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2021年10月15日 16:00 更新

【医師監修】つわりで尿にケトン体が!理由と影響・対処法

妊婦健診では尿検査を毎回行います。尿検査で調べる項目の中には「ケトン体」のチェックも含まれています。これが陽性になるとどういう意味があるのでしょうか。また、もしも出てしまったら、どうすればよいのでしょうか。妊娠中に尿中ケトン体陽性になる原因と対処法について解説します。

妊娠中、尿検査でケトン体が多いってどういうこと?

つわりでつらい女性
Lazy dummy

もしも妊娠中の尿検査で「ケトン体が多いですね」と指摘された場合、それはどのようなことを意味するのでしょうか。

つわりが悪化した「妊娠悪阻」の状態

妊娠中、尿検査でケトン体が検出されると「妊娠悪阻(にんしんおそ)」の状態になっている可能性があります。

妊娠悪阻は、つわりの悪化で食事がほとんど摂れないために、妊婦さんの体に悪影響の及ぶ心配がある状態のことで、診断された場合、入院や通院をして治療し、体調を整えることが必要になります。

妊娠悪阻は妊婦さんの1%前後に起こる

通常の「つわり」は半数以上の妊婦さんが経験するといわれますが、妊娠悪阻にまで悪化するのはすべての妊婦さんのうち0.5~2%程度と言われています[*1]。また、初めて妊娠・出産をする初産婦よりも、妊娠を経験したことがある経産婦のほうが、妊娠悪阻になりやすい傾向があるそうです。

なお、つわりと妊娠悪阻の間に明確な線引きはありませんが、妊娠悪阻にまで悪化しているかどうかをチェックするポイントはいくつかあります。

妊娠悪阻の主な症状

・脱水の兆候がある
・ひっきりなしにおう吐してしまう
・水も飲めないほど食事をとるのが困難
・5%以上体重が減少している
・尿中にケトン体が検出される

といった症状が見られた場合は、妊娠悪阻と診断される可能性が高くなります。

つわりでケトン体はなぜ出るの?

尿検査のイメージ

つわりが悪化し、妊娠悪阻になると、なぜケトン体が検出されるのでしょうか。

おう吐や吐き気で食事が全然摂れないと出る

ケトン体は、体内で「脂肪」がエネルギー源として使われたときできる物質です。通常、ヒトの体がエネルギー源として使うのは「糖」ですが、それが何らかの原因で利用できなくなったときには、代わりに脂肪が分解されます。このとき血液中に放出されたケトン体は、やがて尿中に排出されるようになります。

つまり、つわりによって食事がほとんど摂れなかったり、おう吐を繰り返したりすることで体に糖が足りなくなると、脂肪がエネルギー源として分解されるようになるので、ケトン体が尿中に検出されるようになるのです。

エネルギーが不足しすぎのサイン

健康な人でも無理な食事制限をしたり、激しい運動をしたりした後はケトン体が尿中に出ることもあります。無理な食事制限や激しい運動の後、体は大量のエネルギーを欲しています。それを補うには糖からつくられるエネルギーだけでは足りず、脂肪も分解してエネルギーをつくり出すため、結果としてケトン体が放出されることになります。つまり、「ケトン体が尿中に出るということは、体がエネルギー不足の状態になっているサイン」だといえます。

ただ、一時的にケトン体が出ても、健康な人の場合は、その後、しっかりと食事や水分がとれれば問題ないことがほとんどです。しかし、妊娠悪阻の妊婦さんの場合、食事によるエネルギー摂取が難しく、自然な回復が見込めないことから、治療によって体調を回復させる必要があります。

ケトン体が出るとどうなるの?

点滴バッグのイメージ

ケトン体が検出される状態が長引くと、体に以下のような影響が生じることがあります。

放っておくと脳や肝・腎障害のリスクが

ケトン体が体内に増えると「ケトーシス」と呼ばれる状態になります。ケトーシスになると、吐き気やおう吐、腹痛など胃腸系の不調が生じることがあります。

また、ケトン体が大量に増えると、血液が酸性に傾き、ケトアシドーシスと呼ばれる状態に進行します。ケトアシドーシスになると、意識障害や昏睡といった危険な状態に陥ることもあります。同時に、肝臓や腎臓といった臓器の機能に異常が出てきます。

加えて、妊娠悪阻ではビタミンB1の不足により脳の奥のほう(脳幹部)で出血が起こる「ウェルニッケ脳症」という脳の異常が生じる可能性もあります。

点滴などで治療が必要

以上のようなことから、妊娠悪阻と診断された妊婦さんには治療を行い、ケトン体が放出される状態を改善する必要があります。妊娠悪阻の治療では、ブドウ糖液にビタミンB1を補充した輸液の点滴を行い、脂肪ではなく糖で体のエネルギーがつくられるように整えるのが基本です。

ただし、点滴では状態が改善しないほど重症化している場合は、吐き止め薬などの薬を使用することもあります。

ケトン体が出たらどうすればいい?

受診する女性のイメージ
Lazy dummy

もしも妊婦健診で、ケトン体が出ていると指摘されたら、以下のようなことに気をつけておきましょう。

医師の指示に従う

妊婦さんの尿からケトン体が検出されたら、体重の減少具合なども見ながら、妊娠悪阻かどうかの診断が行われます。その結果、必要と判断されれば、治療が行われます。

治療を行うことになったら、入院する必要があるのか通院で行うのかなど、どのように進めるのかについて医師から説明があるはずなので、まずはそれをよく聞き、指示に従いましょう。

点滴が始まれば、糖分やビタミン、水分等は体に補充されます。回復を早めたいからといって、無理に食べ物を口にする必要はありません。無理に食べておう吐してしまうと、脱水症状が進み、かえって回復を遅らせてしまうこともあります。通院で点滴治療を受けるのであれば、普段の食事の摂り方についても注意点をよく確認しておきましょう。

食事は食べられるものを少量・頻回に

少しずつでも何か食べられそうなものがあれば、口にしてもよいでしょう。ただし、無理は禁物です。一気に食べようとはせず、好きなもの、食べやすいものを少量ずつ、回数を分けて口にしましょう。

できるだけ水分を補給

水を飲む女性
Lazy dummy

食べるのは難しいけれど、飲むのは大丈夫という場合は、スポーツ飲料や経口補水液を飲んで、水分補給をしておきましょう。水分不足は吐き気を悪化させる要因にもなります。

そのほか、柑橘類やスイカなど水分の多い果物もおすすめです。「つわり中でも果物なら食べられた」という妊婦さんは意外とたくさんいます。

職場への相談は母健連絡カードを活用しよう

つわりによって入院や通院が必要になったり、仕事内容を変更する必要が出たりなど、仕事をしている妊婦さんと職場との間に調整の必要が生じた場合は「母性健康管理指導事項連絡カード」、通称「母健連絡カード」を活用しましょう。

母健連絡カードは、医師などの医療従事者から働く妊婦さんや産後の女性への指示を、事業主に適切に伝達する際に使われるツールです。仕事をしている妊娠中や産後の女性が、自分の身体や赤ちゃんへの影響について、医師から診断や指導を受けた場合は、このカードを利用して会社や事業主に申し出をすることができます。

事業主側は母健連絡カードが提出された場合、カードの記載内容に応じ、通勤の緩和や勤務時間の短縮、仕事内容の調整など、適切な措置を講じる必要があります。

ただし、こうした伝達は母健連絡カードを必ず使わなくてはいけないというわけではありません。カードを使わずに医師からの指示を伝えることが可能な場合は、直接伝えても問題ありません。その場合でも、事業主は適切な措置を講じる必要があります。医師からの指導内容を正確に伝えるのが難しかったり、直接伝えるだけでは適切な対応をしてもらうのが難しいかもしれないと感じたりしたときは、母健連絡カードを利用することをおすすめします。

なお、母健連絡カードは法律により形式が定められています。下記の厚労省のWebサイトからダウンロードできるほか、母子手帳に記載されているものをコピーして使ってもOKです。

まとめ

のびをする女性

妊娠中にケトン体が検出されるのは、つわりが重症化した妊娠悪阻になり、体が栄養不足になっている可能性が高いときです。そのまま放っておくと母体の健康に影響が生じることがあります。必要と判断されたら、医師の指示に従って治療を行いましょう。治療が進み、体調が回復していけば、元通り食事をとれるようになるはずです。妊婦さんは自分自身の体調を整えることを第一に考えて、治療を行っていきましょう。

(文:山本尚恵/監修:浅野仁覚 先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドラインー産科編2020, CQ201 妊娠悪阻の治療は?

※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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