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2022年10月17日 07:15 更新

「母乳がまずいせいで赤ちゃんが飲まないのかも?」と不安なお母さんに小児科医が伝えたいこと

「お母さんの食事が悪いと母乳がまずくなる」という説を耳にしたことがありませんか? 小児科医の森戸先生によると、これは全くの迷信だとか。その理由を詳しく教えてもらいました!

「母乳がまずい」というのは迷信

(photoAC)

赤ちゃんが母乳を飲まなくて困っていた時に、医療関係者から「お母さんの食事がよくないせいで、母乳の味がまずいから飲まないんだ」などと言われた話を聞くことがあります。ひどい発言ですね。とても腹立たしく思います。しかも、「和の粗食をとると母乳が美味しくなる」「油っこい食事をとると母乳がドロドロでまずくなる」というような説は、なんの根拠もない迷信なのです。

まず、母乳は全身をめぐる血液を材料に作られます。消化された食物が通るルートと直接的に繋がっているわけではないので、食べたものがそのまま母乳に出ることはありません。これは当然のことですね。

また産後に赤ちゃんを母乳だけで育てる時期のある哺乳動物は、よほど極端な食生活を送らない限り、何を食べても母乳成分が一定に保たれるようにできています。だから、お母さんがケーキを食べても母乳は甘くならないし、塩分をたくさんとってもしょっぱくならないのです。このような母乳の恒常性はどのくらい保たれるかというと、全く食事内容の違う北欧とアフリカの母親の母乳を分析して比べた結果、ほとんど同じだったくらい【*1】。本来、母体には自らを犠牲にしてでも(自分の栄養を失ってでも)、母乳の量と成分を保つ仕組みが備わっているのです。

また赤ちゃんが美味しい、まずいと感じているかどうかは、誰にもわからないでしょう。赤ちゃんは言葉が話せませんし、表情もまだはっきりしないもの。母乳を飲まないとしても、授乳角度が適切ではない、お腹が減っていない、赤ちゃんが吸うのが上手ではないなど、他にも様々な原因が考えられます。

できるだけバランスのよい食事を

以上のような理由で、「母乳が美味しくなる食事」や「母乳がまずくなる食事」はないと考えられます。そのことを裏付けるように、味覚センサーを使って母乳を分析した研究でも違いは出ていないようです。

ただし、母乳は出始めに脂肪の割合が少なく徐々に増えていくものなので、飲み始めと飲み終わりでは味に違いがあるかもしれません。でも「飲み終わりの母乳はくどくて好みじゃないから飲まない」という赤ちゃんはいないでしょう。そして匂いに関しては、母親の食べた物で赤ちゃんの吸い付き方に変化があるかもしれないと言われていますが、一時的なことだと考えられています。

むしろ「母乳には和の粗食がいい」と思って、動物性タンパク質を減らすのはよくありません。菜食主義者の母親がビタミンB12不足になり、赤ちゃんに神経障害が起こった例もあるためです。迷信に惑わされて極端なことをしないようにしましょう。

授乳中のお母さんは変に食事制限せず、なるべくバランスよく、好きなものを食べてくださいね。また赤ちゃんが母乳を飲まないのは「まずいから」ではないし、お母さんのせいではありませんから、気にしすぎないようにしましょう。授乳姿勢を工夫したり、飲ませるタイミングを変えたりしてみてください。

参照)宋美玄、森戸やすみ『産婦人科医ママと小児科医ママのラクちん授乳BOOK』(内外出版社)

参考文献
【*1】Lonnerdal BO.In;Hamosh M,Goldmans AS(eds),Hunan Lactation 2,Plenum Press,1986.P301-323

(編集協力:大西まお)

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