妊娠初期に出血を起こす可能性があること
妊娠とは、受精卵が子宮内膜へ着床し、受精卵と母体とが結合する状態をいい、着床から分娩までの過程を妊娠期間とよびます。
妊娠4ヶ月までが妊娠初期、5~7ヶ月までが中期、8~10ヶ月までが後期と区分されていますが、ここでは初期についてとりあげていきます。
さて、性器からの出血は生理的出血と病的出血とに分けられます。妊娠初期に起こる生理的な出血には「着床出血」とよばれるものがあります(後半で紹介します)。
病的な出血には、流産・切迫流産、絨毛膜下血腫、子宮外妊娠(異所性妊娠)、胞状奇胎、頸管ポリープ、子宮頸部びらん、子宮頸がん、などによるものがあります。
以下でそれぞれについて解説します。
流産
赤ちゃんがお母さんのおなかの外では生きていけない妊娠22週よりも前に妊娠が終わってしまうことを流産と呼びます。医療機関で確認された妊娠の15%前後が流産になっているとの報告もあり、多くの女性が流産を経験しています。
流産による出血の量は、その状態にもよります。流産が進行している状態では陣痛のような下腹部の痛みとともに多量の出血が起こります(進行流産)。流産が進行した結果、子宮の内容物がすべて排出された状態を完全流産と呼びますが、この段階になるとそれまであった出血や下腹部痛は軽くなるか、消失します。
一方、内容物の一部が子宮のなかに残る不全流産では、出血と下腹部痛が続きます。
なお、流産のなかでも死亡した胎児が子宮内に留まっていることを稽留流産と言い、この場合は出血や腹痛などの自覚症状はほとんどありません。
切迫流産
流産の兆しはあっても、まだ妊娠継続の可能性がある状態を切迫流産といいます。非常に少量から中等度までの出血が起こります。
子宮内に生存した胎児が認められ、子宮口は閉じているものの出血を伴う状態です。
必要な場合は安静を指示されたり薬剤などによる治療を行います。
絨毛膜下血腫
絨毛膜下血腫とは、初期胎盤からの出血が子宮内膜との間に留まってできた血の塊のことです。
いったん固まって血が止まりますが、しばらくすると溶け出して再び出血するので、絨毛膜下血腫は出血と止血を繰り返すことが少なくありません。
妊娠初期に出血が見られるときに超音波検査で確認すると発見されることがありますが、妊娠初期に見つかったものでは血の塊が自然と吸収されて治癒することが多くなっています。妊娠中期まで血腫が存続してしまうと、後期流産や早産の原因となることもあります。
子宮外妊娠(異所性妊娠)
受精卵が子宮内膜以外の部位に着床したものを総称して子宮外妊娠といいます。症状には出血と下腹部痛があり、受精卵の着床した部位や週数により、その程度はさまざまです。
はっきりとした症状がなかなか出ない人もいます。
胞状奇胎
卵膜や胎盤をつくる絨毛が異常に増殖し、子宮内に直径1cmにも満たない小さなぶどう粒状のものが充満します。放置すると絨毛がんとなる確率が高いもので、ほとんどの場合で妊娠を継続するのは難しいです。
この場合もおもな症状に妊娠初期からの性器出血があります。
子宮頸管ポリ―プ
子宮頸管内にいぼ状に増殖した腫瘍を子宮頸管ポリープといいます。慢性炎症が要因で生じるものが多いといわれており、ほとんどの場合はとくに症状はありませんが、生理以外の時期や性交の後に出血することがあります。
一般的には良性のものが多いとされていますが、子宮頸がんとの鑑別が重要となります。

吐き気などの妊娠の兆候が出てくるのは、個人差が大きいものの妊娠5~6週頃からといわれていますが、中には俗にいう“妊娠超初期”にあたる生理予定日前に「妊娠したかも……」など、体の変化や妊娠のサインを感じる人も。妊娠超初期に見られがちな症状や、妊娠に気づかずアルコール、タバコ、カフェインを摂取して場合の胎児への影響を解説
子宮腟部びらん
子宮腟部の内膜がただれて淡紅色に変色しているものを子宮腟部びらんといいます。
これによって、おりものが増えたり、不正出血などの症状がみられることがあります。検査してがんでないことがわかれば、治療は必要がない場合が多いです。
子宮頸がん
子宮頸がんのうち、ごく初期の段階である上皮内がん(がんが上皮にとどまり、まだ浸潤をはじめていない)や、初期浸潤がんの場合は無症状のことが多いですが、進行すると出血することがあります。
出血の色で危険かどうか判断できるの?
妊娠初期に出血があった場合、色で危険かどうか判断できるのでしょうか。鮮血ならば今、まさに出血している可能性があります。黒や茶色っぽいものは体内で過去に出血したものがいま排出されている状態と考えられます。
ただし、出血にはこれまで紹介したようにさまざまな原因があるので、色だけで危険性を判断するのは難しいでしょう。
色だけでなく、いつからの出血か、量、臭いなどにも注意して
不正出血と思われる出血があった場合は、いつからの出血か、どれくらいの量か、どのような色か、においはどうか、固形物が含まれているかどうか、腹痛や張りの有無、その他、吐き気や貧血などの症状はあるかなどのポイントに注意しておき、かかりつけの先生に的確に伝えて、指示に従いましょう。妊娠中の出血の自己判断は禁物です。
とくに生理の時より出血量が多い場合や、腹痛がひどい場合には子宮外妊娠(異所性妊娠)や進行流産の可能性があり、放置しておくと危険です。そのような場合には夜間や時間外であっても医療機関に相談するようにしてください。
妊娠超初期に起きることがある「着床出血」
ここまでは妊娠初期に起こる病的な出血を紹介しましたが、以下で妊娠超初期に病気でなくても起こることのある「着床出血」についても紹介します。
着床出血とは?
妊娠超初期とは、一般的に妊娠1ヶ月である妊娠0~3週までを指しますが、排卵後7~8日目ごろに起こる少量の無痛性出血を「着床出血」といいます。全妊娠の8~25%程度に起こり、経産婦に多いとされています[*1]。
着床出血はなぜ起こるのでしょうか?
卵管で受精した受精卵は受精後、約3日で子宮腔内に達します。その後約1週間で胚盤胞となり、子宮内膜にくっつき、侵入して、繊毛構造(胎盤の元)を作り出します。このことを「着床」といいますが、 受精卵が子宮に着床する際に子宮側の 小さな血管を傷つけることがあり、そのため少量の出血が起きるとされています。
着床出血は、正常な妊娠で起こる生理的出血です。この出血によって初期流産につながることは、ほとんどないとされ、超音波検査で子宮内に胎児の生存が確認できていれば、特別な処置は必要ありません。
着床出血の症状と起こる時期
妊娠超初期という、妊娠が確定しない時期に起こる着床出血。これはどんなもので、どういうタイミングで起こるのでしょうか?
着床出血の症状
着床出血の場合、出血量はごく少量とされており、色としては生理と同じような鮮血であることもあり、おりものに混ざってピンク色に見えることもあります。時間が経過して出てきた場合は茶色になっていることもあります。
色としては、通常の月経と見分けがつかないこともあるようです。
着床出血の時期
着床出血は、生理予定日ごろ(またはその少し前)におこるため、時期的にも生理と間違えてしまうケースがあるようです。
まとめ
妊娠超初期というのは、妊娠を待ち望む女性にとっては気持ちも体も不安定になりがちな、落ち着かない時期ですが、このころに起こりうる出血の要因を頭にいれておくと、実際出血したときに少し冷静に行動できるかもしれません。
着床出血は通常の妊娠でも起こりうるものですが、ここまでに紹介したように病気による出血も起こる可能性があります。気になる出血がある場合は、かならず医療機関を受診するようにしましょう。

(文:上口晴美/毎日新聞出版MMJ編集部、監修:浅川恭行先生)
※画像はイメージです
[*1]NEWエッセンシャル産科学・婦人科学第3版, 327p, 医歯薬出版, 2004
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます