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2021年01月23日 12:55 更新

【助産師解説】「完全母乳」ってなに?混合から母乳のみへの移行は?

「完全母乳」という言葉や、それを略して「完母」と表現するのをよく耳にするママも多いことでしょう。この「完全母乳」という言葉、実はとても勘違いしやすいものなのです。今回は意味と考え方について解説するとともに、母乳が足りない時の対応、混合栄養から母乳のみへの移行など、母乳育児にまつわる気になる疑問に助産師が解説します。

完全母乳という考え方とメリットについて

完全母乳で授乳するママ
Lazy dummy

世界保健機関(WHO)やユニセフの母乳育児推奨を受け、日本の厚生労働省でも母乳育児をすすめるようになったことから、「できれば母乳で育てよう」という考え方が広まるようなりました。多くの産婦人科でこれに賛同し、完全母乳で育てられるよう積極的な指導に取り組むようになったこともあり、完全母乳での育児はここ10~15年で大幅に増えています[*1] 。

では、母乳育児を推奨するのにはどのような理由があるのでしょうか。まずは“完全母乳”という考え方と、そのメリットについてお伝えします。

「完全母乳」という言葉に惑わされないで

“完全母乳”という言葉だけを見ると、産まれてから1度もミルクを与えずに母乳だけで育てるという意味になり、実際に多くの方がそのようなイメージを持たれると思います。中には、完全母乳という言葉にプレッシャーを感じたり、焦りを感じてしまう人もいるのではないでしょうか。

1滴もミルクを与えないことがいいのではなく、ママと赤ちゃんに最適の栄養方法を自信を持って行うことが大切です。完全母乳という言葉に惑わされないでくださいね。

そもそも、母乳育児に“完全”という考え方はナンセンス。たった1回であっても母乳を飲ませられれば、それはその家庭にとってかけがえのない母乳育児となります。逆に、何かしらの事情で一度も母乳を飲ませられなかったとしても、それもまた赤ちゃんとママにとっての最善の選択の結果です。

栄養方法は、完全母乳か、混合か、完全ミルクかという三者択一の問題ではなく、自然な生活の営みのひとつです。どのような方法でも、ママと赤ちゃんにもっとも適した授乳であれば、それが一番ということを忘れないでくださいね。

母乳が赤ちゃんにもたらすメリットとは?

では、なぜ“完全母乳”という言葉や、できるだけ母乳で育てようという考え方が世に広まるようになったのでしょうか。これは、母乳育児が赤ちゃんの発育に良い影響をもたらすことが、研究に明らかになってきているためです。

このような理由から、WHOやユニセフの推奨を受け、日本の厚生労働省でも母乳育児を積極的にすすめるようになりました。

母乳が赤ちゃんにもたらす具体的なメリットには、主に以下のようなものがあります。

・母親からの免疫をもらえるので、感染症のリスクを減らすことができる。
・乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクを軽減できることが示唆されてる。
・ママの温もりで赤ちゃんが安心感を得られる。

この他、早産児の場合は壊死性腸炎、敗血症、慢性肺疾患などのリスクを下げる効果もあることが研究によりわかっています。

母乳がママにもたらすメリットとは?

母乳育児は赤ちゃんだけでなく、ママにも良い影響をもたらします。主には以下のようなメリットがあげられますね。

・子宮収縮を促し、産後の回復を早める。
・乳がん、卵巣がん、子宮がんの予防が期待できる。
・産後の体重戻しにも効果的。
・手間をかけずに授乳できる。
・経済的な負担が少ない(ミルク代がかからない)。

母乳育児にはデメリットも?

ママや赤ちゃんの健康においてさまざまなメリットがある母乳育児ですが、逆に負担と感じることもあるかもしれません。

・哺乳量がわかりにくいので、赤ちゃんがしっかり飲めているか(量が不足していないか)わかりづらい。
・乳房や乳頭のトラブルが起こる可能性がある。
・アルコールやカフェインなど、飲食に注意が必要なものがある。
・一部、服薬の制限があるものも。
・赤ちゃんを長時間預けにくい(授乳の負担が大きい)。
・外出先での授乳場所が制限される。

乳房のトラブルについては生活に気をつけることで回避することもできますが、授乳を続けるかぎりそのリスクは常に付きまとうことになりますね。

また、授乳を他の人に変わってもらうということがしにくいので、夜間授乳などの負担がミルクより大きくなります。赤ちゃんを預けて1人で息抜きを…というのも、なかなかしにくいかもしれません。

母乳のみに移行できるのはいつから?授乳間隔とミルクの足し方

完全な母乳でも授乳にこだわらないママ
Lazy dummy

母乳は最初から十分な量が出るわけではありません。赤ちゃんに何度も吸ってもらうことで分泌量が増えていき、徐々に母乳の量が増えていきます。初めの時期は母乳だけで足りているのか不安になるママがとても多いです。

母乳の分泌が安定してくる一般的な時期

母乳は、一般的に産後36~96時間くらいで分泌が増えてきます。その後、産後10日ほどで母乳を作る工程が安定し、2~4週頃に分泌量が安定してくるのが一般的です。

それまでは、赤ちゃんに必要な量の母乳が出ないこともあるかもしれません。母乳不足の原因がわかれば、対処することで母乳の分泌量は増えていきます。もし、この時期に母乳栄養が軌道に乗らなかったとしても、母乳をあげることを諦める必要はありません

ママの気持ちを分かってくれる家族や医師・助産師に相談し、支援をしてもらいましょう。

この頃の授乳間隔は?

新生児期(生後1ヶ月まで)は2~3時間おきの、1日8~12回の授乳が目安となります。

ただ、哺乳量には個人差があり、それより短くなることもありますので、あまり神経質にならないでください。母乳の場合は特に飲みたいだけ飲んでも問題なく、むしろ吸われるほど分泌が促されるので、この頃は赤ちゃんがほしがるときにあげることを基本としてください。

赤ちゃんの哺乳力がついて飲むのも上手になってくる生後3ヶ月頃になると、一度にたくさんの量を飲めるようになることで授乳間隔も開いてくるのが一般的です。

母乳が足りない時期のミルクの足し方と注意点

産後10日以降になると、左右それぞれの乳房で作られる母乳の量は、赤ちゃんが飲みとったり、搾乳によって排出される量によって決まってきます。つまり、前回の授乳でどれくらいの量の母乳が乳房から排出されたかで変わってくるということ。そのため、母乳の分泌が安定するまでは、できるだけ赤ちゃんに頻回に吸ってもらうようにし、不必要なミルクを足さないよう注意しましょう。ミルクの量が多すぎると、乳房から吸われる量が減ることで母乳の分泌が滞る可能性があります。

まだ母乳だけでは足りない場合は、退院時に助産師からミルクの補足についてアドバイスをもらえるはずなので、わからないときは、ためらわずに相談しましょう。また、体重の増加量もひとつの目安となります。

<乳児の1日あたりの体重増加目安>[*2]

・0~3ヶ月…30~25g
・3~6ヶ月…15~20g
・6~9ヶ月…10~15g


毎日測る必要はありません。哺乳量が足りているか、まだミルクを足す必要があるかを確かめたいときは確認し、補足量の参考にするといいでしょう。

そもそも、産まれた直後の赤ちゃんの胃はとても小さいです。例えれば、赤ちゃんのおおよその胃のサイズは以下のようになります。

・1日目…さくらんぼくらいの大きさ(5~7ml)
・3日目…くるみくらいの大きさ(22~27ml)
・7日目…アプリコットくらいの大きさ(45~60ml)
・10~14日目…XLサイズの卵くらいの大きさ(80~150ml)


イメージしてみると、本当に小さいことがわかりますね。出産直後は母乳が少量しか出ないですが、これは赤ちゃんの胃のサイズにほぼぴったりなんです。出産直後は一度にたくさん飲めなくても、少量ずつの母乳を頻繁に飲むことが大切です。

まとめ

母乳育児は赤ちゃんとママに多くのメリットをもたらすことが研究により明らかになっています。赤ちゃんに母乳をあげたい、できれば母乳で育てたいというママはできるだけ母乳を飲ませてあげられればいいでしょう。「完全母乳」という言葉に惑わされなくて大丈夫です。赤ちゃんに必要な時、ママの状況で必要な時には、必要な分のミルクを足したり臨機応変に対応しましょう。赤ちゃんとママにとって、もっともストレスのない授乳方法をつくっていけることが一番ですね。辛いときは気持ちを分かってくれる家族や助産師・医師に相談し、支援を受けてくださいね。

参考文献
[*1]厚生労働省「平成27年度 乳幼児栄養調査結果の概要」
[*2]「ペリネイタルケア2017年夏季増刊 乳房ケア・母乳育児支援のすべて」(メディカ出版)P147

水野克己ほか「これでナットク母乳育児」(へるす出版)
「母乳育児スタンダード」(医学書院)
水野克己「母乳育児支援講座」(南山堂)

(文・構成:マイナビウーマン編集部、監修・解説:坂田陽子先生)

※画像はイメージです

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、助産師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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