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2022年12月05日 14:41 更新

【医師監修】妊婦が温泉に入る時「守るべき8つのこと」とは…妊娠初期は?露天はNG?

「温泉旅行でも行こうよ」なんて言葉がまるで挨拶のように交わされるほど、日本人は温泉好きです。「子どもが生まれて忙しくなる前に温泉でゆっくりしたい!」と思う妊婦さんも少なくありません。妊婦さんが温泉に入るとき、気を付けたいポイントを確認しておきましょう。

「妊婦は温泉に入ってはいけない」ってほんと?

妊婦でも温泉に入ることができる
Lazy dummy

腰痛や肌荒れなど妊娠中のマイナートラブルに悩まされている時、温泉に入ってゆっくりしたいと思う人もいるでしょう。しかし一方で心配になるのは、母体やおなかの赤ちゃんへの影響です。普段は問題ないことでも、妊娠中はNGなこともあります。では、妊婦さんが温泉に入ることはどうなのでしょうか?

妊娠中でも温泉に入って大丈夫

結論から言うと、妊娠中に温泉に入ってはいけないということに医学的な根拠はありません。
ただし妊婦さんは普段よりさまざまなことから影響を受けやすい状況にあるのは確かなので、この記事で解説する注意点を把握した上で温泉を利用しましょう。

以前は法律で「禁忌」とされていた

日本には温泉資源を守ったり、適切な温泉利用をすすめるために「温泉法」という法律が定められています。そして、意外に思われるかもしれませんが、なんと、ごく最近まで温泉法では妊娠中(とくに妊娠初期と末期) の女性の温泉浴は「禁忌」とされていたのです。「禁忌」とは、「やってはいけないこと」という意味です。

この法律は戦後すぐに作られた法律でした。しかし、産まれて最初の沐浴からずっと温泉を使っている大分県別府市の産科医などが「温泉が妊婦に良くない」という根拠はないとして、その理由を検証するように訴えました。結局、妊婦を温泉浴の禁忌症とする医学的根拠はないことがわかり、2014年の法改正で禁忌ではなくなりました。

温泉で湯あたりした妊婦
Lazy dummy

妊婦さんが温泉に入るときに守ってほしい8か条

妊娠経過にとくに問題がなく、切迫流産・早産などの心配があまりない妊婦さんが、近場の温泉に入浴する分には比較的安全と考えられます。ただ、出血や腹痛など、突然何かが起こっても不思議ではないのが妊婦さんの体です。心身ともにリラックスできる温泉を上手に利用するために、妊婦さんが気を付けたい点をまとめておきます。

1. 長時間移動・遠出を避ける

身体の負担を考え、遠方絵の旅行など長距離の移動は避けましょう。また出かけるときは、必ず母子手帳を携帯しましょう。

なお、出産が近づいたらいつ陣痛が起きてもいいように、出産予定の産院にすぐにいける距離での行動にとどめましょう。

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臨月のお出かけについて、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎「臨月の外出ルール」4つ

2. 衛生的な温泉施設を選ぶ

温泉は自宅のお風呂と違い不特定多数の人が出入りするので、お湯や椅子などを介して感染症がうつる可能性があるかどうかも気になるところです。

妊婦さんはそもそも、免疫の働きがいくらか抑制されています。とはいえ、温泉入浴することが外陰や腟、子宮の感染症を増やすことは証明されておらず、それを否定する学会報告もあるとしている専門家もいて[*6]、温泉水を介した感染はあまり心配しなくても良さそうです。

ただし、できるだけ衛生的に管理されている施設を選び、洗い場の椅子や洗面器などはよく洗い流してから使用するようにしましょう。

3. 熱すぎる/ぬるすぎる湯は避ける

湯舟の温度が42℃以上の熱いお湯、または30℃以下のぬるすぎるお湯では、交感神経が刺激され血圧が上昇するため、妊婦さんはとくに避けるべきでしょう。40~41℃のお湯に10分程度つかり、1日2回を限度に入浴するのが良いとされています[*1]。

なお、冬の露天風呂、雪見風呂はとても風情があるものですが、外気温とお湯の温度の差が大きく、体感温度が急変するため、これも妊娠中は避けた方が無難です。

4. 浴室内や脱衣場では転倒注意

妊娠中は血圧が不安定になります。さらに入浴後は一時的に血圧が下がってのぼせるため、浴場や脱衣スペースで転倒するリスクが高まります。また、温泉施設は自宅の風呂よりも広く、慣れていないことも、転ぶ危険性を増やします。泉質によっては床がヌルヌルしていることもあります。

加えて、おなかが大きくなってくると、からだの重心が偏るため、それもまた転倒しやすくする原因です。

温泉施設に行ったときは、できるだけマットが敷いてあるなどの滑りにくいスペースを歩くようにし、また入浴直後はすぐに立ち歩かず、しばらく座椅子に座ってのぼせを覚ましてから動くようにしましょう。

5. 1人での入浴を避ける

妊婦さんは普段より血圧が低めになっています。また、温泉で温まるとさらに血圧は下がりやすくなります。加えて、妊婦さんはもともと起立性低血圧による立ちくらみも起こりやすくなっています。ふらついた時に支えてもらえたり、万が一、倒れてしまってもすぐに見つけてもらえるよう、できれば一人ではなく、家族や友人と入浴することをおすすめします。

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妊娠中のふらつきについて、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎妊娠中にめまいがおこる原因は?貧血だけではない?

6. 長湯は避ける

温泉かそうでないかに関わらず、40~41℃の湯舟に10分入浴すると妊婦さんの深部体温(環境の変化を受けにくい、からだの内部の体温)が一時的に1.0~1.5℃上昇します。これに伴って、おなかの赤ちゃんの心拍数や臍帯血流量も増加します。これは赤ちゃんの体温が上がりすぎるのを防ぐために起こる変化と考えられています[*1]。

なお、いくつかの動物実験では、妊娠初期に母体の体温が38℃以上になると、胎児の神経系に影響を及ぼすという報告があります[*2]。また、ヒトでも、母体が発熱している場合は、胎児の酸素需要量が増加し、通常より胎児機能不全となりやすい可能性があるとも言われています[*3]。

しかし、40~41℃の湯舟に10分など、通常の入浴の仕方であれば体温が長時間38℃以上になることはほとんどなく心配ないとされています [*4]。

ただし、経産婦(出産経験がある妊婦)では、10分以上の入浴をしていた妊婦さんで切迫流産による入院が有意に増加したという報告もあり、この点からも妊婦さんが温泉につかるのはだいたい10分以内にしておいたほうが安全と言えそうです[*5]。これも、通常のお風呂でも同じことが言えます。

7. こまめに水分補給する

妊娠中は血液が固まりやすくなっています。それは、出産のときに胎盤がはがれ出血することに備えるからだの自然な変化と考えられていますが、この傾向があるために妊婦さんは血管の中で血液が固まってしまうことがあり、その結果として脳梗塞などの重大な病気が引き起こされる可能性があります。

長時間の温泉浴や入浴によって、発汗のためにからだが脱水状態に近づくと、血液の固まりやすさが助長されます。これを防ぐため、こまめに水分を補給するようにしてください。また、サウナに入るのはやめましょう

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妊婦の水分補給や岩盤浴について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎妊婦はどうして喉が乾くの?妊娠中に必要とされる水分の量とは
関連記事 ▶︎妊婦は岩盤浴をやってはいけない?サウナは?

8. 少しでも体調が悪い時は入浴を諦める

食事のすぐ後や寒暖差の激しい時は、入浴を避けてください。また、熱があるとき、出血があるとき、お腹の張りがあるときも避けた方が良いでしょう。迷うときは、まず、医師の診察を受けてください。

まとめ

温泉に入ると、心からリラックスできたと感じる女性は多いのではないでしょうか。妊娠中も楽しみたい温泉ですが、妊娠していないときと比較して、やはり気を付けたい点がいくつかあります。過度に怖がる必要はありませんが、何かあってから後悔するのではなく、何事も事前にリスクの可能性を知っておけると安心ですね。ここでお話ししたポイントを把握したうえで、お腹の赤ちゃんとともに湯の香を心ゆくまで楽しみましょう。

(文:久保秀実/監修:太田寛先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]東京医学社「周産期医学」増刊「周産期相談300 お母さんへの回答マニュアル」,1998,p.184
[*2]日本旅行医学会学会誌2(1),2004,p.100
[*3]日本産科婦人科学会, 産科婦人科診療ガイドライン 産科編, p159
[*4]南山堂「治療」増刊「こんなとき先生ならどう対応しますか―プライマリケア診療で困ったときに―」,2002,p.327
[*5]日温気物医誌67(3),2004,p.173
[*6]妊婦と温泉, 日産婦医会報, 平成22年2月号

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

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