【医師監修】暑くて眠れない!妊婦になると暑いと感じる理由と対策
妊娠中は、妊娠前と比べて暑さを感じやすいこともしばしば。体がほてったように感じられ、「夜の寝苦しさが特につらい」という妊婦さんもいるでしょう。妊婦さんが暑いと感じる理由や暑さ対策のポイントを紹介します。
妊婦が暑いと感じやすい理由
妊婦さんが暑さを感じやすいのには、以下のような理由があるといわれています。
妊娠中は高温期が続く
成人女性の基礎体温は通常、低温相(低温期)と高温相(高温期)の2層に分かれています。排卵から生理の開始までは高温相が続き、妊娠していなかった場合はそこから基礎体温はぐっと下がり、低温相を示すのが一般的です。ただし、妊娠すると排卵後からずっと高温相が続いた状態になります。
ちなみに基礎体温とは「起床直後で体を動かす前の時間(もっとも安静な体の状態)の体温」のことです。高温期はこの基礎体温が上昇します。もっとも安静な状態の体温が上がるわけですから、活動時の体温も当然、上昇します。それによって妊娠中はいつもより暑さを感じやすくなります。
なお、基礎体温は一般的に、胎盤が完成する時期とされる妊娠12~16週(妊娠4、5ヶ月ごろ)を過ぎると少し下がる傾向にあります。ただ、体温が下がる時期には個人差があるので、これより前に下がる人もいれば、もう少し高温が続く人もいます。
■体温が上昇するのは、プロゲステロンの働き
基礎体温を上昇させるのは、女性ホルモンの一種である黄体ホルモン(プロゲステロン)の働きが影響しています。非妊娠時、プロゲステロンは排卵後の卵胞が変化した「黄体」から分泌されるため、黄体ホルモンと呼ばれています。プロゲステロンには体温を上昇させる作用があるため、排卵後は体温が上昇して高温相になります。
妊娠が成立しないと、黄体はおよそ2週間でしぼんでいきます。すると、黄体ホルモンの分泌がなくなって体温はもとの低温に戻ります。そして子宮内膜がはがれ、月経が起こります。しかし妊娠が成立すると黄体はしぼまず、プロゲステロンの分泌が続きます。そのため高温期が続くというわけです。
妊娠中は基礎代謝が上がるから
妊娠中は、基礎代謝量が増加します。基礎代謝量とは生命活動を維持するために必要な最低限のエネルギーのことです。基礎代謝量の増加に伴い、エネルギー消費量、つまり消費するカロリーも増加します。エネルギー消費量が多いと体内で熱が多く産生されることになるので、妊婦さんは暑がりになる傾向があります。
ちなみに、基礎代謝量は妊娠後期に大きく増加することがわかっています。その結果、妊娠初期と中期の総エネルギー消費量の増加率はそれぞれ1%と6%ですが、後期にはおよそ17%にもなるという報告があります[*1]。赤ちゃんが大きくなってくると、2人分の生命維持のためにより多くのエネルギーが必要になるのですね。
皮下脂肪の増加による影響
妊娠中は皮下脂肪などが約2.5~3kg増加するといわれています。皮下脂肪には体温を保持する働きがあるため、これも妊婦さんが暑さを感じる一因といえるでしょう。皮下脂肪が増えることで発生した熱を体の外に逃がしにくくなり、こもった熱で暑さを感じることがあります。
妊娠中に暑く感じるのは異常ではない?
このように妊娠中は非妊娠時に比べて、体温が上昇したり、体に熱がこもったりする体の変化が生じます。汗をかきやすくなったり、暑さを感じやすくなったりすると、「体に異常があるのでは」と心配になる人もいるかもしれません。
体温の変化には個人差がある
ヒトの体温は36~37℃程度に保たれていて、それを「平熱」と呼んでいます。平熱には個人差があり、体温が高い人もいれば、低い人もいます。比較的体温が高い人が妊娠すると、基礎代謝量の増加などからさらに体温が上がるため、汗をかくぐらい暑さを感じることもあるでしょう。
また体温は運動、気温、食事、感情の変化などによっても変動し、1日の中でも時間帯によって変わります。早朝が最も低く、時間の経過とともに上がり、夕方が最も高くなります。そのため、夕方になると体のほてりを感じることがあるかもしれません。1日の体温の変化は、ほぼ1℃以内ですが、それだけでも体で感じる温度は変わります。
このように体温変化にはさまざまな影響があり、人によって暑さの感じ方が異なるのは、決しておかしなことではありません。
汗をかきやすくなることも
同じ妊婦さんでも、暑くて汗っかきになる人もいれば、暑いけれど汗をかくほどでもないという人もいます。このような差があると、汗をかく妊婦さんは体の異常を疑うかもしれませんね。しかし、体温が上がると、上がった体温を下げようとして汗が出るのは、体の自然な反応です。
汗をかくかどうかは、もともとの平熱なども影響しています。妊娠後、汗をかきやすくなったとしても、それだけで異常と判断する必要はないでしょう。
他の症状を伴うときはすぐに受診を
ただし、いつも感じる暑さとは違って、明らかな発熱があったり、嘔吐、腹痛、体の痛みなど「いつもと違う」症状があったりする場合は要注意です。何らかの病気にかかっている可能性もあるので、すぐにかかりつけの産婦人科に連絡し、指示を仰ぎましょう。
妊娠中の暑さを乗りきる対策
妊娠中、大きなおなかと体温の上昇を抱えて、夏場の暑さに耐えるのは大変です。そこで、暑さを乗り切るための注意点とヒントをまとめました。
常温または温かい飲み物で水分補給
汗をかくことで体の水分が失われることなどから、喉も渇きやすくなります。また、体がだるいと感じるようなら脱水の可能性もあります。そのため、妊娠中はこまめに水分を摂取することが大切ですが、飲み物の温度にちょっと気を付けておきましょう。
冷たいものばかり欲しくなってしまうかもしれませんが、冷たいものの取りすぎは胃の粘膜を刺激し、ダメージを与える原因になることもあります。それを予防するためにも、できるだけ常温または温かい飲み物を飲むことをおすすめします。
とはいえ、冷たい飲み物を口にするのが絶対にダメというわけはありません。基本的には常温や温かいものを選びつつ、たまには冷たい飲み物を飲んでリフレッシュするのもよいですね。
妊娠中の水分補給については、以下の記事も参考にしてください。
▶【医師監修】妊婦はどうして喉が乾くの?妊娠中に必要とされる水分の量とは
暑くて食欲がないときの食事
できれば3食は欠食しないほうがいいですが、量が食べられないような場合は、間食を入れてこまめに食べていくのもOKです。暑さで食欲がないときには、まずは食べられるものを食べるようにしましょう。酸味のあるさっぱりしたものや、水分の多いもの、冷たいものなどは食べやすいとされます。
■冷たいものを食べるときの注意点
アイスやかき氷など、冷たくて甘いものは食べやすいですが、食事の最初に食べてしまうと、おなかが満たされてしまい、そのあとの食事でとるべき栄養がとれなくなってしまうこともあります。同じ冷たいものでも、果物や冷凍したヨーグルトなどにするのがおすすめです。
■なるべくいろいろな食材を食べる
食事の量より質に重点をおいて考える食べ物を選ぶとよいでしょう。主食の糖質だけでなく野菜や肉、魚、卵、豆腐などのタンパク質も一緒にとることを心がけてください。特に豆腐はのど越しがよく食べやすいでしょう。また、妊娠中は貧血になりやすい状態ですので、暑さと貧血で余計に疲れやすくなってしまう可能性も。プルーンや大豆製品、緑黄色野菜、あさりやしじみといった鉄分の多い食品を意識的に食べるのもよいですね。
暑いと、冷たくてのど越しのよいそうめんなどの麺類が多くなりがちですが、麺類にするなら具沢山を心がけます。ネギ、ごま、大葉、梅干しなどの薬味を多めにしたり、納豆やおくらなどのねばねば食材を合わせるのもおすすめですよ。
なお、暑さに加え、つわりの影響もあって食べられないときは、無理をせず食べられるものを食べてくださいね。
妊娠中の食事については、以下の関連記事もぜひ参考にしてください。
・妊娠中の食事全般▶【医師監修】妊娠中の食事の注意点!OK or NGの食べ物は?
・貧血▶妊婦がとりたい鉄分の多い食べ物は?貧血予防に役立つ効率的な食べ方も紹介【管理栄養士監修】
・つわりのときの食事▶【医師監修】つわりがあるときの食事のコツ!ケース別の食べやすい食品
体温を管理するための入浴法
暑いと入浴もシャワーで済ませたくなるかもしれません。しかし、お湯につかって一度体を温めるほうが、じつはかえって体温が下がりやすくなるともいわれています。
湯船につかって入浴すると、全身の血流が促進されて体全体が温まり、体温が上昇します。入浴後は、上昇した体温を下げようと血管がひらき、熱が放散されやすい状態になるため、結果として体温が下がっていきます。そのため、湯船で体を温めたほうが、逆に体温を下げやすいということになるのです。
おすすめの入浴法は、39~40℃のぬるめのお湯に10分程度つかること。血流が促されるとともに、副交感神経が優位になってリラックス効果も期待できます。妊婦さんは特に、熱めのお湯や長風呂は避けたほうがよいので、これくらい短時間の入浴で切り上げるのがよいでしょう。
夜眠れないときのエアコン活用法
夏の夜は、気温が下がらない熱帯夜になることもしばしばあります。「暑くて眠れない」などということがないよう、エアコンを使って室温を下げ、快適に眠れる環境を整えましょう。寝るときにエアコンを使うことに苦手意識を覚える方がいるかもしれませんが、ポイントを押さえればうまく活用できるはずです。
■ポイント①
冷気が直接体に当たるのを避けること。冷気が体に当たると、指先や足先だけが冷えてしまいます。これがエアコンを苦手に感じる一因になることもあるでしょう。部屋全体を冷やすように、あらかじめ風向きを調整しておきましょう。
■ポイント②
設定温度を下げすぎないこと。28℃を目安に調整し、除湿機能などを上手に使うとよいですね。
■ポイント③
エアコン以外に扇風機、サーキュレーターなども利用すること。エアコンを使うほどでもない気温の日にはこれらを利用し、自然の風でしのぐのもよいでしょう。
衣類や寝具の選び方
そのほか、衣類や寝具の選び方で、暑さをやわらげることも可能です。肌に触れるとヒンヤリする「接触冷感素材」という生地でできた衣類や寝具を使うと、暑さを逃がすことができます。そうしたものも上手に使っていきましょう。
まとめ
妊娠中に生じる体の変化により、妊婦さんは基礎代謝量のアップなどが起こり、体温が上がります。その結果、人によっては暑いと感じることや汗をかきやすくなったりすることも。体のほてりや発汗以外に嘔吐、腹痛、体の痛みなどがなければ、体調の異常を疑う必要はないでしょう。
暑さを逃す工夫をしながら、暑い時期を乗り切っていきましょう。
(文:山本尚恵/監修:窪麻由美 先生)
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※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
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