起こることがあります。

授乳中の乳がん(しこり)の見つけ方

乳腺組織が発達している授乳中は、乳がんのしこりは発見しにくく、見つかったときには進行していることもあります。しかも、授乳中はふだんと比べてセルフチェック(自己触診)がむずしくなるので、気になるしこりがあったら、一度、乳腺外科などで相談を。

授乳中でも乳がん検査は受けられる?

授乳中でも乳がんの検査や乳がん検診を受けることは可能です。

ただ、授乳中の乳腺組織は発達していて乳腺濃度が高いため、マンモグラフィーによるチェックが難しいこともあります。この時期は超音波検査を用いたほうが乳がんを発見しやすいといわれています。

乳腺外科を受診したときは、授乳中である旨を必ず担当の医師に伝えるようにしましょう。

まとめ

今回は、授乳時にできやすい乳房のしこりの原因と対策について、解説してきました。女性にとって胸のしこりは、妊娠、授乳時にかかわらず、つねに気になる症状の一つ。まして、初めての出産、授乳であればなおさらです。こうした不安が子育てにも影響を与えてしまうこともありますので、ちょっとした気がかりでもそのままにせず、医師や助産師に相談をすることが大切です。

(文:山内リカ、監修・解説:坂田陽子先生)

※画像はイメージです

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、助産師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

参考文献
[*1]日本産科婦人科学会「Baby+お医者さんがつくった妊娠・出産の本」p103

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