妊娠 妊娠
2021年10月27日 16:30 更新

【医師監修】稽留流産では胸の張りが消える? その他の症状と原因・診断・治療法

特に症状もないままに起こる「稽留流産」。赤ちゃんの誕生を心待ちにしている妊婦さんにとって、突然、流産がわかるのはとてもつらいことでしょう。今回は、流産の中でも初期に起こりやすい「稽留流産」について、原因や治療法などをまとめました。

胸の張りがなくなったら稽留流産の証拠?

流産が気になる女性のイメージ
Lazy dummy

「流産」とは、妊娠22週より前に赤ちゃんが子宮内で亡くなってしまうことをいいます。流産にはいくつか種類がありますが、その中でも、「稽留流産」は赤ちゃんが亡くなっているのに、子宮内にそのままとどまっている状態のことです。

妊娠すると、初期によく見られる症状の一つに「胸の張り」があります。妊婦さんの中には、「胸の張りが急になくなった気がするけど、稽留流産の可能性もあるの?」と不安に感じている人もいるかもしれません。これは本当なのでしょうか。

一概には言えないが可能性はある

妊娠による「胸の張り」は、妊娠したことで「プロゲステロン(黄体ホルモン)」と「エストロゲン(卵胞ホルモン)」の分泌量が増えるために起こります。ともに妊娠の維持に欠かせないホルモンですが、プロゲステロンには乳房に作用して母乳をつくる「乳腺の小葉」を増殖させる作用、エストロゲンには母乳を乳首に運ぶ「乳管」を増殖させる作用もあるからです。

流産が起こったことにより、この2つのホルモンの分泌量に変化があると「胸の張りが急になくなる」可能性もあります。妊娠中、これらのホルモンを卵巣から分泌させるのは「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」というホルモンです。hCGは、受精卵が子宮にくっついている面にあり、のちに胎盤となる「絨毛」という組織から分泌されます。hCGは基本的に妊娠中の女性特有のもので、尿中にhCGが一定以上あるかどうかで、妊娠の可能性が高いかどうかを調べるのが「妊娠検査薬」です。

流産後しばらく「胸の張り」が続くことも

稽留流産になり赤ちゃんの成長が止まっていても、絨毛が体内に残っている場合はhCG分泌はしばらく続きます。したがって、hCGの分泌が続いていれば、稽留流産しているのに「胸の張りが続く」可能性もあります。

心配なら受診して

妊娠中は、ホルモンバランスの変化などの影響もあり、気持ちが不安定になることも多いものです。特に初めての妊娠の場合は、いろいろなことが気になったりしやすいでしょう。そのため、ちょっとした体の変化にも敏感になって、「まさか、稽留流産?」と不安になるかもしれませんね。

妊娠するとさまざまな症状が現れますが、もし、それまであった症状が急に感じられなくなったなどで心配になったら、一人で悩まずにまずはかかりつけの産婦人科に相談してみましょう。

稽留流産に症状はあるの?

胸の張りが気になる女性のイメージ

普通、自覚症状はない

通常の流産では段階によって程度は異なりますが、多かれ少なかれ出血や腹痛があって子宮内容物が出てきてしまうため、妊婦さんが気づかないことはまずありません。でも、稽留流産の場合は、これといった「自覚症状がほとんどない」ことが大きな特徴です。

おもな原因は受精卵の異常

稽留流産と診断されると、「自分の行動で何か悪い点があったの?」「食べたものがよくなかった?」「私の体質のせい?」など、自分を責めてしまう人もいるでしょう。

でも、稽留流産をはじめ妊娠早期に起こる流産の原因は、「赤ちゃんの染色体などの異常」である場合がほとんどです。せっかく一度着床した受精卵でも、もともと染色体異常があるとそれ以上成長できなくなって流産してしまうのです。

受精卵の約30%、受精3日後には約50%に染色体異常があるというデータもあり、染色体異常がある受精卵は決して珍しくありません[*1]。そして、受精卵の異常をあらかじめ予防することは困難です。

流産とわかった時のショックは計り知れませんが、女性は自分を責めないでください。また、周囲の人も流産の原因をよく理解して支える姿勢で接することが大切です。

稽留流産はどうやってわかるの?

超音波検査を受ける女性
Lazy dummy

妊婦さん自身が気づくような自覚症状がほとんどない稽留流産。診断がつくのは、たいてい妊婦健診の際に受ける超音波検査です。

超音波検査で診断される

稽留流産ははっきりした兆候や症状がないため、妊婦さん自身が気づくことはめったにないと言いましたね。稽留流産は超音波検査を受けて初めて、診断がつきます。

稽留流産が疑われるのは、以下のような場合です。

胎嚢(赤ちゃんを包んでいる袋のようなもの)は確認できるが、中に胎児が確認できない場合(枯死卵)
・ある程度胎児が育っているのに心拍が確認できない場合
・該当する妊娠週数にしては発育が遅い場合
・一度確認された胎児の心拍が確認できなくなった場合

いずれにしても、妊娠が順調に続いていると思って妊婦健診を受けた妊婦さんにとって、いきなり赤ちゃんが亡くなっていると言われるのは大変なショックでしょう。ただ、成長の遅れは、最終生理開始日の勘違いや排卵日のズレなどによっても起こる可能性があります。

日本産科婦人科学会では、妊婦さんの気持ちを考え誤診を避ける意味でも、検査や確認は1回だけでなく複数回行うこと、また、確認は複数の医療者で行うことなどで慎重に診断することが望ましい、としています。

妊婦健診で見つかることが多い

妊娠すると、産婦人科では妊娠6~7週に行う超音波検査でたいてい赤ちゃんの心拍を確認することができます。

その次の妊婦健診は一般的には2週間後の妊娠9週前後ですが、稽留流産はこの時の超音波検査で赤ちゃんの心拍が確認できなくなって、診断されることが多いようです。

稽留流産の治療法は?

受診する女性のイメージ
Lazy dummy

残念ながら、赤ちゃんが亡くなっていて稽留流産と診断がついたときは、子宮内にとどまっている赤ちゃんへの対応が必要になります。

処置には2通りの方法がありますが、どちらの方法を選択するかは、妊娠週数や母体の状況を考慮し、妊婦さんの希望もよく聞いたうえで決められます。

(1)自然流産を待つ

一つめは、赤ちゃんが自然に外に出てくることを期待して、経過を見ながら待つ方法です。ただ、赤ちゃんを子宮内にとどめておくと、胎盤など子宮内応物がきれいに排出されず、子宮内感染を起こしたり、不全流産(一部が子宮内に残ってしまっている状態)で出血が増えるなどのリスクがあります。

そして、大量出血が外出中や仕事中、夜間など、すぐに手当ての受けられない状態のときに起こる心配もあります。

(2)子宮内容除去術を受ける

なかなか自然流産が起こらない場合や妊娠週数、母体の状況などによっては、子宮内容物を完全に排出する「子宮内容除去手術」を行うことになります。医療機関によっても違いますが、子宮内容除去手術を受けるときには、日帰り入院または1泊2日程度の入院が必要になるようです。

なお、どちらの方法を選択したとしても、次回の妊娠率には差がないことがわかっています。また、流産を経験した女性の約80%が5年以内に赤ちゃんに恵まれているという報告があります[*2]。

赤ちゃんを強く望んでいた人が稽留流産をすると、気持ちが落ち込み妊活にも消極的になってしまうかもしれませんね。流産はとても悲しいことですが、今後また妊娠できる可能性は十分にあります。希望を捨てず前向きに妊活を続けたいですね。

まとめ

ソファでくつろぐ女性
Lazy dummy

特に自覚症状もないまま、いつのまにか赤ちゃんが亡くなっているのが稽留流産です。妊婦健診で判明した場合はショックが大きいと思いますが、原因は赤ちゃんの染色体異常のことが多く、予防をすることも難しいのです。

ナーバスになりがちな妊娠中は、日々の体調の変化にも敏感になり、心配になることもいろいろあるでしょう。でも、稽留流産は防ぎようがないことで、妊婦さん自身で何かできることもないので、あまり神経質になりすぎないことが大切です。

「胸の張りが急に消えた」など、気になることがあったらかかりつけの産科にまず相談してみましょう。不安はできるだけ早く解消しながら、心穏やかにマタニティライフを送れるようにしたいですね。

(文:村田弥生/監修:浅野仁覚 先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]日本産婦人科医会:2.染色体異常
[*2]公益社団法人 日本産科婦人科学会, 公益社団法人 日本産婦人科学会, 産婦人科診療ガイドラインー産科編2020

※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

PICK UP -PR-

関連記事 RELATED ARTICLE

新着記事 LATEST ARTICLE

PICK UP -PR-