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2022年06月08日 07:15 更新

「新生児訪問」でおかしな指導をされた親御さんに、小児科医が伝えておきたいこと

「新生児訪問で根拠のないことを言われた」「新生児訪問で叱られてつらかった」などという声を聞くことがあります。なぜ、そんなことが起こるのでしょうか。これまで多数のお母さん、お父さんからの相談を受けてきた森戸先生が、その理由と対処法をお伝えします。

新生児訪問が悩みのタネになることも

(photoAC)

小児科外来をしていると、第一子を産んだばかりのお母さんから「新生児訪問」で助産師さんや保健師さん、看護師さんから言われたことについて相談を受けることが多々あります。特に以前、産婦人科のある病院で働いていたときは1か月健診を行なっていたのもあって、今以上に様々な相談が寄せられていました。

新生児訪問というのは、各自治体から委託された助産師か保健師、または看護師が、生後1〜4か月のお子さんのいる家庭を訪問し、様子を見たり相談を受けたりするためのもの。この時に、例えばお母さんに産後うつや体調不良などの何らかの問題や疑問があったり、お子さんの成長や発達に何らかの心配事があれば相談に乗ったり、さらにフォローアップしたり、その後の健診時などに医師や保健師が連携して手助けしていけるようにしているのです。

当然、ほとんどの助産師・保健師などの方はきちんと母子の状態を確認し、相談に乗ったり、役立つ専門的な知識を伝えたりしています。ところが一部に、かえってお母さんやお父さんが不安になるようなことを言ったり、なぜか強い調子で叱責したり、不正確な情報を伝えたりする人もいて、不安になったお母さんやお父さんが小児科医に相談するということは少なくありません。そういった問題のある新生児訪問は、母子の健康を守るために役立たないどころか、完全に逆効果でしょう。

おかしな「指導」の実例

実際に私が保護者の方から相談された内容には、主に以下のようなものがありました。どれも間違っていたり、問題があったりする内容です。カッコ内に説明を入れました。

①母乳や育児用ミルクに関するもの

・赤ちゃんの体重が増えすぎだから、母乳や育児用ミルクを減らすよう伝える
(乳児は自律哺乳といって、母乳でも育児用ミルクでもほしがるだけ与えるのが基本です)

・育児用ミルクを薄めて飲ませるように言う
(薄めると栄養失調や水中毒になる危険性があるので、必ず説明書通りにしなくてはいけません)

・授乳中の母親に粗食をとるように指示する
(母親の食事がそのまま母乳になることはなく、普通の食事で大丈夫です)

②赤ちゃんの身体や健康に関するもの

・赤ちゃんの舌小帯が短いので小児科医には言わず、自分の紹介する耳鼻科で切るようすすめる
(舌の裏側の「舌小帯」を切ることは稀であり、助産師や保健師が診断してはいけません)

・赤ちゃんの便秘は、数日間くらい放置してもいいと言う
(便秘は早めに対処したほうがいいです)

③ワクチンに関するもの

・ロタウイルスワクチンには意味がないと伝える
(ロタウイルスによる胃腸炎を防ぎ、また重症化も防ぐ、大事なワクチンです)

・ワクチンは修正月齢で行うように言う
(そのようなことをする必要はなく、生後2か月からワクチン接種を始めます)

・12月、1月はワクチンを打たないよう指導する
(全く意味がわからないので、なぜそんなことを指導したのか不明です)

④迷信に関するもの

・乳腺炎や発熱にはキャベツ湿布・こんにゃく湿布・里芋湿布がよいとすすめる
(食品のほうが効果的であるという根拠がないうえ、かぶれたり細菌感染したりしかねないので保冷剤がいいです)

このようにお母さんやお父さんにおかしなことを伝える助産師や保健師、看護師がいることは、ほんの一部とはいえ大問題です。だから私は相談を受けたら、自治体や保健所に報告するようにしています。

おかしいなと思ったらどうする?

では、新生児訪問などで実際におかしなことを言われたら、どうすべきでしょうか。もしも可能なら、その場で「どのような根拠があるのでしょうか? それとも、個人的な意見でしょうか?」などと聞いてみましょう。

助産師や保健師、看護師が新生児訪問でするべきことは、個人的な意見を言うことではなく専門的で役立つ知識を伝えること、適切な専門家につなぐこと、保護者の不安や疑問に応えて負担を軽減すること、子供の成長を確認することなどです。個人的な意見は却下しても全く問題ありません。

ただ、産後すぐは慣れない育児に疲れているものですから、とにかく無理をしないようにしましょう。その場で伝えられない場合は、適当に受け流しておいて、あとでご自身または家族から自治体に意見を伝えたり、小児科や子育て支援センターなどで相談したりしましょう。各部署毎に担当は違いますから、自治体に連絡すると本人に伝わるかもしれないと悩まなくても大丈夫です。むしろ、今後の新生児訪問の質がよくなるでしょう。

新生児訪問は、早期の赤ちゃんはもちろん、産後うつなどのリスクが高い産後すぐのお母さんの健康を守るために重要なものです。それなのにガイドラインがなかったり、研修が不足しているのが本当の問題です。厚生労働省がガイドラインを作成し、自治体がもっとしっかり研修を行うべきだと、私は思っています。

(編集協力:大西まお)

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