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2022年09月12日 14:15 更新

中村靖先生取材|「出生前検査」では何がわかる? なぜ必要?

出生前診断・検査イコール「ダウン症を調べる血液検査」と思っている方も多いようですが、その認識は誤りです。胎児の先天異常などを調べる「出生前検査」にはどんな種類がありなぜ必要なのか、そして妊婦本人はどのように捉えればいいのかについて、臨床遺伝と超音波の専門医・指導医の資格をお持ちの中村靖先生にお話を伺いました。

「妊婦健診」で赤ちゃんの様子は診ない?

―― 出生前検査は生まれる前の赤ちゃんの健康を調べる検査ですが、わざわざ出生前検査を受けなくても、妊娠中の赤ちゃんの様子は妊婦健診で診てもらえると思っていました。そうではないのでしょうか。

中村先生“妊婦” 健診ですから、あくまで中心は妊婦さんを診ることです。どこまで診るかは担当する医師によって異なるので一概には言えないこともありますが、基本的には『通常の妊婦健診で赤ちゃんの様子を細かく診ることはない』と思ってよいでしょう。」

―― 腹部の超音波検査(エコー)では赤ちゃんの様子が映りますし、「元気に動いていますね」などと言ってもらえるので、赤ちゃんのことも診てもらえていると思っていました。

中村先生「たしかに、妊婦さんがそう思ってしまうことはわかります。ですが正直なところ、妊婦健診の短い限られた時間で胎児について詳しく観察するのは、なかなか難しいものがあります。
今、多くの施設では、妊婦健診で毎回超音波診断装置を用いていますが、必ずしも毎回超音波を使うことにはなってないんです。それに、妊婦健診では妊娠が順調に経過しているかを診ることが主で、胎児の観察は必要とされていません。」

―― 妊婦健診のたびに当然のようにやってもらえていたので、必ず行われるものだと思っていました。

中村先生「妊婦健診で超音波診断装置を用いるかどうかは、施設によっても違いがあると思います。ただ、妊婦さんも医師も、超音波で胎児が動いているところを見ることを希望することが多いので、よく使用されていることとは思います。

日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が共同で編集・監修している産婦人科診療ガイドラインでは、産科で行う超音波検査には妊婦健診時に行われる『通常超音波検査』と、胎児形態異常診断を目的とした『胎児超音波検査』の2種類があると規定しています[*1]。前者では、異所性妊娠(子宮外妊娠)の有無や胎盤の位置、羊水の量など、妊娠経過の確認を主な目的としています。胎児を対象とした項目としては、胎児の生死や胎児数の確認(多胎かどうか)、発育の評価、胎児の位置や胎児がいる向きの評価に留まります。

もう一つの『胎児超音波検査』というのが、私が主に行っている胎児の診断を目的とした超音波検査です。出生前検査の一種という位置付けで、上記ガイドラインでは「全妊婦を対象とした標準検査ではない」と明記されています。当院では『胎児精密超音波検査』と呼び、30~45分かけて、お腹の赤ちゃんの様子をしっかりと確認しています。」

―― では妊婦健診で行われる『通常超音波検査』は赤ちゃんの先天性の病気については一切わからないのでしょうか。

中村先生「通常超音波検査では、たしかに赤ちゃんのことを細かく診てはいませんが、何をどこまで見るのかについては、医師によって大きく違います。

確かに、妊婦健診のエコーの最中に胎児の気になる部分が見つかることもありますが、『妊婦健診の超音波検査は、胎児を診ることが目的ではない』ので、見つかる時もあれば見つからない時もあるというのが、現実でしょう。」

出生前検査の結果は何に役立てられる?

―― 先生のクリニックで精密な胎児超音波検査を受ける方は、どのような理由で受けることが多いのでしょうか。

中村先生「基本的には、心配を抱えている方が多いです。高齢の妊婦さんでトリソミー※が気になる方、妊婦健診の際に主治医から『NT(首のうしろのむくみ)が気になる』と言われたのが気がかりな方など、何かしらの心配があるので調べたいという方が目立ちますが、特別な心配はないけれど一度きちんと見て安心したいという方も、大勢いらっしゃっています。」
※トリソミー:通常2本1組の染色体の一部が、何らかの理由で3本1組になってしまうこと

―― 出生前検査には胎児超音波検査やNIPT以外にもいろいろありますが、その意義についてはさまざまなことが言われています。胎児の先天異常は何のために見つけるのでしょうか。

中村先生「これを読んでいる方の中にはもしかすると、『出生前検査は、異常を見つけて妊娠中絶を考えるために行うもの』というイメージをお持ちの方がおられるかもしれませんが、それはこの検査のごく一部の側面でしかありません。

先天的な異常には、さまざまなものがあります。
生きていくことすら難しいような命に関わる病気、まだ治療方法が見つかっておらず一生抱えていく必要があるようなものから、多くの人たちとは少し違いがあるものの生活していくことには何の支障もないもの、何かのきっかけで検査しない限りは見つかることもなく一生を終えるものまで、本当に大きな幅があります。現在普通に生活している人にも、なんらかの先天異常を抱えていたり、治療した後だったりする人がいるかもしれません。

最も多くの病気が起こる臓器は、心臓です。よく言われるダウン症などの染色体異常は、数ある先天的な異常の一部にすぎません。そうした異常の中には、お腹の中では問題なく生きていられるけれども、生まれた途端に生きていくのが難しくなるものがあります。そのような場合、生まれてすぐにどのように対処できるかによって、一生が大きく変わってしまうこともあります。私たちが胎児の検査を行うのは、病気があっても少しでも良い状況で生まれてきてほしい、何か問題が見つかった時に、少しでも条件の良い妊娠管理方法や分娩場所、方法について検討したいという気持ちがあるからです。

出生前検査であらかじめわかることで、考える時間も確保できるし、いろいろな選択や準備も可能になります。私は、出生前検査は赤ちゃんにとっても妊婦さん自身や家族にとっても、いろいろな可能性をもたらすものと考えています。」

出生前検査の流れ

―― 先生のクリニックで実際に出生前検査を受ける場合、どのような流れになるのでしょうか?

中村先生「まずは遺伝カウンセラーがカウンセリングや問診をして、その方が何を心配されているのか、例えば主治医から指摘があって来られた場合であれば、どんな指摘がされているのかを聞いて、不安や問題の洗い出しを行います。そのうえで、どの出生前検査が適しているのかを決めます。

出生前検査にはいろいろな方法があります。どの検査を選択すべきかについては、その人の状況に応じて考えたほうがいいと思っています。」

おもな出生前検査の種類

■胎児超音波検査(妊娠12週・20週・30週頃)
胎児の様子を超音波で確認し、健康状態を調べる検査。初期・中期・後期と赤ちゃんの成長によってわかる項目が異なる
わかること:発育異常、形態異常、心臓病 など

■NIPT(妊娠10週以降)
妊婦さんの血液中に含まれる胎児由来のDNA断片を分析し、胎児の染色体や遺伝子について調べる検査。主にダウン症など3種類の染色体異常(13・18・21トリソミー)の有無についての検査感度が高いことが知られている
わかること:染色体異常

■コンバインド検査(妊娠11~13週)
胎児超音波検査でNT(後頸部透亮像)を計測し、母体血清マーカーと組み合わせて、13・18・21トリソミーの可能性について推定する検査。超音波検査の項目を追加することで、検査感度を上げることができるが、21トリソミーについての感度は、NIPTに及ばない
わかること:染色体異常

■妊娠中期母体血清マーカー検査(妊娠15~18週頃)
妊婦さんの血液中に存在する胎児や胎盤由来の成分4種類を測定。その結果と妊婦さんの年齢を考慮して、染色体異常や開放性神経管奇形の確率を出す検査だが、近年開発された方法に比べてその感度・特異度共に劣るので、最近ではあまり用いられていない
わかること:染色体異常、形態異常の一部

■絨毛検査(妊娠11~14週頃)
胎盤を構成する組織である絨毛を採取し、調べる検査。絨毛と胎児は、ひとつの受精卵から発生したものなので、絨毛を調べることで胎児の染色体異常がわかる。染色体異常の確定的検査のひとつ。遺伝子について調べる材料にもなる。お腹から針を刺して採取する方法と、子宮頸管から管や鉗子を用いて採取する方法とがある
わかること:染色体異常、遺伝子の問題

■羊水検査(妊娠15週以降)
お腹に刺した針で、羊膜の中にある羊水を採取し、羊水中に浮遊する胎児の細胞を集めて解析したり、羊水中の成分分析をしたりする検査。染色体異常の確定的検査として行われることが多い
わかること:染色体異常、遺伝子の問題、感染症、溶血、その他

―― 検査で何か見つかった場合はどのようなタイミングで伝えられるのでしょうか?

中村先生「血液検査の場合は、検査結果が出たらお伝えしています。超音波検査では、検査をしながらお伝えするものと、検査終了後にまとめてお伝えするものがあります。もしも知りたくない情報、例えば性別については教えてほしくないといったことがあれば、事前に教えていただければ、お伝えせずにいることも可能です。

緊張されている方も多いので、当院ではリラックスして検査を受けていただけるよう、ゆったりした施設づくりを心がけています。」

グループでの遺伝カウンセリング(コロナ禍で休止中)や家族での来院の際などに使用されるミーティングルーム。大きな窓から見える外の景色が緊張感を和らげてくれる。

出生前検査について、妊婦さんが知っておく・考えておくべきことは?

―― 妊婦さんは出生前診断について最低限、どんなことを知っておけばよいでしょう。

中村先生「今はインターネットなどを通じてさまざまな情報を得ることができ、妊婦さんの間でも持っている情報量にかなりの幅があります。非常に積極的に情報収集している方もいれば、そうでもない方もたくさんいます。そのような中、一概には言えませんが、母体の年齢にかかわらず、生まれながらに異常や障がいのある赤ちゃんは一定数いること、そして母体の年齢が高くなると、染色体異常の割合が増えることくらいは知っておいたほうがいいかなと思います。」

―― 出生前検査について、できれば事前にじゅうぶんな情報収集を行い、考えておいたほうがよいということでしょうか。

中村先生「考えておければそれにこしたことはないですが、何をもって『じゅうぶん』といえるのかも、難しいところですよね。出生前診断の話になると、必ずと言っていいほど『検査を受ける前に、しっかり考えておきましょう』という話が出てきます。理想を言えばそうですが、なかなか難しいことだと思います。

こんなことを言っていいのかわかりませんが、例えば私はこうして出生前検査を専門的にやっていますが、自分自身の子どもが生まれる時、妻が妊娠したという時に、将来のことまでじゅうぶんに考えたかといわれると、胸を張って言えるほどではなかっただろうなとも思います。私自身がそうなのですから、皆さんにばかり『きちんと考えておきましょう』と要求するのはどうなのかなという気がしています。

だから、さっき言った最低限のこと――母体の年齢にかかわらず一定数の赤ちゃんには先天性の異常や病気があること、母体の年齢が上がると赤ちゃんの染色体異常の割合が高くなること、そしてそれらの多くは検査を行うことで調べられることくらいを知っておき、赤ちゃんの状態を生まれる前に知りたいか、生まれるまでは知りたくないかを考えておけばいいのではないでしょうか。」

中村先生「検査を受けることに罪悪感を持つといった話も、よく聞きますが、検査を受けること自体はなにも悪いことではないですし、罪悪感を持つ必要はないと思います。赤ちゃんに何があるかを知ったうえで、親としてどうするかっていうのを考えるために検査を受けるだけなのに、罪悪感を持つことはないです。適切に出生前検査を行っている医療機関で、ぜひ『堂々と』出生前検査を受けてほしいです。」

―― 出生前検査について考えている妊婦さんの気持ちが軽くなるようなお話、ありがとうございました。

(取材・文:山本尚恵)

FMC東京クリニックについて

■クリニックHP:http://www.fmctokyo.jp
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■電話番号:03-3221-0333
■アクセス
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・東京メトロ半蔵門線・都営新宿線「九段下」駅(出口3a, 3b)から徒歩5分
・JR総武線「飯田橋」駅より徒歩8分
※新幹線の場合:「東京」駅日本橋口から地下鉄東西線「大手町」駅に徒歩(4〜5分)で乗り換えて、「九段下」駅まで2駅

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