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2017年05月17日 19:00 更新

「本当に重要なことは発信するべき」中川淳一郎氏が炎上ジャンル「育児」を解禁した理由

育児に絡む問題は、様々な意見があり、ネットで炎上することも多いジャンル。今まで育児ジャンルを避けてきた中川淳一郎氏が、育児を扱うようになった心境の変化とは?

Lazy dummy

これまで様々なネットメディアの編集に携わってきた。最近になって当サイト「マイナビ子育て」でも原稿を書かせてもらうようになったが、実はかなり怖かった。これまで、「ワンオペ育児からチーム育児へ」や「『保育園落ちた』とネット上の論争」「働き方改革と育児」などを書いてきたが、ネットニュースの編集を11年やってきた身としては、「妊娠・出産・子育て」は「地雷」案件だと認識していた。

 というのも、これらのイシューはネットの炎上案件の主軸たる存在になることが多いからだ。過去には漫画家・さかもと未明氏による「飛行機で泣く赤ちゃんにキレる」騒動や、某男性ライターによる「ベビーカーは親がラクをするためのもの」的記事、人工授精の是非、不妊治療は金持ちのためのもの……といったイシューが毎度ネットで炎上し、ネットニュース界隈ではタブー視される傾向も生まれてきた。私自身も、このセンシティブなイシューについては取り扱わない方がいい、という考えをこの5年ほどは持ってきた。

 たとえば、「妊娠しました!」と芸能人がブログに書いた場合、祝福の声が多数寄せられるものの、「子供ができない私の気持ちも配慮していただきたい」といった批判も来る。子育てに関し、「もはや私の時間がなくて気が狂いそう」といった意見を紹介すると「あなたの自己責任で産んだ子供をそんな扱いするのは酷過ぎます」という批判が来る。

 だからこそネットメディアの編集者としては、「タブー視」して、これらの話題は避ける傾向に持っていった。だが、「マイナビ子育て」はここに対してドンピシャで記事を掲載するサイトである。ひょんな縁からこの2ヶ月、当サイトで記事を書かせてもらうようになり、上記のような認識を改めるに至った。

基本的に私のネットメディアの編集者のスタンスとしては「PV(アクセス数)を稼ぐ記事よりも、クレームを受けない記事」というものがこの11年ほどの経験で結論付けたことである。もちろん、この姿勢は変わらないものの、「本当に重要なことは、多少の賛否、反発を受けても世の中に出すべきでは」ということをこの2ヶ月で一旦結論づけた。

 この2ヶ月で書いた文章に対しては当然批判もあったが、それらも含め、いかに「妊娠・出産・子育て」というものが一人の人間の人生にとって重要なことか、ということを、この3つを経験したことのない私が感じ入ったからだ。今回私が書きたいのは、「明らかな悪意を持った意見以外にはそこまで目くじらを立てないでもらいたい」ということである。

 本来インターネットの良さというものは、多種多様な意見を持った人々が私見を述べたところから議論が勃発し、より良い解決策を「集合知」により提示する、というところにあった。だが、最近は、「異論は集団で叩き、意見を述べた者を追い込め」といった状況になっている。そして、その際の定番コメントは「私たちの苦労も知らないのによく安易に言えるね」というものだ。

 2016年初頭にはてな匿名ダイアリーに書かれた「保育園落ちた日本死ね!!!」は国会で取り上げられるほどの大きな話題となった。しかし、これ自体が「だったら地方に住め」やら「お前が勝手に産んだだけだろ? こちとら子供を作る余裕さえないんだよ」といったケンカをもたらしてしまった。さらには、「安倍政権を批判するために民進党がけしかけた“やらせ”書き込み」という意見までが出た。

このダイアリーを受けて保育園拡充を望む2万7000人の署名が民進党の山尾志桜里衆議院に渡されたこともニュースになったが、その際も署名を渡した母親の「抱っこひも」が海外製の高級品だ、という指摘が出て「この贅沢野郎」的に批判された。これに対しては、「この海外メーカーは国内メーカーと同じ程度の価格です。決して贅沢ではありません」という反論が来る。

 現在、ネットではありとあらゆるテーマでケンカが勃発している。それは「サッカーファンVS野球ファン」「安倍政権支持派VS反安倍政権派」「東京VS大阪」「喫煙者VS嫌煙家」などいくらでも見つけられる。

 そんな中、「子育てする人VS子育てする人に批判的な人」という対立も現実的に存在しているのだ。ネットニュースの編集をしていると、いずれの立場に立った記事を書いても、批判が寄せられる。それは2ちゃんねるやツイッターでもそうだし、問い合わせフォームに対しても、だ。

「子供」というイシューについては、とにかく人々の想いが強い。だからこそ、ネガティブなことを言われたら傷つく父母はいるし、子供のことを邪魔な存在だと考える人からすれば「過度な権利を主張するクソ野郎」扱いになる。

 ただ、結局国の発展のためには、新たな命が誕生し、良い教育を受けて活躍することが必須なわけで、新たな命が誕生した場合は、とにかく国・地域コミュニティ、そしてネットも含めてキチンと応援する体制を作れ、とは言わぬまでも「マインド」は持つべきではないかとこの2か月間で痛切に感じ入った。

 現在、「マイナビ子育て」では子育てについて書かせてもらっているものの、私が関与する別サイトでも、妊娠・出産・子育てについては、より役に立つ情報を出していければ、と今更ながら思うように至った。立派な結論は特にはないが、妊娠・出産・子育てでいちいちネット上でいがみ合わないでほしい。それは切に願っている。

(中川淳一郎)

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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