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2021年01月09日 18:50 更新

【医師監修】ヘルペス感染症って、どんな病気? お腹の赤ちゃん・新生児への影響は?

ヘルペスはウイルスによる感染症ですが、ヘルペスウイルスには多くの種類があり、起こる病気もさまざま。繰り返す性器ヘルペスに悩む女性も少なくないようです。妊婦さんの場合、赤ちゃんに影響する場合があることにも要注意です。

ヘルペス感染症って、どんな病気?

ヘルペスに感染してしまい悲しむ妊婦
Lazy dummy

そもそもヘルペスって、何?

ヘルペスとは、日本語では「疱疹(ほうしん)」と訳され、小さな水疱(水ぶくれ)が現れる急性の皮膚病のことを「ヘルペス」と呼んでいます。
ヘルペスの原因は、ヘルペスウイルス科に属するウイルスです。そのうち、ヒトの病気の原因となるのは、単純ヘルペスウイルス(1型、2型)、水痘帯状疱疹ウイルス、ヒトヘルペスウイルス6A、6B、7などです。このうち、水痘帯状疱疹ウイルスによる水疱瘡(水痘)については「妊娠中に水疱瘡にかかったらどうなるの? 大人の水疱瘡症状と胎児・新生児への影響、予防方法」のページをご覧ください。ここでは、水痘帯状疱疹ウイルス以外のヘルペスウイルスを中心に解説していきます。

ヘルペスはどうやって感染する?

水痘帯状疱疹ウイルス以外のヘルペスウイルスの感染は、唾液や尿、精液などを介した皮膚や粘膜の接触により起こります。このため、しばしば家族内や密接な関係のある人の間で感染します。性交渉も感染経路の一つです。感染したのに発症しない場合(不顕性感染)でも、人にうつります。単純ヘルペスウイルスは、大人になるまでに50〜80%の人が感染すると言われています[*1]。
妊婦さんから赤ちゃんへは出産時に産道で感染するほか、出産後に周囲の環境などから感染したり、母親の胎内で感染することもあります。

症状がなければヘルペスウイルスには感染していない?

水痘帯状疱疹ウイルスが感染すると高い確率で水疱瘡を発症しますが、それ以外のヘルペスウイルスでは、すぐには病気を発症しないことが少なくありません。症状はなくてもヘルペスウイルスは体の中で存在し続けており、あるとき急に活性化して症状が出てくることがあるのです(これを「回帰感染」といいます)。回帰感染は発熱やストレス、疲労、紫外線の刺激、妊娠などがきっかけになります。
このようにいったんヘルペスを発症し症状が収まった後も、ヘルペスウイルスは体の中にやはり潜み続け、上記のようなきっかけが元になって発症を繰り返すことがあります。
なお、ヘルペスウイルスが再活性化した場合に症状が現れるのは、最初に症状が現れた箇所と同じとは限りません。

ヘルペスウイルスによる症状は?

ヘルペスウイルスにはいくつかの種類があり、それによって症状は異なります。以下に、ヘルペスウイルスの種類別に現れやすい症状をまとめます。

単純ヘルペスウイルス1型、2型

単純ヘルペスウイルス1型では、顔面や口の中、唇、角膜(黒目あたりにある透明な粘膜)、脳など、体の上半身に症状が現れやすく、単純ヘルペス2型は主に性器に症状が現れます。ただし性行為の多様化(オーラルセックスなど)といった影響を受けて、最近はこの区別が明確でなくなりつつあります。
この種類では発症した部分にピリピリした痛みのある水泡や潰瘍ができ、性器ヘルペスでは排尿が困難になることもあります。時に髄膜炎(脳と脊髄を包んでいる膜状の組織「髄膜」に起きる炎症)を引き起こします。
また、顔面の神経でヘルペスウイルスが活性化すると、ベル麻痺と呼ばれる顔の片側に起こる顔面麻痺を引き起こすことがあります。その他、まれではありますが、脳炎を起こして命に関わる状況を引き起こしたり、後遺症が残ることがあります。

ヒトヘルペスウイルス6B、7

初めて感染した時には突発性発疹を発症します。生後半年から2歳までの発症が最も多く、4歳までにはほとんどの子供がヘルペスに感染すると言われています[*2]。知恵がつき始めた子供に起きることが多い病気なので、「知恵熱」と呼ばれることもあります。非常にまれですが、脳炎を起こすこともあります。

その他のヘルペスウイルス

ヒトヘルペスウイルス4(エプスタイン・バーウイルス)に思春期以降に感染すると、伝染性単核球症(キス病)や血球貪食症候群という病気を起こしたり、のどや胃のがんの原因になります。

ヘルペスの潜伏期間はどのくらい? 患者数は?

単純ヘルペスウイルスでは感染してから症状が現れるまで、2日~2週間ほどの潜伏期間があります。ヒトヘルペスウイルス6B、7による突発性発疹の潜伏期間は10日前後です。
性器ヘルペスは、定点報告対象の感染症に指定されていて、全国約1,000カ所の泌尿器科、産婦人科等の定点医療機関が月ごとに患者数を保健所に届け出ることになっています。それによると、年間約1万人の患者さんがいると報告されています。

性器ヘルペスにまつわる3つの問題

ここで、大人の女性に多い、単純ヘルペス1型や2型による性器ヘルペスについて、もう少し詳しく解説しておきます。
性器ヘルペスは完全に治すことが難しく、発症を繰り返しやすい病気です。このため、痛みなどの苦痛が患者さんの重荷になりやすいことが1点目の問題です。
2つ目は、感染しても発症しないままウイルスを排出している場合が多いという点です。性器ヘルペスでは感染者の70〜80%は無症状で[*1]、本人も気づかないまま性行為によりパートナーにうつしてしまうことがあります。
そして3つ目の問題は、後で述べるように赤ちゃんへの影響が起きやすいという点です。

妊婦さんが性器ヘルペスに感染していたら……赤ちゃんのリスクと対処

妊婦さんの性器ヘルペス、特に初感染の妊婦さんで要注意

妊婦さんが性器ヘルペスだと、妊婦さん本人に症状が現れる場合があるほか、赤ちゃんに感染して「新生児ヘルペス」を発症する可能性があります。
その感染経路の割合はおおむね、胎内にいる時の感染が5%、出産時の産道感染が85%、出産後に周囲の環境から感染するのが10%とされていて、多くは出産時の感染です[*3]。なお、破水により胎内で感染することもあります[*4]。
ですから、出産時に赤ちゃんに感染することを防ぐために、帝王切開が選択されることもあります。
母親が性器ヘルペスに感染している場合、それが赤ちゃんに感染する確率については、その出産時に初めて感染し、かつ初めて発症した場合が最も高く57%、過去に感染していたが無症状だったものが出産時に初めて発症した場合は25%、過去にすでに感染しかつ症状も出たことがある人で出産時に症状が再発した場合は2%という報告があります[*3]。

ヘルペスによる赤ちゃんへの影響は?

生後28日以内の赤ちゃんに起きるヘルペス症を「新生児ヘルペス」と呼びます。
産道で感染した場合、多くは生後1週間以内に発症します。症状が皮膚や口、眼球の表面に現れる「表在型」と、脳炎などを起こし後遺症を残すことのある「中枢神経型」、そして全身に影響が及び命が危ぶまれる「全身型」があります。詳しくは「子供のヘルペスウイルス感染症って、どんな病気?」をご覧ください。
このほか、ヘルペスウイルスに胎内で感染したことによる小頭症や脈絡網膜炎(眼の奥、眼底の病気)などの報告もありますが、極めてまれです。
なお、ヘルペスは感染しても症状が現れない場合(不顕性感染)が多く、妊娠中に新たに単純ヘルペスウイルスに感染した妊婦さんのおよそ70%が無症状であるか、症状を自覚していないとされています[*5]。そのため、出産時に赤ちゃんにうつらないよう感染予防する判断が難しいことも少なくありません。

妊娠継続、出産方法への影響

母親の胎内にいる時にヘルペスウイルスが赤ちゃんへ感染すると、流産や死産を引き起こすことがあります。
出産時に性器ヘルペスを発症している場合は、産道での感染を防ぐため帝王切開が推奨されます。加えて、出産時に性器ヘルペスの症状が治まっていても、それが初めての発症だった場合は発症から1カ月以内、再発の場合は発症から1週間以内は、帝王切開での出産が望ましいとされています[*5]。

抗ウイルス薬で治療期間を短縮!

性器ヘルペスは無治療でも2~3週間で症状は治まります[*4]。しかし、痛みなどの症状が強い時は、塗り薬や飲み薬、または点滴の抗ウイルス薬で治療すると、治癒が早まります。お腹の赤ちゃんへの影響を考えて妊娠初期は塗り薬を患部に塗るのみのことが多く、妊娠中期以降に内服薬や点滴薬も使って治療します。

ヘルペスを予防するためにできることはある?

性器ヘルペスの再発を抑える治療法

症状が改善しても、ヘルペスウイルスは体の中でひそかに存在し続けていて、再発する可能性があることはご紹介しました。近年、性器ヘルペスの再発を繰り返す人や再発時に症状が重い人に対しては、抗ウイルス薬を長期間(1年またはそれ以上)継続して投与しヘルペスの再発を抑える方法が試みられています。

日常生活でできる予防法

水痘帯状疱疹ウイルス以外のヘルペスウイルス予防のためのワクチンはまだありません。
性器ヘルペスや口唇ヘルペスの症状がある人はこれが治るまでは、相手にうつさないために性交渉は避けましょう。
ただし、ヘルペスでは感染しているのに症状がないままウイルスを排出していることが多く(70~80%[*1])、知らないうちに相手にうつしてしまうこともあります。感染を確実に防げるわけではありませんが、コンドームの適切な使用は感染リスクの低下に役立ちます

まとめ

ヘルペスは発症すると痛みを伴うことが多く、再発を繰り返すことで患者さんを悩ませます。また女性の性器ヘルペスでは初感染の場合や症状の出た時期によっては、主に出産時に赤ちゃんに感染することがあることは知っておきましょう。

(文:久保秀実、監修:宋美玄先生)

参考元
[*1]国立感染症研究所 性器ヘルペスウイルス感染症とは
[*2]日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」
[*3]東京医学社「周産期医学」増刊号「周産期感染症2014」153p
[*4]医学書院「標準産婦人科学」230、423p
[*5]日本産婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン―産科編2017」
日本皮膚科学会 皮膚科Q&A ヘルペスと帯状疱疹
厚労省検疫所 単純ヘルペス、性器ヘルペス (ファクトシート)l
東京都保健福祉局 母子感染について~妊娠中・これから妊娠を考えている方へ~
公益財団法人肥後医育振興会 「あれんじ」 2015年8月1日号 よく聞くけれど、よくは知らない「ヘルペス」〜単純ヘルペスと帯状疱疹〜
厚労省「保育所における感染症対策ガイドライン (2018 年改訂版)」
国立感染症研究所 性器ヘルペスウイルス感染症とは
日本性感染症学会 性器ヘルペス

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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