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2021年01月27日 14:22 更新

【医師監修】妊婦の高熱は危険?胎児へ影響はある? インフルエンザなど妊娠中の発熱について

妊娠中はマイナートラブルを含め体調は変化しやすいものです。熱は体調のバロメーター。熱が出るということは、体の中で何かしら普段とは違うことが起きているということです。それは妊娠に伴う自然な変化なのかもしれませんし、病気の徴候かもしれません。今回は、妊娠中の発熱の原因と対処法を解説します。

妊娠すると熱が高くなる? ~生理的な体温の変化~

熱っぽくて体温を計る妊婦
Lazy dummy

女性の体温は月経(生理)周期に合わせて変化しています。妊娠しやすい時期を知るために基礎体温(朝の覚醒安静時の体温)を毎日測定されていた人もいるでしょう。まずは、妊娠と基礎体温の関係について簡単に解説しておきます。

女性の生理周期と基礎体温

女性の(基礎)体温の周期的な変動は、ホルモンバランスの影響によるものです。

生理のスタートから排卵までの間、卵巣では卵胞が成長し女性ホルモン「エストロゲン」の作用によって子宮内膜が厚くなります。卵胞が成熟すると、その壁が破れて卵子が排出される「排卵」が起こります。ここまでの期間が「低温期(低温相)」です。

排卵後から次の生理までの約2週間はもう一つの女性ホルモン「プロゲステロン」の分泌が高まります。プロゲステロンは、妊娠を維持する、つまり、おなかの中の赤ちゃんを育てるのに適した環境を整える働きをもっています。その作用によって子宮内膜はさらに厚くなり、着床しやすい状態になります。

そしてまた体温もプロゲステロンの作用により高くなります。つまり、排卵後から次の生理までが「高温期(高温相)」です。

月経周期と女性ホルモン説明図

妊娠すると基礎体温はしばらく高いまま

妊娠しなかった場合、子宮内膜が剥がれ落ちて生理になります。

一方、妊娠が成立すると、プロゲステロンの分泌が続くため生理は起こらず、高温期が続くことになります。

生理周期の高温相が17日以上続いたとしたら、妊娠している可能性があります[*1]。さらに3週間以上、高温相が続いたらほぼ妊娠と診断可能と言われています[*2]。

妊娠中の病的な原因による発熱

ここまでは妊娠に伴う生理的な体温の変化についてお話ししましたが、ここからは病的な発熱について話を進めます。

妊娠中は免疫が低下する

妊娠すると、女性の体には多くの変化が現れます。「免疫の低下」もその一つ。

免疫とは、体の外から侵入した病源体などや、体内にできた異物を「自分とは異なるものだ」と識別して、それを排除しようとする仕組みのことです。免疫の仕組みがあることで、感染症にかかるのを防いだり、かかっても重症化しないようにできるのです。

ところが妊婦さんのおなかの中の赤ちゃんも、自分の子供ではあるものの母親の体にとってはある意味で“異物”のようなもののため、それを排除しようとする免疫が作用するのは好ましくありません。そこで、妊娠中にはあえて免疫の力を低下させます。そのため妊婦さんは感染症にかかった際、重症化のリスクがあると考えられます。

妊娠中に注意が必要な「発熱する病気」

このような理由から妊婦さんはすべての感染症に注意が必要と言えますが、妊娠中の発熱の原因として特に注意が必要なのは以下の感染症です。

うつる感染症(伝染性感染症)

風邪、インフルエンザ、麻疹(はしか)、風疹、水痘(みずぼうそう)などは、人からうつる感染症です。これらのうち、麻疹や風疹、水痘は、赤ちゃんへ影響が現れることもあります(後で少し詳しく解説します)。

うつらない感染症(非伝染性感染症)

腎盂腎炎(じんうじんえん)などの尿路感染症も妊娠中に多い感染症です。感染症といっても、これらは人から人にうつることはありません。

妊娠中に尿路感染症になりやすいのは、増大する子宮に尿路が圧迫され尿がうっ滞して細菌が体外から入り込みやすくなることや、妊娠ホルモンにより尿管蠕動が低下し尿がうっ滞することが関係しています。

腎盂腎炎では高熱以外に悪寒、腰痛などが現れます。腎盂腎炎は流産や早産のリスクであり大変危険なので、このような症状が現れたら早めに医療機関を受診してください。

なお、膀胱炎が腎臓に波及して腎盂腎炎になることも少なくありません。膀胱炎の段階で発熱すことはまれですが、排尿痛、頻尿※、尿の濁り、異臭、血尿などは膀胱炎が疑われる症状です。早めに診察を受けてください。

※頻尿は通常の妊娠中にもみられます

妊娠中の発熱、その他の原因

つわり、妊娠悪阻で体温が上がることも

妊娠中の体の不調と言えば、妊婦さんの50~80%が経験する[*3]と言われる「つわり」を無視できません。

つわりの主な症状は吐き気や嘔吐などの消化器症状ですが、暑さ(または寒さ)の変化に敏感になる妊婦さんもいます。また、つわりの重症型である「妊娠悪阻」で発熱することがあります。妊娠悪阻は入院治療が必要です。

甲状腺機能亢進症による微熱

のどにある甲状腺からは、体の新陳代謝や内臓の働きを活発にするホルモンが分泌されています。そのホルモンの作用が亢進する(機能が強まる)「甲状腺機能亢進症」では、症状の一つとして、微熱がみられることがあります。甲状腺機能の異常は(亢進の反対の低下も含めて)、妊娠しやすい年齢の女性に頻度が高い病気です。

妊娠中の発熱。赤ちゃんへの影響は?

妊娠中の発熱による赤ちゃんへの影響は、「発熱そのものによるもの」と「発熱の原因である病気(主に感染症)によるもの」の2つが考えられます。

高い熱が長く続くと赤ちゃんへ影響することも

おなかの赤ちゃんの体温は主に羊水を通じて発散されているため、母親が発熱した場合は発散の経路が妨げられてしまいます。母親の発熱が長引くと赤ちゃんにも何かしらの影響が起きる可能性も否定できません。

具体的に、妊娠初期において39.5度以上の高熱が流産のリスクとなったり、妊娠後期の発熱が切迫早産のリスクとなるとする報告もみられます[*4]。また、熱に加えて激しい咳がある場合は腹圧がかかるため、特に注意が必要です。

赤ちゃんへの影響が現れる可能性がある感染症

発熱の原因が感染症の場合、病気自体が妊娠の継続や胎児・新生児に影響を及ぼすことがあります。

例えば妊婦さんが麻疹(はしか)にかかると30~40%が早産や流産になるとされています[*5]。風疹では生まれてきた赤ちゃんに、難聴、白内障、網膜症、緑内障、心臓の病気などが起こり得ます。

水痘(水ぼうそう)では、先天性水痘症候群といい、眼の異常や手足の形成不全などが起きることがあります。妊娠中にこれらの感染症にかからないように、できるだけ対策を立てましょう。

妊娠中の発熱、正しい対処法

熱が出て不安そうに体温計をみる妊婦
Lazy dummy

発熱! まず医療機関へ

微熱であれば1~2日ぐらい様子をみても構いません。しかし38度を超えるような高熱や、なかなか下がらない場合は医療機関を受診してください。

受診の際の注意点

妊娠中の病気の診断・治療には特別な配慮が必要です。通院中の産婦人科以外の医療機関を受診する場合は、必ず自分から妊娠していることを伝えましょう。

また、来院している患者さんから他の感染症をうつされてしまうリスクを下げ、自分も他の人にうつしてしまうリスクを抑えるためにも、受診の際にはマスクを着用し、帰宅後は手洗いをしましょう。

水分を十分にとる

熱が出た時は水分摂取を心がけてください。発熱に伴う発汗のため水分が失われるので、十分に補給しなくてはいけません。

さらに体調不良で食べられない時は、より積極的に水分を摂取するようにしてください。体の中に入ってくる水分は、飲み物の水分ばかりではなく、食べ物に含まれている水分も意外に多く、その量は1日1Lほど。

これは飲み物からの水分量に匹敵します[*6]。仮に1日何も食べなければプラス1Lの水分を飲み物から補う必要があるということです。

自己判断では薬を飲まない

熱が出た時、「すぐに医療機関を受診するよりも、まず市販薬を」という人も少なくないでしょう。通常はそれでよくても、妊娠中の薬の使用は胎児への影響を十分考慮しなければいけません。

特に妊娠初期は、赤ちゃんの身体の構造の基本がかたち作られている器官形成期なので、薬の種類によっては影響が強く現れやすくなります。

すべての薬が問題となるわけではありませんが、妊娠中の自己判断による薬の服用は控えましょう。

防ぐことができる感染症を予防する

予防接種は妊娠前に受けておきましょう

前述の麻疹、風疹、水痘にはワクチンがあり、予防接種により高い確率で感染を防ぐことができます。しかし、これらのワクチンは「生ワクチン」といって、ウイルスの毒性を弱めたもののため、妊婦さんへの接種はできません。ですから、妊娠する前に抗体検査を受け、抗体が低いものについては予防接種を受けることが望ましいでしょう。

なお、インフルエンザのワクチンはウイルスの感染力を失わせてあるので(不活化ワクチン)、妊娠中にも受けることができ、発症後の重症化を防ぐ効果と、ある程度の予防効果が期待できます。

手洗いなどの感染予防対策をしっかりと

感染症予防のため、こまめに手を洗うようにしましょう。また、流行シーズンには、なるべく人混みへの外出を控えた方が無難です。

このような感染症予防対策は、妊婦さん本人だけでなく、家族ぐるみで実践してください。

まとめ

妊娠中は感染症にかかりやすく、その症状として熱が出ることがあります。速やかに治療することが必要な場合もあるので、自己判断で薬を使用したりせず、早めに医師の診察を受けましょう。

(文:久保秀実/監修:齊藤英和先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]医学書院「標準産科婦人科学」第4版,p429
[*2]日産婦誌62巻6号p11-12研修コーナー/不妊・内分泌
[*3]メディックメディア「病気が見えるvol.10産科編」(第4版)p.86
[*4]メルクマニュアル/妊娠中の発熱
[*5]東京医学社「周産期医学」増刊「周産期感染症2014」p181
[*6]長寿科学振興財団/水は1日どれくらい飲めば良いか

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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