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2022年03月20日 08:03 更新

子どもの防犯・安全教育はいつから? 0歳から入学後までにできること【専門家解説】

進学・進級のシーズン。新生活にワクワクする子も多い中、気をつけたいのが子どもを狙った犯罪です。前編ではコロナ禍での犯罪傾向の変化などを、子どもの安全教育の専門家である、ステップ総合研究所 所長 清永奈穂さんにお聞きしました。後編では、今からできる子どもの防犯・安全教育についてお伝えします。

コロナ禍での犯罪傾向の変化などを解説していただいた前編はこちら
コロナ禍で子どもを狙う犯罪はこう変わった! 子どもの安全教育の専門家に聞く

安全教育は0歳から始まっている!

ーー子どもを狙う犯罪が様変わりする中で、ますます子どもに対する防犯のための安全教育が重要になると思います。安全教育は何歳から始めるとよいのでしょうか?

清永さん  実は、0歳から安全教育はすでに始まっているんです。この記事を読んでいるお父さんやお母さんも自覚していないだけで、普段からすでにやっていることなんですよ。

ーーすでに安全教育をしている、と言われてもまったく検討がつきません……。

清永さん  例えば、抱っこをしてあげること。抱っこは、子どもにとって親から守られている、子ども自身が自分は大事な存在なんだと感じられる行為です。子どもが泣いたら駆けつけるのも同じ。子どもが泣くのは空腹などの「危機」を知らせるためで、ミルクをあげたりおむつを替えたりすることは子どもの危機に対応しているということ。直接言葉にしなくても、親から受けたそうした行為を通じて、子どもは「助けてと伝えれば、お父さんお母さんが守ってくれるんだ」と安心できます。
そうしたやりとりができていれば、次の段階として「走って逃げる」「大声を出す」というような練習をすることで子どもがより安全に過ごせるようになります。
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ーー普段の育児でしていることが、そのまま子どもの「親への信頼」「大人への信頼」につながっていくんですね。

清永さん  そうですね。「ほかの親と比べて子どもにしっかり向き合えていないんじゃないか」と不安に感じる方もいるかもしれませんが、そこは心配しなくても大丈夫だと思います。
歩く練習をしたときに"なにかあったら助けてくれる"お父さんお母さんの手をしっかり握って、前を見ながら自分の足で歩くことができる。子どもがしっかり前を見て歩けることは「前から歩いて来る人はどんな人だろう」と考えながら歩くために必要な、安全教育において大事な一歩です。

ーーほかに、0歳からできる安全教育はありますか?

清永さん  ベビーカーでお散歩しながら、下記のシートを使って地域の公園や道路の安全などをチェックするのもおすすめです。
ほかに、お父さんお母さんには地域とのつながりも大切にしてほしいと思います。よく行くお店の店員さんを見て「子どもになにかあったときに駆け込めそうだな」と思ったら、定期的にお店に行って顔見知りになっておくのも有効です。子どもが挨拶できる年齢になったら自分から挨拶をさせるなどして、子どもも地域に入っていけるようにできるとさらにいいですね。
そうしたつながりができると「最近不審者がこの辺りでうろついているから気をつけてね」など、地域の方から声をかけてくれるようになります。周囲を見渡すと、意外と子どもをよく見てくれる大人はいるので、ぜひ地域デビューをしてくださいね。

自宅周りの安全環境チェックシート

0~19点
あなたの自宅近くの環境はおおむね安心です。今後も気を抜かずに安全に気配りしていきましょう。

20~49点
危険度は中くらいです。危ないエリアには近づかないように親子でよく話し合っておきましょう。

50~79点
危険度は高めです。危ないエリアに近づかないことはもちろん、万一の場合にどうすべきか親子でよく確認しあっておきましょう。

80~100点
危険度は非常に高く、普段から安全への意識をしっかり持つことが大切です。安全確保のためにできることを実行しましょう。

((株)ステップ総合研究所作成「子どもの安全ガイドブック」より)

3〜4歳、5〜6歳になったらできる安全教育は?

ーー具体的に、危ない目にあったときの対処法を教えるのは何歳頃がよいでしょうか?

清永さん だいたい3歳頃から教えるといいですね。3歳くらいなら「迷子になったらその場で『お父さん、お母さん』と叫んでね」、4歳くらいになれば「お菓子をあげるって言われたらどうしたらいいかな?」など、少しずつ伝えてください。ただ、3歳くらいだとまだ怪しい人とそうでない人の判断がつかないので、親の目の届く範囲で遊ばせるなど極力一人にしないことが大切です。

ーー5歳くらいになるとお友達だけで遊ぶことも出てくるかと思いますが、5〜6歳頃になったらどんな安全教育が必要でしょうか?

清永さん  このくらいの年齢になるとある程度体力もついてくるので、実際にリュックやランドセルを背負って20m走れるか、腕をつかまれたときに振りほどけるかといった練習を始めていくのがおすすめです。「はちみつじまん」(下記図参照)など具体的に怪しい人を見分ける方法や、「もし怖いことをされたときには必ずお父さんお母さんに教えてね」と日頃から伝えておくことも大切です。

(株)ステップ総合研究所作成「子どもの安全ガイドブック」より
ーー春から新一年生になる子を持つ家庭で、入学前にしたほうがよいことはありますか?

清永さん  入学前にぜひ親子で通学路を歩いてみてください。地域のマップを持ちながら「ここは人通りがあって明るくて安全だね」とか「ここは薄暗いからなるべく一人で歩かないようにしようね」と子どもと一緒に確認するといいですね。
そのときに「ひまわりさん」(下記イラスト参照)を参考にすると安全な場所・危険な場所がわかりやすいです。
曜日や時間帯によって、人通りなど通学路の状況も変わりますので、通学路をチェックするときはできれば登下校の時間に合わせると実際に子どもが歩くときの状況を把握しやすくなります。
また、子どもにはリュックやランドセルを背負わせて、実際に通学路を走って逃げる練習をするのもおすすめです。同じ走る練習でも、何も荷物がない状態とリュックやランドセルを背負っている状態ではしっかり走れるかどうかも変わってきます。
文:清永奈穂、イラスト:石塚ワカメ『「いやです、だめです、いきません」 親が教える子どもを守る安全教育』(岩崎書店)より

防犯ブザーは最低でも新学期が始まる前に親子で確認

ーーこれから入学、進級を控えて防犯ブザーを子どもに持たせる保護者も多いですが、防犯ブザーを選ぶときのポイントはありますか?

清永さん  まず、音と光が両方出るタイプがおすすめです。犯罪者は、「音」「光」「人の目」をとても嫌います。音と光が出れば、犯罪者も「誰か来るんじゃないか」と人の目を気にするようになるので、ぜひ音と光が出るタイプを選んでください。
次のポイントは、ブザーの紐の長さ。ランドセルにつけたときにちょうど子どもの腰あたりに紐がくるようにすると、後ろから羽交い締めにされたり前から抱きつかれたりしても、紐を引っ張ってブザーを鳴らせる可能性が高くなります。紐の長さは後から自分で紐を替えたりして調節できるので、子どもの成長に合わせて紐の長さを変えてください。
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ーー防犯ブザーは、どうしても普段使わないのでいつの間にか電池切れになっていることがよくあると思います。おすすめの確認頻度はどれくらいですか?

清永さん  本当は1ヵ月に1回が望ましいですが、難しければ新学期に入るタイミングでの確認でもOKです。そのときは親子で一緒に電池切れになっていないか、紐の長さは適切かなど確認してください。
また、どんなに高機能な防犯ブザーを持っていても、いざというときに使えなければ宝の持ち腐れですから、子どもが自信を持って防犯ブザーを鳴らせるまで実際に鳴らす練習も忘れずに。特に今はマスクで声が通りにくいので、防犯ブザーは特に有効です。決して防犯ブザーをつけて安心しないことが大切です。

ーー防犯ブザーのほかに活用できる防犯アイテムはありますか?

清永さん  小型のGPSやキッズケータイは各社から出ているので、それらを使うのもいいと思います。また、一部の鉄道会社は、子どもがどの駅から乗ってどの駅で降りたかを交通系ICカードの履歴をもとに保護者のスマホに通知するサービスを提供しています。
ただ、GPSや交通系ICカードの通知サービスも、あくまで子どもがどこにいるかわかるだけであって、その場で子どもを守るものではありません。だからこそ、子どもが自分自身で身を守れるように普段から防犯ブザーを鳴らす練習や腕をふりほどく練習、大声で助けを呼ぶ練習などをしておくと、より安心です。

「大人への信頼」と「地域の目」が大切な子どもを守る

ーー子どもを守るために、ほかにできることはありますか?

清永さん  これまで、いろいろと最近の犯罪状況や不審者と遭遇したときの対処法などをお伝えしました。けれど、お父さんお母さんには、あなたを狙う悪い人がいると子どもをあまり怖がらせずに、「子どもが人を信頼する気持ち」を大事に育ててあげてほしいと思っています。
そのためにも、先ほどもお話ししたように、普段からよく行くお店の店員さんやお父さんお母さんが親しい人には進んで子どもにも挨拶をさせて、子どもの応援団を作っておく。怖い目にあったら応援団の大人たちが助けてくれるという信頼関係を培っておくのはとても大切です。また、たとえ知らない人であっても親切にしてくれる人はいますから。

ーーたしかに、自分の味方がたくさんいるんだと思えたほうが親も子も安心ですね。

清永さん  そうですね。信頼関係を築いた上で、「あなたを大切にしてくれる大人はたくさんいるけれど、ときどき嫌なことをしてくる人がいるかもしれないから気をつけようね」と教えるとベストです。
お父さんお母さんも仕事や家事、育児と多忙な中で「子どもも自分たちだけで守らなきゃ」と気を張り続けるのは大変です。だから、地域の方に応援団になってもらって、自分たち以外にも子どもを守ってくれる人がいると思えたほうが気持ちが楽になると思います。そして、お父さんお母さん自身も「瞬間ボランティア」としてぜひ子どもを守る地域の目になっていただきたいです。
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ーー「瞬間ボランティア」とは何でしょう?

清永さん 「瞬間ボランティア」は通勤時や買い物時など瞬間的でいいので、一人で困っている子がいたときに声をかけたり、不審者がいたときに代わりに警察に通報したりする大人のことを個人的にそう呼んでいます。子どもを狙う不審者がいたときは、すぐに110番できなくても不審者を二度見したり子どもを「こっちにおいで」と呼ぶだけでも一定の効果はありますよ。

ーーたしかに、それならすぐにできそうですね。一方で「自分が不審者だと思われるのでは」という心配もあって……。

清永さん 不審者だと思われないためには、子どもに近づきすぎないことが大切です。だいたい1.5m(両手を広げたくらいの長さ)ほど離れていれば大丈夫。「お父さん、お母さんに迎えに来てもらおうか?」「警察の人を呼ぼうか?」と声をかけてあげれば子どもも安心ですし、「知らない人でも親切にしてくれる人がいるんだ」と子どもが知るきっかけにもなります。
特に今はギスギスとした世の中で、さまざまな事件も起きています。「余裕がない大人も多いけれど、こうした親切な大人もいるんだよ」ということを、ぜひ子どもたちに教えてあげてほしいです。
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子どもを狙う犯罪が変わる中、子どもを守るには知らない大人を誰もかれも疑うのではなく「子どもの人を信じる気持ち」を育てることが大切だという清永さん。子どもと大人の信頼関係を築きながら、実際に被害にあってしまったときの対処法を学ぶ。心理面と技術面の両輪があって初めて、しっかりと子どもを守ることにつながります。
皆さんもこの春、子どもと一緒にできることから一つずつ始めてみませんか?


(写真:佐藤登志雄、取材・文:マイナビ子育て編集部)

コロナ禍での犯罪傾向の変化などを解説していただいた前編はこちら
コロナ禍で子どもを狙う犯罪はこう変わった! 子どもの安全教育の専門家に聞く

【保護者向け】清永さんの書籍『いやです、だめです、いきません』を試し読み

マイナビ子育てでは、清永奈穂さんの著書『いやです、だめです、いきません』(岩崎書店)の一部を試し読みできます。
危ない場所を見分ける「ひまわりさん」、怪しい人かどうか判断する材料になる「はちみつじまん」など、子どもの防犯や安全教育に役立つ内容を漫画・イラスト付きで解説。 ぜひ、ご覧ください。


試し読み連載『いやです、だめです、いきません』はこちら

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