出産・産後 出産・産後
2023年02月17日 07:32 更新

産婦人科医が説く「産みの苦しみを味わってこそ子供に愛情が持てる」という迷信のおかしさ

「お産の痛みを乗り越えてこそ真の母親になれる」「産みの苦しみを味わってこそ愛情が持てる」などという言葉を見聞きすることがあります。これってどういうことなのでしょうか? 産婦人科医の宋美玄先生にお産の痛みと愛情の関係について聞きました。

痛みと愛情が結び付けられた理由

「お産の痛みと愛情に関係があるか」と聞かれたら、答えはシンプルに「特に関係ありません」に尽きます。たった一言で終わってしまいますね。

子供への愛情が「痛み」なしには生まれないのはおかしいでしょう。第一、父親は我が子に愛情を持てないということになります。それに子供への愛情は出産時にどうだったかよりも、日々育てていくことで増していくものだろうと思います。

では、どうしてそんなふうに言われるようになったのでしょうか。昔は病院ではなく、自宅で産婆さん(助産師)に赤ちゃんを取り上げてもらうのが普通でした。無痛分娩はありませんし、その他の出産に対して行える処置も少なかったので、多くのことは自分で乗り越えるほかありませんでした。

ほとんどの人が言うように、お産の痛みはかなりのものです。そこで産婦さんが耐えられるよう、昔は「お産の痛みを乗り越えれば愛情が持てる」「母親になるために乗り越える試練だから」と痛み自体に意味を持たせることで、産婦さんを鼓舞したり励ましたりしていたのだろうと思います。その名残が今もあるのではないでしょうか。

でも、出産の痛み自体には、特に意味はありません。意味があるとしたら、それは「個人的な価値観における意味」であって、自分以外の誰かに押し付けるものではないと思います。

「無痛分娩」のメリットとデメリット

現在では、一部の医療機関で無痛分娩が行われるようになりました。無痛分娩とは、産婦さんの背中に管を通して薬を入れる「硬膜外麻酔」によって、産みの痛みを抑える出産方法です。必ずしも痛みが全くなくなるわけではなく、麻酔のやり方や量などにもよりますが、大体は2〜3割に軽減されるくらいでしょう。

無痛分娩のメリットは、痛みに弱い人も出産ができるところ、痛みによるダメージを軽減できるので産後すぐに始まる新生児のお世話に備えられるところなどです。一方、デメリットは、わずかに遷延分娩(お産が長引くこと)のリスクが上がるところなど。

私は第一子の時は、初産かつ高齢出産だったので遷延分娩のリスクが高く、しかも陣痛を体験してみたかったので、無痛分娩を選びませんでした。第二子の時には、第一子が安産だったし経産婦なので無痛分娩をしたかったのですが、かかっていた病院で行なっていなかったので諦めました。

ですから、私はいわゆる「産みの痛み」をフルで味わいましたが、それによって愛情が持てたとは思いません。むしろ、産後すぐは痛みなどで疲れ果てていたために、赤ちゃんへの母の愛……なんてことを考える余裕はなく、その後どんどんかわいいと思うようになったという感じです。

一方、無痛分娩で産んだ知人は、談笑していたら痛みなくつるんと赤ちゃんが生まれ、最初から「わ〜かわいい」と思える余裕があったそうです。出産直後のコンディションには個人差がありますが、少なくとも「出産の痛みがあるから子供をかわいいと思い、愛情を持つことができる」ということではないでしょう。

「帝王切開」はラクな出産方法じゃない

無痛分娩と並んで「帝王切開」も痛みが軽くラクで、愛情を持ちにくいかのように言われがちです。痛みと愛情に関係がないのは今までに述べた通りですが、そもそも帝王切開は少しもラクではありません

もともと日にちを決めて行う「予定帝王切開」であれば、確かに陣痛を経験しないことが多いでしょう。一方、分娩停止などによって急きょ行う「緊急帝王切開」であれば、陣痛を経験することが多いと思います。

いずれにしても、帝王切開は腹膜と子宮を切って赤ちゃんを出して縫うわけですから、産後は痛みが強く、最低でも1週間程度は入院しなくてはいけません。現在では十分に安全に行えるものの、経腟分娩に比べて出血量が多く、感染症や血栓症、癒着のリスクもあり、決してラクとは言いがたいものです。そして誰でも帝王切開になる可能性があります。

それなのに、このような偏見が根強くあるのはなぜでしょうか。それは「自然なお産が一番いい」「経腟分娩でないといけない」「痛みを感じることで母性が強くなる」などと、根拠のないただの個人的な価値観を他人に押し付ける人たちがいるからでしょう。

どんなお産でも、もっとも大切なのは母子の健康です。どのお産も素晴らしいお産です。ですから、無痛分娩や帝王切開だったからといって、愛情を十分に注げるか不安に思ったり、申し訳なく感じる必要はありません。楽しく子育てしていきましょう。

(解説:宋美玄 先生、聞き手・構成:大西まお)

※写真はイメージです

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

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