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2021年01月27日 17:10 更新

【医師監修】妊婦の下痢、考えられる原因 薬はOK?流産の心配は?

妊娠中は便秘になりやすいと言われますが、下痢になることもあります。妊婦さんに起きる下痢の原因は実にさまざま。治療の緊急性は高くないことが多いとはいえ、軽視していいわけではありません。妊娠中の下痢の原因や正しい対処法を理解しておきましょう。

妊娠中に下痢しやすいのはなぜ?

妊娠して下痢気味になりトイレに座る女性
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便秘、下痢……妊娠中はおなかの状態が乱れがち

妊娠すると、母体には心身共に多くの変化が現れます。例えば、昼間に眠くなったり、暑さや寒さに敏感になったり、涙もろくなることもあります。おなかの状態が乱れがちになることも、妊婦さんによく起こる変調です。妊娠中のおなかの不調として多いのは便秘ですが、下痢が起きることもあります。

妊娠中に下痢しやすくなる理由

・ホルモンの影響で下痢になりやすくなる

妊娠に伴うおなかの不調は、女性ホルモンの一つ「プロゲステロン」の分泌が増えることが影響しています。プロゲステロンには腸の蠕動運動(ぜんどううんどう:便などを移動させる動き)を抑える働きもあり、これは便秘につながります。一方、妊娠で起こるホルモン分泌の変化が自律神経のバランスの乱れにつながり、その結果として下痢が起きることもあります。

・つわりの時の食事で下痢になることも

妊娠初期に起きる「つわり」は、妊婦さんの50~80%が経験すると言われています[*1]。

つわりにはいろいろな症状があり個人差もありますが、多いのは吐き気や嘔吐などの消化器症状です。つわりの吐き気のために食欲がないときは、食べられそうなものを食べられるときに食べられる分だけを口にすることが第一です。

その際に冷たいアイスなどを食べ過ぎてしまうと、下痢をすることもあるでしょう。

なお、下痢を起こしやすい食べ物としては、冷たい食べ物・飲み物のほかに、脂っこい物や味付けが濃くて刺激の強い物が挙げられます。

・ストレス、薬……そのほかの下痢の原因

妊娠に伴う心理的な変化やストレスの影響によって下痢が起きることもあります。また、妊娠後期には赤ちゃんが大きくなる分、鉄分の需要が増えるため貧血になりやすくなり、治療として鉄剤が処方されることがありますが、その副作用で下痢になることもあります。

妊婦の下痢で受診したほうがいい場合

妊娠して下痢が多くなり、医師の問診を受ける妊婦
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下痢は日常よく起こるマイナートラブル(ちょっとした異常)であり、多くの場合それほど深刻に考えなくてもいいのですが、下痢が長引く場合や以下に該当するケースでは、治療が必要となる可能性があるので、医師の診察を受けてください。

下痢以外の症状を伴うとき

・嘔吐、腹痛、発熱など

ウイルスや細菌の感染症、または消化器疾患による下痢の可能性があります。原因にあわせた治療とともに、感染症の場合は周囲の人へうつさないようにする注意が必要です。

・性器出血

性器からの出血がある場合は、切迫流産などの可能性があります。

切迫流産とは、おなかの中で赤ちゃんは生きていて、かつ子宮口は閉鎖していますが、流産の可能性がある状態のことで、性器出血のほかに下腹部痛や緊満感(おなかが張る感じ)、腰痛などが現れたりします。

正常に妊娠が続くこともありますが、そのままにしておくと流産になる危険もありますので、妊娠週数や症状などに応じて、安静にしたり薬による治療が行われたります。

甲状腺機能亢進症による下痢

のどにある甲状腺からは、体の新陳代謝や内臓の働きを活発にするホルモンが分泌されています。そのホルモンの作用が亢進する(機能が強まる)「甲状腺機能亢進症」では、症状の一つとして、下痢が起こりやすくなることがあります。

甲状腺機能の異常は(亢進の反対の低下も含めて)、女性が妊娠しやすい年齢に頻度が高い病気です。

妊娠中の下痢、赤ちゃんへの影響はある?

下痢と流産の関係

妊娠中に下痢をすると、流産してしまうのではないかと心配される妊婦さんは少なくありません。しかし、“下痢という症状”が流産の原因になることはまず考えられません。

なお、妊婦の約15%に自然流産が起こり、その多く(13.3%)は妊娠12週未満に発生する早期流産です[*3]。早期流産の原因の大半は胎児の染色体異常などであり、母親に何か問題があって起きるわけではありません。

下痢と早産の関係

妊娠中の下痢を早産と結び付けて考える妊婦さんもいらっしゃいます。しかし、早産もやはり、生理的な原因による下痢が影響することはまず考えられません。

妊婦の5~6%が早産になりますが、その原因は前期破水や羊水過多など産人科的な病気の影響が多いものです[*4]。病的なこと以外では、喫煙、ストレス、やせすぎなどの生活習慣に関係する因子が知られています。

妊娠中に下痢したら気をつけること

妊娠中の下痢の症状に注意するマーク
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脱水に注意して、水分を十分にとる

□つわりで食べられないことも脱水に拍車をかける

下痢の時にまず心がけたいことは、水分摂取です。下痢で大量の水分が出て行ってしまうので、失った分も十分に補給しなくてはいけません。

さらに、下痢に加えてつわりのためにあまり食べられない時は、より積極的に水分をとるようにしてください。体の中に入ってくる水分は、飲み物からだけではなく、食べ物からも意外に多く、その量は1日1Lほど。これは飲み物から摂取する水分量に匹敵します[*5]。仮に1日何も食べなければプラス1Lの水分を飲み物から補う必要があるということです。

水分補給のための飲み物は何でもいいわけではなく、冷たいものや刺激のあるものは下痢を誘発しかねませんので避けましょう。適しているのは、体に吸収されやすいように作られている経口補水液です。

□脱水が原因で血管が詰まることも

脱水に関連してもう一点注意したいことは、血液が固まりやすくなるということです。

妊娠中は、分娩の時の胎盤剥離(たいばんはくり:赤ちゃんが出た後、胎盤が子宮から剝れ出る)による出血に備えるため、血液が固まりやすくなっています。

加えて、先に解説したように、つわりのために食事量が減ることや、妊娠時に起こりやすい頻尿を避けるために水分摂取を控えたりすること、つわりの辛さのために長時間寝ていることなどが、血液をより固まりやすくします。その結果、例えば肺の血管が詰まり肺塞栓症などの重病が引き起こされることがあります。

このような病気を防ぐためにも、妊娠中はふだんからしっかり水分を摂取するようにしてください。

自己判断で薬を飲まない

下痢に限らず、妊娠中は使用する薬に関して慎重になることが必要です。すべての薬が妊娠中に使ってはいけないわけではありませんが、妊娠前に使っていた薬や市販薬などに関しては自己判断による薬の服用は控え、医師や薬剤師に相談しましょう。また、相談の際は必ず妊娠中であることを伝えてください。

早めに受診しましょう

「下痢が続く。だけど薬を飲んで良いかわからない」。そんな辛さや不安を解消する一番の方法は、医師に相談することです。妊娠中は安全第一。「たかが下痢」と思わずに、早めに医療機関を受診しましょう。

まとめ

妊婦さんのおなかの異常というと便秘がよく知られていますが、下痢も無視できないマイナートラブルの一つ。つわりの時期やストレスを感じることによっても起こりますが、感染症などの疾患によって引き起こされていることもあります。他の症状とあわせ、気になることがあれば医療機関に相談しましょう。

(文:久保秀実/監修:齊藤英和先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]メディックメディア「病気が見えるvol.10産科編」(第4版)p.86
[*2]医学書院、日本助産診断・実践研究会編「マタニティ診断ガイドブック」(第5版)p.64
[*3]メディックメディア「病気がみえる 産科(第4版)」p.91
[*4]メディックメディア「病気がみえる 産科(第4版)」p.162
[*5]長寿科学振興財団/水は1日どれくらい飲めば良いか

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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