【医師監修】赤ちゃんの匂いの正体とは? ママの匂いも関係ある?
赤ちゃんからは大人にはない、少し甘くて独特な匂いがします。赤ちゃんはなぜこんな匂いがするのでしょうか? 赤ちゃんの匂いの効果やみんなが嗅ぎたくなる理由、よく嗅がれる場所、さらに病気の可能性がある匂いについても説明します。
赤ちゃんの匂いは何の匂い?
赤ちゃんからは、「ほんのり甘いような」「少し脂っぽいような」匂いがしませんか。
この匂いの正体は何なのでしょうか。
赤ちゃんの匂いの正体とは
赤ちゃんの匂いの主成分は「ノナナール」
過去の研究によると、新生児の頭の匂いには31種類もの揮発性化合物が関係していることがわかっています。その中でももっとも多いのは、花や果実の香りがする「ノナナール」という揮発性の有機化合物だったと報告されています[*1]。
このノナナールが、赤ちゃんならではの「甘い香り」のもとと考えられています。ちなみに、名前がよく似ていますが、よく中高年男性の加齢臭の原因と言われる「ノネナール」とは別の物質です。
なお、生まれて1時間以内の新生児の場合はノナナールのようなアルデヒド類が多いのですが、時間が経つにつれて匂いの成分は酸化などによって変化していきます[*2]。
このために、新生児の爽やかで果実のように甘さのある匂いは、生まれてから日が経つにつれて徐々に穏やかで温かみを感じさせる匂いへと変化していくと言われています。
赤ちゃんの匂いがもたらす効果
赤ちゃんの匂いはいい匂いというだけでなく、赤ちゃんに必要な特別な効果をもたらすこともわかっています。
赤ちゃんの匂いは「癒し」を与える
未就学児の保護者に対して行った調査から、赤ちゃんの頭の匂いは「愛おしい」という気持ちを引き起こすことがわかっています。さらに子供のいない10~20代の男女約60人に赤ちゃんの匂いを嗅いでもらった調査でも、全員が好意的に感じたと回答したそうです[*3]。
つまり、赤ちゃんの匂いは、まわりの大人たちに愛おしさやいい気持ちを引き起こす、「癒しの匂い」と言えるのかもしれません。
困ったことに「蚊」も赤ちゃんの匂いが好き
ただ、実は赤ちゃんの匂いのもとであるノナナールは、「蚊」も引き寄せてしまうことがわかっています。
同様に蚊が好むことが知られている二酸化炭素にノナナールを組み合わせると、二酸化炭素のみの場合の1.5倍も蚊が寄ってきたそうです[*4]。赤ちゃんの甘い匂いは、人間だけでなく蚊にも好かれてしまうようです。
赤ちゃんもママの匂いを嗅いでいる?
赤ちゃん自身も、ママのある匂いからよい効果を受けているといわれています。
赤ちゃんも大人も、ストレスを感じると「コルチゾール」というホルモンが分泌されます。
ところがある研究では、乳幼児に母乳の匂いをかがせてから採血すると、ミルクの匂いをかがせた時よりもコルチゾールが増加しにくくなったのです。
つまり、母乳の匂いを嗅ぐと赤ちゃんは安心すると言えます。ママやパパが赤ちゃんの匂いに癒されるように、赤ちゃんもママの匂いに癒されているのです。
赤ちゃんの匂いはどんなときに嗅ぐ?
ママやパパが赤ちゃんの匂いを嗅ぐときを調べたところ、2つのパターンが見られました。
愛おしいという気持ちを感じたとき
2016年に発表されたある研究では、1779人の未就学児のママやパパに、子供の匂いについて質問を行った結果が報告されています。
それによると未就学児のママのうち90%以上が、子供の頭の匂いを嗅ぐときのことを、「好きな匂いがするので」「可愛いので」「ほっとするので」など、愛着に関わる体験として答えています。
特に子供の年齢が低いほど、愛着に関わる体験として答えるママが多めでした[*5]。
パパもママよりはやや少なめですが、頭の匂いを嗅ぐと愛着を感じると答えており、ママと同じように子供の年齢が低いほどその割合は高くなりました。
赤ちゃんや子供の匂いは、ママやパパにとって、愛おしさや幸せな思いと結びついているのです。
衛生状態を確認したいとき
赤ちゃんの匂いを嗅ぐ行為は、もっと実用的な動機ですることもあります。
同じ研究で、ママやパパたちは頭やお尻を嗅ぐときには「清潔か確かめたい」「臭くないか確認したい」などの衛生ケアに関わる理由があるとも回答しています。
特におしりの匂いを嗅ぐときは、愛着ではなく衛生ケアがその動機として多く回答されていました。また、子供の年齢が低ければ低いほど、この割合は高めになっていました。
研究結果のように、赤ちゃんがうんちをしたかどうか、おむつを替えた方がいいかどうか、おしりを嗅いでチェックしたことのあるママやパパは多いのではないでしょうか。
赤ちゃんの匂いは衛生状態を保つためにも一役買っているのです。
もっともよく嗅ぐのは頭とおしり
なお、この研究からは、0歳児のママが最もよく嗅ぐ赤ちゃんの体の場所は、頭とおしりということもわかりました。
その他にも手や額、口、首の匂いについても調べたところ、頭とおしりほど関わりは強くはないものの、どの場所も愛着や衛生状態の確認のために嗅いでいることがわかっています。ただし、おしりだけは愛おしい気持ちとの関わりからではなく、衛生状態の確認のためだけに嗅がれていました。
赤ちゃんの匂いが強いのは大丈夫?
赤ちゃんの匂いがいつもよりも強く感じられて、かすかな違和感を覚えることがあるかもしれません。匂いが強いと感じたらどうすればいいのでしょうか?
多少強く感じても基本的には問題ない
赤ちゃんの匂いはすでにお伝えしたように、日々変化していきます。
新生児のころ、甘く爽やかだった匂いは、日が経つとともに、どんどん温かみのある穏やかな匂いになっていくのです。
この変化によって、ときに赤ちゃんの匂いが強くなったと感じることがあるかもしれません。
また、赤ちゃんはよく汗をかくので、春夏の暑い時期になると汗臭くなることもあります。
いずれにしても、匂いが多少強くなったように感じても、お風呂に入って臭わなくなる程度であればまず問題はありません。
頭皮の臭いや口臭が強いときは少し注意を
ただ、頭皮の臭いが強く、お風呂に入っても取れなかったり、すぐにまた同じように臭うようになったら、病気の可能性もあります。
頭皮の臭いを引き起こす病気には、脂漏性湿疹、湿疹・皮膚炎などがあります。
強い臭いだけでなく皮膚の状態にも異変を感じたら、早めにかかりつけの皮膚科で診てもらいましょう。
口臭にも要注意
赤ちゃんの口が臭うときも、体の異変が原因となっている場合があります。
たとえば、通常、赤ちゃんは鼻呼吸をしていますが、何かの理由で口呼吸ばかりになると、口の中が乾いて口臭が起こりやすくなります。この場合は、鼻炎などで鼻が詰まっていないか注意が必要です。
また、発熱や下痢、おう吐などで脱水状態になったときに、口臭が起こることもあります。
歯が生えてからは、重度のむし歯、歯周病により歯に食べかすが溜まっているときや歯ぐきから膿が出ているときに口臭が強くなることもあります。
口臭が続いて気になるときも、念のため、医療機関で診てもらってくださいね。
まとめ
赤ちゃんの匂いの正体はノナナールという物質です。新生児の匂いは爽やかで果実のように甘く、少し脂っぽいのですが、日が経つにつれて、穏やかで温かみのある匂いへと変わっていきます。こうした赤ちゃんの匂いは周囲の大人に愛おしいという気持ちを引き起こします。
また、頭やおしりの匂いを嗅ぐことは衛生ケアにも役立ちます。赤ちゃんの匂いがときに多少強く感じたとしても、たいていは問題はありません。ただし、入浴後も気になる臭いがしたり、口臭が強いときなどには病気が隠れていることもあるので注意が必要です。
成長とともに、赤ちゃんならではのよい匂いは薄れていきます。日々の健康チェックも兼ねて、今しか嗅げない、愛おしい匂いをたくさん感じてくださいね。
(文:大崎典子/監修:梁尚弘先生)
※画像はイメージです
[*1]「始原的オラリティ研究:においを用いた新生児主体の『共在感・ケア情動発現』の解明」KAKEN
[*2]“Sampling, identification and sensory evaluation of odors of a newborn baby's head and amniotic fluid” Scientific Reports
[*3]“Child odors and parenting: A survey examination of the role of odor in child-rearing”「PLoS One」Okamoto Masako, Mika Shirasu, Rei Fujita, Yukei Hirasawa, and Kazushige Touhara
[*4]UC Davis IN RESEARCH: We emit an odor that skeeters like — and scientists now have it ID’d
[*5]“Child odors and parenting: A survey examination of the role of odor in child-rearing”「PLoS One」Okamoto Masako, Mika Shirasu, Rei Fujita, Yukei Hirasawa, and Kazushige Touhara