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2021年01月10日 15:11 更新

【医師監修】B型肝炎ってどんな病気? 妊婦さんが感染していた場合、赤ちゃんへの影響は?

B型肝炎は肝障害を起こすウイルスによる感染症で、世界中で多くの人が感染しこれにより引き起こされる肝臓がんなどで亡くなっています。乳幼児のうちの感染を防ぐことに加え、出産時の妊婦さんから赤ちゃんへの感染にも注意が必要です。

B型肝炎ってどんな病気?

妊婦がB型肝炎だと母子感染のリスクもあり、お腹を押さえる妊婦。
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※画像はイメージです

B型肝炎とは? A型・C型肝炎とはどう違う?

肝炎とは肝臓の細胞に炎症が起きている病気です。病気の経過から、急性肝炎と慢性肝炎に大別されます。急性肝炎が峠を越した後に慢性肝炎となって続くこともあります。

肝炎を原因で分類すると、ウイルス性、アルコール性、その他に分けられます。B型肝炎はウイルス性肝炎の一種です。

ウイルス性肝炎には、B型のほかに、A型・C型・E型などがありますが、感染経路や経過はそれぞれで異なります。

例えばA型やE型肝炎のウイルスは食べ物を介した経口感染が多く、急性肝炎を発症し一時的に肝機能が急激に悪化して時には命の危険も生じますが、急性期を過ぎるとウイルスが排除され治癒することが一般的です。

それに対してB型やC型は主に血液を介して感染します。慢性化すると、長い年月とともに徐々に肝硬変に向かって進行していき、その経過とともに肝臓がんや肝不全のリスクが高くなっていきます。

B型肝炎に感染するとどうなる? B型肝炎の症状

B型肝炎ウイルスに感染すると急性肝炎を発症することがあり、その場合、微熱、食欲不振、全身の倦怠感、吐き気、右上腹部の痛みなどに続き、肝臓病の特徴とも言える黄疸(皮膚や白目などが黄色くなる症状)が現れます。

ただし、黄疸は必ず現れるわけではなく、その頻度は大人で30~50%、子供では10%以下と言われています[*1]。

B型肝炎ウイルスによる急性肝炎は重症の場合を除き、多くの場合、数ヶ月で治癒しウイルスも体から排除されます。ただし、まれに劇症肝炎(極めて症状の重い肝炎)となり、生命に危険が及ぶことがあります。

また、ウイルスが排除されず体に残った状態の人のことをキャリアと呼びます。感染したウイルスが欧米に多いタイプの場合には、キャリア化する確率が高いことがわかっていて、近年ではこのタイプへの感染が日本でも増えています。

キャリア化した人の一部は慢性肝炎となり、肝硬変や肝がんを発症することがあります。なお、近年、他の病気(例えばリウマチやがんなど)の治療の影響でウイルスが再活性化し、治ったと思われていたB型肝炎が再燃することもあることがわかってきました。

B型肝炎の潜伏期間ってどのくらい? 感染している人って多いの?

B型肝炎ウイルスに感染してから急性肝炎の症状が現れるまで、45~160日ほど間があります[*2]。

ただ、B型肝炎ではウイルスに感染しても発病しない「不顕性感染」が70~80%を占めます[*1]。

国内のB型肝炎キャリアは約100万人、そのうち治療を受けている患者数は数万人と推計されていて[*1][*3][*4]自分が感染していることに気づいていないか、気づいていても治療を受けていない人が多く存在すると考えられています。

妊婦さんがB型肝炎キャリアだと……感染リスクと対処

B型肝炎は母子感染することもある

日本の妊婦さんのB型肝炎ウイルスのキャリアの割合(HBs抗原陽性率)は約0.2~0.4%とされており、そのうち血中のウイルス量が多く、感染力が強い状態の人(HBe抗原陽性)の割合は約25%と言われています[*5]。

B型肝炎は、血液や唾液、涙、汗、精液、尿を介して感染します。性交渉による感染や医療従事者の針刺し事故、かつては同じ注射器を使いまわしていたことなどによる感染もありました。

母子感染では、出産時に産道で赤ちゃんに感染することが多いのですが、B型肝炎の産道感染に対しては、このあと解説する感染防止対策がほぼ確立されており、ほとんど起こらなくなっています。

ママがB型肝炎キャリアだと、赤ちゃんはどうなるの?

B型肝炎のキャリアである妊婦さんが、感染予防対策がなされないまま出産すると、赤ちゃんにウイルスが感染することがあります。母親のウイルス量が多く、感染力が強い(HBe抗原陽性)場合は、80~90%の確率で赤ちゃんがキャリア化します[*6]。

一方、母親のHBe抗原が陰性(感染力は強くない状態)であれば赤ちゃんがキャリア化することはあまりありません。ただし一過性に急性肝炎になることがあります。

赤ちゃんにB型肝炎ウイルスを感染させないために

B型肝炎に感染している場合、妊娠していない時であれば、インターフェロンや抗ウイルス薬などによる治療を行います。

なお、B型肝炎に感染しているお母さんから生まれた新生児に対しては、「B型肝炎母子感染防止対策」が行われます。出生直後からB型肝炎の抗体とワクチンを接種(ワクチンは出生直後に加え、決められた時期にも接種)する方法で、これによって産道感染をほぼ確実に防ぐことができます。

ただしこの方法では、赤ちゃんが生まれる前に既に胎盤感染していた場合では感染を防ぐことができません。そこで、妊娠中に抗ウイルス薬を使用して胎盤感染の確率を抑制する試みも始まっています。

このような対策をとっても赤ちゃんへの感染が抑止できなかった場合には、継続的な観察と治療が必要になります。なお、上記の予防策をとっていればB型肝炎ウイルスでは母乳を介しての感染は起こらないと言われており、キャリアのお母さんによる赤ちゃんへの授乳は問題ないとされています。

B型肝炎から赤ちゃんを守るためにできること

妊婦さんのB型肝炎は妊婦検診での検査でわかる

妊娠初期に受ける健診でB型肝炎ウイルス検査が行われます。検査結果が陽性であれば出産後に「B型肝炎母子感染防止対策」を行います。

妊婦健診では、B型肝炎のほかに、C型肝炎、HIV(いわゆるエイズのウイルス)、梅毒、風疹、B群溶血性連鎖球菌などの感染症の検査が行われます。これらはいずれも赤ちゃんへ感染して影響が現れる可能性のある感染症です。そのリスクを知り対策を立てるために、妊婦健診は必ず受けるようにしましょう。

日常生活でできるB型肝炎感染予防法

B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して、あるいは粘膜の接触により感染します。血液感染を日常生活で予防する対策として、歯ブラシやカミソリなど血液が付着する可能性のあるものは他人と共用しない、衛生管理が信頼できない所でピアスの穴あけや入れ墨(タトゥー)を入れないといったことが挙げられます。

また、体液や粘膜を介した感染を防ぐために、性交渉の時にはコンドームを使うこともリスクを低くします。

B型肝炎のワクチン、予防接種ってあるの?

1歳未満の子供を対象とした定期接種として、2016年4月1日以後に生まれた子供全員にB型肝炎の予防接種が行われています。

標準的には、生後2ヶ月~9ヶ月の間に 27日以上の間隔をおいて2回接種した後、さらに最初の接種から139日以上の間をおいて1回接種します。

まとめ

妊婦さんがB型肝炎に感染していても、出産時の感染を防ぐための方法はほぼ確立されています。また、たとえ母子感染したとしてもその後に行う治療も進歩してきています。ただし、妊婦さん自身がB型肝炎に感染していることに気づいていなければ、母子感染を予防するのは難しくなります。妊婦健診はかならず受け、自身の健康状態をきちんと把握することが赤ちゃんを守ることにつながります。

(文:久保秀実、監修:太田寛先生)

参考文献
[*1]国立感染症研究所
[*2]厚労省「保育所における感染症対策ガイドライン(2018 年改訂版)」
[*3]医学書院「標準微生物学」510p [*4]厚労省「肝炎総合対策の推進 について」
[*5]公益社団法人日本産科婦人科学会 産婦人科診療ガイドライン―産科編2017 CQ606
[*6]東京医学社「周産期医学」増刊「周産期感染症2014」164p
和歌山市感染症情報センター
国立国際医療研究センター 肝炎情報センター B型肝炎の母子感染について
日本小児科学会「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」
厚労省検疫所 B型肝炎について (ファクトシート)
神奈川県衛生研究所
大阪市立大学大学院医学研究科・医学部医学科 - B型肝炎ガイド

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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