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2022年04月11日 11:51 更新

妊娠中でも飲める漢方薬・ダメな漢方薬はどんなもの?<ママのお悩み漢方相談室#5>

妊娠中はアルコールやタバコがダメなことはもちろん、食事や薬にも注意が必要な時期です。では、漢方薬はどうなのでしょうか? 妊娠中の漢方薬との付き合い方について漢方薬剤師の西崎れいな先生(KAMPO MANIA TOKYO)に教えていただきます。

「妊娠中は西洋薬より漢方薬」はうそ?ほんと?

「妊娠中は、西洋薬は飲めないけれど漢方薬ならOK」と聞いたことがあります。実際のところはどうなんでしょうか?

そうですね。これは薬剤師として働いていても非常に多い相談のひとつです。漢方薬は副作用が少ないとか、妊婦さんも飲めるといったイメージは、広く認知されていますね。副作用については、以下の記事をご参照いただければと思います。
▶︎漢方薬にも副作用はあるの?<ママのお悩み漢方相談室#3>

妊娠4〜7週ごろは特に注意が必要な時期

まず大前提として、漢方薬に限らず妊娠中のお薬は、胎盤を通して成分が赤ちゃんに伝わることがあるため、時期によっては胎児に影響する可能性があります。特に妊娠第4週から7週までの間は、器官形成期といって、心臓や神経など赤ちゃんの体の重要な部分が作られる時期のため、最も注意が必要とされています。

妊娠の週数によってその影響はまちまちですが、どのお薬も説明書の記載としては
「妊娠中の服用はNG(あるいはできるだけ避ける)。投与はベネフィットがリスクを上回る時だけにしてね」
というのが大半です。

といっても、赤ちゃんの発育に影響を与えるといったはっきりした証拠があるお薬はごく少数で、この文言のニュアンスは「実際のところはわからないのでやめておいてね、もし飲む場合は注意してね」に近いのです。はっきりしない以上積極的に服用するのはやめよう、ということです。

器官形成期という時期があるんですね。この時期は風邪など引かないように気をつけないといけませんね。

はい、妊娠初期は本当に大事です。

妊娠週数は最終月経(生理)開始日を0週0日として計算するので、第4週というと「あれ?今月生理遅れてるな」とちょうど妊娠に気がつくころです。一般的な妊娠検査薬が使える時期はだいたい第5週くらい(次回生理開始予定日から1週間後)からなので、もしそれぐらいの時期に微熱があったり体調がすぐれないといった場合、妊娠の可能性があるのであれば自己判断での服薬は避け、医師や薬剤師に相談するようにしましょう。

なお、熱っぽさやだるさといった体調変化が、風邪の症状ではなく妊娠初期症状の可能性もあります。

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妊娠初期症状については、以下の記事で詳しく解説しています。

妊娠中に飲める西洋薬もあり、逆にNGな漢方薬も

「西洋薬は飲めない」というのはよくある誤解のひとつなのですが、西洋薬にも妊婦さんが飲めるものは多く存在します。新型コロナワクチンの副反応で発熱した際に、妊婦さんが飲める解熱剤が有名になりましたよね。

漢方薬が使用されているのは中国や日本などアジア圏が中心なので、それ以外の国での使用量、使用例ともにこれらの地域ほど多くはないのですが、西洋薬は欧米でも広く使用されているため、その分多くの妊婦さんの臨床データが蓄積されているという利点もあります。

また、逆に漢方薬でも妊娠中にNGな場合もあります。

たしかに、今のところ漢方薬には妊娠中の服用で胎児に奇形が発生したというような重篤な報告はありません。安全なイメージを持っていらっしゃる方も多く、妊婦さんご本人も処方を希望されるケースが多いですが、先ほども説明したように漢方薬はあくまで医薬品です。

妊娠中の体は普段よりデリケートになっていて、思わぬ副作用を引き起こす可能性もありますし、妊娠によって味覚の変化があるように、今までと体質が変わることもあります。以前効果のあった漢方薬が合わなくなったりすることもあるんです。

妊婦さんがダメな漢方薬もある!

漢方薬でも妊娠中にNGなこともあるんですね!

具体的にはどんな漢方薬で妊婦さんにリスクがあるのでしょうか?

生薬のなかには子宮の収縮や血圧の上昇、切迫早産など、妊娠に影響を及ぼすリスクのあるものも存在して、妊婦さんには特に気をつけてもらいたい生薬があります。

漢方医学で妊娠中の禁止事項とされているものは以下の3つです。これらを誘発するような漢方薬は妊婦さんの服用は避けるべきとされています。

漢方医学での妊娠中の禁止事項

1. 過度の発汗
2. 下痢
3. 過度の利尿

1. 過度の発汗|麻黄

「1. 過度の発汗」には、生薬でいうと麻黄(まおう)が含まれるものが該当します。麻黄はメジャーな漢方薬である葛根湯にも含まれていて、発汗を促す作用があるので、風邪のときには威力を発揮します。

妊婦さんが服用するには注意が必要ですが、そもそも麻黄がNGということを知らない人も多いですし、葛根湯という品名からは麻黄が構成生薬として含まれていることを連想しにくいのではないかと思います。

2. 下痢|大黄

「2. 下痢」は、大黄(だいおう)という生薬がこれにあたります。大黄は子宮を収縮させる作用があって、流産や早産の危険性があります。医療用便秘薬としてよく利用される大黄甘草湯という漢方薬は瀉下(しゃげ)作用といってお腹をくだす効果があります。要するに下剤ですね。

3. 過度の利尿|附子など

「3. 過度の利尿」は利尿作用のあるものを指し、代表的な生薬は附子(ぶし)というものです。むくみをとったり、体を温める効果があるので、真武湯などの冷え性の治療薬として利用されていますが、妊婦さんの場合は服用しないことが望ましいです。


漢方薬ならみんな大丈夫だと思い込んでいる人も少なくないので、妊娠中の方からの「飲んでもいいですか?」という相談はとても多いです。もちろん、パッケージや説明書にはきちんとその旨の記載がありますし、相談してもらえたらご説明します。

妊娠を知らずに漢方薬を飲んでしまっていた……大丈夫?

「妊娠に気づかないうちに飲んでしまっていた!」なんてこともあると思うのですが……。

ありますあります。お薬に限らず、アルコールや喫煙、カフェインなど、心配される妊婦さんはすごく多いです。

過度に心配しすぎず、妊娠に気づいた時から気を付ける

妊娠に気づかないようなタイミングは、時期でいうと受精卵が着床して妊娠が成立する妊娠2〜3週くらいの時期です。まだ赤ちゃんの体をつくるフェーズには突入していないことが多いので、過度に心配する必要はないと思います。

「あれ? 生理きてない?」と気づき始める時期は、先ほど説明した器官形成期に入ってきています。注意した方がいい時期ではありますが、月経周期がいつもバラバラだったり、妊娠初期症状が全然なくて妊娠そのものに気づかないケースもあるでしょう。飲んでしまったとしても神経質になりすぎないようにしましょう。

お酒とタバコにも注意を

せっかくなので併せて伝えておきたいのが、お酒やタバコは胎児の先天異常や胎児発育遅延をおこす可能性があるため、気づいた時点で控えた方が良いということ。

なお、カフェインは過度に摂取しなければそこまで心配しなくても大丈夫です。コーヒーでいうと1日に1〜2杯程度なら問題ないというのが現代の定説になっています。

最近はノンアルのお酒やデカフェの飲料なんかも増えてきていますので、うまく活用しましょう。

よくある妊娠中の不調におすすめできる漢方薬は?

妊娠中は便秘になったり、体がむくんだりする人は多いですよね。そういった場合は漢方薬を活用できますか?

そうですね。妊娠中はつわり、便秘、体のむくみなどの体の不調がたくさん出現します。これらの不調を解決するのに、産婦人科で使用されている有益な漢方薬もあるので紹介しておきますね。

つわり|半夏厚朴湯、小半夏加茯苓湯

妊娠中のむくみには、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、柴苓湯(さいれいとう)などの漢方薬が使用されます。当帰芍薬散は妊娠中に服用できる漢方薬として有名で、むくみだけでなく貧血やめまいなど妊婦さんによくある様々な不調に用いられます。

便秘|桂枝加芍薬湯

妊娠後期になってくると、赤ちゃんが大きくなってきて腸を圧迫するので、より便秘になりやすい時期です。便秘には、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)が使用されます。この先ほど説明した生薬である大黄とは違い、「安胎薬(あんたいやく)」といって、漢方医学でも流産を防ぐ目的で使われる漢方薬のひとつです。

風邪症状|香蘇散、麦門冬湯

頭痛や悪寒があるときは香蘇散(こうそさん)、咳には麦門冬湯(ばくもんどうとう)など、症状に合わせた漢方薬が利用されています。さきほど出てきたNG生薬の麻黄を含まない風邪薬です。

妊婦さんの体調不良は無理せず主治医に相談を

医療の現場でも、妊婦さんの体調管理には漢方薬が活用されているんですね!

はい、絶対大丈夫な薬はないの?と思う人もいるかもしれません。気持ちはわかるのですが、妊婦さんで実験するわけにいかないので、動物実験の結果や、過去の経験から安全性がわかってきたお薬が使われています。そういった点でも、漢方薬は古くからの歴史がありますから、よく処方されるわけです。

妊娠中の場合は、“なぜ漢方薬を飲もうと思ったか” が大切です。赤ちゃんへの影響を心配するあまり不調を我慢していると、むしろその方がお母さんにとっても赤ちゃんにとってもよくないこともあります。

現状、赤ちゃんに害を及ぼすという明確な証拠があるお薬はそんなに多くありません。大半のお薬は短期的な服用であれば問題ない場合が多く、産婦人科の先生は妊婦さんが安心して使用できるお薬を出してくれます。「漢方薬だから大丈夫だろう」と自己判断で服用したり、長期的に服用を継続したりせず、体調が良くない場合は無理せずに、先生に相談しましょう。

なお、お薬のことで困ったときに妊娠と薬情報センターでも相談できます。

まとめ

妊娠中はマイナートラブルなどに悩まされ、薬を使って改善したいと思う人も多いでしょう。しかし、薬の安易な使用は西洋薬でも漢方薬でもリスクがあります。自己判断せず、医師や薬剤師に相談した上で安心できるものを服用しましょう。

(解説:西﨑れいな 先生<KAMPO MANIA>)

※画像はイメージです

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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