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2023年03月01日 14:31 更新

#拝啓、復職前の自分へ 「両立」にこだわりすぎないことの大切さ/テレビ東京 飯田佳奈子さんインタビュー(後編)

民放初の乳幼児向け大人気子ども番組『シナぷしゅ』(テレビ東京系/月~金 朝7時35分〜8時)統括プロデューサーを務める飯田佳奈子さんは現在、4歳と0歳児の子どもを持つママ。育休からの復職を経て、『シナぷしゅ』立ち上げで多忙を極める日々で気づいたことと、立ちはだかった「女性のキャリア」につきまとう困難さとは。

帰宅後、夫が育児に奮闘した跡があるとグッとくる

ーー時短勤務を終え、『シナぷしゅ』の企画も本格的に始動すると、生活も一変されたのではないでしょうか。

飯田佳奈子さん(以下、飯田) そうですね。やっぱり番組って、ゼロから立ち上げるときが一番大変で。保育園のお迎えだけはどうしても外せないので、帰宅したあと家事・育児を終わらせて、夜に残りの仕事を自宅でやっていました。

夜、編集所に籠もることもありましたが、自分がやりたくて出した企画でしたし、子どもに見せたいと思えるコンテンツだったので、一晩離れることへの罪悪感や日々の辛さは、「自分の子どもにとっても役に立つことだから!」と思えてがんばることができました。迷いが出ると辛くなってしまいますからね。一度決めたら突っ走るしかありませんでした。

ーー一晩離れるときは、旦那さまとお子さまだけで夜を過ごしたんですね。

飯田 はい。そういう日は、帰宅すると夫の奮闘ぶりがわかるんですよね。いつも口酸っぱく「これはここに片付けてね」と言っていることが、微妙にできていなかったりして。「ウルトラマンの人形は、ここじゃなくてこっちなんだけどね」とか、がんばったけどできなかった痕跡が見えるんです(笑)。「お風呂の換気扇をつけてくれたけど、湯船にお湯を張ったままだよ」とか(笑)。それを見ると、自分がいない間の夫と子どもの世界を垣間見ることができて、すごくグッときますね。

ーー完璧ではない家事を指摘することはありますか?

飯田 あまりないかもしれません。たいてい、100点中70点くらいで、それをいちいち「ここダメ」「ここもダメ」と“ダメ”ばかりを指摘する人間になってしまうのはイヤだなと思って。

ただ、努力が見えないときはムカつくし言います(笑)。「投げやりな作業でこなしたな」ということがわかることってありますよね。

「人に頼ること=カッコ悪いこと」ではない

ーーバレてしまうんですね(笑)。

飯田 あとウチは、実母や義母もヘルプで呼んだり、総力戦です。まだ働いていたり、遠くに住んでいたりで大変だと思いますが、今もバックアップしてもらっています。

母は専業主婦で一度も働いたことがないんですが、愛情は人一倍ある人なんです。私の妊娠が発覚したときに「スーパーおばあちゃんになりたい!」と宣言して、急に保育士の資格を取ったんですよ。

ーーバイタリティありますね!

飯田 資格があるのに保育園では一度も働かず、謎に私の子どものためだけに保育しています(笑)。でも、曲がりなりにも“プロ”なので、母がついていてくれると思うと安心感があります。

私はもともと、人に頼るのが苦手だったんです。それが家族に頼ったり、ここ数年でようやくハウスクリーニングを定期的に頼めるようになりました。少しずつ自分の手を離していくのって大事ですよね。

ーーそれまでは手放せなかった?

飯田 全部自分でやりたかったんです。「いつも全力でがんばる自分」が好きなんだと思います。だから、「人に頼ること=カッコ悪い」と思い込んでいましたが、やっぱりプロに頼むのと自分でやるのとは歴然の差なんです。勉強になるし、その分、休日は子どもとたくさん遊ぶことができますし。「手放すこと」は、最近の最大の学びですね。

ーー家のことは手放すことができるようになった一方、仕事面ではいかがでしょうか。

飯田 厄介なことに、寝る間もなく働いてしまうんです(笑)。ずっと働いて、寝かしつけてまた働いて、休日もなんとなく頭の中はずっと働いていて。休息を必要としていないタイプなのかもしれません。

「保育園のお迎え、遅れそう問題」に、子どもは怒って当然!

ーースマホゲームをぼーっとやることも……。

飯田 ないんです(笑)。さっき話したように、「一生懸命やっている自分、最高!」と思う瞬間が一番の癒やしというか、ナルシストなんだと思います(笑)。昔から「とりあえず目の前にあることを、一生懸命やろう!」というスタイルで生きていますが、目の前にあって乗り越えられないことって、大抵ないと思っていて。寝れば明日になりますしね。

「明日、誰も保育園のお迎えに行けない。間に合わないかもしれない。どうしよう」という物理的な壁はありますが、そういうときは自分の仕事を調整してなんとか迎えに行きます。

ーー保育園のお迎えは、復職したての保護者の心を常にやきもきさせますよね。

飯田 以前、交通事情のためお迎え時間を20分ほど遅れてしまったことがありました。そうしたら子どもがすっごく怒っていて。「ごめんね」と謝っても怒っているんです。でも確かに、「お母さんは17時に迎えに来る」と思っているのになんの連絡もないし、先生は「もうすぐ来るよ」と言うだけ。

自分の立場なら、夫が約束通り帰って来ないと、鬼LINEするじゃないですか(笑)。大人の私でも不安なのに、子どもに「必ず迎えに行くんだから黙って待っていなさい」は違うよなぁと、気づいたんです。仕事の調整は大変ですが、待っている子どもの立場を思うと、「そんなことは言っていられない」と思います。「働いているから仕方ない」「子どもだから仕方ない」ではなく、「子どもと対等に接したい」という気持ちが強いからかもしれません。

立ちはだかる「2人目が欲しい。けど、仕事もしたい」

ーー今は、昨年秋に第二子をご出産したばかりですが、すでにフルタイムで働いていらっしゃいます。

飯田 今回は育休を取らず、産休だけで復職しました。というのも、2023年5月に『シナぷしゅ』の映画公開が決まり、映画の仕事に邁進したかったからなんです。

映画化は、『シナぷしゅ』の企画を出したときからの大きな夢のひとつでした。おととしくらいから「映画に向けてやるぞー!」という気持ちでしたが、同時に私は、2人目も欲しかったんです。このときにつくづく実感したのが、「女性のキャリアって難しい」ということです。

理想は、映画の仕事が落ち着いたら2人目を考えればいいのかもしれません。でも、この先に何が起こるかわからないですし、上の子と同学年の子たちに次々と2歳差のきょうだいができているのを目の当たりにすると、なんとなく焦り出して。

「自分の夢である映画の仕事もしたい。でも、2人目も欲しい」という難しい選択肢を迫られているなかで、ふっと「生まれ変わるなら、次は絶対に男に生まれたい」とまで思ったほどです(笑)。

ーー「男に生まれたい」という気持ちは、綺麗事では済まされない女性の葛藤が凝縮した本音ですね。

飯田 キャリアのために2人目を諦めている方は、どれだけいるのだろう……と、考えずにはいられませんでした。それで最終的には「なるようになる」と思い天に任せることにしたら、映画製作真っ只中で2人目を授かりました。

今の私は、ありがたいことに自分で自分の働き方をうまく分配できる立ち位置にいるうえ、在宅勤務という働き方が当たり前になった環境に身を置いていたので、「今の自分に合った、産休・育休をプランニングしてみよう」と思いました。もし今後、2人目を迷っている方がいるのなら「諦めなくてもいいのかも」と参考になるプランになればうれしいです。

ーーそれぞれ個人の体力や環境はさまざまですし、育休の長短に優劣はなく、育休への意識を柔軟にとらえることができればいいですよね。

飯田 そもそも、生む前に「育休、どれくらい取りますか?」と聞かれたってわからないですよ! まだ生んでもないし、どんな子が生まれるのかも、自分の体力がどうなるのかもわからないですし。よく寝る子なのか・そうでないのか、でもまったく違いますからね。

根拠がなくても「大丈夫」が聞きたい

ーー産休中は、復職時のことを考えていましたか?

飯田 その時期は「仕事のインプット期」ととらえて、アニメーションやCMなどを見ながら吸収することを意識しました。『シナぷしゅ』自体が、日々の生活を糧にしている番組という感じがしますしね。

その時期も今も、とにかくスタッフの支えを肌で感じる日々です。みなさんの理解があってこそ、こういった働き方をできるのかなと思っています。

ーースタッフの方や周囲の方からかけられた印象的な言葉はありますか?

飯田 そうですね。映画の作業がめちゃくちゃ大変ななかで、産休とはいえ休みを取ることが不安で、申し訳ないと思ったことがありました。そういうとき「大丈夫だよ」と言ってもらえると、気持ちがすごく楽になるというか、根拠がなくても「あ、大丈夫かもしれない」と思えたんですよね。よく、復職を控えた女性から、私のSNSに「復職することが不安で、励ましてほしい」といったメッセージが届くんです。そういうとき私も、「大丈夫」と伝えるようにしています。

ーー確かに、復職を控えた人に対して、意外と「大丈夫だよ、なんとかなるよ」と声をかけることがないかもしれません。

飯田 そう、意外と言ってもらえないんですよ。よく言うのは「両立は大変だろうけど、無理しすぎないでね」じゃないですか。それって暗に、「みんな無理するほど大変だけど」という言葉が前提にあると思っています。

ーーフォロワーの方からは、ほかにどんなメッセージが届きますか?

飯田 「復職後、仕事と家事育児を両立できる気がしません。どうすれば両立できますか?」といった質問を多くいただいて気づいたんですが、“両立”という言葉は使いやすい反面、危うさも感じました。「両立=どちらもきれいに立てなきゃいけない」という言葉通りの意味に縛られすぎてしまうと、「どっちもちゃんとやらなきゃ!」と苦しくなってしまう気がするんです。だからひとまず”両立”は置いておいて、「とりあえず目の前のことを一生懸命なればなんとかなる!」精神でいいと思うんです。無責任かもしれませんが、「大丈夫! なんとかなる!」は、これからも周囲の人にも自分にも言い続けたいですね。

拝啓、復職前の自分へ ~今の自分から復職前の自分へのメッセージ~

「復職前の自分に手紙を書くなら、何を伝えたい?」ーーそんな問いに対し、飯田さんが筆を走らせたのは、深く響く、自分へのはげましでした。

大丈夫。
難しく考えすぎないで
目の前のことをひとつずつ!

【information】民放初の乳幼児向け子ども番組『シナぷしゅ』が映画化!

©SPMOVIE2023

「子どもに見せたいと思える」「親が見せて安心できる」番組を作りたい……。そんな飯田さんの呼びかけに集まったのは、テレビ東京で子育て奮闘中の社員たち。そして生まれた民放初の0〜2歳の赤ちゃんをターゲットにした異色すぎるテレビ番組『シナぷしゅ』が、2023年春、ついに映画化! 赤ちゃんにとっての「はじめての映画体験」は、赤ちゃんはもちろん親にとっても特別な瞬間になるはず。親子でぜひ足を運んでみてくださいね。

©SPMOVIE2023

『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』概要
2023年5月19日(金)ユナイテッド・シネマ豊洲、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:清水貴栄
劇伴音楽:信澤宣明
企画・プロデュース:飯田佳奈子
推薦:東京大学赤ちゃんラボ 開一夫教授推薦作品
制作:テレビ東京・CEKAI
配給:ローソンエンタテインメント
本編情報:上映時間約50分/日本カラービスタ/5.1ch
©SPMOVIE2023

公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/synapusyu_movie/

飯田佳奈子さん/テレビ東京『シナぷしゅ』統括プロデューサー

2011年にテレビ東京に入社。制作局、アニメ局を経て2014年から営業局に配属。2018年の第一子出産後、翌年6月に新部署であったコンテンツ統括局に配属。『シナぷしゅ』で初めてプロデューサー業を務める。2児の母。

シナぷしゅ公式サイト
https://www.tv-tokyo.co.jp/synapusyu/

公式YouTubeチャンネル『しなプシュch』では、最新回を配信&深夜の夜泣きや移動中のぐずりにも頼れる24時間ループライブを配信中。
https://www.youtube.com/@synapusyu

(取材・文:有山千春 撮影:松野葉子/マイナビ子育て編集部)

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