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2021年01月09日 11:25 更新

【医師取材】妊娠中の麻疹(はしか)の危険性、胎児への影響は?

さまざまな経路で感染する麻疹(はしか)。特に妊婦さんの感染は「流産」や「早産」を起こす可能性も。 今回は、妊娠中の麻疹(はしか)の危険性に加え、胎児への影響を説明します。

麻疹(はしか)ってどんな病気?

妊娠中にはしかに感染しないようにお腹を気にする女性
Lazy dummy

※画像はイメージです

麻疹の症状

麻疹は「麻疹ウイルスによって引き起こされる急性の全身感染症」として知られています。麻疹ウイルスの感染経路は「空気感染」「飛沫感染」「接触感染」と多彩です。いずれの経路からも、ヒトからヒトへ感染が伝播します。感染力については非常に強いと言われています。また、免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症しますが、一度、典型的な麻疹を発症した人は、通常、麻疹への免疫が獲得され再び麻疹を発症することはないと考えられています(ただし、発症が0歳児であった場合は免疫の維持が不十分である可能性があるとされています)。

ちなみに潜伏期間は、麻疹ウイルスの感染後10~12日間で、感染力の持続期間は「発疹が現れる3~5日前」から発疹が消えてから4日後くらいまで(または解熱後3日くらいまで)と言われています。

なお、麻疹の発症は「カタル期」「発疹期」の2つの段階に大別できます。以下、麻疹を発症した場合の症状です。

■カタル期…発熱や咳(せき)、鼻水、結膜炎などといった症状が現れます。また、カタル期後半は頬粘膜に「コプリック斑」という白色斑点が出現します。

■発疹期…カタル期を過ぎた後はいったん解熱し、再度発熱します。それに伴って、耳後部や頸部から顔面、体幹部、四肢にかけ発疹が広がります。この時期は、高熱で体力を消耗するため、免疫力が低下して、肺炎、中耳炎、脳炎などの合併症を起こしやすく、重症化すると、死に至るケースもありますから注意が必要です。

麻疹の流行

例えば、2007年・2008年には10~20代を中心に麻疹の大規模な流行がありました[*1]。2008年より5年間 、中学1年相当・高校3年相当の年代に、「2回目の麻疹ワクチン接種」を受ける機会が設けられたことなどの結果、2009年以降の若年層(10〜20代)の患者が大幅に減りました。近年の麻疹患者のメイン層は、20歳以上の成人と、ワクチン接種前の0~1歳となっています。

2015年には、WHO(世界保健機関)より「日本は麻疹の排除状態である」と認定されました[*2]。しかし、外国から持ち込まれたウイルスをきっかけに麻疹が流行する事例が出てきています。現在、2018年3月に沖縄県で発症が確認されて以来、各地に広がりを見せているため注意が必要です。

麻疹は予防接種で防げる

麻疹は予防接種で防ぐことが可能な病気です。予防接種では免疫を獲得することが期待できますが、それが麻疹を予防する「最も有効な手段」となります。麻疹は感染力が非常に強く、空気感染もするため、手洗い、マスクのみでは予防できません。また、発症してしまった麻疹に対しては対症療法が中心となるため、発症を防ぐ、あるいは軽症化するための最善方法は「予防接種」となるのです[*3]。

なお、麻疹の患者さんに接触した場合、麻疹ワクチンを72時間以内に接種をすることで麻疹の発症を予防できる可能性があると考えられています。思い当たる場合は、かかりつけの医師とよく相談して対応をすることが大事になります。また、定期接種の対象となる子供だけではなく、医療・教育関係者や海外渡航を計画している成人も、麻疹にかかったことがあるか、予防接種を受けているかが明らかでない場合、予防接種を検討しましょう。

麻疹と風疹

麻疹と風疹(ふうしん)は、どちらも発熱と発疹を伴う感染症なので、確かに似ている部分もあります。そのため、両者を同じようなものだと思っている人もいるかもしれませんが、別のものです。風疹は、「3日ばしか」とも呼ばれる感染症。風疹ウイルスに感染してから2~3週間の潜伏期間を経て発熱、それとともに発疹やリンパ節の腫れが出てきますが、麻疹と違って感染しても明らかな症状が現れない「不顕性感染」で済む人が15~30%ほどいると言われています(ただし、この場合でも感染力はあります)[*4]。

発症後、発疹は通常数日間ほどで消失します。風疹でもまれに合併症などで入院が必要になることもありますが、基本的には発症しても大きな心配はない病気です。ただし、免疫の不十分な女性が妊娠中に風疹にかかると、お腹の赤ちゃんの眼や心臓、聴覚などに障がいが出る先天性風疹症候群を引き起こすことがあり、風疹ではこれが一番大きな問題となります。

このように麻疹と風疹は異なる感染症ですが、どちらの病気もワクチンを接種することで、免疫を獲得し、予防することができます。ですから「麻疹・風疹の混合ワクチン」(MRワクチン)の接種の検討もきちんとすべきと言えるでしょう。

大人・子供別の麻疹予防法

子供の麻疹の予防接種

先ほども紹介しましたが、唯一の有効な予防法は「ワクチン接種」です。これにより、麻疹に対する免疫を獲得することができます。回数は1度だけでなく2回のワクチン接種により、麻疹の発症のリスクを最小限に抑えることが期待できますので、子供にきちんと受けさせるようにしましょう。具体的には、「1歳」と「小学校入学前の1年間」の2回です。2回の予防接種が勧められていますので、忘れずに受けさせてください[*5]。

大人の麻疹の予防接種

麻疹の予防接種は子供のみならず、もちろん、大人でも可能です。地域によっては、成人向けに費用助成しているケースがあるので、自治体などにお問い合わせください。麻疹を予防するためには、ワクチンを接種し、免疫を獲得することが重要です。しかし、妊娠中は、ワクチンを接種することができません。また、麻疹の予防接種では、麻疹と風疹の「混合ワクチン(MRワクチン)」がよく用いられますが、赤ちゃんへの影響を避けるために「接種後2ヶ月間の避妊」が必要となりますのでご注意ください[*6]。

妊婦の麻疹予防

妊娠中の麻疹感染…胎児への影響は?

麻疹の場合は、妊娠中にかかっても、お腹の赤ちゃんに先天性の奇形が現れることは少ないといわれています。これは、「風疹」などをはじめとした他の先天性感染症とは異なる点です。しかし、妊娠中に麻疹にかかると、「流産」や「早産」のリスクが高くなる危険性があります。また、母体の麻しん症状が重症化し、重篤な合併症を引き起こす頻度が高くなる恐れもあります。

ママに免疫がない場合の新生児への影響

母親が麻疹の免疫を持っている場合、お腹の赤ちゃんにも麻疹の免疫が受け継がれることから、生後しばらくは、麻疹に感染することがありません。しかし、受け継がれた免疫は、生後6ヶ月くらいから徐々に消えてしまうため、この時期を過ぎると、麻疹にかかりやすくなるというわけです。ただし、免疫のない母親から生まれた赤ちゃんについては、ワクチン接種前に麻疹にかかってしまうケースもあり、症状が重く出てしまうことがあるとも考えられます。

妊娠前の予防接種の重要性

妊娠中に麻疹にかかることは、母体・胎児の双方に重篤な結果を招く危険があります。何度も繰り返しますが、「ワクチン接種による予防」が重要です。ただし妊娠中のワクチン接種はできませんので、妊娠可能年齢前にワクチン接種をおこない、免疫を獲得しておくことが望ましいです。大人でも麻疹にかかっていないのであれば、きちんと予防接種はしておくほうが良いでしょう。

すでに妊娠している場合の対処法

すでに妊娠している方の場合は、麻疹の予防接種を受けることができません。そこで、なるべく麻疹にかからないよう注意して生活することが重要となります。以下、すでに妊娠している場合の対処法をご紹介します。


・規則正しい生活をこころがけ、体力・免疫力低下を防ぐ
・人混みではマスクをする
・帰宅後はうがい手洗いをしっかりとする

麻疹の抗体検査

ワクチンを接種したか「記憶がない」、「覚えていない」という場合はまず、ご自身の母子手帳をチェックしてみるとよいでしょう。

予防接種歴のページで、麻疹や風疹という単語以外にMMRやMRという単語を探してみましょう。MMRは新三種混合ワクチン(麻疹Measles、流行性耳下腺炎Mumps、風疹Rubella)、MRは麻疹風疹混合ワクチンを指します。

また、麻疹や風疹は一度かかると一生免疫がつきます。小児期にかかったことがあるという情報は母子手帳に記載されているかもしれません。

それでも、罹患歴、ワクチン接種歴が不明、麻疹に対する免疫がついているか不安がある…そんな人は血液検査の1つである「麻疹抗体検査」でチェックすることができます。麻疹の予防接種をしたか記憶がない人はもちろん、免疫力が充分あるか不安な人も受けてみると良いでしょう。検査機関によっては1~2週間かかるので、余裕を持って検査を受けるほうがいいでしょう。内科のほか、産婦人科や外科などでも受け付けている場合もあるので、希望の医療機関に問い合わせてみましょう。

まとめ

妊娠中の麻疹感染は、赤ちゃんの流産・早産の原因となる危険性がありますので、注意が必要です。ただし、妊娠中は麻疹の予防接種を受けることができませんので、妊娠前からきちんと予防接種しておく必要があります。WHOは、日本国内における「麻疹の排除状態」を宣言していますが、それには予防接種が重要です。ママの予防接種はもちろんのこと、生まれた子供への2回の予防接種(定期接種)も忘れずに受けさせてください。

※この記事は 医療校閲・医師の再監修を経た上で、マイナビ子育て編集部が加筆・修正し掲載しました(2018.05.14)

※記事の修正を行いました(2019.06.12)

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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