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2021年08月14日 17:30 更新

【医師監修】1歳の癇癪はどう対応するのが正解? 良い対応とやってはダメな対応

赤ちゃんから幼児期へと差し掛かる1歳ごろになると、癇癪を起こす子が増えてきます。子供が癇癪を起こしたら、ママやパパはどんなふうに対応するのがよいのでしょうか。癇癪の原因やおすすめの対応とともに、逆効果となる対応についても紹介します。

子供が癇癪をおこす原因

泣いている子供
Lazy dummy

小さな子供はよく癇癪を起こします。でもそもそもなぜ、子供は癇癪を起こすのでしょうか。

子供の成長に伴う表現の1つ

小さな子供は、「言葉」で自分の気持ちを伝えることがまだうまくできません。そのため、「癇癪」を起こすことで、自分の思いや意思を伝えようとします。

赤ちゃんの心の発達

生まれてすぐの赤ちゃんは、「安心」か「不安」かを漠然と感じて興奮として表すだけですが、1歳になるまでに「快/不快」「怒り・嫌い・怖い」「愛情・得意」といった感情も抱くようになると言われています[*1] 。

また、生後6ヶ月以降になると、「知っている人」に対して「後追いする」といった行動を示すようになります。これは、「人見知り」するようになるということでもあります。このとき、赤ちゃんは見知らぬ人に「不安」や「恐怖」を抱くようになっています[*2] 。

赤ちゃんの言葉の発達

一方で、赤ちゃんが言葉を発し始めるのは、「かなり早い子でも生後7ヶ月ごろ」、「1歳になるころにはだいたい半分くらい」の子が、「1歳7ヶ月までにはほとんどの子」が単語を話し始めると言われています[*3] 。

つまり、言葉を話し始めるよりさきに、赤ちゃんの心の中にはさまざまな感情が生まれ始めているのです。言葉は心より遅れて発達してくるので、自分の心にあることがうまく伝えられず、その結果、癇癪を起こすことになってしまうのでしょう。

対処しなければならない大人にとってはやっかいな行動ですが、癇癪を起こすということは「子供の心が順調に成長している証拠」でもあるのです。

癇癪は1歳ごろに始まり2~3歳で激しくなる

子供の癇癪は、1歳ごろから始まり、「魔の2歳児」とも呼ばれる2歳ごろにさらに激しくなります。泣き叫んだり、手足をばたばたさせたり、地団駄を踏んだり、ひっくり返って床に転がったり、物を投げたりすることもあるでしょう。

やがて5歳ごろになり言葉で気持ちをある程度伝えられるようになると、癇癪は減って落ち着いていきます。

癇癪が多い・少ないのは気質の違いもある

おもちゃを持つ男の子

癇癪の激しさや多さは、子供によって違います。これは、1人1人の気質が違うためです。

1960年代に始まり、その後30年間にわたって、生後3ヶ月の赤ちゃんが成人になるまでを観察した心理学の研究があります。この研究では、赤ちゃんの気質には大きく分けて次の3タイプがあると報告しています[*4] 。

(1)扱いやすいタイプ

いつもわりと機嫌がよく、機嫌が悪くなってもあやせばすぐに気持ちを切り替えられるタイプ。物事への反応は穏やかで、睡眠や食事は規則正しく行うことができます。 約40%の赤ちゃんが該当したと報告されています。

(2)扱いにくいタイプ

機嫌が悪くなりやすく、またなかなか機嫌が直らないタイプです。物事に激しく反応し、生活リズムは不規則になりがちです。また、頻繁に長く泣くので、親は自分の育て方が間違っているのではないかと悩むこともあります。 約10%の赤ちゃんが該当します。

(3)新しいことに慣れるのに時間がかかるタイプ

いろいろな行動にとりかかったり、気持ちが落ち着くまで時間のかかるタイプです。嫌なことがあっても、反応は比較的ゆっくりです。生活リズムは不規則な場合とそうでない場合があります。「恥ずかしがり屋」や「敏感な」赤ちゃんにみえます。 約15%の赤ちゃんが該当します。

なお、これらの3つに単純に当てはまらないようにみえる子は、複数の性質を併せ持っているとされています。

「扱いにくいタイプ」や「新しいことに慣れるのに時間がかかるタイプ」の子供は、癇癪を起こすとひどかったり、長引いたりしやすいと考えられます。

大脳の機能のバランスがとれるまでの違い

脳の模型
Photo by Robina Weermeijer on Unsplash

こうした違いは、大脳の機能の発達の早さの違いによると言われています 。

脳幹や間脳、大脳辺縁系といった「脳の中心部」は、睡眠・食欲・呼吸など生きていくために最低限必要な機能をつかさどっています。「恐怖や怒り・不安」を感じるのもこの部分で、は虫類からほ乳類までみな共通でもっており、生き物が生きていくうえで原始的な機能を担っているので「古い脳」とも呼ばれています。

一方、大脳辺縁系を除いた「大脳の外側の部分」は、人間らしくあるために必要な機能をつかさどっているところで「新しい脳」とも呼ばれます。例えば、言語や認知、記憶などの働きを担っていますが、古い脳で生まれる「恐怖や怒り・不安」などの興奮を「安心に変えたり、我慢したりする」などの高度な心の働きはこの「新しい脳」が担っています[*2]。

子供の癇癪にはこの2つの脳の働きがかかわっており、「興奮が強く・それがなかなか収められない」と「興奮が長引く」タイプ「あまり興奮せず・また興奮を収める力が強い」と「ワンテンポ遅れた感じの行動」になるそうです。

なお、大脳の中で、古い脳による「興奮する機能」と新しい脳による「興奮を収める機能」のバランスがある程度とれるまでには、10年程度はかかると言われています[*5] 。

癇癪を起こすことが多いシチュエーション

横たわって手で顔を隠している子供
Lazy dummy

次は、子供が癇癪を起こす主な状況について見ていきましょう。

イライラしている・思い通りにいかない

子供は自分の気持ちを客観的につかむのが苦手です。
そのため、イライラしているのを自覚できず、それを抑えることができずに癇癪を爆発させることがあります。

また、思い通りにならない時や、欲求不満がつのって癇癪を起こすこともよくあります。

疲れている、眠い、お腹が空いている

子供は自分の「疲れ」「眠気」「空腹」を自覚するのが上手でなく、また、どう対応すればよいのかよくわかっていません。そのため、これらの欲求を満たすことができないことで、癇癪を起こすこともあります。

癇癪とパニックの違い

なお、癇癪は「怒りが爆発して、まわりの人や物などに当たる状況」です。一方パニックとは、「見通しが持てないためどうすればいいかわからなくなり、不安で収拾がつかなくなる状況」のことです。

怒りがベースにあるか、不安感がベースにあるかで、対処法は変わってきます。「パニック」の場合、まず本人や周囲に危険が及ばないようするのは癇癪と同じですが、不安の原因となっていることを取り除くことで対応します。

癇癪への対応方法は、この記事の後半で解説します。

子供が癇癪を起さないように気を付けておきたいこと

泣く子供
Lazy dummy

癇癪を完全になくすのは難しいですが、まわりの大人が工夫することで、子供の癇癪を減らすことはできます。癇癪を減らすための工夫について知っておきましょう。

・普段からコミュニケーションを欠かさない

まずは親自身が普段から

 「○○しようね」「できたね」「ありがとう」

などの声かけをたくさんするように心がけます。それとともに

 「どうしてほしいかな」

と言葉で答えるように促します。

親自身が言葉で根気よく伝えることで、子供も自分の気持ちを言葉で理解する経験を積むことができます。そして、「言葉で伝えたほうがうまく行く」ということに気づき始めれば、癇癪は少しずつ減っていくことでしょう。

・ルールを子供に伝えておく

子供がよくわからないことで注意されたと癇癪を起こさないよう、「寝る前には片づける」「ご飯中はうろうろ歩き回らない」「友だちを叩かない」などのルールを日ごろから子供にきちんと伝えておきましょう。

なお、わかっていてもルール違反をしてしまった時には、やってしまったことを一緒に振り返り、どうすればいいか親子で考えてくださいね。

・なるべくストレスがかからない環境を整える

子供が癇癪を起こしやすいと感じたら、癇癪の原因を考えてその原因を避けた環境づくりをするのもおすすめです。

「イライラしやすかったり、思い通りにならないと感じるようなものや状況をなるべく避ける」「眠くなりやすい時間帯は寝かしつける」「空腹になりそうな時間帯は食べ物をすすめる」などが考えられます。

また、「体調が悪くなる前や病気のとき、病み上がり」などのときにも癇癪を起こしがちです。癇癪以外に何か気になる症状もみられるなら受診してきちんと治療を受けさせ、まずは体調を回復させてあげてください。

癇癪が起きた際の対応

子供にキスするママ

どんな工夫をしても子供が癇癪を起こすことはあります。癇癪を起こしたらどんなふうに対処すればいいのでしょうか?

(1)危険が無いように見守る

危ないことはやめさせる

壊れやすいものを投げたり、道路に寝転がるなど、危ない行動をしそうになったらすぐに止めましょう。そして子供が落ち着いたころを見計らって、「危ないから○○しないでね」と言い聞かせましょう。

暴力は止める

癇癪を起こして人や動物にものを投げつけたり、兄弟や友達を叩くなどの暴力をふるいそうになったときもできるだけ早く止めましょう。子供が落ち着いたら、暴力はやめて言葉でやり取りするように言い聞かせてください。

(2)聞く姿勢で寄り添う

子供の言い分を聞く

子供の癇癪には、必ず何かの原因があります。まずはその原因について耳を傾けましょう。
子供の言いなりになる必要はありませんが、まずは子供の気持ちを受け止めて、上手に誘導していったりサポートしてあげましょう。

言葉で言えない年ごろには代弁を

1~2歳のころは、まだまだ言葉で気持ちを上手に表現できないものです。
そんな時期には子供の気持ちを推測し、「〇〇だったのかな?」と子供に代わって言葉にしてあげましょう。

要求を通してあげられない時は、「〇〇したかったんだよね」「うまくできなくて悔しいよね」など気持ちの部分もしっかり代弁してあげましょう。一緒に残念がってあげる姿勢が大切です。

(3)癇癪が止められない時は気をそらす

子供の性格や状況によっては、癇癪をなかなか止められないこともあります。

そんな時には子供が関心を持てそうな別のものを見せて、気を反らしてあげましょう。
気分が変わるように、その場から子供を連れ出すのも1つの手です。

(4)落ち着けたらほめる

子供が癇癪から落ち着けたら、そのたびに「落ち着いたね」「できたね」「成長したね」とほめてあげましょう。

子供は成長すること、認められることが大好きです。癇癪を乗り越えることを成長の証としてほめるうちに、子供も癇癪に振り回されないようになっていきます。

癇癪が起きた時のNGな対応方法

泣く子供と夫婦

癇癪を起したときに逆効果の対応方法も知っておきましょう。

・感情的に怒鳴る

子供が癇癪を起している時に、ママやパパまでが感情的になって怒鳴ったりすると、子供はますます興奮してさらに大騒ぎになってしまいます。

ママやパパはまず深呼吸をして心を落ち着けてから、子供の言い分を聞いたり言葉をかけましょう。

なお、うまくいかなくて癇癪を起こしているときに、理論的に説得するのは逆効果です。先述のように、「気持ちに共感して(癇癪には共感しない)」、それをしっかり代弁してあげることが大事です。

・手を出す

子供が癇癪を起こしたとき、お尻を叩いたり、平手打ちをする、殴るといった「体罰を与えても効果がない」ことがわかっています。しつけとしてこうした暴力は意味がないばかりか、「子供の心や体の健康に”長期間”にわたって悪影響を及ぼす」可能性もあると言われています。

体罰を受けると子供は反省するのではなく、より攻撃的になったり怒りをつのらせたりします。また、親から体罰という名目で暴力を受けた子は、他の人にも暴力をふるうようになるかもしれません。

とくに1歳半未満の子供では、体罰により脳や体に後遺症が残る可能性があります。なお、怒鳴ったり言葉によってひどく傷つけることも、しつけの効果がないだけでなく子供に悪影響を及ぼすことがわかっています。

手が出そうだと感じたら、ママとパパは怒鳴ってしまいそうな時と同じように、まずは深呼吸をして心を落ち着けてくださいね。

・無視する

癇癪を起している子供を無視したり、しらん顔したりすると、子供は「理解してもらえない」という思いを抱いてしまいます。

癇癪が激しくて言葉をかけられなければ、抱っこしたりそばで見守るなど、態度で子供に寄り添うとともに、子供の気持ちを代弁するような言葉をかけて「私はあなたの味方だよ」というメッセージを送り続けてみましょう。

気持ちをわかってもらえているということが伝われば、それをきっかけに、徐々に癇癪を収められるようになっていくでしょう。

言葉を理解できるようになったら有効な手段

なお、最初から無視をするのはよくありませんが、幼児期後半以上など「ある程度言葉の理解が進んだ年齢」になったときは、何をしても子供の癇癪が治まらない場合、短時間「無視する」「距離を取る」ことも実は有効な手立てのひとつです。

どんな形であれ、親がかまってくれることは子供にとってはご褒美の一つになります。ですから、

(1)子供の気持ちを共感・代弁する

(2)今何をすべきかを淡々と伝える


これらをしたうえで、

(3)それでも落ち着かなければ「いったん少し距離を取る」

ほうが意外と癇癪の時間も減ります。

ただし、無視をすると最初は逆に癇癪がひどくなることは知っておいてください。落ち着いたときには、その分しっかりほめて関わってあげます。癇癪を起こしても相手にしてもらえないことを子供が学習すると、癇癪は減っていきます。

・癇癪を治めるために子供の要求をきく

例えば、

 お店で欲しいものを買ってほしいと癇癪が始まった
  ⇒(NG)治めるためにそれを買い与えてしまう

 おやつの時間ではないのにお菓子をねだって泣く
  ⇒(NG)おやつをあげてしまう

といった対応をすると、子供が「要求を通す手段=癇癪」という誤った学習(誤学習)をすることにつながってしまいます。誤学習が積み上がったまま大きくなり、知恵がついてくると、要求を通すために癇癪で治められず問題行動へと発展することもあります。

こうした際、「欲しかったね、買えなくて残念だね」「おやつ食べたかったんだよね」と一緒に残念がってあげることは大切ですが、癇癪を治めるために子供の要求をきくという方法は避けたほうが賢明です

まとめ

幸せそうな家族のイメージ

癇癪はどの子供にも見られることではありますが、癇癪が多いのは子供にとっても親にとっても良いものではありません。子供の性格によることもありますが、中には発達のアンバランスが隠れていることもよくあります。「少し癇癪が多い子かも」「どう対応したらいいかわからない」など悩む場合は、市区町村の相談センターや発達相談のできる機関に早めに相談することをお勧めします。

(文:大崎典子/監修:三木崇弘 先生)

※画像はイメージです

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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