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2022年01月26日 11:30 更新

【医師監修】つわりが軽いと先天異常があるという噂は本当?なくても大丈夫?

つわりが軽かったりなかったりすると、赤ちゃんにダウン症などの先天異常があるのでは、といううわさを耳にすることがあります。これは本当なのでしょうか。つわりが軽い、またはないことと赤ちゃんの状態などとの関係を調べました。

つわりが軽い・ないのは何かおかしいの?

疑問がある女性のイメージ

妊娠によって起こるつわりは、多くの妊婦さんが悩まされるマイナートラブル。でも、なかには妊娠したのにつわりが軽かったり、なかったりすることを心配している人もいるでしょう。つわりが軽いと何か心配なことがあるのでしょうか。

つわりは妊婦さん全員に起こるものではない

つわりはたしかに多くの妊婦さんに起こりますが、妊娠すると必ず起こるというわけではありません

つわりが起こるのは妊婦さんの50~80%と言われており、妊婦さんの20~50%はつわりの症状なしに妊娠が進みます[*1]。

つわりが軽い・なくても心配いらない

実は、妊娠するとつわりの症状が起こるメカニズムはまだよくわかっていません。

つわりのくわしいメカニズムはよくわかっていない

もっとも有力視されているのは、妊娠すると胎盤から分泌されるようになる「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」というホルモンの影響です。これは、妊娠した女性特有のホルモンで、男性や妊娠していない女性では病気などでない限り、基本的に分泌されません。

つわりによる吐き気やおう吐がひどい女性では、症状のない女性に比べて尿や血液中のhCG濃度が高いことがわかっています[*2]。

ただし、つわりにはhCGだけでなく、他のホルモンや代謝の変化、心理的要因などが影響している可能性もあるとされています。

このように、そもそもなぜつわりが起こるのかよくわかっていないため、つわりの症状が軽い・ない人がいる理由もよくわかっていません。つわりが軽かったりなかったりしても、妊婦健診で何か指摘されていない限りとくに問題はないので、あまり心配しないでください。

つわりが軽い・ない場合はダウン症といううわさが……

不安そうな女性のイメージ

つわりが軽かったり、なかったりすると「赤ちゃんにダウン症などの先天異常の可能性」があるといううわさを聞いて心配している人がいるかもしれませんが、これは本当なのでしょうか。

まったく根拠なし

妊娠しているのにつわりが軽い・ないと「赤ちゃんにダウン症などの先天異常がある」といううわさには、まったく根拠はありません。単なるうわさのようです。

ダウン症ではむしろつわりは重くなる傾向

赤ちゃんにダウン症がある場合はむしろ、妊娠中の吐き気とおう吐は「通常よりひどくなることが多い」と言われています。

これは、赤ちゃんにダウン症があると、さきほどつわりの要因として紹介した「hCG」というホルモンの分泌量が通常より多く、また高値のまま長く続く傾向があるためとされています[*2, 3]。

ただし、hCGによる影響の受け方は人それぞれなので、ダウン症の赤ちゃんを授かった場合、必ずつわりは重くなるとも言い切れません

つわりが重くなる要因は他にもあり判別困難

「つわりが重かったらダウン症なの?」とも考えないでください。hCGによりどの程度影響を受けるかは個人差が大きいですし、つわりが重くなる要因として可能性がある条件はほかにもいろいろあります。

アメリカ産科婦人科学会では、治療が必要なほどつわりが重症になる「妊娠悪阻(にんしんおそ)」のリスクを高める可能性がある要因として、以下の条件を挙げています[*4]。

妊娠悪阻のリスクを高める要因

・双子など、複数の胎児を妊娠している(多胎妊娠)
・以前の妊娠でも軽度または重度のつわりがあった
・妊婦さんの母や姉妹もつわりがひどかった
・乗り物酔いや片頭痛の病歴がある
・お腹の赤ちゃんが女の子の場合

このほかに、病的なものでは「胞状奇胎」の場合にも、つわりは重くなる傾向があります[*2]。

胞状奇胎は、子宮内にぶどうの房のような水ぶくれがたくさんできる病気です。ただし、胞状奇胎であった場合は、妊娠2、3ヶ月には超音波検査(経腟エコー)で診断可能です[*5]。

どうしても気になるなら出生前検査・診断

超音波検査を受ける女性

ここまでで「つわりが軽い・ない」ことは、お腹の赤ちゃんがダウン症であるというサインとは考えられないことがわかっていただけたと思います。

でも、妊娠期間中、赤ちゃんがダウン症などの先天異常を抱えていないか過ごすのが不安であれば、「出生前検査・診断」を受けることを検討しても良いかもしれません。

ダウン症とは

「ダウン症」は、突然変異により21番目の染色体が通常より1本多くなることが原因でさまざまな異常が起こる先天異常です。染色体の数的な異常がある赤ちゃんのなかでもっとも頻度が高く、600~800人に1人の割合で生まれてくるとされています[*6]。

ダウン症では、筋肉の低緊張や知的発達の遅れ、心臓や胃腸の病気の合併などがみられます。でも、医療や教育などの環境が整いつつある現在では、年齢や症状に応じて適切なサポートを受けながら、多くの人が社会生活を送っています。

ダウン症についてくわしくは、下記、公益財団法人 日本ダウン症協会のサイトを参照してください。

「可能性がわかる検査」と「確定診断できる検査」がある

「出生前検査・診断」は、医療機関で妊娠中に検査を受け、胎児に先天異常があるかどうか推測や診断してもらうことです。

これにはさまざまな検査があり、形態異常を見た目で判断する超音波検査のほか、染色体の異常を調べる方法には「可能性がわかる検査」と「確定診断できる検査」があります。

・可能性がわかる検査(非確定検査)

新型出生前検査(NIPT)、母体血清マーカー検査(トリプルテスト、クアトロテスト)、コンバインド検査がこれに当たります。

ママの血液のみ、または超音波検査の結果を組み合わせて行う検査で、流産などのリスクはありません。

・確定診断できる検査(確定検査)

羊水検査や絨毛検査のことで、妊娠中のお腹に針を刺して羊水や細胞を採取し異常がないか調べます。この検査ではお腹に針を刺すので、流産や破水、出血などのリスクがあります。

そのため、まず非確定検査を行い、染色体異常の確率が高い場合に確定検査を行うのが一般的です。

すべての異常がわかるわけではない

ただ、出生前検査・診断を受けたとしても、赤ちゃんに異常があった場合すべてわかるというわけではありません

わかるのはダウン症のような染色体の数の異常や、超音波検査での見た目でわかる形や構造の異常だけです。生まれてみないとわからない病気や異常はほかにもたくさんあります。一方で、確定検査には流産などのリスクがあります。

出生前検査・診断を受けると決めた場合は、もし赤ちゃんに先天異常がある可能性が高かったり、異常があると確定診断を受けたりした場合にどうするのか、受ける前に夫婦でよく話し合っておく必要があります。

つわりの程度は何かのサイン?

ツワリの女性

さて、ダウン症以外にも例えば「食べづわりだと男の子」など、つわりの種類や程度が何かのサインであるといううわさを聞いたことがあるかもしれませんが、それは本当なのでしょうか。

多くは根拠なし

最初に解説したとおり、つわりが起こるメカニズムははっきりとはわかっておらず、症状の種類や程度が何かと関係するかどうかもよくわかっていません。

たまたま「食べづわりがひどかったけど、本当に男の子だった!」という人もいればそうでない人もいます。ほとんど根拠のないうわさ話程度と考えたほうが良さそうです。

科学的に調べられているものもあるが100%ではない

ただ、前半で紹介した「妊娠悪阻のリスクを高める要因」で、アメリカ産科婦人科学会は「双子などの多胎妊娠」「お腹の赤ちゃんが女の子の場合」などを挙げています。

お腹の赤ちゃんが「女の子」だった場合、男の子だった場合に比べて、妊婦さんはつわりを経験することが多いうえ、症状が重かったと報告している日本の大規模研究もあります[*7]。

とはいえ、つわりが重いといっても感じ方は人それぞれ。赤ちゃんが女の子や双子の場合、つわりが重くなる「傾向がある」というだけで、これらの場合は100%つわりが重いというわけではありません。男の子を妊娠している場合につわりが重くなることも、もちろんあります。

これらにしても、万人がそうなるわけではないので、参考程度に考えてくださいね。

急につわりがなくなったら流産の可能性も?

お腹を押さえている女性

最初からつわりが軽い・ない場合とは別に、いままであったのに急にパタッと症状がなくなったら、それはそれで不安になったり心配したりしますね。この場合は大丈夫なのでしょうか。

つわりが起こる時期

つわりの有無や起こる時期・程度は個人差が大きいものですが、早くて妊娠5~6週ごろ始まり、妊娠8~10週ごろが症状のピークで、妊娠12~16週ごろにかけて治まっていくというのが典型的な経過です。

流産の場合、続くこともあれば急になくなることも

ただし、つわりは時間帯や日・時期によって症状に波があることもよくあります。ですから、「昨日はひどかったのに今日はない」とか「朝はひどいけど昼間は大丈夫」「先週まですごかったのに急に収まった」などという変化は珍しくありません。

急につわりがなくなった場合は、お腹の赤ちゃんが元気に育っているのか心配になるかもしれません。たしかに、流産によってつわりが消失することもありますが、単につわりが治まる時期が来たこともあれば、そのとき治まっただけで後でまたぶり返す可能性もあります。

流産の場合、おなかの赤ちゃんの成長が止まるのと同時に胎盤の働きもストップしたら、つわりと関係の深いhCGというホルモンが分泌されなくなるので、つわりの症状は消えるでしょう。ただ、流産が起こっているにもかかわらず、胎盤の働きがある程度維持されたままの場合は、hCGが分泌され続けるのでつわりが続く可能性もあります。

つわり症状の有無だけで流産かどうかはわからない

いったん妊娠が確認されたものの、赤ちゃんの成長や心拍が止まり、へその緒や胎盤とともに子宮内にとどまった状態のことを「稽留流産」と言います。

稽留流産の場合は、出血や腹痛といった自覚症状がないので、妊婦健診で超音波検査を受けてはじめて見つかることが多いです。ただ、その原因は赤ちゃんにそれ以上育っていくことができない異常がもともとあることなので、ママが何かしたからと言って稽留流産を防ぐことはできません。

急につわりがなくなって不安になっている妊婦さんもいるかもしれませんが、自然に治まっただけだったり、一時的に治まったりしているだけの可能性もあるのであまり心配しないでください。不安なことがあったら、遠慮せず妊婦健診などで主治医に相談しましょう。

まとめ

両親に抱かれる笑顔の赤ちゃん

つわりが軽い・ない場合、「お腹の赤ちゃんにダウン症などの異常がある」といううわさが本当かどうか検証しました。これは根も葉もないうわさ話であることがわかっていただけたと思います。

いまはいろいろな研究が進み、女の子や双子など、科学的に調べられているつわりが重くなる場合の特徴もあります。でも、つわりは個人差が大きいマイナートラブル。これらにしても、当てはまる場合は100%つわりが重くなるというわけでもありません。

お腹に新しい命が宿っているときはちょっとした体調の変化に敏感になるのも無理はありませんが、あまり取り越し苦労をせずに、赤ちゃんと会える日が来るのを楽しみに待ちましょう。

(構成・文:マイナビ子育て編集部/監修:宋美玄 先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]病気が見える 産科, メディックメディア, 2018.
[*2]Lee NM et al.: Nausea and Vomiting of Pregnancy, Gastroenterol Clin North Am. 2011 Jun; 40(2): 309–vii.
[*3]Banerjee S et al.: A link between high serum levels of human chorionic gonadotrophin and chorionic expression of its mature functional receptor (LHCGR) in Down's syndrome pregnancies, Reprod Biol Endocrinol. 2005; 3: 25.
[*4]The American College of Obstetricians and Gynecologists:Morning Sickness: Nausea and Vomiting of Pregnancy
[*5]名古屋大学医学部産婦人科:絨毛性疾患
[*6]小児慢性特定疾患情報センター:ダウン(Down)症候群
[*7]Severity of nausea and vomiting in singleton and twin pregnancies in relation tofetal sex: the Japan Environment and Children’s Study (JECS)”J Epidemiol. 2018 Nov 10

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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